赤城耕一の「アカギカメラ」

第54回:EOS R7とEFレンズの邂逅

昨日は「敬老の日」だったというのに、筆者は誰からも相手にされず、お誘いもありませんでした。友達少ない老マーメイドです。そこでキヤノンEOS R7と戯れ、この原稿を書くことにしました。寂しい老人です。

EOS R7は購入後、ほぼ毎日、アサインメントでもプライベートでも撮影しているんじゃないかなあ。筆者としてはすごく珍しいんですよねEOSと戯れるなんてね。フィルムのEOS 7sはプライベートでも長いこと使っており、一時は集中的に撮影したことがあったのですが、それ以来かもしれません。

この理由は単純です。EOS R7のサイズが小さいことですね。いや、お仕事カメラのEOS R5と比べて極端に小さいというわけではないのですが、どこかお気軽感が増していることは確かで、いつも持ち歩きたくなります。これ、スマホに加えて、ということですから、携行したくなる魅力がどこかにあるわけです。これはよくできたカメラである証であります。

ただEOS R5ですと、プライベートな時間に持ち出すまではいいのですが、街角スナップとかを撮って、本気で画像を追い込むとデータがデカいし(約4,500万画素)処理が面倒臭いとかなるんですが、EOS R7はそれに比較するとずいぶんと取り扱いラクですね。

それでも3,000万画素とかあるんで、いざという時は、きっちり仕上げることができますから遊びを超えた写真制作も可能であります。

で、例のごとくなんですが、筆者の場合には問題がございます。RFマウントのレンズがいまRF16mm F2.8 STMとRF35mm F1.8 MACRO IS STMとRF50mm F1.8 STMしか所有していないことであります。

今はミラーレス時代なんだからEFレンズなんか潔く全部売り飛ばしてRFレンズに買い換えるという方向が、デキる写真家のあり方だと思うのですが、なんだかね。一応査定もしてみたのですが、EFレンズの下取りは安いんです。勘弁してくれよくらいの価格を提示されて、悲しくなるわけです。

なんせ還暦超えてる年寄りですからね。仕事は細くなる一方ですし、目は霞むし、膝は痛い。人生の残りの時間も少なくなってきましたのでRFレンズを取り揃えても、自分が生きている間にモトをとれる保証はありません。

若い時はろくに使いもしないのに交換レンズを買い込み、ゼロハリのケースに隙間なく詰めることで悦に入ってましたが、それが間違いであったことを今ごろ気づくわけです。ええ、もう手遅れです。

したがって、もうお金もないことですし、長いこと愛用しとりますEOS一眼レフ用のEFレンズで当面は行こうじゃないかとなるわけです。いや、今後可能な限りずっとかもしれないですけどね。

EF50mm F1.4 USM
キヤノンFD時代は50mm F1.4といえば高性能の名玉で定評がありましたが、EOSではなかなか用意されなかった記憶があります。これが謎です。しかもモデルチェンジしてません。この写真も明暗差大きいですが、きちんとクリア。通常撮影ではツッコミどころございません。“RF50mm F1.4 STM”とか発売されたら買ってしまいそうです。
EOS R7 EF50mm F1.4 USM(F10・1/1,000秒)ISO 400
最短撮影距離での描写。少々ユルい感じもしますが、これは球面収差の問題ではないかと。軟らかいと言ってしまえばそれで済みますが、絞りによって表情を変えるレンズは最近珍しいから貴重ですね。
EOS R7 EF50mm F1.4 USM(F2・1/160秒)ISO 400

EF-RFのマウントアダプターでEFレンズを装着しますが、なんとキヤノン純正で3種類も用意されています。筆者はコントロールリングつきの「コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R」を選択して、コントロールリングにはAv(絞り値)を割り振っております。EFレンズにはなかった絞り環もどきを操作して楽しもうというわけです。このあたりも年寄りくさい発想です。

言うまでもなく、EFレンズではEOS R7の持つ強力なポテンシャルを引き出すには不十分であります。スペックマニアさんには許せない行為でもありましょう。正直、フランジバックの短いRFレンズはレンズの光学性能を引き出しやすいということもあるのでしょうが、いずれも性能に関してはとても評価が高いですね。多くのレンズのお値段も高いけど。

いいんです。アサインメントのレビューじゃないし。開き直ります。結論を先に言えば、筆者の使用目的ではEFレンズの性能で十分すぎるほどでございました。満足です。

EF50mm F2.5 コンパクトマクロ
今年初秋刀魚です。味は細くサヨリみたいでまだ脂が乗っていません。塩焼きにしたんですが、たまたまこのレンズが近くにあったので、本来の仕事をさせてみましたがよく写ります。画角的にも使いやすいですね。
EOS R7 EF50mm F2.5 コンパクトマクロ(F3.2・1/30秒)ISO 1600
フィルムEOS黎明期から存在した50mm標準マクロ、ついにモデルチェンジしないまま終焉するのでしょうか。100mmのマクロはけっこうモデルチェンジしたのになあ。筆者は標準レンズ代わりによく使います。かつてはデジタルでは少し厚ぼったい調子になるような気がしたけど、なんら問題のない描写です。USMでもSTMでもありません。
EOS R7 EF50mm F2.5 コンパクトマクロ(F10・1/1,000秒)ISO 400

何度か書いておりますが、EOS EFマウントは当初はフルに電子化された最新のマウントなのに、少し軽んじて見られたこともありましたね、記憶によれば。保守的なプロは硬直しているので、電磁絞りでさえ少しバカにしてるようなところがありました。

そう、往時のニコンFマウントレンズの絞りはカメラボディ側からレバーを動かし、叩きつけるようにして、レンズの絞りを動かしていたわけですが、このために絞り込んだ時にもコマ速は落ちないぜ、と自慢していた記憶があります。フィルム時代のEOSは絞り込むとコマ速が落ちるとか言われておりました。ウラは取れてませんが、筆者はこういうことを問題にすることの方がおかしいんじゃないかと思っておりましたけどね。で、Fマウントニッコールも最終的には電磁絞りになったりしますからね、おいおい話が違うじゃねえかよとか思いましたけどね。

話が余計な方向にすぐに行きますね、すみません。いや、何が言いたいかといえば、EFマウントでフルに電子化したからこそ、EOS Rシリーズのカメラにマウントアダプターで装着しても実用上は問題なく動作するんじゃないかということを言いたいだけであります。筆者は新旧製品を確実に繋いでゆくことに、真摯に対応したキヤノンの姿勢に打たれたのであります。

EOS R7はAPS-Cサイズセンサー搭載のEOSですから、装着レンズの焦点距離を1.6倍した焦点距離のレンズと同等の画角になります。ここでもEFレンズの持つ本来の性能を出しきれないという見方もあります。

逆にいうとフルサイズのEFレンズ描写の一部で確認しておりますが、弱みである画面四隅の画質低下部分をEOS R7で使用することでカットできる理屈になります。イヤなところを見なくても済むわけです。中には四隅のよろしくない画質が好きという奇特な方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方はフルサイズのEOSをお使いください。

EF17-40mm F4L USM
不人気な超広角ズームです。ワイド端の画角は35mm判換算で27mmほどになります。つまり画角的にはフツーの標準ズームになります。開放F4ということもあるので、性能面では無理のないレンズという印象です。最短撮影距離0.28mはエライです。高く評価します。35mmフルサイズだと周辺はこんなもんかなあという印象でしたが、EOS R7ではバッチリで、ケチのつけようもありません。
EOS R7 EF17-40mm F4L USM (F9・1/400秒・17mm)ISO 400
16-35mm F2.8あたりが広角ズームの王道とすると、本レンズはスペックとしては弱めですが、いちおうLレンズだし、悪いわけがありません。テレ端はより像の均質性が増した感じします。至近距離でも優れた描写です。
EOS R7 EF17-40mm F4L USM(F5・1/100秒・40mm)ISO 400

EFレンズは、当たり前ですがEOS一眼レフ用に設計してありますからサイズは大きめで、小さいEOS R7に装着すると、中には少々不恰好になるものもあるのですが、そうしたアンバランスさを許容しちゃうような面白さもあります。こういう変態的な外観を愛でる楽しみは筆者だけかもしれませんけど。

先に描写性能の話をしましたが、EFレンズもRFレンズも多くがデジタルレンズオプティマイザ(DLO)のレンズ補正機能に対応していますから、レンズデータがあるものなら、古いレンズを使用してもそれなりに安心ではありますし、その効果も確認しています。

レンズの多くは新型になればなるほど性能は向上しますが、旧型レンズの画質のマイナス面を強調したりしてあまり神経質になるのも、写真の楽しみとしてはなんだか滑稽な気もしますね。一般的な使用に関しては一、二世代程度古いレンズで描写の違いなどで大騒ぎする必要はないのではないでしょうか。

EF70-200mm F2.8L USM
EOS R7が軽いからバランス的にどうかなあと思ったんですが、巨木にとまったセミみたいで気に入っております。少し絞るだけでギンギンな性能になります。DLOによる補正が効いたのかもしれませんが現代でも通用するレベルでしょう。
EOS R7 EF70-200mm F2.8L USM(F4・1/250秒・70mm)ISO 400
重たいレンズはイヤなので使用頻度が低く、ボヤボヤしている間にIS内蔵タイプが出たりして、売り時を逃したまま時が過ぎました。初期モデルです。至近距離で彼岸花を撮影してみましたが優しい描写をしますしボケにもクセはありません。絞り設定で少しだけ描写性能に変化があります。
EOS R7 EF70-200mm F2.8L USM(F3.5・1/250秒・200mm)ISO 400

ここではうちにあるEFレンズを試しましたが、みんな古いわけです。それでも一緒に仕事してきた仲間意識があります。EOS R7で使用した結果は全部合格というか、筆者の仕事なら十分に対応できることがわかりました。

とても良い印象だったのは画質云々というより、とくに広角や標準大口径レンズを使用する場合にデュアルピクセルCMOS AFでのフォーカシングは、EOS一眼レフの位相差AFよりも、高い合焦精度を感じることですね。EFレンズでは手ブレ補正の協調補正ができないようですが、ボディ内の手ブレ補正は機能するようです。これ、ボディ側の手ブレ補正だけでも、補正のありなしでは気持ちの余裕がかなり違います。

EF24mm F2.8 IS USM
IS内蔵なんですが、残念ながらEOS R7では協調手ブレ補正にはなりませぬ。ちゃちゃっとファーム上げたら可能にならんですかね。本レンズの筆者の好きな35mm相当に近い画角の単焦点レンズになるので扱いやすいですね。絞るとギンギンになりどこへ出しても恥ずかしくない高性能です。ええ、本当はRF24mm F1.8 MACRO IS STMが欲しいのですが悔しいのでそう書いておきます。
EOS R7 EF24mm F2.8 IS USM(F11・1/1,000秒)ISO 400
湘南の茅ヶ崎に8月に開店したばかりの音楽&写真バー「五月野」。元「アサヒカメラ」編集者の高畠保春さんが経営。西日がわずかに入る状態で撮影しています。ミックス光になりましたが良い感じで、階調が繋がりました。「音楽と写真 五月野」:神奈川県茅ヶ崎市共恵1-6-22 JR茅ヶ崎駅徒歩5分
EOS R7 EF24mm F2.8 IS USM(F3.2・1/40秒)ISO 400

人物をはじめとする被写体認識も機能するので、このAFの便利さは感動的ですね。たまに遠ざかる人物の後頭部の後を追い続けてしまうのには苦笑してしまいますが、フォーカシングは確実で、トラッキングなんかも執拗に追いますね。一度捕まえたら逃れられない感じがします。怖いくらいです。

ただ、一部の古いEFレンズの場合は機能や測距エリアに制約があるものもあります。それでもまず大きな問題にはならないのでしょうし、便利な部分も際立ってきます。

EOS R7にEFレンズを使用しても、一眼レフと異なるミラーレスならではの特性を生かした制作を行うことができます。これが今回の結論となります。

EF40mm F2.8 STM
パンケーキの単焦点標準レンズというか、準広角レンズというか。薄くて気に入っていましたが、アダプターつけるとそうでもないか。建設中の新宿のビルをサラッっと撮影。
EOS R7 EF40mm F2.8 STM(F14・1/1,600秒)ISO 640
本当は花より画面右側の影に惹かれてレンズを向けました。明暗差が大きい条件なのにデフォルト設定で自然なニュアンスに再現されています。
EOS R7 EF40mm F2.8 STM(F3.5・1/2,000秒)ISO 100
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)