赤城耕一の「アカギカメラ」
第3回:PENTAXの一眼レフ宣言によせて(銀塩編)
2020年8月5日 14:42
自分の性癖を呪いたいのは、とくにカメラの評価に関して一貫性がないことかも。いや、自分の信用がなくなってしまうので言い換えておくけど、新製品のレビューのお仕事はきちんとやります。でもね、二泊三日くらいの限られた期間や条件ではカメラの真の実力は見極められないというのが本音ですな。
私はカメラ博愛主義だし、仮にそのカメラにダメなところがあったり、使いづらいところがあったとしても、「仕方ねえなあ」と手助けして、それに合わせることができるくらいはオトナです。それがカメラ本来の使いこなしというものですね。
だから機能面で劣るところがあっても、ボロクソに書いたりしないもん。画質がどうのとかUIがどうのとか言う前に評価するのはデザインだし。これは本連載のプロローグでも述べました。いいわけになるかもしれませんが、時間が経つと総合的な評価が変わったりするのは当たり前ですな。
スペック勝負じゃなくなった今こそ
で、いきなりまた何を言いだしたかというと、ペンタックスですよペンタックス。あ、今は会社名はリコーイメージングなのか。ご覧になりましたか? 7月16日に配信された「これからのPENTAXカメラが大切にしていくこと」を。
いやあ、漢気がありますよねえ。ある意味では開き直りの宣言というか、PENTAXはこれからの光学ファインダーに注力してゆくって話に私は率直に感動しました。「レンズと光学式ファインダーを通った現実の光を見て、感じながら撮る。」の文言がシビレます。落涙しそうになりました。
最初から矛盾したことを少し書きます。私はこうみえても新しいもの大好きなので、ミラーレス機礼讃な人です。ええ、至上主義といっても良いかもしれません。本来であれば自分の中では"もう仕事カメラとしての一眼レフは終わった"としたいわけです。
大きな理由をいうと、一眼レフのAF方式である位相差AFの精度がどうにも信用ならねえところがあるんじゃねえかと思うわけです。これはカメラの画素数が増えるために不信感が増してゆくわけ。
だって超高画素機を使用して、高価な大口径の交換レンズを使用しているのにわずかにフォーカスが外れていたりすると、あまりの自分の不甲斐なさに、行き先を言わずに旅に出たくなりませんか? ええ。お願いです。探さないでください。と書き置きを残して。
でもね、はたと旅の途中で冷静になるわけです。本当にそれは俺が悪いのかと。落ち着いて帰宅して、冷静にフォーカスの合わない理由をもう一度分析してみるわけです。
三脚を立て、静物を撮影するとき、一眼レフくんに言い聞かせます。「どう考えてもお前さ、この条件なら間違いなくフォーカスが合うだろ、な?」念を押します。ところがそこまで言ったのにフォーカスがごくわずかに外れることがあるわけです。
とくに大口径の広角とか標準レンズとかを使う場合、わずかにフォーカスを外す頻度が高いんだよなあ。撮影距離や被写体の大きさもあるかもしれないし、光源の種類もあるし。レンズとボディの相性もあるかもしれない。レンズやカメラの経年変化も影響がありそうです。優秀なAFセンサーをもってしても測距している場所が撮像面とは違う位置にあるからかなあ。あ、これは特定の機種を指したりしているわけではなく、個人的な経験によるひとつの例です。
ところがミラーレス機のようなコントラストAFとか像面位相差方式のAFだと、同じようなスペックの大口径レンズを開放値近辺で使用してもガッチリとフォーカスが合うわけです。しかも厳密に三脚をセットしたり、こちらが息を止めて撮影しなくても、イヤなくらいフォーカスが合います。撮像面で確実に測距してフォーカスを追い込んでいる感じは確実にあるもん。
だから、大枚をはたいて購入した大口径レンズでもミラーレス機ならポテンシャルが生かせるのではないかと考えるわけです。最近なんか、瞳AFとか動物とかのAFもあるし、もうサルでも撮れるだろみたいな感じですね。
「お前さ、じゃあ、その条件で撮影するなら一眼レフではライブビューに切り替えて撮れば確実にフォーカスできるだろ」って、はい。まったくその通りなんですが、早く結論を言われちゃうとこの後が続かないので少し静かにしていてください。「おい、PENTAXの宣言は無駄とかいうのかよ」と、いやだから落ち着いてくださいな。そうじゃなくてね、早合点は困りますね。
先に申し上げましたとおり、一眼レフもいま一度見直された方がいいんじゃないかと次第に思い始めるわけです。単純ですから私の場合。たしかにカメラはスペックだけが評価対象じゃないからね。
ミラーレス機のEVFと液晶モニターは、シャッターを押す前に、フォーカスの確認どころか、WBの設定とかエフェクトがどうだとか、すでに設問の解答が出ています。フィルム撮影でいえば、テスト撮影のインスタントフィルムを見ながら同時に本番の撮影するようなものか。テザー撮影も、仕事上はすっごく安心。
でも私事で使うとそう面白いものでもないわけ。自分の悪いアタマの中を他人から覗かれているような感じもするしさ。どんなに表示遅延が短く、ブラックアウトのないEVFを見ても、過去の世界の観察だし。一方で一眼レフの光学ファインダーはまさに肉眼に同じ光が入るライブ感覚なわけ。もしかするとそこが撮影していて楽しい理由なんだろうなあ。もちろん、人それぞれの趣味ですけど。
一眼レフはフォーカシングしてシャッターボタンを押したのちにミラーが跳ね上がって、シャッターが走りセンサーに露光するシーケンスなわけだから、タイムラグの要因は増えるし、ファインダーがブラックアウトする宿命で、撮影した瞬間は見ていないことになりますね。もちろんミラーレス機でも撮影者は未来を予測して撮る必要があるけれど、なんか気持ちが違うわけ。観察眼の差なんですかねえ。ただ一眼レフを使い始めてから45年以上経つわけですよ私の場合。もっとも、ジジイだからどんな高性能なEVFにも、完全には慣れないだけかもしれないけどね。
アカギ目線で振り返るPENTAX機
で、お待たせいたしましたのPENTAXの話をします。冒頭に述べたことも理由ですが、個人的に昔から好きです、入れ込んでいるところも多いですね。
各機種について細かく話し出すとそれだけで連載1年分くらいかかりそうなので、今回は思い切り端折って35mm一眼レフを中心とした話をします。浅学非才な私ですのでペンタキシアンの方には物足りないでしょうし、納得いかないところも目をつぶってください。
うちにある一番古いPENTAXは1959年に登場したS2ですね。レンズは半自動絞りで古臭いです。マウントはM42。でも確かにこの時代からファインダーのフォーカスのキレがかなりいいわけですよ。決して明るくはないし、マットもざらつき気味だけど、像のエッジが立つ感じでフォーカシングしやすいわけ。
なるほど、PENTAXの一眼レフの良さってもうこの頃から十分に感じ取ることができるし「一眼レフのパイオニア」と呼ばれたわけも理解できますね。定番のSPやSLとかも使ってるけど、平凡ながらも悪い印象ではなく。同時代のニコンFの方が全然すげーいいじゃんとかそういう問題でもない。同じ一眼レフでも違うよなあ。PENTAXはそんなに大きく重くないしという印象もあるじゃないですか。
ちなみに写真家の森山大道さんがしばらく活動をお休みしていたのちに手にしたカメラは、中古のPENTAX SVブラックにタクマー35mm F3.5ですね。中古カメラ店のウインドウで目が合って、これを入手するわけです。
往時話題だった写真雑誌の「写真時代」(白夜書房)に森山さんの連載が始まりますが、これらはSVを使用したものでした。私はすぐにSVの入手に走るわけです。SVさえ手にいれることができれば世界のモリヤマに少しでも近づけるのではと単純に思うわけ。森山さんとカメラメカニズムは最も遠いところに位置していると思うのだけど、エッセイにはSVの話が出てきます。
PENTAXは1975年にマウントの変更へと踏み切ります。M42からKマウントへ。変更については相当な数のクレームがきたと聞きました。これはつい最近まであったようですが、マウントアダプターを使えばいいとか、そういう問題じゃないみたいですね。その気持ちはよくわかります。
PENTAX MF一眼レフ時代に思い入れのある機種は、1976年に登場するMXでしょうか。オリンパスOM-1が小さい小さいともてはやされたから、元祖小型軽量一眼レフのPENTAXとしてはプライドが傷つけられたのかなあ。それで開発したのかしら。
素晴らしいのは、アイピースを覗くとその視野率95%、ファインダー倍率0.95倍の高さに圧倒されるファインダーですね。小型化のためにファインダー性能を犠牲にしない精神がすごいし、シャッター速度や絞り値も表示される情報集中ファインダーでした。小さいけれど一眼レフの特性は維持するのだという思想を貫きます。
さすがPENTAXだぜ、ってここでも言いたくなります。写真家の大倉舜二さんは、MXが製造中止になった報せを聞いたとき、新品を4〜5台をまとめて購入したという話も伝わってきて、MXに対する本気度を感じました。このこともあり、私にとっても入手必須のカメラになりました。
アサインメントに最も使ったKマウントのMF一眼レフは、やはりフラッグシップのLXですねえ。ニコンF3と並ぶ20年を超えるロングセラーのカメラでした。これもフラッグシップなのに小型軽量な部類に入るからお気に入り。デザインがスリムだったし。フラッグシップとしては華奢なイメージだけど、今も正常に動作しますし。写真家の沢渡朔さんや大竹省二さんの愛機でもありました。
MF時代にもKマウントのマルチマウント化が考えられ、電子接点が付加され、絞り環には「A」ポジションが加えられます。このためPENTAXスーパーAやプログラムAではシャッター速度優先AEやプログラムAEも行えるようになりますが、ニコンやミノルタ、コンタックスマウントのように最小絞りに設定することでこの役を担わせるのではなくて、キヤノンFDのように独立した「A」ポジションを作ったのは使い勝手もよくてよかったですね。
AF一眼レフ時代になって、基本規格はKマウントのまま、PENTAXもAF化を果たします。
当初のAF方式はボディ内モーター方式。マウントに穴を開けて、ボディ内のモーターから軸を出して、レンズ側の軸受けにカップリングさせるやつ。これなら基本のマウント規格はそのままでAF化できるというわけです。これも当初のAF化したニコンFマウントの考え方に近いですね。
PENTAXのAF一眼レフで使用して最初に印象に残ったのはフラッグシップのZ-1Pでしょうか。
何よりもAFモーターの力量には参りました。大袈裟ではなくモーターの回転に合わせてカメラが動くんじゃないかという勢いで動作します。フルスロットル、フルブレーキを繰り返す感じかなあ。ただ、全体的にUIに疑問点はありました。Z-1Pを使用していた植田正治さんが、途中でフィルム交換をしようとしたけど、フィルム巻き戻しの方法がわからなくなり、本社に電話したという話も聞きました。こうした反省を込めてか、ダイヤル操作のMZ-5やMZ-3という原点回帰的な小型軽量AF一眼レフも登場します。
この後にMZシリーズの決定打となるMZ-Sが登場しますが、個人的にはPENTAXのAF一眼レフで一番入れ込んでいたなあ。みんなにUIとかの悪口を言われてかわいそうでした。ちなみにこのMZ-Sをベースにして、35mmフルサイズ一眼レフが登場する予定だったんですぜ。
このボディ内モーターによるAF、PENTAXのキモでもあるんじゃないですかね。次回お話ししますが、ここ試験に出ますよ。