インタビュー
フルサイズミラーレスに新基準…「LUMIX S5」の魅力を3名のフォトグラファーに聞く
小型軽量ボディに妥協のない性能 S1の精神を受け継ぐオールラウンダー
2021年3月26日 07:00
パナソニックのフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX S5」(以下S5)が人気だ。重厚で本格的なイメージの「LUMIX S1」シリーズから一転、軽快な小型ボディを採用したS5は、S1シリーズの高性能をカジュアルな使いごごちで提供。フルサイズミラーレスカメラの裾野をさらに広げてくれる1台となっている。
このページでは開発段階からS5に触れ、現在まで使い込んできたフォトグラファーに登場願い、S5の魅力を掘り下げてみた。
話をうかがったはこの3名だ。
一瞬を切り撮ることを目的に全国を駆け巡る「瞬撮」の航空写真家。雑誌、WEB、テレビなど各種メディアに作品を提供するかたわら、ANA社やスカイマーク社のオフィシャル撮影を数多く担当。ヒコーキ撮影に関する記事の執筆を担うほか、カメラメーカーの公式撮影や写真コンテストの審査も行う。多くのヒコーキ撮影講座にて講師を務めるほか、イベントでのトークやテレビ出演もこなす。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラフィーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。またYouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」、「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。
1970年生、香川県出身。日本写真芸術専門学校卒。海外500都市以上を取材し、世界遺産や街並み、歴史的建造物、スナップ等を撮影。文化や風土を表現に取り込む事で作品作りを行っている。想いを込めた夜景撮影は、近年最も力を入れている分野。日本旅行写真家協会 副会長 (公社)日本写真家協会 正会員 日本大学芸術学部・玉川学園 講師。
聞き手は当サイトのカメラ解説記事などで活躍するフォトグラファーの曽根原昇さんだ。S5ユーザー3名から率直な意見を引き出してもらい、その内容と自身の印象をまとめてもらった。
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みなさんのLUMIX歴は?
まずは今までのLUMIXの使用歴、およびLUMIX S5を使っての撮影ジャンルをたずねてみた。
A☆50/Akira Igarashiさん
LUMIXを本格的に使用したのは今回のS5が初めてです。僕が飛行機の撮影を専門にしている写真家ということもあって、主に旅客機の撮影をおこないました。使い心地がよくて、それはもうミッチリと使い倒しましたよ。
コムロミホさん
マイクロフォーサーズのGシリーズをずっと使ってきたこともあり、LUMIX歴はかれこれ10年ほどの長いお付き合いになります。とはいえS1は女性の私には大きくて、あまり使う機会はありませんでした。でも、LUMIX G9 PROなみに小さくて軽いS5が登場したことで、スナップはもちろん、日常の記録撮影などでも気軽に使うようになりました。
藤村大介さん
S1シリーズが出た時から、僕の専門分野である夜景を主体とした風景撮影に活用していました。もともと大きな一眼レフカメラをメインに使っていましたので、S1のサイズに違和感を覚えることはなかったのですけど、S5を初めて触ったときには小ささと軽さに感動しましたね。撮影で重量級のレンズと三脚が必須ですので、ボディが軽くなってくれたのは、特に移動時に助かります。
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小型軽量ボディのメリットとは?
S5の特徴のひとつが、フルサイズミラーレスカメラにして小型・軽量であるところだ。同じ有効画素数(約2,420万画素)の35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載するS1のサイズが、約148.9×110×96.7mm・質量約899gであるのに対し、S5は約132.6×97.1×81.9mm・質量約630g。大幅に小さく軽くなっていることが分かる。
その実際の撮影でのメリット、あるいはデメリットとは?
A☆50/Akira Igarashiさん
実は最近、飛行機の撮影でも女性の方が増えています。ですので、コムロさんもお話していたように、女性の方の負担を軽減できるという意味で、高性能なデジタルカメラの小型化はとても大切なことだなと実感しています。
それと、僕自身の体験で、これはどちらかというと笑い話になりますけど、機内でおもむろに巨大なカメラとレンズを取り出すと、周りの方たちにザワつかれてしまうことがあります。窓から外の景色を撮ることも多いので、これはわりと切実な問題。コンパクトなS5なら、そうした心配もありません。飛行機は持ち込める荷物にも制限がありますので、少しでも大きさや重さを節約できるというのもありがたいことです。
コムロミホさん
今回の作例は広島県の尾道でスナップ撮影をしていますが、尾道はアップダウンが激しい坂の町。さらに、スナップ撮影は足で稼いで被写体に出会うのが大切です。当然、機材は1gでも軽い方が歩き回るのに適していて、その分、シャッターチャンスに巡り合う可能性が高くなります。
女性でありスナップを撮る私にとって、S5の軽快性はまさに正義ですね。Gシリーズや先行のSシリーズカメラの操作性をいい感じで引き継いでいて、小型ながら利便性が高いところも気に入っている点です。
それと、超広角20mmスタートという珍しいズーム域の「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」とのバランスが絶妙で、ますますスナップ撮影を楽しめる組み合わせになっています。
藤村大介さん
小さいからといってホールディング性やダイヤルなどの操作性がおざなりになってしまうとガッカリします。でも、S5はS1と比べても使いにくくなったという印象がほとんどないところがスゴイ。いや、むしろ使いやすいカメラだと言えます。撮れる絵が同じ性能であるなら軽いに越したことはありません。
それとこれは完全に僕の趣味ですけど、僕はエッジの効いた力強くて男性的なデザインのカメラが好きなんです。昭和の男だからですかね(笑)。カメラは小型化すると可愛らしいデザインになるイメージをもっていますが、S5は小型化しても僕好みの角ばったデザインを維持してくれているところが好きです。アクセントになっている赤いボタンやラインもカッコいいですよね。
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S5の画質は?
LUMIXといえば、優れたCMOSセンサーと独自のヴィーナスエンジンの組み合わせにより実現される「生命力・生命美」の絵作り思想。もちろん本機S5も同思想を継承している。
また、スチルカメラとしてはLUMIX S1H(以下、S1H)で初搭載された、1画素ごとに低ISO感度回路と低ノイズ・⾼ISO感度回路の2系統を備えた「デュアルネイティブISOテクノロジー」の採用も気になるところ。
ミラーレスカメラとしては肝要となる画質はいかがなものなのか? それを支える数々の技術の効果のほどは?
A☆50/Akira Igarashiさん
LUMIXの絵作りは、全体的にスナップやポートレイト、風景などに向いた味付けという印象が強かったので、シャープな解像感が好まれる飛行機の写真ではどうだろうと、使う前は少し不安に思うことも正直ありました。
しかし、実際に使ってみたら、小さなリベットや文字まで正確に写し止めてくれました。不安は良い意味で裏切られましたね。それどころか、白飛びしやすく平面的に写りがちな機体を、豊かな階調で見事に描き分けてくれます。飛行機の写真ではキャンバスになる、空の微妙なトーンも良好ですね。
AF性能にしても、狙った位置にいつ合焦したのか分からないくらい、速く正確にピントが合います。
あと、これが本当にビックリしたのですが、今まではあまり使ったことのない、ISO 25600のような高感度で撮影してもノイズがほとんど発生せず美しい絵が撮れる。デュアルネイティブISOテクノロジーの実力を思い知りました。
飛行機の撮影は意外に手持ちで撮ることが多いのですが、そんな時に小型軽量なボディと手ブレ補正機構、優れたAF、高感度性能の連携は心強いですね。S5は、動きものでも安心して使える高画質なカメラであるということがよく分かりました。
コムロミホさん
私は、普段からカメラ内で絵作りを完成させたいと考えています。今回の写真も、設定を色々と工夫して撮影した、いわゆる撮って出しの写真です。S5には、新しいフォトスタイルがいくつか搭載されていて、それらを使うと昔よく使っていたフィルムのように、優しくて味のある写真が撮れるので楽しいんです。
例えば、フォトスタイルの「L.モノクロームD」は、まるで本物の銀塩モノクロフィルムで撮ったかのような写真を楽しめます。フィルムを思わせる粒状ノイズを載せる機能は他メーカーのカメラでもできますが、S5はデジタルっぽいパターンで生成されたノイズではなく、写真に合わせてランダムに粒状感が変わるという凝ったもの。往年の名作を彷彿とさせてくれるのです。
一方で「L.クラシックネオ」はノスタルジックなカラーネガフィルム調の写真が撮れるフォトスタイルです。こちらも粒状の調整が可能で、カラーネガフィルムらしい色のついた粒状という、L.モノクロームDと同様、かなりのこだわりを感じることができます。同じシーンで動画も撮りたいときは「シネライクD2」がいいですね。
今のところ「L.クラシックネオ」が搭載されているのはS5のみで、同じLUMIXでもGシリーズやS1シリーズより優れているところです。他にもたくさんのフォトスタイルが搭載されていて、それぞれに独自の特徴があります。LUMIXの高度な絵作り思想とフルサイズの広いダイナミックレンジが組み合わさると、何とも言えない、素晴らしくリッチな写真が撮れますよ。
藤村大介さん
G9 PROが登場した頃からだったと記憶していますが、「生命力・生命美」という絵作り思想をパナソニックが打ち出してから、解像感以外の画質要素も本当によくなりましたね。とても気持ち良い絵を出してくれるようになって、もちろんそれはS5にも引き継がれています。
S5では、ノイズ特性がグンと良くなったこともあって、さらに画質は向上したと感じています。被写体を前にして、撮る前に感じた頭の中のイメージの再現性が格段に高くなりました。イメージ通りに撮れる、躊躇せず撮れる、というのは重要なことで、これができると撮影の幅が広がって、自分の作風がガラッと変化することさえあると思います。
僕の写真は、解像感も大切な要素ですので、可能な場合、必要な場合はハイレゾモードでの撮影をよくします。S1は、ハイレゾモードでのシャッター速度設定が最長1秒だったのですが、それでは夜景を撮るのが難しいと訴えていたら、S5は8秒までの設定ができるようになりました。ユーザーの声を真摯に聴いて、地味な性能進化を確実に積み重ねていく開発姿勢も、ひいては画質の向上につながっているのでしょう。
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動画性能は?
S5は動画を専門にしている人たちからの評価も高いカメラだ。昨今は各社とも、動画撮影機能のスペック向上に鎬を削っていることは周知の事実であるが、そのようななか、S5の動画撮影性能は、どうした点が高評価を得る要因となっているのだろうか。
A☆50/Akira Igarashiさん
僕も最近、動画の撮影が多くなっています。S5は他社の同クラスを超える4K 60Pでの記録が可能ですが、高速に動く飛行機をフィックスで撮る場合など、フレームレートが高い方がいい。30Pよりも60Pある方が助かりますね。
コムロミホさん
小さく軽いボディでありながら、多くの人が満足できる先進機能を備えています。ほぼ必須となるバリアングル液晶モニターをはじめ、4K 60P 10bitでの高画質な記録ができたり、記録時間に制限のないノーカット撮影に対応していたり……モードダイヤルに「S&Q」(スロー&クイックモーション)ポジションもありますよね。初心者からプロユースまで幅広く使えるのではないでしょうか。
ドローンやジンバルへの取り付けもS1シリーズより容易です。それにボディ内蔵の手ブレ補正機能もあるので、ジンバルを使わないちょっとラフな動画撮影にも応えてくれると思います。
「デュアルネイティブISOテクノロジー」は動画でも絶大な効果を見せてくれます。静止画よりもシャッター速度の制限が大きい動画撮影では、高ISO感度でのノイズ耐性の高さがとても重要になるのです。
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S5とはどんなカメラ?
最後にS5についての総評をそれぞれから話してもらった。以下に紹介しておきたい。
A☆50/Akira Igarashiさん
S5を使っていて強く感じることは「ああ、これは本当にカメラが好きな人、写真が好きな職人が作ったんだなあ」ということです。実際に写真や動画を撮る人が、どのようにカメラを操作するか、何を必要としているかをよく研究して反映してあります。
パナソニックというと家電メーカーという印象をもっている方もいますが、それは決して悪いことではありません。世界的な総合家電メーカーですから、複雑な機能を使いやすくする工夫が、カメラにも随所に施されていて驚きました。
実際、S5は使用頻度の高いボタンやダイヤルは指がかりが良くなっていたり、突起がついていたりと工夫してありますから、暗闇でも迷うことなく設定を変更できます。メニュー画面もうまくまとめられ、分かりやすいと感じました。
最近はスマートフォンのカメラから、ひとっ飛びでフルサイズミラーレスを買う人も少なくないと聞きますが、極端な話、S5ならそんなユーザーでも困ることなく目的の写真が撮れるのではないかと思います。
パナソニックさんのカメラはスチルだけでなく動画に強みを持つカメラが多いので、今後は飛行機動画作品の撮影にチャレンジしてみたいですね。飛行機が描き出してくれる素敵なシーンには、瞬間を切り取るスチル写真ではなく、動画で切り取りたい場面も少なくありません。
コムロミホさん
最初にミラーレスカメラを作ったのはパナソニックですし、ビデオカメラでは長い歴史と多くの実績をもったメーカー。その歴史の中で、良い部分を素直に取り入れて出来たカメラがS5なのでしょう。
スナップ写真は多くの要因が重なり合って一瞬のシャッターチャンスに巡り合えてるものですが、そんな写真が撮れた時には「今日、S5でシャッターを切ってよかったな」と幸せな気分にさえなります。
最近、「カメラのコムロ」というYouTubeチャンネルを始めました。カメラや写真のことや、日常のことを配信していく予定で、クオリティーの高い動画に仕上げたいと思い、S5を使い始めました。撮影から編集、1本の動画が出来上がるまでの工程が楽しくて、日々奮闘しています。これからは静止画作品を撮り続けながら、動画も本格的にチャレンジしていきたいと思っています。
取材を終えて
筆者はS5を所有していないが、S5のことをよく知りたいと切望していたところ、運よくリアルに使用しているフォトグラファーの話を聞く機会に恵まれた。
3名の話から見えてきたS5の特徴は、S1シリーズに勝るとも劣らないテクノロジーを凝縮した高性能カメラであると同時に、マイクロフォーサーズのGシリーズ並みの機動力を併せ持ったカメラだということだ。
そして、ユーザーフレンドリーな優れた操作性をもち、広ダイナミックレンジのフルサイズセンサーでリッチな画質が得られ、存在感の強いカメラらしいフォルムで持つ喜びも満足させてくれる……最新モデルなだけあって、これまでのLUMIXの機能が集約され、現時点でのベストバランスを維持できているのだろう。
S1シリーズよりカジュアルな面が強調されがちなS5だが、S1のエッセンスは十分、S5に受け継がれている。パナソニックの真摯なものづくりの精神が感じられる1台なのだ。