インタビュー

ニコン「Z 5」に見る“ニコンクオリティ”の現在(後編)

予定外の高性能レンズ「Z 24-50mm」、ニコンに受け継がれる伝統など

左から、映像事業部 開発統括部 第一開発部 第四開発課の神保直樹氏
映像事業部 デザインセンター IDグループの今水誠氏
映像事業部 UX企画部 UX企画二課の鈴木伸世士氏
映像事業部 UX企画部 UX企画一課の足立悠佑氏
映像事業部 開発統括部 設計部 第三設計課の森剛一郎氏
映像事業部 開発統括部 設計部 第一設計課の藤田昌之氏
映像事業部 開発統括部 第一開発設計部 第三開発課の浅見典充氏
※ソーシャルディスタンスを考慮しておりますが、撮影時のみマスクを外しております。

ニコンが8月28日に発売したミラーレスカメラ「Z 5」に関するインタビューの後編をお届けする。

システムとしての小型化を実現する新キットレンズ「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」の開発コンセプトから完成に至るまでのストーリーや「Zシリーズ」の今後、“ニコンクオリティ”の核心に迫る。(聞き手・本文:豊田慶記/ 写真:編集部)

新キットレンズ「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」完成までのストーリー

厚さに“1mm”のコダワリ

——今回、実はZ 5本体よりも印象的だったのがキットレンズでした。写りがメチャクチャ良くて感動しました。

鈴木 :実は設計段階ではここまでの性能が出るとは思っていませんでした。

レンズ企画を担当した鈴木氏

——いわゆる“出来ちゃった”というやつですか?

鈴木 :はい。想像以上に良いレンズが出来ました。S-Lineのレンズでは多くの項目に対して厳格に「これ以上の性能にする」という基準があるのですが、S-Lineではないレンズの基準は、それが少し緩和されたものになります。

今回のNIKKOR Z 24−50mm f/4-6.3はコンパクトさを重視し、サイズをFマウントレンズの「AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G」(全長52.5mm)程度に抑えるという目標を掲げました。重さについても200gを切れました。グレードがS-Lineではないこと、サイズと重量に制約があること。これらの理由によって、描写性能に関してはそこまで高いハードルを設定せず、「相応の性能を目指して」という話をレンズ設計チームと進めていたのです。

参考:Fマウントレンズ「AF-S NIKKOR 50mm F1.8G」

しかし、いざ出来上がってみるとMTF性能も解像性能もとても高いレンズが誕生しました。設計者の誇りなのだろうと思いますが、「DX時代も含めて伝統的にキットレンズには力を入れているので、今回も頑張っちゃった」ということでしょうか。

——あまり褒めるとヨイショと邪推されそうなのですが、周辺までビシッと解像していますし、収差も少ない。それに歪曲補正や周辺光量補正をOFFにしても全然問題がない。この性能でこのサイズとは、恐れ入りました。

このレンズは予め計画されていたのでしょうか?

鈴木 :このレンズは“薄型の標準ズームレンズ”という企画の製品ですが、社内のロードマップで計画されていた製品スケジュールでは、時系列としてもっと後に登場する予定のレンズでした。しかしZ 5が動きはじめた際に、ボディの商品企画担当者からこのレンズをキットレンズとして組み合わせたいという要望がありました。前倒しの開発になったため、日程的に難しいチャレンジではありました。

——具体的な頑張りというとどのようなエピソードがあったのでしょうか?

鈴木 :サイズをAF-S NIKKOR 50mm F1.8Gと同等にするという目標に対して、レンズ設計チームが設けた描写性能や逆光性能の基準をクリアすることが難しく、この目標サイズに「入る」「入らない」を何か月も試行錯誤していたことが、とても印象に残っています。

メールで進捗情報が転送されてくるのですが、数か月に渡って同じ問題に取り組んでいたため「まだやってるの?」とビックリしていました。それから、目標達成という観点では全長50mmを死守したかったのですが、「性能の為に1mmだけ勘弁して下さい」というやりとりがあり、全長を51mmとしました。それでも全長52.5mmのAF-S NIKKOR 50mm F1.8Gと同等サイズという目標は達成しています。

——それほどまでの努力の結晶であれば、“出来ちゃった”なレンズでは無いようにも思えます。

鈴木 :NIKKOR Zレンズは社内的にも「今までの水準以上に性能面を頑張らないと」という気持ちがありますので、たとえS-Lineではなくても今まで以上に高い描写性能に仕上げる傾向にあります。それもあって、この値段の標準ズームレンズとしては珍しいと思いますが、EDレンズや非球面レンズを複数採用した贅沢な設計としています。

全体のバランスから言えば、目標値はもう少し緩めても高い満足度を維持出来ると思いますので、例えば“コンパクトさを追求したレンズ”や“敢えて癖を残したレンズ”など、色々な性格を持った製品の提案があって良いと思っています。しかし、設計チームにはより良くしたいというコダワリの強い人が多いので、レンズの企画側と設計側でせめぎ合いが続いているという状況です。

——ちなみに、キットレンズにフードが同梱されていないのは何故でしょうか?

鈴木 :販売価格を考慮して同梱は見送りました。

——同梱するとかなりの違いになるのでしょうか?

鈴木 :具体的な金額はお伝えできませんが、それなりに違います。他社さんでもフードを同梱しないケースも同様の理由かと思います。個人的には同梱させたく、最後の最後まで悩んだところでした。

過去のデータにはなりますが、フードが同梱されていないレンズの別売フードの売上は、ものすごく規模が小さくなっているという状況がありました。「フードは装着して当たり前」という考えが根強くある一方で、ライトユーザーやエントリーユーザーのフード着用率はとても低いというのが現実です。

また最近のレンズは逆光耐性が非常に高くなっていますので、「フードが無いと話にならない」ということも無く、このクラスでは保護目的として選ばれるシーンの方が多くなってきています。

——そういった状況なのですね。個人的にフードが欲しいと思った理由は他にもありまして、Z 5とキットレンズを組み合わせた状態では、フードが付いていた方が圧倒的に格好が良いのです。

鈴木 :私もフードがあった方が格好良いと思います。

——このレンズは動画対応でもあるんですよね?フォーカスブリージングの少なさですとか、AFの駆動音ですとか。

鈴木 :はい。動画対応のレンズです。当初はそこまで頑張らなくても……という気持ちがありまして、実際にこのレンズの企画段階では、動画対応については優先順位が低かったのです。しかし実際に出来上がってみると期待を超える以上の性能でしたので、「動画対応」とアピールしています。

製造面の難しさ

——Zレンズ全体の話になりますが、製造工程での苦労も多いのでは?

鈴木 :正直大変です。ミラーレスになってからレンズに求められる要求がより厳しくなりました。例えば「レンズエレメントの曲面が設計値通りの形状に仕上がっているか?」はもちろん、「ズーム操作でゴミが混入しないか?」など、一眼レフの時代よりも様々な基準が厳しくなっていますので、生産が始まってからも多くのトラブルや気付きがあり、対応に追われていました。

——S-Lineでは厳しく全数検査、といったような管理をされていますか?

鈴木 :S-Lineに限らず、光学性能を始めとして他の基本的な項目(MTF性能やフランジバックやVR、AF等)については全数検査を行っています。耐久試験等は量産前に厳しくチェックするため、量産後は定期的な検査で品質を保証しており、安心していただける品質があります。

※11月4日12時修正:「S-Lineでは厳しく全数検査、といったような管理をされていますか?」という質問に対する回答について、初掲載時から一部内容を修正しております。

「性能で負けてはダメ」

——「Zレンズにハズレ無し」と、私の周囲でもそういった意見があります。どれを買っても解像性能、ヌケの良さ、片ボケなども無く気持ちの良い描写を楽しめると思っていますので、これまでのお話も素直に納得できます。

ところで、Zレンズになってから、苦手な撮影条件が見つけにくくなったという印象があります。それまでのレンズでは「このズーム位置とこの撮影距離だと変な写りをするよね」みたいな部分があったのですが、そういった弱点がなかなか見当たりません。

鈴木 :現在、ニコンはミラーレス市場のリーダーではないので「性能で負けてはダメだ」という想いがあります。そのため社内ではあらゆる焦点距離や撮影距離でベンチマーク比較を行い「全部勝たなきゃダメだ」という雰囲気でやっています。もちろん全く負けが無いわけではありませんので、実用上想定される頻度の低い条件ではある程度譲る面もありますが、それ以外の部分については妥協はしていません。そういった努力が結びついているのだと思います。

——Zレンズの設計で目指しているものはあるのでしょうか?使ってみると、トコトン高性能で癖のない写りというか、純水のようにクリアで「個性が無いことが最大の個性である」といった無色透明な描写に感じます。

鈴木 :光学性能に対する要求事項が高いので、収差のバランスなどに代表されるいわゆる「癖」の部分については淡白になる傾向にあります。

——性能を追求した結果の賜物である、ということですか?

鈴木 :そうです。全ての項目で高得点・高性能を実現すると、見方によっては「クオリティが高いけど味はない」といった描写再現性になってしまいます。

やはり新しいマウントシステムになっていますので、より良いものにしなければならないという気持ちが強くあります。ミラーレス化、つまりショートフランジバック化でレンズ設計やメカ設計の自由度が上がることで、光学系はよりコンパクトにでき、機構も無理なく配置できるということで、より高い光学性能を追求できるようになりました。

とはいえ、レンズのサイズと光学性能については物理的にある程度の比例関係がありますので、Zボディに見合うサイズで高い光学性能のレンズというバランス調整に毎回非常に苦労しています。ただ、性能を妥協して得手不得手を許容するという考えは、程度にもよりますが現時点では許していません。

足立 :鈴木が先程申し上げた「性能で負けてはいけない」という部分に繋がります。

ですが、動画シーンではどうしてもある程度のフレアが欲しいという声も多くありますので、描写のバランスについては現在も研究を続けているところです。

——設計時のルールが厳格過ぎて、レンズメーカーさんのような柔軟な発想のレンズが提案しづらいのではないか?と邪推してしまいました。

鈴木 :いえ、そうした提案に対してニーズがあることが分かれば製品化のGoサインは出ます。国や地域によって描写のニーズは違いますので、一部で盛り上がったからといって、それがニーズと判断されるか?と言われると難しいのですが……。料理の好みと同じで、薄味が良いのか、濃い味が良いのかと言った疑問に対して「この味付けなら受け入れられるんだ!」という判断については、もっと積極的に議論していかなければならない部分だと認識しています。

現在はロードマップに従いラインアップを強化している段階ではありますが、道筋通りに製品を展開する状況がずっと続くわけではありませんので、並行して特徴のあるレンズの提案についても強化していかなければならないタイミングにあると考えています。

——そう言われると期待してしまいます。

鈴木 :具体的な事は言えませんが、色々と計画しています。

現在の“ニコンクオリティ”とは

——品質に対して並々ならぬ情熱があることが分かりました。Z 7/Z 6の登場時には「ニコンクオリティ」という言葉を用いていた記憶があります。改めて、ニコンクオリティについて教えて頂けますか?

足立 :「これがニコンクオリティである」という確とした説明は難しいですが、評価試験のしきい値(合格ライン)の高さについてはかなり厳しく設定しています。ニコンは何十年もカメラづくりを続けていますので、そこで培われた品質の基準に対する考え方、経験の積み重ねのようなものがニコンクオリティなのだと思います。

——品証以外にもクオリティゲート、と言いますか、門番のような組織や人が居るのでしょうか?

足立 :はい。組織として門番が存在しています。耐久試験などを行う品証グループだけでなく、開発部門にも実写チームがあり、実際のフィールドで撮影を繰り返してフィードバックを行っています。

“コスト”と“品質”どちらをとるか?

——例えば開発の途中で、門番の鶴の一声によって大きな変更が入る、といったことはあるのでしょうか。

足立 :あります(笑)。例えば、コストに優れる(安く作れる)一方で、ユーザーの満足度が下がる可能性もあるAという選択肢と、コストは掛かるものの満足度に反映されるかも知れないBという2つの選択肢があったとします。こうした二者択一の判断を迫られた際に強い意見を持っているのは、品証グループです。会社の経営的には利益の最大・最適化を図らねばなりませんが、議論を重ねてベストな解を導き出していきます。

——Z 5ではその様な事例がありましたか?

今水 :デバイス関連については回答が難しいので、デザイン面から分かり易いところを挙げますと、Z 7/Z 6とZ 5の違いに肩液晶(情報表示パネル)の有無とモードダイヤルの配置があります。モードダイヤルの配置に注目しますと、肩液晶を省略するコストメリットとともに、右手で操作を完結したいという目的がありましたので、肩液晶の位置にモードダイヤルを配置しました。

このモードダイヤルの移動だけでも何度も開発チームとのやり取りがあり、さらにダイヤルの径やローレットのパターンやピッチなど、配置以外にも様々な検証を何度も繰り返し、操作性の観点からここがベストだという仕様と位置を設計側に提示します。ですが、内部部品のスペース的な都合ですり合わせが発生しますので、単純にデザイン担当側が考える操作性の最適解が製品のカタチに採用されるわけではありません。すり合わせにはもちろんコストの観点も絡んできます。そういったプロセスがあり、それでもなお譲れない部分として押し通した上で、さらに微調整を繰り返したのが右肩のモードダイヤルになります。

:モードダイヤルに限ったことではないですが、「出来るだけ動かしたい時だけ動くようにして欲しい」という要望を受けることがあります。撮影者が意図した時にはスムースに操作でき、知らずしらずのうちに動いてしまったということがないようにしなければなりません。

操作しやすく誤操作を避けるというのは相反する性質ですから、設計には慎重なバランスが要求され、操作部材の位置や操作トルクやローレットパターンを何度も繰り返し検証しました。

高感度画質とUSB給電について

——苦労話が見えてきたところで、「ココを頑張ったぞ!」ですとか、思い入れのあるエピソードがありましたら教えてください。

足立 :Z 5では製品企画側から開発側に「高感度画質を頑張ってほしい」とリクエストしました。と言いますのも、市場の調査やユーザーの意見を集めてみますと、フルサイズ機の導入によって期待されることに、「画質が良くなる・ボケが大きくなる・高感度に強くなる」といった意見が出てきたからです。

中でも高感度画質に対する期待の割合は大きいという認識があります。Z 6とZ 5の違いとして、デバイス的には裏面照射型CMOSと表面照射型CMOSという違いがあります。一般的に言われている通り、低照度下における高感度性能は、裏面照射型にアドバンテージがあります。そういったデバイス面での違いはありますが、ギリギリまで高感度性能を突き詰めてほしいとお願いしました。

最終的にはZ 6と同じ常用最高ISO 51200を達成できましたので、「頑張った」と思っています。

藤田 :電気設計においては、USB給電/充電も頑張った部分のひとつです。ニコンのカメラとしては初となる要素のため、手探りとなる部分が多く、安全に安定して動作するよう苦労がありました。ほかにも新規の撮像素子やSDダブルスロットなど、電装系には新規要素を多く採用していますので、基盤から新設計し、省エネ性能にもこだわっています。

SDダブルスロットに関しては両スロットがUHS-IIに対応しています。すべての撮影モードで100コマの連続撮影枚数を実現する、という目標のために、制御面での工夫も盛り込まれています。

電気設計全般を担当した藤田氏

——バッファーを増やした、ということでは無いのでしょうか?

藤田 :様々な点からバッファーを増やすのは難しいという判断をしましたので、いかにSDカードに対してスムースに書き込みが行えるか?という部分に着目して、書き込みの系統(線)を増やす手法で達成しています。私が入社した時から、社内では妥協に対して非常に厳しい風潮があります。どの部署にも言えることなのですが、本当に妥協を許してくれません。なんとか高いバランスを実現するために日々奔走しています。

——電気設計にも伝統的な考え方など、受け継がれているものはありますか?

藤田 :Zシリーズに、というわけではないのですが、Dシリーズにはフィルム時代から採用している回路が含まれていました。私はフィルム機に関わった電気設計者なので、ある程度古い時期から携わっていますが、私が入社した時から使っている回路が最新のDシリーズにも採用されているケースがあります。

——どのパーツかお話していただくことは出来ますか?

藤田 :具体的なパーツ名は言えませんが、レンズとの通信を行う回路です。Zマウントでは全て刷新されているので違いますが、電子接点を持つFマウントでは古いものも新しい世代のものもレンズの通信は変わりませんので、両方使うことができます。そうした互換性を維持するためにも、レンズへの電源供給や通信の回路を受け継いでいます。もちろん、あまり改良の必要がないほどに完成されたものである、という理由もありますが、フィルム時代から同じ回路・部品が使われているという事にニコンの歴史を感じます。

今後のZシリーズのカタチについて

——現在のZシリーズは全て共通のイメージでデザインされていると思いますが、今後の機種についても同様の傾向となるのでしょうか?

今水 :Z 7/Z 6と、その2つを引き継ぐZ 5については共通のデザインコンセプトでデザインしています。高い光学性能を感じさせる大口径マウントをデザインの核としながら、使い手に寄り添ったグリップやEVF、扱いやすい操作系など、そういった構成要素を最適な形状、レイアウトでコンパクトなボディサイズに凝縮しています。

今後のデザインについて具体にお話しすることは難しいのですが、現時点で言えることは、Zシリーズのデザインは「進化し続ける」ということです。テクノロジーの進化、そしてお客様との対話を通し、ユーザーひとり一人の要求に応えられるよう「道具としての完成度」を追求し続けていきます。

Z 7
Z 6
Z 50
Z 5

足立 :エルゴノミクスと言いますか、使い手目線で使い易いカタチというのは、全ての機種で重要視して開発・モノづくりを行っていますので、その部分については今後も変わらないというのが製品企画側です。

スタイリングは時代によって変化しますし、部品や機構的なフォームファクターによっても形状は変化しますが、「使い手目線で使い易いカタチ」については変わらず追求していきます。

今水 :ニコンの中では「使い勝手の良さ」という、カメラの“道具としての使い手との距離感”に関わる項目、別の言葉では「人馬一体感」と表現すればいいでしょうか。それが最も強い核として存在しています。

——「道具として、カメラはどうあるべきか?」を追求しているということですね。

今水 :その通りです。

——確かに物理的な触感や操作性は優れていると思います。まさに「人馬一体感」のあるカメラ作りが出来ていると個人的には感じています。

その一方でUIなどの操作については大きく改善されていない印象があります。Zシリーズ登場から2年が経ちますので、そろそろ何かしらの改善を期待したいのですが。

足立 :細かな部分の修正は随時行っていますが、操作性に関してご指摘をいただいていることは理解しており、今後の機種でフィードバックさせていきたいと考えています。

——ちなみに担当されたデザイナーとして、Z 5の最高のアングルを教えて下さい。

今水 :僕はグリップ側斜め下から見上げる角度で眺めるのが好きです。

——迫力が出る感じですね?

今水 :そうです。やはりコダワリが詰まっているところを見せたいですし、体感してほしい部分でもありますので、私はこのアングルが一番好きです。

グリップという手に触れる部分や、カメラで最も大切なシャッターボタン周りが見えますし、その背後には大きなマウントや覗き心地に拘ったEVFが見えます。そうした要素の造形が最も見える角度だと思います。

——とても共感できました。繰り返しになりますが、なぜニコンの製品ページでそうした部分をアピールしないのかが分かりません。

一同 :(笑)

——ちなみに、社員の皆さん同士で“心の中のニコン”のような理想のカメラ像について話すことはありますか?

足立 :生き字引きみたいな方も居ますし、理想のカメラ話は結構します。

浅見 :映像事業系以外の部署でも、ニコンファンやカメラ好きの社員というのは多く在籍しています。

以前にZ 7/Z 6について社内でアンケートをとったことがありますが、映像事業以外の部門からの意見がとても多くて、本当にマニアックな意見が寄せられたことに驚きました。カメラ好きの社員が多いと実感しています。

——最後にZ 5ついて、やりたかったけど出来なかったことがあれば教えて下さい。

足立 :目標に対してやりきったという気持ちがありますが、最後まで検討を重ねたのは背面モニターをチルト式にするか、バリアングル式にするかです。マーケティング的には動画との親和性も含めてバリアングルという選択肢もありましたが、サイズを優先してチルト式にしました。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。