赤城耕一の「アカギカメラ」
第45回:2018年登場・初代「EOS R」を見直す
〜デジタル時代の“サブカメラ”論
2022年5月5日 09:00
みなさんそろそろGW疲れは出ておりませんか? 弊社は超零細企業でございますから、GWだの夏休みだの、お正月も関係なく営業中でございます。
こんにちは、今回もアカギカメラ始めさせていただきます。
休みは関係ないとはいえ、この時期になると片付けやら機材の整理やらを始めたくなるのはなぜでしょうか。筆者も使わない機材を選んで処分して呑みに行く、じゃない表現を広めるための新しい機材購入の足しにしますけれど、使用頻度が少ないカメラでも持っていないと不安になるということがあります。
夜、寝付きの悪い時の手慰み用のカメラじゃないですよ。サブとして使うためのカメラです。レンズ交換の時間も惜しくなる慌ただしいルポ取材や、短時間でキメなければならない場合などに威力を発揮しますし、メインカメラに万が一の故障があったときのバックアップとしても役立つわけです。
こうみえても筆者はいちおう職業写真家もやっていますから、現場で「カメラが故障したので今日は撮影できません」とは口が裂けても言えません。そんなことをしたら、すぐに干上がってしまうでしょう。どんな小商い撮影でも必ずサブカメラを用意するのは常識です。
もっともこの10年ほど、カメラが故障して困ったという経験は皆無で、サブカメラがあったから助かったぜという経験もないのですが、それでもカメラ一台で現場に行くということはありえないですね。
本来はまったく同じカメラを2台用意して仕事に挑むのが、正しいカメラマンのあり方ですが、小商い撮影ばかりで売り上げも上がらず、設備投資の予算が許されるわけもありませんね。サブカメラはグレードの低いモデルを用意するか、売りそびれてしまった型落ちモデルで済ますことになります。
フィルムカメラの時代ならば、ニコンF5をメインカメラに、サブカメラとしてニコンF100を用意することは普通でした。使うフィルムの種類とレンズが同じなら、サブカメラのクラスが異なってもまったく同じ質の写真ができたからです。
ところがデジタルカメラの場合は、メインカメラにフラッグシップ機を、サブカメラにミドルクラスや型落ちの旧型カメラを選ぶと、画素数どころか画作りのニュアンスまで異なり、違った画質になることも珍しくないわけです。
プライベートでのスナップ撮影ならば気にしませんが、アサインメントの同一条件下で画作りが異なるカメラを使うと、撮影後に画の整合をつけるのが面倒なことがあります。したがって貧しい筆者の場合は、仕事の効率を考えて基本的にメインカメラだけで勝負し、サブカメラはよほどのことがないかぎり使うのはやめようという考えになり、サブカメラは永遠の2軍の控え選手のごとく表舞台に出てこないわけです。
で、今回機材を整理していて、手放したいけどやはり手放せないカメラがあることを思い出しました。2018年登場のキヤノンEOS Rです。お仕事でキヤノンEOSを使う場合はEOS R5をメインカメラとして使っているので、EOS Rはサブカメラとなります。しつこいですが、それも万が一の時の。
じつは先の“フラッグシップをメインカメラとする”というのは、あくまでも建前の話で、EOS一眼レフ時代は撮影現場や条件によってはEOS Kissシリーズをメインカメラに昇格させ、EOS-1DやEOS 5Dシリーズはバッグの中でお休みということもよくあったのです。
機材にはスペック以外にも、大きさや姿とカタチで適材適所があるということを筆者は信じています。EOS-1Dシリーズあたりのカメラだと人によっては過剰に威圧感を感じることもあるため、小さな可愛らしいカメラの方が良好な結果をもたらすケースもあります。
EOS R5は強力な手ブレ補正機構を内蔵していることや、AFの性能がすばらしく良いなど、仕事の効率や信頼、安心感が大きく、メインカメラの座は揺るぎません。EOS R3の方は威厳はありそうだけど、筆者には少し大きいですね。
とにかくEOS R5の性能が抜群に良いため、撮影条件によってもEOS Rがメインカメラに一時的にも昇格するという入れ替わりはまずないわけです。両者は姿、形も似ていますから威圧感の心配もありません。ただ、EOS R5の有効画素数は約4,500万もあるので、筆者の仕事ではこれを持て余し気味になります。撮影枚数が多く、納期を急いでいるような時はうちの非力なPCでは作業効率が落ちて困ります。
本来ならばEOS R6とかEOS RPを入手してサブカメラとして使用するのが最良の解決策なわけですが、これらを買い足すのはあまりにお仕事的で面白くありませんから、しつこくEOS Rを使い続けることにしました。2022年9月でかれこれ4年使用していることになりますが、おそらくシャッターを切った回数はかなり少ないかと思います。
EOS Rが登場したばかりの頃はEOS 5D Mark IIIあたりをメインとして使い、EOS Rはキヤノン35mmミラーレス機の初号機として、お試し的な感じで恐る恐る使ったという記憶があります。それでもEOS Rはサイズ感や携行性、画質など、いずれも好印象をもたらし、筆者はEOS一眼レフとの別れが早まり、EOS R5にもお越しいただいたわけです。
今回は良い機会なのでEOS Rを見直してみることにしました。日の目を見ずにかわいそうなことをさせていました。カメラ博愛主義者にはあるまじき行為です。本気で使うのは久しぶりです。申し訳ないです。反省します。
レビュー記事などを執筆する以外、筆者はカメラのスペックにあまりにも無頓着なので驚かれることがあります。筆者の小商いでは高速AFでの追従撮影とか、高画素を必然とする必要がないからです。ですので、カメラごとの画素数も正確には記憶していないくらいです。そこでキヤノンEOS Rのスペックを一度確認しましょう。
搭載しているセンサーは有効約3,030万画素の35mm判フルサイズCMOSセンサーですね。筆者はこれだけでもサブカメラとしてはお腹いっぱいに感じてしまいます。正直、スペック表を見直すまでは画素数とか忘れていて2,000万画素くらいかと思っていたんですが、一眼レフからミラーレスカメラへの切り替わりということで、キヤノンとしても本気であると世間に知らしめたかったのではないでしょうか。でも少し撮影して画像を見直してみると、その本気度は確かに伝わりますね。
重さはバッテリー/SDカード込みで660gと、これもキヤノンのカメラ設計陣とグータッチしたいくらい軽量です。ボディが薄いことも個人的には一連のEOSデジタル一眼レフより好みです。登場時にはあまり高く評価されていないデザインでしたが、筆者は好みでした。声高に言うといじめられそうなので静かにしていましたが。また、各部のデザインはEOSらしさを踏襲しているというか、誰がみてもEOSの血脈を受け継いでいることがわかります。
私の嫌いな撮影モードダイヤルが表にないこともデザイン面で評価しました。その代わり、ボタンとダイヤルで撮影モードを変更できるのがスマートで、この操作も直感的に行うことができます。
ボディ背面の操作系は右側に寄っていますが、それでも筆者が評価したのは、EOS一眼レフユーザーならほぼ取り説要らずで使用できることでしょう。
そういえばEOS Rに新搭載のFvモード(フレキシブルAE)ってのもレビューを書いた時以外使用しておらず、その存在を今まで忘れておりました。EOS R5にも搭載されているのに。FvモードではプログラムAE、絞り優先AE、シャッター優先AE、マニュアル露出、またISOオートの設定を素早く変更できるようですが、Fvモードに合わせてダイヤルやら十字キーを押すと、それぞれの数値が“勝手に”変更されてしまう感があります。
筆者は物覚えが悪いものですから、どこを押すとどういう設定になるかということが覚えられず、設定によっては下手をするとLCDの表示に「AUTO」の表示が3つ並んだりするわけで、こうなるとジジイはパニックになり、カメラが何をどうしたいかわからず、混乱の極みとなります。ま、Fvモードを使わなければそれで解決しますから良いのですが、これも使わずにムダにしている機能なのかもしれません。
あと、EOS Rにはもう一つ問題がありまして。背面に新搭載されたマルチファンクションバーってのが筆者にはうまく使いこなせなかったのです。これは指でバーを左右にスライドしたり、両端にある「<」「>」をタップすれば好みで割り当てた機能をダイレクトに設定変更できるという機能で、AF、ISO、WBの変更や設定に使ってみたんですが、なんだかうまく反応しないことが多いんですよ。これも筆者がジジイだから、指が乾燥してバーが反応しなかったからかもしれないですね。
これがうまく使いこなせなかったこともあって、使い始めた当初はEOS Rに対する気持ちが少し離れてしまったのかもしれません。こうした機能を使わなくても残りの人生はやっていける自信がありますから、無理に触らなければいいわけですが。ちなみにこのバーはEOS R5とかEOS R6には搭載されてませんから、筆者はこれを見て“勝った”と思いました。誰に?
AFシステムは、キヤノンのカメラでお馴染み「デュアルピクセルCMOS AF」ですね。全画素が撮像と位相差AFの機能を兼ねています。今ではデュアルピクセルCMOS AF IIと進化していますが、筆者はその進化が体感としてはあまり理解していないかも。スポーツとか滅多に撮らないし。
正直にいえば、RFレンズを用意したくても予算の関係でなかなか揃えることができず、だいぶ以前から所有していた古いEFレンズばかりを使っているということもあるのでしょうけれど、これではEOS Rのポテンシャルを生かしきってはいないわけです。それは自覚しています。キヤノンのエンジニアさんにはお詫びしたいところです。
ただ、事実上の旧マウントになったEFマウントレンズをアダプターで使用するにあたり、これほどストレスを感じさせないとは驚きだったのです。もちろん機能制限とかはあるのでしょうけど、筆者の撮影では気になりません。キヤノンには先見の明があったわけです。
筆者はEFレンズを使用するために「コントロールリング マウントアダプター EF-EOS R」を使用し、コントロールリングにはF値の変更を割り当てています。これもなかなか便利です。これならトライXを詰めたキヤノンF-1と同時に携行して、デジタルとフィルムで使い分けても戸惑わないかもしれません。さすがにやったことないけど(笑)。
RFマウントは当然、EFマウントも完全電子マウントでしたから、機能や操作的な整合感に加えて、このコントロールリングの存在が筆者のRFマウントレンズへの完全なる移行を遅らせているのかもしれません。筆者の仕事ではEFレンズを使用しても何も困ることはないからです。
光学性能面からみれば、RFレンズの方が同スペックのEFレンズよりも高性能であることは間違いないと思いますが、仮に古いEFレンズでも、キヤノン純正のDPP(Digital Photo Professional)にレンズデータの登録があれば、デジタルレンズオプティマイザを使用して現像処理を行うことで、実用上ではほぼ欠点の目立たない描写を得ることができるわけです。またEFレンズの多くには距離指標がありますので、広角レンズを使用する場合には被写界深度を利用した簡易的な目測撮影もできます。
EOS Rにはセンサーシフト方式の手ブレ補正機構が非搭載だったのが、スペック的にはもっとも惜しいところかもしれません。とはいえ高感度領域に強いことには定評がありますから、少しでも心配になったらガンガンISO感度を上げて、手ブレの危険を回避すればいいのではないでしょうか。
久しぶりに持ち出したEOS Rくんは、初夏の日差しを浴びて喜んでいる感じがしました。いつまでも出番がないためカメラバッグの片隅でレンズもつけられず、小さくなっていたからでしょう。
シャッター音がカッタン、カッタンとあまり高級感のない音で響くのは気持ちとして盛り上がらない感じもするのですが、プライベートな使用では肩の力が抜けて、ちょうどいいのではないかと考えるようになりました。時には眠っているカメラを使ってあげることも必要だと思いますぜ。GWもおしまいですから、ぜひお願いします。