カメラ用語の散歩道

第7回:電子シャッター(その3・撮像素子シャッター編)

動画と静止画・CCDとCMOSの違い、積層型センサーの可能性

撮像素子シャッターの原理

電子シャッターの最初の回に書いたように、現在では「電子シャッター」といえば機械的に開閉する代わりに、撮像素子の特性を利用して電荷の蓄積時間をコントロールすることにより、シャッターの機能を実現するものを指している。しかし、これも以前述べたように電子「制御」シャッターと混同の可能性があるので、ここでは「撮像素子シャッター」という呼称を用いたい。

まずは撮像素子シャッターの原理から解説しよう。これについては「ミラーレスカメラ・テクノロジー」のシャッター編でも触れたが、基本はCCDにしてもCMOSにしても同じで、各画素に入射した光の強度に関する情報は、その画素で生じた「電荷」を一定時間に貯めた電荷量であるということを利用したものだ。

1つの画素については、フォトダイオードで発生した電荷が雨のように降り注いでいると考えられる(図1)。入射した光の強さに応じて光が弱ければ小雨であり、強い光が当たると土砂降りになる。このように発生した電荷を雨に例えれば、画素値は雨量計と考えればよいだろう。つまり降り注ぐ雨を貯める容器を置き、一定時間の間に貯まった雨の量を計測するのだ。

そしてその時間を限定するのがシャッターということで、機械的に開閉するシャッターは雨を遮る傘であり、傘を取り除けてから再びかぶせるまでの時間がシャッター速度、すなわち露出時間ということになる。

図1:CCDでもCMOSでも、撮像素子の画素1つに着目すると、フォトダイオードに入射した光の強さに応じて発生した電荷が雨のように降り注いでいると考えられる。この電荷を露出時間に相当する間、容器に貯めた量がその画素の画素値となる。

この雨量計に雨を貯める時間を制御する方法は、傘を用いるものだけではない。雨が降り注ぐ中で雨量計自身をまず傾けて空にし、一定時間経過したところで中身を別の容器にあけ、その量を測る方法もある。撮像素子シャッターは、この後者の原理を使って傘(=シャッター羽根や幕)を動かすことなく露出時間を制御する機能を実現したものと考えてもよいだろう。

まずは各画素の電荷を貯める容器をすべてリセットする。つまり容器を傾けて空にするわけで、これが露出の始まりになる。フォトダイオードからは常に電荷が降り注いでいるので空になった容器に貯まっていく。そして一定時間が経過したらそれまでに貯まった電荷を別の容器にあけてその量を計測する。この計測した電荷量がその画素の画素値、つまり明るさの情報になり、電荷をリセットしてから読み出しまでの時間が露出時間=シャッター速度になるというわけだ(図2)。

図2:撮像素子シャッターの原理。各画素で電荷が雨のように降り注ぐところに置いた容器をまずリセットして空にし(左)、容器に電荷を貯めて(中)、一定時間経過後に貯まった電荷を別の容器にあけて読み出す(右)このリセットから読み出しまでの時間が露出時間になる。

動画の場合

実は動画の世界では、この撮像素子シャッターはかなり古くから使われていた。銀塩のムービーカメラには、やはり機械的に光を遮るシャッターがある。スチルカメラのフォーカルプレンシャッターやレンズシャッターとは違い、画面枠の直前に一部を扇型に切り欠いた円板のロータリーシャッターを置き、フィルムを1コマ送るごとにこれを1回転させて露出を行うのだ。しかし、同じ動画でもテレビカメラやビデオカメラにこのような機械的なシャッターは使われていない。ではどうやって露出時間を制御したのか?

写真1a
写真1b

写真1aは銀塩の8mmシネカメラ(シネマックス8T:写真1b)に使われているロータリーシャッター。この羽根(円板)が1コマごとに1回転して露出を行う。このカメラはダブル8なので標準のフレームレートは16コマ/秒。従って、露出時間は1/16×シャッター羽根の開角度(通常は160度ぐらい)/360ということになる。シャッター羽根の右側はシャッターが閉じている間にフィルムを1コマ分送る「かき落とし機構」。(写真は飯倉重常「シネマックス8-T型撮影機の機構」写真工業1956年7月号より)

昔のテレビカメラには現在のような固体撮像素子ではなく、「撮像管」というものが用いられていた。これは撮像面に被写体光が当たって発生した電荷の量を、真空中で電子ビームを振って走査しながら読み取って行くのだが、撮像面上のある一点に着目すると、一度電子ビームが当たって読み取ってから、次にまた電子ビームが当たるまでの時間が露出時間に相当する。例えばNTSC規格の場合はフレームレートが30フレーム/秒なので、常に露出時間1/30秒で撮影していたわけだ。

その後、撮像管が固体撮像素子に代わってもこれは引き継がれ、一度画素値を読み取ってリセットしてから次に同じ画素にアクセスして読み取るまでの時間がそのまま露出時間になった。つまり動画のカメラでは銀塩の映画から電子的なビデオ画像に移行する時点で、ごく自然に撮像素子シャッターが用いられており、これが撮像管から固体撮像素子へと引き継がれていたことになる。

静止画のデジタルカメラでは……

では、静止画のデジタルカメラではどうだろうか? 固体撮像素子の使用で先行していた動画と同様に最初から撮像素子シャッターを使えばよかったように思えるが、そう簡単には行かなかった。テレビカメラの場合、撮像素子からの信号読み出しはインターレース読み出し、つまり飛び越し走査をしている。動画の一コマ(フレーム)を奇数番目の走査線(横方向の1ラインに相当)による画像(奇数フィールド)と偶数番目の走査線による画像(偶数フィールド)の2回に分けて読みだしているのだ。

NTSC規格を例にとると、1番目の走査線から525番目の走査線まで1/30秒で順番に読み出しているのではなく、はじめの1/60秒で1番目の次は3番目、その次は5番目というように走査線1つおきに読み出し、次の1/60秒で2番目、4番目、6番目と残りの走査線について読み出していくのだ。このインターレース読み出しが静止画の撮像素子シャッターでは問題となる。

つまり、奇数フィールドと偶数フィールドとでは、露出のタイミングが1/60秒だけズレることになる。その間に被写体が動くとどうなるだろうか?走査線1本ごとに被写体の位置がズレて、櫛の歯状のギザギザとなった写真になってしまうのだ。これを避けるため、静止画のデジタルカメラでは、当初から機械的なシャッターを使用し、撮像面に当たる光を遮断することで露出を終了させる方式となっていた。

CCDの撮像素子シャッター

CMOS普及以前に一般的に使われていたインターライン型のCCD撮像素子は、グローバルシャッターが実現できる。縦方向の画素列に沿って配置された電荷転送用のバケツ(Vertical CCD=縦CCD)に各電荷に貯まった電荷を一斉に転送する。この時点が露出時間の終了となり、すべての画素について同時に露出を終了することができるのだ。露出時間のスタートは全部の画素を一斉にリセットすればよい。

ただし、この時の問題点は前述のインターレース読み出しだ。普通のインターライン型のCCD撮像素子では縦CCDは画素を構成するフォトダイオードと同じ数だけ設けられている。CCDの原理上、電荷を縦方向に転送する際には、少なくとも1つおきの縦CCDは空になっていなくてはならない。そこで各画素の電荷を縦CCDに移すときには全画素同時ではなく、1つおきの画素についてまず縦CCDに移す。こうすれば縦CCDは1つおきに空のものができ、列方向の転送が可能になる。で、移された電荷の転送が終わると、次にまだ読みだされていない画素について、縦CCDへの移送と列方向の転送を行う。つまり、必然的にインターレース読み出しとなるわけだ(図3)。そして動体のギザギザを避けるため、露出時間の終了は機械的なシャッターで行い、読み出しは暗黒下で実行することになる。

図3:通常のインターライン型CCD撮像素子の動作原理。縦方向には画素となるフォトダイオードと同じ数の縦CCDが横に並べてある。各画素に貯まった電荷を、ゲートを通して一斉に縦CCDに移すのだが、その際に1つおきの画素について移す。そうしてその電荷を縦方向に転送した後に、残った画素の電荷を縦CCDに移して転送する。こうしないと縦方向の転送ができないのだ。従って必然的にインターレース読み出しとなる。

動体のギザギザはプログレッシブ読み出しとすれば解決する。縦CCDの数を増やし、縦方向の列の画素1個に対して縦CCDを2個割り当てるのだ。こうすれば撮像素子の全画素について同時に電荷を縦CCDに移し、読み出すことができる(図4)。

図4:プログレッシブスキャンのCCD撮像素子の動作原理。縦CCDの数を2倍に増やし、縦方向の1画素あたり2つの縦CCDを割り当てる。その一方を空のままとするので、全画素の電荷を縦CCDに一斉に移して転送することができる。

実際にこのようにしてプログレッシブスキャンのCCD撮像素子によるグローバルシャッターを実現したカメラもあった。一時期のニコンのデジタル一眼レフがその代表例で、グローバル撮像素子シャッターの特性を生かして1/16,000秒の高速シャッターや1/500秒のシンクロ同調速度を実現していた。しかし、反面スミアが出やすいなどの問題もあり、一般的に普及するまでには至らなかった。

写真2:ニコンD1X。このカメラはプログレッシブスキャンのCCD撮像素子を用い、グローバルシャッターとすることによって最高速1/16,000秒、シンクロ同調速度1/500秒を実現している。ただし、スミア対策のために機械的なフォーカルプレンシャッターを併用している。

CMOSの撮像素子シャッター

CMOS撮像素子の場合、産業用のカメラなどではグローバルシャッターが実現されているものの、デジタルカメラのように画質に対する要求が高いものではまだ難しい。そこで、撮像素子シャッターとしてはローリングシャッターを用いることになる。近年は一眼レフやミラーレスカメラのライブビュー時に「静音モード」を設け、ローリングシャッターで露出を行うものが多くなってきた。さらに進んで機械的なシャッターを廃し、ローリングシャッター専用としたカメラも登場してきている。ちょっと前ではニコン1のJシリーズやSシリーズ、現行機種ではシグマfpがその例だ。

ローリングシャッターの問題点は、周知の通り動体の歪(ローリング歪)とシンクロ同調速度だ。それらはCMOS撮像素子の読み出し速度が速くなれば改善される。ちょうどフォーカルプレンシャッターにも動体の歪みの問題とシンクロ同調速度の問題があったのだが、幕速を上げることによりほぼ解決したのと同じことである。

図5:CMOS撮像素子は、横方向の1ラインの読み出しが終了しないと、次のラインの読み出しができない。そのため撮像素子シャッターとすると、ラインごとに露出のタイミングが少しずつずれていく。これが動体のローリング歪やシンクロ同調速度に制限が生じる原因となる。

そして、最近になってこれらの問題点に解決の兆しが見えてきた。そのカギを握るのは積層型のCMOS撮像素子である。読み出し速度を速くするにはマルチチャンネル読み出しといって、複数のラインを同時に読み出すようなテクニックが効果的であるが、従来のCMOS撮像素子ではなかなか難しかった。ただそれは半導体チップの同じ平面上で処理しようとするからで、積層型にして別のチップに信号を読み出すようにすれば突破口が開ける。

図6:ローリング歪やシンクロ同調速度の問題は、CMOS撮像素子の読み出し速度を高速化すれば軽減される。その一つの方策としてマルチチャンネル読み出しがある。各画素の値を読み出す道筋を複数設けて、同時に複数のラインを読み出して行くのだ。この図は3ラインを同時に読み出す例だが、図からわかる通り実効的に読み出し速度を3倍にしたと同じ効果が得られ、問題点の軽減が可能となる。このマルチチャンネル読み出しは、CMOS撮像素子を積層型にすることによって実現が容易になった。

これは筆者が集めた情報に基づく推測だが、ソニーのα9シリーズやα1は、このようなマルチチャンネル読み出しでローリング歪を抑制し、さらにα1では1/200秒までのシンクロ速度を撮像素子シャッターで実現しているのだろう。公式情報でこそないものの、ほぼ間違いないはずだ。この積層型のフルサイズCMOS撮像素子はこれまでソニーの独壇場であったのだが、今年(2021年)になって開発発表があったニコン Z 9やキヤノンEOS R3も積層型のフルサイズCMOSセンサーを採用すると明らかになっている。それらの機種で撮像素子シャッターのローリング歪抑制やシンクロ同調速度がどこまで進化しているか、楽しみである。

写真3:キヤノンEOS R3。ソニーに続いてニコンやキヤノンも積層型CMOS撮像素子を用いたカメラの開発発表をしている。ローリング歪やシンクロ同調速度の問題がこれらのカメラでどの程度改良されているか、興味深いものがある。
豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。