赤城耕一の「アカギカメラ」

第64回:さて、LUMIX S5IIに買い換えるべきか?

若い頃、筆者は週刊誌のグラビアやグラフ誌などの仕事をしていた経験もあり、撮影対象は多種多様、現場で悩み、苦労し、鍛えられました。良い経験にはなりました。けれど時間を経るにしたがい、次第に得手不得手の分野が出てきます。中でも苦労したものに動体の撮影があります。

スポーツ撮影はAFもない時代に高速で動く被写体を捕捉、超望遠レンズをMFでフォーカシングし、チャンスを捉え、フィルムもタイミングを見計らってチェンジするという複数のタスクをこなさねばならず、これは専門のカメラマンでないと難しいものです。

現在のようにほぼ全てのカメラがミラーレスで、高速のAFに加えて被写体認識を使い、無限とも言える枚数を撮ることができれば、もうサルでも撮れるのではないかと思うこともあり、カメラの発展は、職業カメラマンを失業者に導く危険があります。けれどね余計なことですが、スポーツの最低限のルールくらいは知らないと、どんなにカメラが優れていても痛い目に遭いますぜ。

と、冒頭から関係ない話を長々としていますが、今回取り上げるLUMIX S5IIをいじくりまわし、AFの動作を確かめ進化を噛みしめながら、昔のことを思い出してしまいました。筆者は発売当初からのLUMIX S5使いですから気になっていた機種なわけです。

それでは具体的に新搭載のLUMIX S5IIの像面位相差AFってどうなんでしょうということで、今回は思いつくままにご近所周辺にレンズを向けてみました。あ、これはいつものことです。

ダブルレンズキットに含まれる50mm F1.8(単品税込5.9万円前後)なんですが、スペックは超平凡でもすっごく良く写りますね。
LUMIX S5II/LUMIX S 50mm F1.8/絞り優先オート(F2・1/100秒)/ISO800
古着屋さんの店頭ですね。黙っていても、カメラはマネキンの首にフォーカスしました。合焦点は素晴らしい再現。ボケは少し重たいかなあという程度でしょうか。
LUMIX S5II/LUMIX S 50mm F1.8/絞り優先AE(F2・1/2,500秒)/ISO400

S5IIの優秀なAFは期待大ですが、発売以来使用してきたS5と比較してどう印象が違うのか知りたかったのです。例のごとく厳しく動体撮影をして追い込むというよりも、近所の咲き始めた梅の花とか板塀とかを撮っておりました。こういうどうでも良いものであっても、どれもこれも良い感じにフォーカスされるわけです。困りますね。詳しいテストはそのうち優秀なレビューワーさんが行ってくれるでしょう。

もう結論を申し上げてしまえば動作は快適、AF精度は優秀であり、LUMIX S5IIがあれば、動体撮影や厳しい撮影条件下でも安心して撮れるのであろうと期待を持つことができます。やはり欲しくなってきましたぜLUMIX S5II。

周囲は暗く、提灯は明るいという条件。普通に意識せずにレンズ向けても、スッとフォーカスが動いて素早く合焦します。
LUMIX S5II/LUMIX S 50mm F1.8/絞り優先オート(F2.2・1/640秒)/ISO800
はい、お約束のお地蔵さんも参りました。これも自動選択のAFと顔認識で狙ったとこにピンポイントでフォーカシングされました。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(70mm・F2.8・1/4,000秒)/ISO100

これまでは動体を撮影する必要がありそうな撮影が依頼された場合は、S5を持ち出すことはなく、他のカメラメーカーの機種に手が伸びました。これは精度の問題ではなくて、動体撮影時にS5のAFの動作が筆者の感覚と少し異なり、違和感があったからです。

けれどLUMIX S5IIは他のメーカーの像面位相差AF搭載のカメラと比べても違和感なく使えます。厳しく突き詰めてみればメーカーごとにAF性能とかクセの違いは出てくるでしょうから、現時点では筆者のユルい小商い撮影に使うという条件はつきますけれど。

それにしてもこれまでのパナソニックは頑なでした。像面位相差AFだと画質優先にならないとして、コントラストAFにこだわってきましたから。かなり前、LUMIXの開発エンジニアさんにインタビューしたことがありますが、このエンジニアさんはこちらの目をじっと見て、像面位相差AFなんかなくても平気さ、と真顔で話されておりました。怖いです。それに画質評価を担当する人がものすごく厳しかったのでしょうか。

像面位相差AFはセンサーの一部の素子を利用して測距するわけですから、写真に穴ぼこがあるんじゃねえのかと、つい画像に穴がないかと探してしまいます(笑)が、もちろんそんなことはありません。穴ぼこどころか、画質低下とか違和感を感じたこともなく指摘されたこともありません。あたりまえです。今回は何か思想心情の変化がありパナソニックを、いやLUMIX開発陣を像面位相差AF搭載へと動かしたのでしょうか。興味深いですね。

鉄分ゼロの筆者ですが、久しぶりに電車撮りました。AFは自動選択でシャッターを押し続けただけ。無理に測距エリアを選ばずともフォーカスには問題がなく、S5IIが勝手に撮影した感じです。メカシャッターを使いましたから歪んでません。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(58mm・F4・1/6,400秒)/ISO400
電子シャッターで撮影しました。電車の前面下が少し膨らんだ感じはしますが、この程度のローリングシャッター歪みなら作者は見過ごすかなあ。そうでもないな。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(70mm・F4・1/6,400秒)/ISO400

フォーカスのエラーが少ないことは先に述べました。筆者はAF関連の動作に強い関心はないんですが、AFスピードが高速って印象より、ファインダーに目を当て、AFボタンなりシャッターボタン半押しでAFを動作させると、肉眼で被写体を見つめてゆく感覚に近いようなイメージで違和感なくスーッとフォーカスが合焦してゆきます。これね、スピードだけの問題ではないのです。

この感覚は動画撮影時にAFを使用する場合に違和感を感じさせない大きなメリットだと思います。もっとも本気で動画を撮るプロはスペックがどうであろうが即刻MFに切り替えてお使いになるのかもしれませんが、予算がなくて助手なしで単独で動画撮影せにゃならんぜ、とかいう場合などは間違いなく重宝すると思います。

あとね誤解されるといけないので付け加えておきますが、これまでのS5のAFが悪いわけではありませんよ。撮影環境や暗い場所、モチーフによっては「少しまったりしてないかキミは」くらいの動作感覚があったことは否めません。コントラストAFの宿命でしょうか。これは筆者がカメラ浮気症のため、あれこれのカメラを使うからこそ初めて感じることかもしれません。

前機種LUMIX S5導入のきっかけはデザインが好きということも大きかったですね。アサインメントではマイクロフォーサーズのLUMIX G9 PROを使うことも多く、35mmフルサイズの必然はないのですが、カメラ全体のバランスが良いこと、Lマウントのシグマ「Iシリーズ」レンズが軽量で使いやすいこともありまして、導入をしてみました。

意地悪をして明暗差がそこそこにある条件で撮影してみました。カメラがどう解釈してくるか見ものでした。でもシャドーも潰すことなくうまく再現するわけです。
LUMIX S5II/35mm F2 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(F8・1/1,000秒)/ISO400

上位機となるS5IIは、S5と大きくデザインを変えなかったことも、個人的には高い評価の対象であります。気に入ったカメラは「簡単にデザインを変えないでね」と常に言っています。

気に入らないカメラだと「なんだよ今度もまた同じデザインかよ、ったく、金型をケチったんじゃねえのか?あ?」と仲間内の酒席で悪態をつきます。性格の悪い筆者です。

ただですねS5IIのボディ頭頂部の両脇には、町中華の店の脇にあるダクトみたいな穴が新しく開きました。これは本格動画撮影時の放熱のため、つまりは内部を風通し良くすることが必要だからでしょう。正直美しくはありません。穴がデカくてホコリ入らねえのか的な疑問を持ちました。きっと大丈夫なんでしょうけど。常にカメラは綺麗にしておけということかもしれません。木村伊兵衛も撮影から帰ったらカメラ磨いてましたからね。あ、あれはライカだからか。S5IIでももちろん綺麗にしてもいいと思います。

登頂部両脇にあるダクトじゃない、放熱に利用される穴ですね。内部に冷却ファンがあります。見つめなければ気になりませんよ。たぶん。

あと外観を比較してみるとS5の方が少し「小顔」に見えますね。容姿にコンプレックスがある筆者としては、よくよく見るとデザインに限ってはS5推しになります。

アニキのS5と並べてみます。そう大きな印象の違いはないですが、アニキの方がまとまりがいい感じしないですか? 気のせいかな。

筆者の撮影方法だとS5で十分間に合っていた、どころか、それすら機能を持て余していたというのが本音です。S5はS5IIが出ても引き続き手頃なモデルとして売られるようなのでオススメできます。なんて言うとパナソニックの人に怒られるかしら。

ならばさ、今回の記事の意味がねえじゃんと、がっかりしないでくださいまし。なんかね、S5とS5IIはデザインも基本機能も似ているのにすごく違う印象なんですよ。

ものすごく説明しづらいんですが、実際に手に取り使用すると、大げさなようですがS5IIは五感に響く、訴えてくるところが違うような気がします。こういう感覚は大事にしたいです。もうね、人生の4/5くらいの時間をカメラと戯れていると微妙な違いがわかるんです。言葉で説明のつかない印象を持つことができる機種は道具的に優れていることが多いのです。本当です。

あと、個人的に注目したのはカメラの体積と重量はそれなりにあると言えばあるんだけど、グリップ感が向上したためか、手の大きくない私でも疲労が少ない感じがすることです。これね、小型軽量がウリのカメラでも、グリップ感が悪いと、手が疲れるしモチベーション落ちます。

ファインダーを覗きますと、違いは筆者にはよくわからないんですが、S5よりも心地よい気がします。これがメンタルに良い影響を及ぼし、写真が上手くなるんじゃないかと。ええ、もちろん気のせいですけどね。

AFエリアはLCDのタッチに加えて、ファインダー覗きながらだと後ろのジョイステックを操作することも多くなると思います。でも、この感じがS5よりすこぶる良くてねえ、親指の腹が喜ぶのがわかります。なんで最初からこういうふうにしてくれなかったのかなあ。

背面のジョイステックですが、面積が少し大きくなり動作感触も向上しています。積極的に使いたくなりますね。

ボタン類の感触はS5と同等ですが、仕上がりは良質だぜ、くらいの感想は間違いなく言えます。いや同じでも贔屓したくなるのです。作り慣れたのかもしれないですね。

読者のみなさんが大好きなコマ速度はどうでしょうか。筆者はまったく興味ないけど最高9コマ/秒だそうです。これでは足りないのかな。あ、電子シャッターですと30コマ/秒です。この時のローリングシャッター歪みは軽微ではありますが認められます。

連続撮影した時のメカシャッターの動作音は、筆者の価値観だとちょっと安っぽい感じがします。昔の機織り機みたいな。いや嘘です。聞いたことないけどパタパタしますね。筆者は滅多なことでは高速連写をしないこともあるのですが、使ううちに動作音は気にならなくなりました。許容範囲です。それに、何しろ、電子シャッターオンリーのカメラみたいな、なんちゃってシャッター音ではありません。メカシャッターであります。本当に存在する金属幕を物理的に開け閉めしとります。これはリスペクトしたいところです。

ミラーレス機にメカシャッターなんかイラネとされる風潮の中です。今後もメカシャッターはなくなる方向に行くのは間違いないでしょう。でもね、動画撮影に手厚いS5IIでもメカシャッターを搭載しているのは趣味のカメラとしては評価対象です。個々の価値観の違いかもしれませんが、スピードライト撮影でも年寄りにはわかりやすいですしね。

地面は黒く建物は白いという再現性泣かせの状況ですが、デフォルト設定のままでこれならば大満足です。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(35mm・F8・1/1,000秒)/ISO400
日没寸前の夕景で、遠くの小屋のガラスが綺麗に光っていたのでサクッと撮影。シャドーから空の調子に至るまでの繋がりの良さですかね。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(67mm・F8・1/160秒)/ISO400
これも晴れの日の西に太陽が傾いてきた頃ですが、明暗差がそれなりにあっても、全体を落ち着かせてしまうところがいいですね。
LUMIX S5II/LUMIX S 50mm F1.8/絞り優先AE(F8・1/1,600秒)/ISO400

ボディ内手ブレ補正もS5と変わらず使えます。もう筆者は手ブレ補正がないと生きていけない体ですから搭載はマストです。S5よりもより効きがいいとかいう話も聞こえてきますが、本当なのでしょうか。低速シャッターに設定して確かめているわけではないのでわかりませんが、まあ、信じようじゃないですか。これも気持ち的にはゆとりをもたらします。

S5II、今回の設定価格はたいへん現実的です。S5を買い替えるかというと微妙な印象でしたが、筆者の場合は買い増しかなあという気になっております。

「II」だけ赤色で強調してきましたかあ。仲良しのライカのエンブレムみたいで筆者は好みではないんだけどなー。
S5はストラップを三角環で取り付けてましたが、S5IIはプレートの長穴に通す方式ですね。前者の方が高級感はあるはずですが、そんなに騒ぐほどのことはありません。

これまでのアサインメントではS5とSIGMA fpのコンビで出撃することもありましたが、さすがにこれだと心もとないこともありまして。UIが近いカメラなら台数を増やすための説得力が増してまいります。もしかすると今回の戦略はそこなのか?という気がしてきましたがどうなのでしょう。あ、でも買い替えをしたとしても、これだけデザインが似ていると、家庭内騒動は回避できます。よほどヘタ打たない限り、バレることはありません(妻でテスト済み)。

S5導入以降はシグマのLマウントレンズが増殖しました。それも筆者の場合は単焦点レンズを使うことが多いので戦略には見事に引っ掛かっております。Lマウントアライアンスだしこれは仕方ないと諦めもつきます。本当にお金持ちなら、ドイツのあのレンズもこのレンズも試したいところですけど非現実的になってしまいます。

階調のつながりを見たかったので撮影したのですが、ハイライトの再現性とか嬉しくなりますねえ。このあたりにフルサイズの余裕を感じます。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/マニュアル(28mm・F10・1/1,000秒)/ISO400
ローキーでの再現はどうかということでヤレた家の外壁を撮影。もうギンギンな再現性ですね。さすがとしか言いようもなく。
LUMIX S5II/28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/絞り優先AE(51mm・F9・1/1,000秒)/ISO400

S5II登場で、ハイエンドのS1系にも像面位相差AFが採用されるのは当然の方向でありましょう。それよりも筆者はGシリーズのG9 PROとかGH6のAFを像面位相差にしてくれよという希望があります。

さらにUIをS5IIに近づけてくれれば、フルサイズのSシリーズとマイクロフォーサーズGシリーズの使い分けが違和感なくイケると思うのですが、さてどうなりますでしょうか。

斜光線の条件ですが、絞り込むとギンギンですね。こんなにコントラスト高くシャープじゃなくていいんですけどね。素晴らしいんだけど。
LUMIX S5II/LUMIX S 50mm F1.8/絞り優先オート(F11・1/400秒)/ISO400
パンフォーカス描写ですね。とにかく遠景まで線が細い描写をする印象です。高画素機で撮影したと言っても騙せるんじゃないですかね。
LUMIX S5II/LUMIX S 50mm F1.8/絞り優先オート(F11・1/640秒)/ISO400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)