コラム

写真が上手になりたい!写真の授業がある美容専門学校を訪ねる

アプリ任せは卒業? カメラで自分の世界を表現するには

授業の感想をお聞きした青木さん(左)と村越さん(右)。

スマートフォンのカメラ機能もどんどん多彩になり、誰でも気軽に写真が撮れる「一億総カメラマン時代」と言われて久しい昨今。旅先やレストランだけでなく、なんでもない街角でカメラを構える人を見かける機会は多いだろう。

それだけカメラが普及する中、初心者向けのカメラ講座を授業のカリキュラムに取り入れた学校がある。東京・渋谷にある住田美容専門学校だ。

写真は日常的に撮るものの、スマートフォンのシャッターを切るだけ、あるいはアプリのエフェクト任せという生徒たち。その生徒たちを対象に、『カメラ1年生 デジタル一眼カメラ編(たのしいカメラ学校の教科書)』(インプレス刊)の著者である矢島直美さんが写真の授業を持ち、2年が経過した。

なぜ写真の授業を始めたのか、授業を通じて、生徒である10代の受講者達は何を感じたのか、それぞれ話を聞いてみた。

美容師も個々の発信が重要に

――なぜ美容学校で撮影の授業を取り入れたのか、そのきっかけを教えていただけますか?

住田知之校長(以下、住田校長):大きなきっかけは、美容業界におけるお客様の変化にあります。昔はカットをお願いするにも、どんな美容師さんにやってもらうのかはお店に行って初めてその人となりがわかる形でした。しかし、今はブログやSNSで美容師さん自身が自分のことを発信し、その世界観を見たお客様が「この人に切ってもらいたい」という動機で予約をするんです。その手段のひとつにあるのが写真なんですね。

カット技術は大前提として、いかに自分の世界観を作り、発信して、ファンを獲得するかが、この先美容師が生き残っていくための鍵なんです。そういった背景があり、写真の授業をとり入れることを決めました。

――カットやカラーの技術を学びに来ている生徒たちが、カメラの授業を受けることに抵抗はなかったですか?

住田校長:まったくないですね。作った髪型をきれいに見せてまでが、学生にとっての美容のお仕事なんです。

矢島直美先生(以下、矢島先生):カメラの授業は去年から始まり、その様子を見た今年の生徒たちは楽しみにしてくれていたようでした。住田先生から受けたリクエストは、「写真の基礎もきちんと学べるように、スマートフォンのカメラからレンズ交換式デジタルカメラまで、段階的にカリキュラムを組んでほしい」というものでした。そこでオリンパスさんにご協力をいただき、ミラーレスカメラをお借りして、大掛かりに授業を進めることにしたのです。最終的には作品づくりに落とし込んで、自分の世界を表現する方法を学んでいきます。

校舎内には講義の課題作品が飾られている。人物中央が矢島直美さん。

写真を撮るのは日常的。でも……

――なるほど。村越さんと青木さんは、日常的に写真を撮りますか?

村越:撮りますね。主にスマートフォンです。「この瞬間好きだな」って思った時に撮ります。

青木:私も撮ります。好きなものを残しておきたい時、特にすぐなくなってしまうものは残したいので、よく写真に撮りますね。食べ物など、日常の写真も多いです。

――その時「もっときれいに撮りたい」「写真が上手くなりたい」と思うことはありますか?

青木:撮ってもいまいちピントが合わなかったり、きれいに撮れないことがけっこうあって、「なんでだろう」と思うことはありました。矢島先生の授業を受けて、ピントの合わせ方や水平・垂直のとり方も知りました。

――スマートフォンの授業もしっかり時間をとったんですね。

矢島先生:そうですね。10回くらい時間をとって、かなりしっかり組みました。99%の生徒がiPhoneユーザーでしたね。

村越:以前は加工アプリに頼りがちだったんですけど、授業では色合いの補正の仕方なども教えてもらいました。アプリを使わなくてもきれいに仕上げられるので、撮ってそのままインスタグラムに投稿できるようになりました。授業も楽しかったです。

――授業の中で一番驚きだったのは?

村越:明るさ補正ですね。そんな機能があることを知りませんでした。調整できる幅が広く、普段写真を撮るときすぐに使うようになりました。

青木:私はグリッド線です。そこに合わせると水平・垂直を合わせられるし、もし斜めになってしまっても編集機能で調整できることが分かって、きれいに撮れるようになりました。編集機能でも、明るさを調整したりモノクロ表現にできたりするのが驚きでした。私も今まではアプリに頼っていたので、デフォルトのカメラアプリでそこまで調整できることにびっくりしました。

写真を好きになってもらうために

――授業のカリキュラムの組み立て方は、どんなことを意識しましたか?

矢島先生:スマートフォンのカメラはみんなが日常的に使っているので、まずはその機能できっちり撮れるようにしましょう、と。そこから、より専門的なことを踏まえてミラーレスカメラを使った画質の良い写真、ボケの作り方などへステップアップするようにしました。

住田先生:まず写真が上手く撮れているか、または失敗してしまっているか、といった結果があり、「それはなぜ?」という順番で進めるようにしました。一番避けたかったのは、「絞り」や「シャッター速度」などの理論から入って、写真を難しいものだと認識してカメラ嫌いになってしまうことです。

矢島先生:写真を楽しく感じて、まず好きになってもらい、難しいことを言わずに身近なところからとり入れてもらえるようにしました。それが終わってから専門用語を使い出すと、より理解が深まるんです。

1回目の授業は、「まずこの学校の好きなところを見つけよう」というテーマでした。入学したばかりの1年生なので、学校のどこに何があるのかをあまりわかっていなかったので、学校を隅々まで探検してもらいました。

青木:最初の授業は冒険みたいでした(笑)。

矢島先生:その次は「友だちを撮ってみよう」というテーマでポートレート、ミラーレスカメラを使う段階に入ると「ヘアメイクを撮ってみよう」というようにレベルアップしていきました。

授業のテーマに沿って撮影された作品。テーマは様々で色そのものや、彩度もテーマになった。(撮影:村越さん)

――矢島先生はご自身が運営されている写真教室の生徒さんとの違いなどは感じましたか?

矢島先生:普段の教室はそもそも写真が好きで、さらにうまくなりたいと考えている方が受けに来てくれます。でも、この授業ではそうではない方もいるので、どうしたら写真に興味を持ってもらえるかを考えました。クイズを出してみたり。後半の授業では生徒に先生役になってもらったりしましたね。

ただ、スタートの違いこそありますが、授業を進めていくと「楽しい」と感じるポイントや魅力的に感じる部分は同じでした。女性はメカに弱いと一括りにされますが、使い方さえ知れば楽しくなるんです。きっかけは感覚かもしれませんが、そこからはきちんとメカ的な使い方を覚えていきますから。こういった感覚を楽しめる素養が生徒にあったことも大きいですね。

――実際に授業を受けてみて、写真を撮る機会は増えましたか?

村越:なかなかきれいに撮れなかったので、写真を撮りたくても少し遠慮している時がありました。でも授業を受けて機能をたくさん教えてもらって、想像している通りに撮れるようになったので、日常的に使うようになりました。

青木:それまでバラバラで統一感のなかったiPhoneのカメラロールが、授業を受けてからはInstagramのサムネイルのようになりました。テーマをもって撮影しているので、自分の世界観が出来上がって。見ていて気持ちいいんです。

村越:Instagramに載せる写真もきれいになるので、高校の友だちと会った時に反響があったりします。

――写真をうまく撮りたい人は周りに多い?

青木:多いと思います。今はInstagramできれいな写真を撮りたい、自分の世界観をつくりたいと思う人が多くて、その時に撮影の技術があるかないかは大きいです。

村越さんの作品

写真で自分を表現する

――授業を受ける前と後ではInstagramに投稿する写真も変わりましたか?

村越:変わりました。世界観をつくりやすくなったと思います。加工の雰囲気は揃えるようにしていますし、作品撮りをするようになって、3枚ずつ投稿してサムネイルに統一性を持たせるように心がけたりもしました。

――将来、自分のInstagramが美容師としての宣伝材料になることも意識していますか?

村越:しています。今までの授業では、モデルの髪型を仕上げても、うまく写真が撮れなかった。そのため、そのヘアスタイルをどう仕上げたのかが伝わらなかったみたいです。でも授業を受けて髪の毛の一本一本を写せるような技術を教えてもらってからは、それを見て「こういうカラーにしてほしい」と頼んでもらうこともありました。

青木:それに、同じスタイリング技術でも、写真によって見え方が変わってきます。写真がうまいと、スタイリングもうまいように見えて得だと思います。モデルさんを撮る角度でもそのモデルさんの見栄えが変わってきますし……。そういうことも意識するようになりました。

村越:Instagramは2つのアカウントを使い分けています。プライベートで思い出を残すアカウントと、美容師としての宣伝用ですね。宣伝する方は小物の紹介もしたりして世界観をつくっていきます。思い出用は友だちと遊んだり、ご飯を食べたりしている写真を載せています。

青木:Instagramは集客の一環だと思っています。「この人に会いたい」と思ってもらいたいので、髪や服、メイク、食べ物も含めて「この人と趣味が合うからこの人に髪を切ってもらいたい」と思ってもらいたいです。

――逆に、青木さん、村越さんがフォローしているアカウントにはどんなものがありますか?

青木:「Double」という美容室の写真が好きでフォローしています。モデルさんが鏡に寝そべって2人写っているように見せて、本当の自分と偽物の自分というテーマを投影している写真があって、それがすごいと思いました。インスタの使い方もとても上手だと思います。

――授業を受けてから、写真の見方は変わりましたか?

青木:「顔が暗くてもったいないなぁ」と光の感じを見るようになったりして、「自分だったらこうするな」と思うことは増えましたね。

青木さんの作品

写真を楽しむ 写真で伝える

――授業で一番難しかったカリキュラムは何ですか?

村越:ミラーレスカメラの設定が難しかったです。今まで触れたこともなかったですし、設定でも聞いたことのない言葉がたくさん出てきて……。説明してもらっても操作時は戸惑ってしまいました。

青木:美容師になる前にこの授業を受けられて良かったと思います。写真の良し悪しを見られるようになりましたし、ミラーレスカメラも欲しくなりました。

村越:レンズ交換式のカメラを使うのはこの授業が初めてだったんですけど、やっぱりスマートフォンとは写りが全然違うし、使いこなせれば思い通りに撮れそうなので、1台欲しくなりました。

矢島先生:実際に授業の後に購入した生徒もいるみたいですね。

――ご家族の写真は撮られるのですか?

村越:昔はビデオカメラを使っていましたが、私の年齢が上がった今ではあまりないですね。中学生くらいまではありましたけど……。

青木:親に「カメラある?」と聞いたら、すごく古い一眼レフカメラが出てきたことがあります。でも今はスマートフォンですね。母はご飯を撮ることが多いです。外食もそうですし、自分で作ったケーキの写真も撮ります。

授業で撮った写真の一部。校内のいたるところで展示されていた。

――写真のプリントはしますか?

村越:します! 友だちの誕生日にプリントしますし、自分の部屋に飾る時もあります。「いい」と思った写真がスマホの中だけにあるのはもったいない気がしてしまうので、プリントアウトして飾りますね。カメラ店のプリント端末を使っています。

青木:私は自宅にインクジェットプリンターがあるので、自分でプリントして部屋のコルクボードに飾っています。まわりの友だちにもプリントして飾っている人は多いです。

村越:インテリアの一部のような感覚ですね。電球のそばに飾ってあったりして、みんなおしゃれに飾っています。額は100円ショップでもいいものがあるので。写真に書き込みをしたりもします。

――授業を受けて写真の知識が入った今だからこそ、知りたいと思うことはありますか?

青木:作品撮りできれいに写せるようになりたいです。無事に就職も決まりましたし、これからはどうやって美容師としてお客さんに来てもらうかが勝負なので、自分の世界観やバランスの取り方、「わぁ」と思われる写真で雑誌にも載ってみたいですね。

村越:きれいな色の写真に惹かれるので、そういう作品が撮れるようになれたらいいですね。ヘアカラーを写したとき、実際に見た色と写真の色をなるべく近づけられるようになれたらと思います。

制作協力:住田美容専門学校

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。