特別企画

オリンパス派プロカメラマンによる「OM-D E-M1」体験記

旧フラッグシップ「E-5」&「OM-D E-M5」との違いは?

 筆者はプロカメラマンとして、オリンパス製のデジタルカメラを初代フォーサーズ一眼レフカメラのE-1から始まり、E-300、E-500、E-330、E-3、E-620、E-5と使用してきた。

 いま思えばE-1は、とにかくその堅牢性が素晴らしかった。レンズも含めた防塵防滴設計は、たとえ土砂降りの雨の中でも撮影可能。さらに、当時他社にはなかったダストリダクションシステムの安心感も高く、屋外で気を使わずレンズ交換ができたのは便利だった。

E-1

 その防塵防滴設計は後継機のE-3E-5にも受け継がれ、E-3からは手ブレ補正(IS)やライブビューなどの機能も追加。撮影可能な領域はさらに広がり、プロの使用に耐えるカメラとしての成長を、頼もしく思ったものだ。

E-5

 ただし、E-1桁系はセンサーサイズの割に、ボディサイズが大きくて重かった。そうした意見にオリンパスが出した答えが、E-510E-410というカメラだった。それまでのフォーサーズボディのからすると劇的に小さく軽く、さらにこのカメラのサイズに合わせた小型軽量のパンケーキレンズやズームレンズなども登場した。

E-510
E-410

 このラインの最終製品となったのが、E-620だ。そのとき搭載された新型の小型手ブレ補正機構とともに、マイクロフォーサーズのPENシリーズに代替わりしていく。

E-620

 筆者もこうした小型ボディのフォーサーズモデルに心ひかれた一人だったが、残念なことに防塵防滴設計は、E一桁のカメラボディとハイグレード以上のレンズに限られたまま。雨天などの撮影では大きく重いシステムを使うしかなく、E-400/500/600系のシステムは、仕事として使うには不安が残るものだった。

 時は流れて2012年。オリンパスの主流はすでにマイクロフォーサーズへと移っていたこのとき、E-3系の防塵防滴設計をE-400/500/600系のサイズで実現した、OM-D E-M5が登場した。ファインダーがEVFになったことと、堅牢なレンズや明るいズームレンズがフォーサーズほどないこと以外、筆者の目には、E-1桁系とE-400/500/600系の良さを併せ持ったカメラに映った。

OLYMPUS OM-D E-M5

 ただ筆者の場合、E-3やE-5といったフォーサーズの一眼レフ機は完全に仕事用のカメラという位置付け。それに対してマイクロフォーサーズ機は、あくまでプライベート用のカメラという認識だ。

 というのも仕事で使う機材の場合、画質やAFのスピード、追従性、精度などももちろんのこと、操作性なども含めたトータルな部分で、如何にストレスなく使えるかというのが重要となる。倍率が大きく見やすい光学ファインダーも、その条件の一つといえる。

 マイクロフォーサーズのカメラがどんどん進化しているのはわかっていたが、今までE-5でしていた撮影を同じようにストレスなく撮影できるかというと、まだまだ使う場面を選ぶカメラという感想を持っていた。

 また、フォーサーズ並みに防塵防滴で明るいレンズを揃えてもらわないと、マイクロフォーサーズはフォーサーズの代わりには決してならないとも感じていた。

 そんな中、今回試用したのが、新製品のOM-D E-M1になる。E-M5を進化させたフラッグシップモデルで、引き続き防塵防滴性能を有する。そして最も期待したのが、E-M5にはなかった、マイクロフォーサーズ初の像面位相差AFだ。マウントアダプターが必要となるものの、フォーサーズ用レンズのAFが、実用的な速度で動くという……

OM-D E-M1。装着しているレンズはレンズキットに付属するM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO。実勢価格はボディのみが15万円弱、レンズキットが17万円弱

絶妙なサイズ感。フォーサーズレンズとのマッチングも◎

 他の仕事で撮影したデータを掲載することはできないので、ある程度仕事で使う場面を想定しながら、E-M1を実際に持ち出してあれこれ撮影してみた。一部の現場では、E-5、E-M5とも使い比べている。

 カメラの大きさやホールド感については、使用者の手の大きさや、使用環境(使用するレンズなど)によっても左右されると思うが、E-M1は実に上手く落とし込んだなと思えるサイズだ。

 E-M5と比べるとボタンなどの操作部も大型化されており、操作しやすい。手にした時の凝縮された剛性の高さにも感心した。E-5やE-M5と同じく、防塵防滴仕様である。

 グリップは幅がなく深さがあるタイプ。ホールディング自体はE-5のほうが良いが、撮影時以外でカメラを保持する場合などは、このグリップに指を引っ掛けておけるので具合が良かった。

 既存のオリンパス製フォーサーズレンズ、フォーサーズマウントのシグマ製レンズなどとの組み合わせでも、ボディの程よいサイズと大き目のグリップにより、バランスは悪くないと感じる。

 E-M5よりは大きく重いとはいえ、フォーサーズのE-1桁系の大きさからすると拍子抜けするほど軽い。何日かE-M1とレンズ数本を持ち歩いてみたが、E-5の時と違って肩が痛くなるようなことはなかった。

左からE-5、E-M1、E-M5
左からE-M1、E-5。ともにバッテリーグリップをつけた状態

スムーズに駆動するフォーサーズ用レンズ

 AFも良くなっている。特にS-AFは高速だ。C-AFはそこそこだが、C-AF+TRだと動いている被写体にもかなり追随し、このモードでのAF&連写はE-5よりもよい。フォーサーズレンズを使用した場合でも、E-M5で生じていたガクガクと動く挙動がなくなり、大変スムーズである。

E-M1のAFモード切替ボタン
動く被写体に強いC-AF+TR

 今回、マイクロフォーサーズ用のレンズは、オリンパス製(12-40mm F2.8、12-50mm F3.5-6.3、17mm F1.8)、パナソニック製(12-35mm F2.8、35-100mm F2.8)、シグマ製(19mm F2.8、30mm F2.8)などを使用してみたが、AFはどのレンズも高速で、ピント合わせに関してのストレスはなかった。

マイクロフォーサーズ用レンズとの組み合わせ例。レンズはM.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8

 一方フォーサーズ用のレンズは、シグマ製のレンズで若干AFのスピードが落ちるものの、以前にあった行きつ戻りつ最終的にピント合わせを諦めるような場面はなく、普通に使える。

 また、オリンパス製のレンズであれば倍率色収差も補正してくれるので、ソフトでいちいち補正する手間がなくなった。

フォーサーズ用レンズとの組み合わせ例。レンズはZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
室内にあったミシンをフォーサーズレンズを使いAFで撮影してみたがストレスなく合焦。ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD / ISO200 / F3.2 / 1/100 / -0.3EV / 104mm

倍率が高くて高精細なEVF

 一眼レフカメラとミラーレスカメラの違いはいくつかあるが、筆者にとって最大の違いは、光学ファインダーを搭載しないことだ。そのため、今までマイクロフォーサーズ機はプライベート機だと思い込み、E-1桁系で仕事をしてきた。ところがこのOLYMPUS OM-D E-M1というカメラは、それを差し引いても多くの部分でE-5を凌駕する。

 それほどE-M1のEVFは倍率が高くて高精細だ(倍率約1.15倍、約236万ドット)。E-M1を使った後だと、E-M5のファインダーがとても小さく感じる。もちろん光学ファインダーとまったく同じとはいえないものの、技術の進歩には驚かされるばかりである。

民家の入り口のドア。ガラス越しの光が美しかった。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / ISO200 / F2.8 / 1/100 / +0.3EV / 40mm

 E-M5になかったフォーカスピーキング機能も便利だ(E-P5から搭載された)。手持ちでのスナップ撮影においても、筆者の場合はMFアシスト(ピント位置を拡大)を使わずに、ピントを合わせることができた。

 カスタマイズ可能なFn(ファンクション)ボタンが増えたのもプロ機としてうれしい配慮に感じる。ユーザーが使いやすいセッティングをより細かく設定できるようになったと思う。筆者の場合、よく変更するISO感度をFn1ボタンに、ワンプッシュWBとWB変更をボディ前面の2つのボタンにまとめてみた。

 手ブレ補正はE-M5に搭載されたボディ内5軸手ぶれ補正機構を搭載。アルゴリズムの改善により低速シャッター時の補正をさらに向上させたということだが、普通に使った限りではよく効いているという印象。

 E-M5と同じく動作中は「サー」という音が聞こえるので、静かな場面では気になるかもしれない。

 細かいことだが、オリンパスのマイクロフォーサーズのカメラとして初めてシンクロターミナルがついたというのも、仕事で使う身としてはありがたい点だ。

ライブビューのタッチAFでフォーカスポイントを決めたのちにEVFで撮影。ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD / ISO5000 / F3.5 / 1/400 / ±0EV / 200mm

良好な高感度画質。AEも安定

 露出が少しオーバー目に出る傾向があるが、AEはE-5より安定している。オートホワイトバランスも自然で、よほど特殊な場面でない限りは安心して使える印象だ。

 主観ではあるが、色の出方はE-M5よりも前のオリンパス機に近い感じで、デフォルトではこってりした感じに色が乗る。色調に関してはかなり細かく設定できるので、自分の好みに追い込むのも良いだろう。

 高感度ノイズの処理はE-M5よりさらに良くなっている。これも許容範囲に個人差がある分野だが、筆者の場合はISO3200から、場合によってはISO6400まで上げて使っても問題ないと感じた。確かに少しノイズは見えるが、自然な感じで悪くはない。

水滴が落ちて波紋が広がる瞬間。E-M1の秒間10コマの連写で。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / ISO2000 / F2.8 / 1/400 / -1.0EV / 31mm

 ただし、長秒露光時のノイズ処理はあまり良くないので、長時間露光を頻繁にやる人は気になるかもしれない。ファームウェアアップデータなどで改善できればしてほしいものだ。

 もう一つの不満点は、液晶モニターがフリーアングル式ではない点。縦位置でのハイアングル、またはローアングルの自由度が、E-3やE-5に劣る。ボディサイズを考えると仕方がないところだろう。

自由度の高いレンズ選び

 オリンパスのマイクロフォーサーズレンズで良く指摘されるのが、明るいズームレンズがない点だろう。ただし、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROが発売され、同じくM.ZUIKO PROシリーズの新製品「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」も2014年後半に出る。パナソニックの「LUMIX G X VARIO 12-35mm F2.8 ASPH. POWER O.I.S.」や「LUMIX G X VARIO 35-100mm F2.8 POWER O.I.S.」もあることだし、これからはそんなに悲観することはないだろう。

 そもそも明るい単焦点レンズは、いまやフォーサーズレンズよりも豊富になっている。考えてみると、「単焦点の小型の交換レンズ数本を持って行く」「フォーサーズのスーパーハイグレードのレンズを使う」「オールドレンズをマウントアダプターを使う」など、レンズ選びにおいて、E-M1はとても自由度が高いカメラだと思う。今までのマイクロフォーサーズ機でもそうした使い方はもちろん可能だったが、位相差AFやフォーカスピーキングをはじめ、ボディ側が進化したことにより、場面を選ばず、より一層ストレスなく撮影できるようになったのではないだろうか。

貨物列車が通ったので慌ててレンズを交換して撮影。ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD / ISO200 / F3.5 / 1/160 / -1.0EV / 200mm

 なお、フォーサーズなどの大きなレンズを使う場合、E-M1はボディ自体の高さはないので、別売のパワーバッテリーホルダー「HLD-7」を装着したほうがバランスは良いと感じた。

 それから、今回使用してみてすごく気に入ったのが、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROというレンズ。

E-M1のキットレンズでもあるM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO

 今までフォーサーズの14-54mm F2.8-3.5を愛用してきたが、E-M1とこのレンズがあれば14-54はもう要らないかなと思ってしまったほどだ。

 操作性、描写、性能、そのすべてにおいて完璧で、E-M1で使う標準ズームレンズとしてはこのレンズをおいて他にはないだろう。今後発売されるPROシリーズのレンズに期待大である。

何故か公園にいた鶏。ピントが合ったところはシャープでボケもそれほどうるさくない。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / ISO200 / F2.8 / 1/160 / -0.3EV / 40mm
40mm、絞り開放で撮影。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / ISO200 / F2.8 / 1/500 / -0.7EV / 40mm
昼光と電球のミックス光だったのでAWBで撮影したが、自然な感じで再現された。ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 / ISO200 / F2.8 / 1/160 / -0.7EV / 14mm

まとめ

 E-M1の印象をまとめると、画質、性能、使い勝手、そのすべてがバランスよい。言いすぎかもしれないが、E-5では諦めていたことさえも可能になったカメラなのかも、という思いすら持った。

 実際に仕事で撮影した室内であまり明るくない状況であったが、動く被写体に関してもE-5以上に快適に撮影できたので少々驚いた次第。今後、PROシリーズの明るい望遠レンズや広角レンズが揃えば、機材の軽量化も含め、積極的に仕事でも使っていきたカメラと感じた。

制作協力:オリンパスイメージング株式会社

川口正志

(かわぐちまさし)1963年生まれ。CMスタジオ、TV局スチールを経てフリー。国内外問わず、人の生活や暮らしの写真を撮る事をライフワークとしていて、95年から東南アジア、ラオスの写真を撮り続けている。ブログFacebookTwitter

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