赤城耕一の「アカギカメラ」
第93回:令和のいま新たに登場した110カメラ、ロモグラフィー「LOMOMATIC 110」を使う
2024年5月5日 07:00
ロモグラフィーさんには、廉価なフィルムを供給していただいていることから筆者も平素から大変お世話になっております。
ただ、「ロモのカメラ」を使っているかといえば、種類はそれなりにありながらも、いずれもどこかトイカメラ的な雰囲気が漂っており、若者のカメラという印象が強いですね。したがって還暦過ぎのアタマが硬直したジジイが使うには躊躇してしまうわけです。いかんなあトシ食っても周りの目を気にするのは。
ただですね、今回ご紹介するLOMOMATIC 110は違いました。
新開発の110カメラ、昔ふうにいえばポケットカメラだったからであります。横長のスライド式というところにぐらっとたわけです。単純ですね。
それにしても、すでに国内カメラメーカーが撤退した110カメラを新たに開発するとはなんとチャレンジャーなのかと筆者はその心意気に感激したわけです。でもロモは110フィルムを発売しているのですから現行の110カメラを用意するのは当然という考え方もあるでしょう。
本連載でも以前取り上げたことがあるのですが、ペンタックス オート110とかキヤノン110EDは気まぐれとはいえ、現在も時々使用していましたので、2024年に新登場する110カメラには強い期待を抱いたのであります。
LOMOMATIC 110はプラスチックボディのGolden Gate Edition(着脱フラッシュ同梱となしを選択可能)、アルミ製ボディのClassic Edition(着脱式フラッシュ同梱)。の3種のキットがあります。
今回試用したのはClassic Editionです。
届いた化粧箱をみて、まずはその派手さ加減に少し驚きました。箱を開いたところ、カメラが見えません。LOMOMATICで撮影したと思われる作例写真冊子とポスターが同梱されております。
これらを取り出すとやっとカメラと対面できますが、取り説が見当たりません。
どこだどこだと探したところ、小さな紙片が冊子からひらひらと落ちました。これにMANUALと書いてあります。これを開くとQRコードとダウンロード用のURLが印刷されていて、いずれも、ここからサイトに飛んで、取り説を読めということのようです。
横型の110カメラは使用経験がありますし、ほとんどその操作は似たり寄ったりだと思いますので、取説見なくても使用方法はおおむねわかるのですが、万が一の誤操作で壊してしまうとマズいですから、ここは素直に従いました。ただね、こちらは年寄りですから、スマホやPCがないと取り説も読めないのだという事実に、少しイラっとしました。
昨今では取り説はWeb任せというメーカーも多いし、正直言って、筆者は取り説が厚いだけで読むのを断念したりしまいますので、本来はこれでいいのですが、一応、グチの一つもこぼさないと連載が面白くならないじゃないですか。
本体の質感はステンレス製ですが、特別に高級な雰囲気は感じられません。光沢が強いこともあります。けれど、手に触れても冷たいし、気持ちが覚醒する感があります。このあたりはさすがステンレスですね。
価格からみても、細かい造り込みや質感を云々するカメラではないとはいえ、選択するなら、筆者はこのClassic Editionの方がいいと思います。ただ、ボディには少々厚みがあるので、ポケットカメラという印象からは、少し外れますね。
バッテリーはCR2を1つ入れます。最初はアクセス方法に戸惑いましたが、右脇のカバーを強くスライドさせて外して、CR2を挿入します。
本体を両手で持ち、そのまま引っ張るようにスライドさせると電源が入り、シャッターボタンが出現します。そのまま5分放置しますとスリープモードになりますが、本体の操作で再び電源が入ります。
フィルムはカメラの裏蓋を開いて、カートリッジをポンするイメージです。そのまま蓋を閉め、背面のフィルムカウンターを見ながら本体を何度かスライドさせればフィルムが送られます。「1」の表示が出たら撮影準備完了になります。
シャッターボタン下には2つのボタンがあり、上がシャッターのB(バルブ)設定と下は使用フィルムのISO感度を設定するためのボタンになります。ISO感度設定は100/200/400の3種で下のボタンを押すと循環して設定感度脇のLEDが点灯表示されます。筆者は本体側から光を放つカメラはあまり好きではないのですが、これは我慢せねばならないのでしょうね。
本機には露光補正機構がありませんから、ISO 200のフィルムを使用する場合は感度設定で±の露光補正に応用できそうですね。ちなみに本機には三脚のネジ穴がありません。だけどB露光ができるのは、これいかにと思ってしまいますが、多重露光などに応用せよということらしいです。年寄りにはこういうところがなかなか理解できませんが、頭を柔らかくして考える必要があるわけですね。
次に本体の下面に「NIGHT/DAY」というレバーがありますが、これを必要に応じて設定します。ちなみにNIGHTがF2.8、DAYがF5.6のようです。被写界深度のコントロールにも使えるでしょう。その下のMXレバーは多重露光用です。
そして被写体までの距離を目測で見て、右にある撮影距離設定レバーを操作し、撮影距離を0.8 m、1.5m、 3m、無限遠の4種から選び設定します。いわゆるゾーンフォーカスタイプですね。
レンズの焦点距離からすれば、距離設定にさほど神経質にならなくても大丈夫そうですが、今回の試用では、きちんと切り替えを行った方が、高画質になりました。いや、当たり前ですよね。ただ期待ほどではないというコマもありましたけど。
横長ということもあり、ホールディングには注意が必要です。手ブレを誘発しそうですから、鮮鋭な写真を撮影するにはそれなりに神経を使う必要があると思います。
とても重要なのは、シャッターボタンが2段落ちに感じることがあることです。
半押しで小さく「カチッ」という音がした時に露光は行われ、2段目でシャッターチャージのピンが上がって、フィルム巻き上げが可能になるようです。それぞれわずかな動作音がしますが、いずれの音も喧騒の街中では聞こえないでしょう。シャッターボタンは奥まで押し込むことが大切です。
そしてフィルムカウンターの数字を見て、フィルム送りが正常かどうかを確認するのが本機の最も大きな注意点です。ただ、シャッターボタンの押しこみ方によっては手ブレの誘発を招くこともあるので、注意せねばなりません。
フラッシュは着脱式でボディの脇にネジ込んで仕様します。昔のコンタックスTとかオリンパスXAを思い出しますね。
2段の光量切り替え式にてカメラ本体のNIGHTとDAYに合わせて設定するのが基本ですが、今回の試用では非発光になることもあり、発光と非発光がどのような仕組みで切り替えられるのかが少々謎なのです。
撮影結果はどうだったかですよね。まず、先に述べたシャッターボタンの独自の感触によって、被写体を撮り逃したり、肝心な瞬間を逃すということがありました。これは慣れるしかありません。
また、撮影したつもりが露光されていない、あるいは、コマ飛び(撮影をしていないのにスライドするとフィルムが送られてしまう)というような条件のコマが散見されました。これは試用した個体に少々問題あったのかもしれませんが、あまりとやかくいうのも野暮かと。昨今はフィルムがたいへん高価ですから、気にされる人も多いと思いますけれど。原因を究明するというよりも、ここぞという時はあらゆる角度で多めのカットを撮影しておいたほうが良さそうです。そのうちに改良されてゆくでしょう。
フィルムのフォーマットが13×17mm小さいこともあり、六切りクラスのサイズの大きさに引き伸ばすと、粒状性は若干悪くなりますが、デジタルにはない効果を感じることは間違いなくあると思います。それが写真の内容に合えばいいのですが。
フィルムはロモのブランドですが、中身はコダック製であり、いずれかの製品の転用であることは間違いなく、これはロモ自身が認めています。
110フィルムは価格的にも35mmフィルムよりコストパフォーマンスに優れます。カートリッジが独自の形です。このままカメラにポンと入れるだけです。MADE IN CHINA表記があります。フィルム現像を受付るカメラ店は、LOMOGRAPHYのHPに掲載されています。
光線状態や距離など、もう少し条件を変えて撮影してみないとはっきりと結論を出すことができませんが、LOMOMATIC 110はハマる時はハマり、外す時は思い切り外すカメラではないかと思います。
これはこれでいいのではないでしょうか。アサインメントで使うわけではありませんので。ただ、どのように写るのか、果たして写っているのか否かは、当たり前ですがフィルム現像しないと分かりません。
多くのユーザーはカラーネガフィルムを使用することが多くなると思いますが、カラーネガ特有のラチチュードの広さを利用することで、さらに多様な表現をすることができそうですから神経質に設定を確認する必要はないかもしれません。
おそらく本機のメインターゲットである若者たちはわざとピントを外したり、ブレた写真にしたりして楽しむことも多くなるのでしょうが、年寄りは硬直した考えを持っているので思い切りが悪く、なんだか踏み込めないものですから、本機でも、なるべく鮮鋭な写真を作ろうとしてしまいます。これがどうも良くないようですね。
もっとも、きっちり仕上がるカメラを使用し、かつ設定に工夫をしながらピンボケや多重露光やエフェクトを応用することではじめて「型破り」な写真になるわけです。
最初から写りが悪いカメラだと単なる「型無し」との写真となりかねません。だからLOMOMATIC 110はトイカメラを超えた立ち位置なのでしょう。
それにしても、筆者はM型ライカを目測で使用することも多く、目測設定撮影ではそれなりの自信があったのですが、今回はフォーカスを外しまくりで、自信を失いかけています。まだまだ目測の鍛錬が甘いのでしょう。それとも、日々ラクなミラーレス機で被写体認識を使用し、瞳AFでお気軽な撮影しているから、フォーカスの合わせ方を忘れてしまったのかもしれません。
お恥ずかしい。GWですから行方不明になるには、ちょうどいい機会かもしれません。皆さま良いGWをおすごしください。
さようなら。探さないでください。