インタビュー
“カメラが人生を変えた”トラベルフォトライターのカメラと写真に対するこだわり
もうこの色に惚れ込んでいるんだから重くてもしょうがない
2018年9月10日 07:00
「今思えば、過去に行った同じ場所に戻って撮り直したいですね」。35mm判フルサイズデジタル一眼レフカメラ・PENTAX K-1 Mark IIやK-1という、女性にとっては大きく重い機材を持って世界中を旅する田島知華さんは、笑顔でそう語った。
初めての一人旅ではコンパクトデジタルカメラを使っていたという田島さんが、今PENTAX K-1 Mark IIを使っている理由、そして写真で伝えたいこと、表現したいこととは? 写真の力に魅了された元バックパッカー、現トラベルフォトライターの話に、写真の魅力と奥深さに改めて気付かされる。
トラベルフォトライターという職業をやろうと思ったきっかけ
——まず、田島さんの「トラベルフォトライター」というのは、どういった職業なのでしょうか?
トラベラー、フォトグラファー、ライターを組み合わせた造語で、旅をして、旅先で写真を撮って、旅先について書くという3つ全部をやっています。
——旅行に行くこと、原稿を書くこと、写真を撮ることは、全部同じくらいのおもしろさなんですか?
同じくらいですね。どれか1つでも欠けたらダメな感じになってしまいました。用意した写真で書いてくださいと依頼されることもあるんですけれども、でもそれを使わないで、私が行きますという風にやっています。
写真で見た印象と、自分の目で見た印象は、本当に違うなって思うんです。だから、私が見て、私が撮って、そこで感じたことを書くことによって、記事に一貫性が生まれるんじゃないかなと思って、3つを自分でやり通しています。
——今まで何カ国くらいに行きましたか?
どこをひとつの国として数えるかによって変わってくると思うんですけれども、私の基準では細かく分けないようにしていて、それで55カ国200都市です。
——年間でどれくらいの国に行っているんですか?
最低10カ国ですね。ただ複数回行っている国が結構あるので、なかなか国数は増えていかないですね。
——トラベルフォトライターという職業に挑戦しようと思ったきっかけは?
今までバックパッカーとして旅をしているなかでたくさん写真を撮ってきたんですけど、きれいだね、構図が上手だねと言ってもらえて、ちょっと自信がついていったんです。それから友だち伝いで旅人の知り合いができてきたときに、写真を本に使いたいとかサイトに使いたいとか、身内以外にも知られるようになってきて、それでさらに自信がついて、写真を強く出した名前にしたいと考えて、トラベルフォトライターという風に名乗りました。
——バックパッカーをしていたということは、昔から旅行が好きだったんですね。
一番最初は旅行をするというよりも、建築物を見に行くことが目的でした。もともとはインテリアコーディネーターを志望していて、大学で建築の勉強もしていました。そのなかで、世界の都市の授業があって、スペインのサグラダ・ファミリアとかドイツのノイシュヴァンシュタイン城とかが授業で出ていて、自分の目で見てみたいと思ったのが最初です。
——一番最初はどこに行ったのか覚えていますか?
19歳の春休みに、ドイツとチェコとオーストリアとハンガリーの4カ国を一人で回りました。
——一人だったんですね。
一人でした。でも私はもともと海外には全然興味なくて、家族でも海外旅行に行ったことがなくて、地理も苦手だったんです。
——それでいきなり4カ国を一人で巡るっていうのはすごいですね。
19歳のときに、祖父に成人祝いで20万円渡されたというのが大きいですね。それまでは優しいおじいちゃんというよりは厳しい感じで、図書カードしかくれなかったんです。そのおじいちゃんが20万円をくれるって、成人祝いってすごいな、でも19歳だったんで1年早いなって思ったんですけれども(笑)。
大学生なので服とかバッグとかも欲しかったですし、バンドをやっていたのでマイクとかも買いたいなって思ったりしていたんですけれども、自分のために使いなさいと言われたので、全額を使ってドイツに行ってみようと思ったんです。それで地図を見ていたら隣にチェコがあることに気付いて。チェコに私の大好きな画家の常設美術館があるから行っちゃおうと思って、その後、オーストリアは音楽がすごく好きなので、本場で聞きたいと思って、じゃあオーストリアも行っちゃおうと。ハンガリーは現地で行けそうだなと思って、現地でチケットを取って日帰りで行きました。
——お祖父さんの成人祝いが今につながっているんですね。
そうですね。もともとは建築物を見るために行った旅行だったんですけれども、現地で旅人と知り合ったりもして、旅の楽しさに魅了されてしまったんです。それからは建築に関係なくても南米を周遊したりとかもするようになりました。今でもこの建築物が見たいから行くという風な行き先の決め方をすることもありますが、根底としては旅が好きですね。
カメラを変えて感じた画質の大切さ
——現在はK-1 Mark IIを使われているということですけれども、その頃からカメラは本格的な一眼レフを使っていたのですか?
最初はコンパクトデジタルカメラでした。一応記録としてということで持っていっただけなので、その頃はどれでもいいという感じでしたね。
——その後にグレードアップしていくわけですね。
1年後にミラーレスカメラになり、APS-Cのデジタル一眼レフカメラになり、そしてフルサイズのデジタル一眼レフカメラになりました。
——着実にグレードアップしていったということは、カメラを変えるたびに違いを感じたということですよね。
画質の違いを一番に感じました。一番最初のコンパクトデジタルカメラで撮った場所に、デジタル一眼レフカメラを持って再訪する機会があったんです。そのときにせっかくだから同じ構図で撮ってみたら、画質も色も全然違いました。自分の成長も見られたなというのも感じましたが、やっぱりカメラによって違うなと。
——確かに伝わってくる情報量が違いますね。
記憶って写真を撮ることで残ったりするじゃないですか。写真を撮って、その写真を見て。その場で見た印象が薄れても、写真を撮った場所は忘れていなかったり。写真が記憶を引き出してくれるというところもあるので、写真の繊細さは大事ですよね。
——デジタルカメラマガジンの仕事では小型の一眼レフを使ってもらいましたけど、それと比較して、ペンタックスのK-1 Mark IIはどうですか?
最初にK-1を使ったのですが、第一印象は重いなって思いました(笑)。でもペンタックスの色合いに惚れ込みました。特に夕日の色合いに惚れ込んでしまって、最新のK-1 Mark IIにいたりました。もうこの色に惚れ込んでいるんだから重くてもしょうがないっていう。今思えば、過去に行った同じ場所に戻って撮り直したいですね。画質も良くて色も良くて。でも広角レンズはもう少し小さくて軽いやつを出してほしいです(笑)。
——色合いといえば、ペンタックスのホワイトバランスに、画面内で大きな割合を占める色があるとそれを強調するCTEというモードがありますが、それは使いますか?
使います。特に風景のときに使います。すごく好きです。夕日のときに使うことが多いですね。
——カスタムイメージはどのように使っていますか?
カスタムイメージは、鮮やかに写るように意識して設定しています。私はキャッチコピーとして「世界をカラフルに切り取る」と言っていて、人によってはうるさい感じに見えてしまうかもしれないんですけれども、パッと見たときにカラフルで可愛いという風に、特に女の子に思ってほしいなっていうのがあって、カラフルで可愛く見せるために意図して撮っています。
——世界はいろんな色に満ちあふれているというのを表現したい、それをポリシーとして持っているんだろうなと感じます。そういうところにK-1 Mark IIがフィットしたのかなと思います。
編集して、加工をしたりはするんですけど、撮った瞬間から「あ、きれい」って自分の目で見て思えるところが気に入っています。
——色といえば、カラフルな洋服を着た田島さん自身が写っている写真がありますが、街にどんな洋服が映えるかとか、そういうことを考えながら撮っているのですか?
街に入れたい色を加える、という考えで撮っています。例えばコミノ島だったらブルーラグーンのすごくきれいな感じで、そこに白やブルーの服で爽やかにいくんではなくて、そこに私は黄色を足したかったので、レモンの服を着ました。カラフルな街だったら白い服を着て、白を足すという感じで、足したい色を自分が入ることによって加えるというイメージですね。
——カラーのことは勉強はしたんですか?
カラーの勉強とは少し違うかもしれませんが、インテリアの授業は受けました。昔から色を組み合わせるというコーディネイトは好きでした。インテリアコーディネーターを志望していた理由も色を組み合わせるのが好きだからです。
——基本的にバックショットが多いですね。
それはこだわりがあります。写真を見た人に、私を通してその場にいる気持ちになってほしいんです。みんなが感情移入すると言うか、そこにいる感覚になれるように見せたくてバックショットにしています。
——こうした写真は、誰に撮ってもらっているのですか?
私がその場で1回写真を撮って、それを現地の方に見せながらお願いしています。こっち向いてって言われるんですけれども、そうじゃないんだって言って。ここに私が立つから、あっち向いて撮るからって言って撮ってもらうんです。
全体が締まってシャープに見える写真が好き
——レンズは何を使っているのか教えてください。
HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRとHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRの2本をメインで使っています。
——HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRがメインで、足りないときにHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRにチェンジする感じですね?
ホテルの室内や屋内だと広角が多いですね。望遠レンズも使ったことはあるんですけれども、私の旅ではそこまで使わないなと思って、この2つになりました。THETAとかアクションカメラとかドローンとかも持って行くので、なるべく機材は減らしたいというのもあります。
——大口径の単焦点レンズを使うこともありますか?
背景の物が強くぼけて、色がちょっと見えるくらいとか、そういった撮り方はあまりしないですね。後ろも含めて考えての構図というか、後ろにある物を入れるためにこの場所に座ったのに、それをぼかしたらもったいないので。近くのものを撮影するときは軽くぼけるくらいがちょうど良いです。
——せっかく海外に行ったらその場の雰囲気を見せたいという気持ちですかね。
そうですね。K-1 Mark IIを使っていて、全体が締まってシャープに見えるなって思ったんですよ。パッと見たときに、ぜんぶシャープに見える感じがすごく好きというのもあるので、あまりボケは重視していないです。
——田島さんがK-1 Mark IIとペンタックスのレンズの魅力として感じている点は、先ほどの色合いと、今話に出た解像度が高いから全体をシャープに写せるところだと思いますが、さらに付け足すとしたらどういうところですか?
夜景がすごくきれいに撮れるなって思っています。ノイズとかも目立ちにくい気がしていて。
——高感度も強いですからね。
星空とかもかなりきれいに撮れました。高感度も強いですし、手ぶれ補正もありますし、三脚が立てられない場所でも、手持ちで夜景をきれいに撮れるところが好きですね。
あと、以前に使用していたカメラと比べて白飛びしづらいように感じていて、撮りながら素晴らしいっていつも思っています。
——撮って、その場で見るという、トライ&エラーはしますか? 設定を変えてみたり。
撮って調整したりはしますね。そういえば、特に機能の名称はないみたいなんですけれども、1つ前に撮った画像で、ほかのホワイトバランスなどをシュミレーションできる機能があるんです。この機能があるから選んだと言ってもいいくらい使っています。
——デジタル一眼レフの良さはやはり光学ファインダーで、その場にある空気感を映像ではなく自分の目で見えるところだと思うんですが、ファインダーを覗いて撮ることが多いですか?
私は必ず光学ファインダーを覗いて撮るようにしています。高い位置から撮りたいときはライブビューを使うこともありますが、低い位置のときは這いつくばって撮っています。
——田島さんは小顔だから、ファインダーを覗くと顔が隠れてしまいますよね(笑)。
特に広角レンズで構えていると、本当に顔が見えないですし、怪しい感じになるんですよね。真剣に構えているときにジロジロ見られます(笑)。
——最後に、これからも旅をしていくわけですが、K-1 Mark IIで撮った写真を見てくれる人に、どんなことを伝えていきたいですか。
カメラがあって、写真を撮ることによって、現地の魅力を伝えられているなと思っているので、これからも言葉で説明するだけではなく、写真を撮って見せることによって、土地土地の魅力を少しでも周りの人に伝えていきたいと思っています。
私は元々、ただの旅が好きな大学生だったんですけれども、カメラを持ったことによって、写真を撮ったことによって、今こうやって仕事にできている。カメラが人生を変えたと言ってもおかしくないと思うんです。特に詳しくない人でも、カメラを持つことによって、そういったきっかけができる可能性もあります。好きなことを仕事にできているのも、カメラを持って、旅に行ってきたおかげかなと思っているので。
もうひとつ、さっきも言いましたが、カメラをグレードアップしてから、過去に行った場所にもう一度行って撮り直したいという気持ちになりました。早めに良いカメラを手にしていれば、撮り直したいと思う場所も少なくなると思うので、最初から思い切って奮発することをおすすめします。
——百聞は一見にしかずという言葉があって、写真から伝わる力強さが当然あると思いますが、それと同時に文字の良さというのも感じていて、文字はゆるやかに深く染み渡ってくるものなんです。田島さんの、その両方を大切にしているというスタイルはすごく共感できますし、このまま続けていってほしいと思っています。本日はありがとうございました。
制作協力:リコーイメージング株式会社
聞き手:福島 晃(デジタルカメラマガジン編集長)
現場撮影:曽根原 昇