熱田護の「500GP-Plus」

第4回:2004年 佐藤琢磨の挑戦

EOS-1Ds EF600mm F4L IS USM+1.4X(F5.6・1/250秒・ISO 50)

今回は2004年のシーズン。

僕にとって、フイルムからデジタルカメラに移行した忘れらない年。
それまでフイルムで仕事をしてきたので、カメラの扱いも出来た絵の色もコントラストも全て自分の中に完成されたものがあって、そのルーティーンを大幅に変更しなければならなかったことを覚えています。同業のカメラマンの中でもデジタルに移行したのはかなり遅かった方だと思います。

遅れた理由としては、出来上がった写真がフイルムのクオリティーと同等かそれ以上ににならなければ「嫌」だったんです。2002年末に発売されたキヤノンのEOS-1Dsを見て、いよいよデジタルカメラへの移行に踏ん切りがついたのです。しかし、秒3コマの連写性能に苦労し、7〜9枚ぐらいでバッファが一杯になり多くのシーンを撮り逃し地団駄踏んだ記憶も同時に蘇ります……。

EOS-1Ds EF16-35mm F2.8L(F9・1/160秒・ISO 100)

この時、佐藤琢磨選手はF1フル参戦の2年目。

日本中のF1ファンからの声援を一気に集める存在となって、本当に楽しませてもらいました。この年のマシン(B・A・R 006)は速くて、3戦で予選3位を獲得、さらにはF1のキャリアで唯一の表彰台3位入賞をアメリカで成し遂げました。しかし同時に、マシントラブルも多かったし、琢磨選手自身のミスもあったり、チームメイトのジェンソン・バトン選手の成績と差がついてしまいました。たらればですが、この年にもう少し噛み合うレースが多ければその後の琢磨選手の勢いも違ったものになったかもしれない、と思うと悔しい気持ちです。

EOS-1Ds EF600mm F4L IS USM+1.4X(F14・1/500秒・ISO 100)

開幕戦のオーストラリア、メルボルン。

朝、コース脇を歩いていて路面に大量の落ち葉があり、セッションが始まれば葉っぱが舞い散る様子が撮れるのではないかと思い、ローアングルからのバックショットを狙って待ちました。最初の何台かだけ、マシンが通り過ぎると落ち葉が風圧で舞い散りました、本当に美しいシーンでした!

EOS-1Ds EF600mm F4L IS USM(F13・1/800秒・ISO 100)

モナコGP、1コーナーからカジノまでの上り坂の途中。

正面には高級ブランドショップが入る建物の屋上から観戦するお客さんたち。モナコらしい雰囲気です。現在この場所は、アウト側に金網が張り巡らされて撮影できなくなってしまったエリアです。だから、お気に入りの場所はその時に行って納得する写真を残さなければならないと思います。また来年に撮ろうなどと思っていた自分、後悔してもしきれません。

EOS-1Ds EF16-35mm F2.8L USM(F22・1/30秒・ISO 50)

ヘレス・サーキット(スペイン)でのテスト走行、その日の走行時間終了少し前の夕方。特に、冬のテストの時は走行時間が長くなり、朝と夕、太陽の位置が低く斜光の時間はわれわれカメラマンのいちばん楽しい時間。その時間の写真を撮るために、テスト走行に出かけていったようなものです。

EOS-1Ds EF14mm F2.8L USM(F11・1/800秒・ISO 100)

フランスGP、マニクールサーキット。

どんなジャンルの写真でも、その背景の表現で意味合いは大きく違ってくるのではないでしょうか。サーキットという限られた中のスポーツで、その時の空が印象的であるとそれを利用しない手はありません。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。