パナソニック LUMIX 15周年特別企画

一眼レフ参入、そしてマイクロフォーサーズへ…LUMIX 15周年インタビュー第2弾

規格誕生とその背景が明らかに GH5投入でこれからの展開は?

今年で15周年を迎えたパナソニックLUMIXを振り返るインタビュー。第2弾となる今回は、いよいよミラーレスカメラの話に突入します。

第1弾→パナソニックはいかにしてデジカメ業界をリードしてきたのか? LUMIX 15周年記念インタビュー第1弾

今回も、パナソニック株式会社AVCネットワークス社イメージングネットワーク事業部の山根洋介事業部長にお話をうかがいました。

パナソニック株式会社AVCネットワークス社イメージングネットワーク事業部の山根洋介事業部長

ユーザーインターフェイスにも新しい流れを

−−FX500でタッチパネルを初めて採用しました。これも業界のトレンドより比較的早かったのですが、どんな背景があったのでしょうか。

タッチパネルデバイスは2002年頃から様々な用途提案がありましたが、写真画質に耐えられるものがやっと出てきたタイミングがこの当時です。画面をタッチして露出を合わせる、AFが合うということを業界に先駆けて実現しようと、タッチパネル採用の大号令がかかったのを思い出します。大画面になるほどユーザーインターフェイスも進化しないといけない、そのままだと大画面にする意味が薄いというところから、タッチパネルの採用が決まりました。個人的には好きな機種で、使っていて楽しい商品でした。

LUMIX FX500(2008年)。当時ととしては大型の3型モニターを搭載。さらにタッチパネル式とし、タッチAF/AEといったユーザーインターフェイスを盛り込んだ。

−−ボタンを減らして画面で操作する方向性は、いまでいうスマートフォンに近いものがありますね。

そういったいろんなものの変遷を経て、一気に変わっていくのが流れなのでしょう。

−−その中の一つとして、FX90(2011年)のWi-Fi機能も記憶に残っています。これも取り組みとしては早い方だったのではないでしょうか。

当時カメラはスタンドアローンで使うものでしたが、その時代は終わり、生活環境が変化し、インターネットにつながって画像をシェアする時代が来るのに、なぜWi-Fiが入ってないのかと当時の杉田事業部長が檄を飛ばしたのが始まりです。

常に新しいものを世に出すことで次の時代を作っていく。お客様の暮らしに役立つためにも、新しいことにトライしていく必要があると考えています。

LUMIX FX90(2011年)。これまでもWi-Fi搭載モデルは存在したが、SNSやフォトサービスへのシームレスな接続を可能に。スマートフォン用のアプリも公開された。

一眼レフへの参入、さらにマイクロフォーサーズの立ち上げ

−−では、一眼レフカメラ業界への参入についてお聞きします。その理由はなんだったのでしょう。

フォーサーズのL1ですね。LUMIXのスタート時にビジョンとして掲げたのは「デジタル時代の新たなる写真文化の実現」ということです。これは現在も不変のフィロソフィーです。そのためにも「一流のカメラメーカーになる」という目標を持って取り組んできたのです。「いつかは一眼」という思いは常にありました。L1はオリンパスさんが提唱されたユニバーサルマウントであるフォーサーズの思想に当社が賛同する形で取り組みました。

一方で、FX7がヒットして以来、FX系の売上が好調でしたが、いつまでも続くとは思えない面もありました。違う軸を持たないと絶対に取り残される、それも開発の推進力でした。

パナソニック初の一眼レフカメラ、LUMIX L1(2006年)。オリンパスと同じくフォーサーズシステム規格に準拠し、レンズも自前で用意していた。

L1には位相差センサーが入っていましたが、当時、弊社にはその技術は当然ありません。「位相差方式のAFとは何か」というところから始めて、レンズにはどんな仕組みが必要なのか、マウントの接点で何ができるのか、交換レンズは何をラインナップするのか、操作感はどうするのか……ありとあらゆることを始めました。

その頃コニカミノルタさんがカメラ事業から撤退され、何人かの技術者に入社いただけることになりました。そのうち一眼レフカメラを担当していた方にはボディの開発に参画をお願いし、全力を尽くして組み上げたのがこのL1でした。L1を作ることで、この後のマイクロフォーサーズの下地ができたと思います。

−−マイクロフォーサーズはどのようにして生まれたのですか?

一眼レフカメラ市場に参入してわかったことのひとつが、一眼レフカメラを使ってみたいけど、「大きくて重い」「使いこなせそうにない」との理由で、購入に至らないお客様が大変多くおられたということです。銀塩カメラの時代から一眼レフカメラをお使いの方は別として、デジタル一眼レフカメラの敷居は非常に高かったのです。

当社はそのようなお客様に、軽くて小さくてさらにコンパクトデジカメと同じような使いやすいレンズ交換式カメラを提供する必要があると考えたのです。

ミラーレスカメラの構想をスタートし、マイクロフォーサーズでこだわったのは、ボディをどれだけ薄く小さくできるか、しかし未来永劫つながるバランスとはどういうものか、といった点です。ミラーをとればセンサーの近くまで薄くできるのですが、薄くすれば薄くするほど、レンズの負荷が高まる。そうなると、今後のレンズ設計に負担かかかります。規格そのもののハードルが高くなる可能性が出てくるでしょう。20mmというフランジバックはそうして決まりました。

世界初のマイクロフォーサーズシステム規格準拠の製品、LUMIX G1(2008年)。

当時、私はレンズ周りを担当していました。ミラーレスカメラとして持っておかなければならいのは何かと考えたとき、小型軽量であるのはもちろん、小型軽量ゆえのレスポンスの良さ、フットワークの軽さがあります。ただし、小さいからといって画質が悪くなってもいけない。10年近く培ってきたレンズ製造の技術を凝縮し、我々の力で市場を作るのだ、という自負を持ってやっていたことを思い出します。

ミラーレスカメラと一眼レフカメラとの一番の違いは、ミラーレスカメラではEVFで直接画像を見れることです。撮るために設定した状態が撮る前に確認できるのは、一眼レフカメラにない魅力です。そうすると、EVFのきめ細かさとレスポンスが重要になってきます。EVFが一定上の水準にならない限り、絶対やってはいけないと思っていたのがミラーレスでした。サプライヤーさんにもかなり良いものを作っていただけたのも一号機のミラーレスカメラ誕生には大きなことでした。

これからもレンズ、デジタル、UIの3つの柱を磨きあげる

−−マイクロフォーサーズになってからは、動画機能にかなり注力しているように見えます。

ミラーレスカメラの大きな特徴の一つが、一眼レフカメラには不得手なAFでの動画撮影が容易なことです。当時、動画の世界は1/3インチが大きなイメージセンサーでした。フォーサーズはそれより被写界深度が浅くて画質も良いことから、動画用途をGH1で提案したのです。当時はイメージセンサーも内製していたので、フルHDが撮れるイメージセンサーを開発するなど投資を行いました。

動画は瞬間ではなく、時間軸を伴う過程を撮るものなので、ぼけた状態からピントが合うまでの間に、品格が求められるようになります。品格を決めるのはAFのアルゴリズムなのですが、アルゴリズムを左右するのがレンズの動かし方、レンズの仕様そのものになります。動画に対してスムーズに動き、動画に対してスムーズに追随し、さらにボケ感も滑らかなレンズとは何か、駆動系はどうあるべきかなどにこだわりました。

こうした動画への取り組みが、4Kフォトやフォカースセレクトに結びついているのです。

写真・動画のハイブリッド撮影仕様は、写真表現、動画による表現に加え、写真と動画を組み合わせた表現が容易に行えるカメラとして開発を推進していきます。

−−お聞きしていると、レンズ、デジタル、ユーザーインターフェイスの3つの技術の進化が、LUMIXの柱なのかと思います。では、今後についてお聞かせいただけますか。これまでの路線を引き継ぎながら、新しいものにチャレンジしていくのでしょうか。

おっしゃる通り、フィロソフィーである「デジタル時代の新しい写真文化の実現」の柱として、

1)オプティカルテクノロジー
2)デジタルテクノロジー
3)ヒューマンテクノロジー

の3つの柱を掲げ、その掛け合わせで独自性のあるカメラを創ることに取り組んできました。

フォトキナ2016でのGH5開発発表時のスピーチでは、将来像として4Kの次、8Kの世界を提示しました。これはある意味正常進化に受け取られるかと思います。しかし、8KはフルHDの16倍の画素数であり、フレームレートもいままでの60pから120pへと進化します。はっきりいって、人間の眼では追えない世界を描写できます。

そういった技術をいかにお客様の価値に結びつけるか。いま私たちが向かっている方向の具体的な出口はひとつふたつといったものではなく、多岐にわたると思います。自社の技術につながるものはいうまでもないのですが、東京五輪、東京五輪以降につながるような、「あのときパナソニックがこんなことをやっていて、それがいま繋がっているのだな」と思っていただけるようにしたいです。ある意味モルモットであり、パイオニアであり続けられればうれしいなと思います。