赤城耕一の「アカギカメラ」

第93回:令和のいま新たに登場した110カメラ、ロモグラフィー「LOMOMATIC 110」を使う

ロモグラフィーさんには、廉価なフィルムを供給していただいていることから筆者も平素から大変お世話になっております。

ただ、「ロモのカメラ」を使っているかといえば、種類はそれなりにありながらも、いずれもどこかトイカメラ的な雰囲気が漂っており、若者のカメラという印象が強いですね。したがって還暦過ぎのアタマが硬直したジジイが使うには躊躇してしまうわけです。いかんなあトシ食っても周りの目を気にするのは。

ただですね、今回ご紹介するLOMOMATIC 110は違いました。

新開発の110カメラ、昔ふうにいえばポケットカメラだったからであります。横長のスライド式というところにぐらっとたわけです。単純ですね。

それにしても、すでに国内カメラメーカーが撤退した110カメラを新たに開発するとはなんとチャレンジャーなのかと筆者はその心意気に感激したわけです。でもロモは110フィルムを発売しているのですから現行の110カメラを用意するのは当然という考え方もあるでしょう。

本連載でも以前取り上げたことがあるのですが、ペンタックス オート110とかキヤノン110EDは気まぐれとはいえ、現在も時々使用していましたので、2024年に新登場する110カメラには強い期待を抱いたのであります。

LOMOMATIC 110はプラスチックボディのGolden Gate Edition(着脱フラッシュ同梱となしを選択可能)、アルミ製ボディのClassic Edition(着脱式フラッシュ同梱)。の3種のキットがあります。

今回試用したのはClassic Editionです。

届いた化粧箱をみて、まずはその派手さ加減に少し驚きました。箱を開いたところ、カメラが見えません。LOMOMATICで撮影したと思われる作例写真冊子とポスターが同梱されております。

LOMOMATIC 110の化粧箱です。なかなか派手なデザインですから、どうも年寄りは落ちつかない感じがします。でも購入した時から楽しみが溢れてくる感じがします
箱を開けるとカメラ本体、着脱式フラッシュ、ストラップ、フラッシュ用フィルター、サンプル写真の冊子、ポスター、マニュアルが同梱されています

これらを取り出すとやっとカメラと対面できますが、取り説が見当たりません。
どこだどこだと探したところ、小さな紙片が冊子からひらひらと落ちました。これにMANUALと書いてあります。これを開くとQRコードとダウンロード用のURLが印刷されていて、いずれも、ここからサイトに飛んで、取り説を読めということのようです。

横型の110カメラは使用経験がありますし、ほとんどその操作は似たり寄ったりだと思いますので、取説見なくても使用方法はおおむねわかるのですが、万が一の誤操作で壊してしまうとマズいですから、ここは素直に従いました。ただね、こちらは年寄りですから、スマホやPCがないと取り説も読めないのだという事実に、少しイラっとしました。

昨今では取り説はWeb任せというメーカーも多いし、正直言って、筆者は取り説が厚いだけで読むのを断念したりしまいますので、本来はこれでいいのですが、一応、グチの一つもこぼさないと連載が面白くならないじゃないですか。

本体の質感はステンレス製ですが、特別に高級な雰囲気は感じられません。光沢が強いこともあります。けれど、手に触れても冷たいし、気持ちが覚醒する感があります。このあたりはさすがステンレスですね。

価格からみても、細かい造り込みや質感を云々するカメラではないとはいえ、選択するなら、筆者はこのClassic Editionの方がいいと思います。ただ、ボディには少々厚みがあるので、ポケットカメラという印象からは、少し外れますね。

バッテリーはCR2を1つ入れます。最初はアクセス方法に戸惑いましたが、右脇のカバーを強くスライドさせて外して、CR2を挿入します。

バッテリーはCR2(別売)を1個使います。最近はコンビニでも見かけなくなりましたから予備は買っておいた方がいいかもしれないですね

本体を両手で持ち、そのまま引っ張るようにスライドさせると電源が入り、シャッターボタンが出現します。そのまま5分放置しますとスリープモードになりますが、本体の操作で再び電源が入ります。

カメラ両端を押し込んでスライドを閉じた状態です。レンズ前にはバリアがかけられ、埃やキズから守ります
ボディ両端を持ってスライドさせるとレンズが現れます。撮影準備OKの状態です。ただ、このスライドした状態でロックされるわけではないので、撮影時にも気を抜けません

フィルムはカメラの裏蓋を開いて、カートリッジをポンするイメージです。そのまま蓋を閉め、背面のフィルムカウンターを見ながら本体を何度かスライドさせればフィルムが送られます。「1」の表示が出たら撮影準備完了になります。

背面です。左はファインダーアイピースです。歩ディの大きさに対して比較的大きな視野が確保されます。右の細長い窓がフィルムの裏面でカウンターが表示されます
裏蓋を開いてフィルムを装填して、数回スライドを動かすとフィルム裏面のカウンターが動きます。フィルム撮影枚数はすべて24枚です

シャッターボタン下には2つのボタンがあり、上がシャッターのB(バルブ)設定と下は使用フィルムのISO感度を設定するためのボタンになります。ISO感度設定は100/200/400の3種で下のボタンを押すと循環して設定感度脇のLEDが点灯表示されます。筆者は本体側から光を放つカメラはあまり好きではないのですが、これは我慢せねばならないのでしょうね。

スライドするとシャッターボタンとLED小さなボタンが現れます。設定したISO感度の数字が光るわけですね。個人的にはカメラ本体から光が放たれるのは苦手なんですけど、これはどうしようもないか

本機には露光補正機構がありませんから、ISO 200のフィルムを使用する場合は感度設定で±の露光補正に応用できそうですね。ちなみに本機には三脚のネジ穴がありません。だけどB露光ができるのは、これいかにと思ってしまいますが、多重露光などに応用せよということらしいです。年寄りにはこういうところがなかなか理解できませんが、頭を柔らかくして考える必要があるわけですね。

次に本体の下面に「NIGHT/DAY」というレバーがありますが、これを必要に応じて設定します。ちなみにNIGHTがF2.8、DAYがF5.6のようです。被写界深度のコントロールにも使えるでしょう。その下のMXレバーは多重露光用です。

NIGHTはf2.8 DAYはf5.6の絞りになります。併記しておいて貰えばいいのにね。MXは多重露光用のレバーです。使用すれば何度でも同じコマに露光を与えることができます
異なる種類が植えられた花壇を別々に撮影して多重露光してみました。年寄りが背伸びして格好をつけて撮影しました。誰でもこれくらいは撮れるという見本です
f5.6 AE/フラッシュ使用(2コマとも同じ設定)LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM

そして被写体までの距離を目測で見て、右にある撮影距離設定レバーを操作し、撮影距離を0.8 m、1.5m、 3m、無限遠の4種から選び設定します。いわゆるゾーンフォーカスタイプですね。

ゾーンフォーカス設定レバーです。0.8、1.5、3mにインフの4段階に設定できます。シャープな写真を得ようと考えるならマメに設定した方がいいでしょう

レンズの焦点距離からすれば、距離設定にさほど神経質にならなくても大丈夫そうですが、今回の試用では、きちんと切り替えを行った方が、高画質になりました。いや、当たり前ですよね。ただ期待ほどではないというコマもありましたけど。

横長ということもあり、ホールディングには注意が必要です。手ブレを誘発しそうですから、鮮鋭な写真を撮影するにはそれなりに神経を使う必要があると思います。

とても重要なのは、シャッターボタンが2段落ちに感じることがあることです。

半押しで小さく「カチッ」という音がした時に露光は行われ、2段目でシャッターチャージのピンが上がって、フィルム巻き上げが可能になるようです。それぞれわずかな動作音がしますが、いずれの音も喧騒の街中では聞こえないでしょう。シャッターボタンは奥まで押し込むことが大切です。

そしてフィルムカウンターの数字を見て、フィルム送りが正常かどうかを確認するのが本機の最も大きな注意点です。ただ、シャッターボタンの押しこみ方によっては手ブレの誘発を招くこともあるので、注意せねばなりません。

フラッシュは着脱式でボディの脇にネジ込んで仕様します。昔のコンタックスTとかオリンパスXAを思い出しますね。

専用フラッシュを装着しました。それなりに横長になりますが携行はさほど損なわれない印象なので、今回はフラッシュを使わずとも装着したままで多くの撮影を行いました
フラッシュの裏面です。DAYとNIGHTのアイコンがあります。カメラの設定に合わせて光量を変えるわけですね。スライド式です
フラッシュ前に入れる6種のカラーフィルターを同梱しています。この種のフラッシュ光を色づけた写真は個人的に苦手なので作例はありません。すみません。
フィルターはフラッシュ本体の脇にあるスリットから挿入します。よく考えられていますが、紛失注意ですね。パーマセルを貼っておくといいのでは
日中シンクロがうまくいかないかなあと試していたのですが、これは光りました。もう少し暗い方がよかったかなと
f5.6 AE/フラッシュ使用/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM

2段の光量切り替え式にてカメラ本体のNIGHTとDAYに合わせて設定するのが基本ですが、今回の試用では非発光になることもあり、発光と非発光がどのような仕組みで切り替えられるのかが少々謎なのです。

撮影結果はどうだったかですよね。まず、先に述べたシャッターボタンの独自の感触によって、被写体を撮り逃したり、肝心な瞬間を逃すということがありました。これは慣れるしかありません。

また、撮影したつもりが露光されていない、あるいは、コマ飛び(撮影をしていないのにスライドするとフィルムが送られてしまう)というような条件のコマが散見されました。これは試用した個体に少々問題あったのかもしれませんが、あまりとやかくいうのも野暮かと。昨今はフィルムがたいへん高価ですから、気にされる人も多いと思いますけれど。原因を究明するというよりも、ここぞという時はあらゆる角度で多めのカットを撮影しておいたほうが良さそうです。そのうちに改良されてゆくでしょう。

フィルムのフォーマットが13×17mm小さいこともあり、六切りクラスのサイズの大きさに引き伸ばすと、粒状性は若干悪くなりますが、デジタルにはない効果を感じることは間違いなくあると思います。それが写真の内容に合えばいいのですが。

フィルムはロモのブランドですが、中身はコダック製であり、いずれかの製品の転用であることは間違いなく、これはロモ自身が認めています。

LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILMです。ISO200 24EXです。他にモノクロフィルムもあり、変わった発色をするエフェクト系のフィルムもあります

110フィルムは価格的にも35mmフィルムよりコストパフォーマンスに優れます。カートリッジが独自の形です。このままカメラにポンと入れるだけです。MADE IN CHINA表記があります。フィルム現像を受付るカメラ店は、LOMOGRAPHYのHPに掲載されています。

光線状態や距離など、もう少し条件を変えて撮影してみないとはっきりと結論を出すことができませんが、LOMOMATIC 110はハマる時はハマり、外す時は思い切り外すカメラではないかと思います。

今回撮影した中では1番シャープネスがありますね。撮影距離3m。目測では2.5mと思ったのですが。そこそこ暗い場所で、シャッターも暖速になったのですが、ブレませんでした
f5.6 AE/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM

これはこれでいいのではないでしょうか。アサインメントで使うわけではありませんので。ただ、どのように写るのか、果たして写っているのか否かは、当たり前ですがフィルム現像しないと分かりません。

多くのユーザーはカラーネガフィルムを使用することが多くなると思いますが、カラーネガ特有のラチチュードの広さを利用することで、さらに多様な表現をすることができそうですから神経質に設定を確認する必要はないかもしれません。

おそらく本機のメインターゲットである若者たちはわざとピントを外したり、ブレた写真にしたりして楽しむことも多くなるのでしょうが、年寄りは硬直した考えを持っているので思い切りが悪く、なんだか踏み込めないものですから、本機でも、なるべく鮮鋭な写真を作ろうとしてしまいます。これがどうも良くないようですね。

もっとも、きっちり仕上がるカメラを使用し、かつ設定に工夫をしながらピンボケや多重露光やエフェクトを応用することではじめて「型破り」な写真になるわけです。

最初から写りが悪いカメラだと単なる「型無し」との写真となりかねません。だからLOMOMATIC 110はトイカメラを超えた立ち位置なのでしょう。

それにしても、筆者はM型ライカを目測で使用することも多く、目測設定撮影ではそれなりの自信があったのですが、今回はフォーカスを外しまくりで、自信を失いかけています。まだまだ目測の鍛錬が甘いのでしょう。それとも、日々ラクなミラーレス機で被写体認識を使用し、瞳AFでお気軽な撮影しているから、フォーカスの合わせ方を忘れてしまったのかもしれません。

お恥ずかしい。GWですから行方不明になるには、ちょうどいい機会かもしれません。皆さま良いGWをおすごしください。

さようなら。探さないでください。

粒状は粗いですが、フィルムっぽいですね。雲は思ったよりはっきり描写されています。1.5m設定でf5.6ですが少し後ピンのようです
f5.6 AE/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM
公園にある健康器具でしょうか。3m設定ですが、まずまずのシャープネスです。逆光気味ですが描写は悪くありません
f5.6 AE/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM
撮影距離は3mの設定のつもりでしたが、間違えて1.5mになっていたようです。泣きたいです。粗雑な桜という感じになり。色もうまく出ていませんが、これは黄砂の影響かも
f5.6 AE/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM
目測設定には自信があったのですが、今回はフォーカス外しまくり自信喪失です。後ピンですね。0.8mよりも近づいてしまったようです。パララックスの影響もあり。少し花の位置がヘンです。背景が明るかったので、ISO 100に設定しています
f2.8 AE/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM@@
ギラギラに反射したガラスを画面内に入れたらどうなるか試したのですが、ゴーストも出ずいたって普通の描写をしますね。コーティングが優れているのでしょうか
f5.6 AE/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER 110 POCKET FILM
撮影距離0.8mですが、これも思ったよりも近づいてしまったようです。ハイライトを殲滅するつもりでハイライトを焼き込んでもらいました
f5.6 AE/フラッシュ使用/LOMOGRAPHY COLOR NEGATIVE TIGER110 POCKET FILM
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。