赤城耕一の「アカギカメラ」

第53回:最新で優秀なキヤノンの“7”をお迎え

EOS R7+RF16mm F2.8 STM

先日のことです。久しぶりにEOS R5とEOS Rを携行してアサインメントでロケ撮影をしました。

35mmフルサイズのカメラを使用する必然はなかろうと踏んでいた撮影でしたが、お相手は大物タレントさんで、予定が変動する、撮影場所が変わるかもしれない、撮影時間が短いなどと脅かされたので、フレキシブルな対応ができるようにこの二機種を選びました。

結論をいえば、お仕事はまったく滞りなく終了したのですが、EOS Rくんの操作性に関して、不満が生じてしまいました。

もっとも、異なるカメラを同時使用して戸惑うのは、カメラ操作の練習が足りないなど、私の不徳の致すところでもありますが、それでもEOS Rくんの背面のなんちゃらバー(編注:マルチファンクションバー)は今回もうまく反応しなかったし、こちらの意思とは関係なく勝手にISO感度の設定は変わるし、短時間で撮影せねばならない現場で、二台のカメラのインターフェースが異なると、わじわじしてしまうわけです。

少し前なら設定の間違いを防ぐため、あるいはバックアップのために同一機種を複数台購入して対応するなど、ごく当たり前のことでしたが、昨今の筆者の経済状況では、EOS R5をさらに追加導入するのは厳しいし、どうせ小商い撮影しかないのですから、画素でお腹がはち切れそうなカメラはこれ以上は不要です。

筆者は35mmフルサイズのフォーマットに固執もしてはいません。そこで目をつけたのがEOS R7でした。キヤノンAPS-CフォーマットのEOSミラーレス機にはEOS Mシリーズが既に存在しておりますし、筆者は初代のEOS Mから愛用しておりました。EOS Mシリーズも悪くはないんですが、代表機であるEOS Kiss Mシリーズ以外は少し寂しいものがありますし、将来的な発展性と展開を考えると不安になりますね。やはり最新のEOS RシステムであるところのEOS R7を選択するのが得策に思えてきたのです。

緻密な描写が必要なこうした風景でも良い感じで描写します。画素数云々より階調のつながりの良さに筆者は感動します。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F11・1/1,000秒)ISO 400
拙宅前が道路工事中で、日々様子が変わるので記録しているんですが、トップ気味の光でも再現性良しです。土のディテールと、青空も同時に再現しますね。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F11・1/1,000秒)ISO 200

EOS R7の画素数は約3,250万。これは新開発のAPS-CサイズCMOSセンサーで、映像エンジン「DIGIC X」との組み合わせにより、電子シャッターで最高約30コマ/秒のAE/AF追従撮影が可能ということです。すげー。

メカシャッター撮影時はEOS Rシリーズ最速の最高約15コマ/秒&最高シャッター速度1/8,000秒と、これもスーパースペックでございますね。筆者には使いこなせそうもないので、同時に出てきたEOS R10でも良かったんですよ、本当は。デザインもいいし、可愛いし。そういえば過去にはAPS-C一眼レフのEOS Kiss X7を2台だけ持って単独ロケに行ったこともありますが、結果はまったく問題ありませんでした。

ただね、EOS R7にはボディ内手ブレ補正機構が搭載されております。レンズISとの協調制御で最大約8.0段分の補正効果を達成したそうで、筆者としては小型軽量と共に、ここに一番の魅力を感じてしまったのです。ええ、筆者は三脚嫌いなんですよ。それにSDダブルスロットは採用されていますし、安心感もひとしおなわけです。

ガラスの飾りに良い感じで光が当たっていたので最短撮影距離で撮影しました。よく写りますね。手持ちなんですがブレてないのはカメラの手ブレ補正が素晴らしいのでしょうか。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F2.8・1/80秒)ISO 400
これも最短撮影距離です。カメラ内の画像処理で画質的には整えているとは思うんですが、アサインメントに使うカメラの場合、とにかくよく写ればなんでもいいんですよね。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F8・1/500秒)ISO 400

“7”というのは1や5と並んで、キヤノンEOSの象徴的な数字ですし、筆者は過去EOS 7Dを使用していましたし、今なおフィルム一眼レフのEOS 7sを現役使用しているので、この数字には親近感が湧きます。あ、そうだ現役といえばキヤノン7とか7Sも使用しています。これらはレンジファインダーカメラですよ。

そんな“7”の最新モデルという扱いならば、これはうちにお越しいただくしかないのではということでお迎えすることにいたしました。ええ、すべてカメラを導入するための苦しい言い訳ですね、自分でも説得力があると思います。

EOS R7の代わりにEOS Rくんは旅立って行きました。このまま私のところにいたのでは蔑まれ、不幸になるばかり。今ごろ、どこか遠くの地で35mmフルサイズ信者、じゃなかった、真摯な写真表現者の元で大活躍しているに違いありません。まずはめでたしめでたしです。

さて、到着したEOS R7ですが、まずはいろいろといじくることにしました。サイズは超小型とは申しません、むしろ少しデカい感じもしますが、実用的には非常に使いやすいサイズですね。

大きな声ではいえませんが、グリップ感はEOS R5よりも握りやすく、とても良かったりします。EOS R5にグリップだけ移植できませんかね。できませんね。

さらにグリップ感がとてもいいですね。筆者は手があまり大きくないので、長焦点レンズをミラーレス機に装着した時にあまりにバランスが崩れるとイヤなんですよね。

ただ、外装表面の質感は正直に申し上げますと残念感が漂いますね。まあ、ライカみたいにセーム革で指紋を拭き取るなんてことはしないのですからこれでいいです。諦めます。それに、矛盾するようですがボディを握りしめていると、意外と言っては失礼ですけれど凝縮感というか剛性感が、そこそこ満足できるレベルなのです。

背面のグリグリ(マルチコントローラー)をサブ電子ダイヤルの中央に入れてしまうという、なかなか素晴らしいレイアウトにおおっと思いました。これね、最初は「大丈夫なのかよお前は、こんなところにあって」みたいな感じはありました。やはり位置的な問題です。だってサブ電子ダイヤルって、カメラの自動化で失業した右手の親指を生かすために考案されたものと言われましたから。だからもっと下方の十字キーの位置にあってもおかしくはないのです。過去にはサブ電子ダイヤルの中に十字キーが存在していたカメラもありますし。

しかしボディサイズが小型なので、筆者の短い親指でもサブ電子ダイヤルに届くんですよね。筆者は露出補正をわりと頻繁に操作するので、意識して設定することができていいかもしれないと考えました。誤操作を防げるメリットがあるのではないかと。クリック感はまずまずですが、トルクはもう少し重くても大丈夫そうです。

ボディ背面のサブ電子ダイヤルと、センターのグリグリですね。こんな高いところにあって、当初はこれで役立つのか? あ? と思ったのですが、まるで問題はなく使えました。素晴らしいです。

EVFは236万ドットですが、筆者には十分でした。ただ、なんせ年寄りの老眼なんで、視度補正の効きがよくわからずに難儀しました。一眼レフのOVFと比較してどうよという話も常に出てくるのですが、もうあまり関係ないというか、鮮鋭さとか遅延表示とか、OVFと比較するには無理があるほど、現在のEVFは高性能のレベルになっています。もちろんこれはあくまでも個人の感想ですけど。

AFの挙動も不満はありませんでした。手元のEOS R5と並べて同じ条件で動作させましたが、違いはわかりません。被写体認識なんて、人物がそっぽ向いていても機能します。そんなに律儀にやっていただかなくてもいいのに、というくらいです。AFエリアを自動選択にして測距させると、被写体の形状に沿って、AFエリアが張り付いたみたいに見えることもあります。「私はここをしっかりと見つめていますから、はいどうぞシャッターをお切りください」と言われているような気になります。筆者は素直ですから、「そうですか、では遠慮なく」と言ってシャッターを切ります。これで大体はバッチリです。

もちろんミラーレスEOS最上位機のEOS R3とAFと比較すれば劣る部分もあるのかもしれませんが、個人的には動体捕捉とかあまり必要ないということもあるからかなあ、完全に評価できずにすみませんが、ま、自分のカメラですからね、頼まれたレビューでもないので、こんなところで勘弁してください。

石材屋さん。お地蔵さんに顔認識AFするかなーとレンズを向けたら、当然だろとばかり顔にフォーカスを合わせに行きます。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F13・1/1,250秒)ISO 500
街を歩いてたら、ウクライナの国旗みたいな制服を着ているおじさんに出会い反射的にシャッターを切りました。後で確認すると被写体検出機能は人間だと認識。おじさんの後頭部に合焦しています。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F11・1/1,000秒)ISO 400
AF/MFの切り替えレバーがボディ前面の右手側にあり、MF時にはライブビュー画面に距離スケールが現れます。距離の表示は粗いですが、どこかの機種のように“至近は花、インフは山だけ”という簡略表示よりはマシです。さらに測距フレームの上に三角形の3点の分離した白色の指標が現れ、フォーカスリングの回転と連動して指標が動きます。指標の合致が合焦のサインで、同時に白から緑色に変わります。また測距フレームも緑色に変わります。EOS R5も同様の方式を採用していますが、わかりやすいフォーカスエイドです。

筆者は古い人間ですから、まだメカシャッターが好きです。多少の振動があっても、動作音がしても、ストロボ撮影など実用上のために必要だという問題だけではなく、ホンモノのシャッター動作音という意味においてカメラらしいと感じているからです。

消音したい時には電子シャッターに切り替えればいいので、今後のEOSもメカと電子の「ハイブリッド」にしておいて問題ないと思うのですがどうなんでしょうか。やはりコストを下げるとか、ボディをさらに小さくするために、メカシャッターは不要になるんでしょうか。でもね、電子シャッターだけのカメラにも無用と思えるほどデカい機種もありますけどね、あれってなんでなんだろう。

本機は先に申しましたとおりEOS Rシリーズ最速の最高約15コマ/秒というのがウリらしいですが、もちろん高速連写撮影をしない筆者には完全なるオーバースペックです。正直にいえば、メカシャッター撮影時のパコパコと聞こえるシャッター音にはもう少し高級感が欲しかったところです。そこまで気を配るのは難しかったんでしょうか。やはりその音を聞くのがイヤなら電子シャッターをお使いくださいということなんでしょうか。

APS-Cミラーレス機がボディ単体で実売約20万円コースって、海外の方にはお安いのかもしれませんが、筆者のようなうだつの上がらない年寄りの底辺カメラマンにとっては十分に高級機価格なので、もう少し動作音にも気を配って欲しかったところですね。今後のカメラはこういう無駄な楽しみのためのスペックも必要になるかもしれませんよ。

明暗のコントラストの大きな条件だとどうなりますかねえ、と、いうことで撮影してみたのですが、しめ縄がイミテーションなのがバレるくらいよく写るわけです。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F13・1/1,250秒)ISO 500

さて、写りの具合はどんなものでしょうか。そんなのいいに決まってます、細かい評価はデキるレビューワーの記事をお読みいただくとして。筆者はRF-Sレンズ、いわゆるAPS-C専用のRFマウントレンズは購入しませんでした。というのはマウントに袴を履かせたみたいなデザインに「これ、EOS Mのために用意したレンズをRFマウントにしただけじゃねえの?」的な雰囲気が全体から漂っておりましたので見送ることにしました。本当は小さいレンズは大好きなんですけどね。

その代わりに今回同時に購入したのはRF16mm F2.8 STMです。いや正直言いますと、なんというか「このレンズがあるからEOS R7はイケるんじゃねえのか?」と背中を押された部分もあるのです。使ってみると、本当に筆者のカラダに合う組み合わせでした。背中の電子ダイヤルに爪を立てたいほどの興奮がございましたよ。

生活が苦しいので、今回新規に導入できたレンズはRF16mm F2.8 STMだけでした。筆者はフード病ですから別売りプラフードも買うしかありません。ところがこれがとても高価で、店頭で購入を悩みまくりました。
手元のRF50mm F1.8 STMとRF16mm F2.8 STMを比べてみました。ほとんど大きさは同じ。コンパクトでいいですね。両者ともに廉価なのでありがたいです。

と、いうわけで今回の作例はRF16mm F2.8 STMの一本勝負としました。交換レンズなんか贅肉です。レンズ交換なんかしている間に被写体はいなくなってしまいます。

アサインメントのために導入したカメラにちっこい単焦点レンズを装着して、街に斬り込んでゆくようにスナップ撮影をするのは筆者の場合は珍しいのです。ほんと。これはかなり気に入っている証拠です。明日はついにEOS R7くんのアサインメント撮影の初陣なのです。楽しみです。次回もEOS R7の話にしようかなあ。

道端で汗を拭う人。もう私には夏は不要なんです。35mmフルサイズだと35mmレンズが好きなんで、ちょっと遠い撮影距離なんだけど、自然な眼差しで撮れました。
EOS R7 RF16mm F2.8 STM(F7.1・1/400秒)ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。