特別企画

プロカメラマンは「レンズ保護フィルター」をどう考えているのか

現場は「過酷」が当たり前! 山岳写真家の菊池哲男さんに聞く

厳冬の北横岳より南八ヶ岳方面の展望 撮影:菊池哲男 撮影地:北八ヶ岳北横岳

レンズフィルターは数あれど、レンズ保護フィルター(プロテクトフィルター)ほど普及しているレンズフィルターはないだろう。レンズを購入したら、一緒にレンズ保護フィルターも入手している読者も多いと思う。

一見地味なアイテムともいえるレンズ保護フィルターだが、最近は強化ガラスを採用するなど、品質が一気に向上しているのをご存知だろうか。3月中旬発売のマルミ光機「EXUS Lens Protect SOLID」もそのひとつで、従来製品の7倍の強度を実現したという。

EXUS Lens Protect SOLID

そんなレンズ保護フィルターを、プロカメラマンはどう考えて、どう使っているのだろうか。愛用者のひとり、山岳写真家の菊池哲男さんに話を聞いた。(編集部)

菊池哲男さん。山岳写真家。1961年東京生まれ。立教大学理学部物理学科卒。山岳・写真雑誌での執筆や、写真教室・撮影ツアーの講師、アウトドアメーカーのアドバイザーとして活躍。2016年7月に山と溪谷社より新しい写真集『アルプス星夜』を上梓。東京都写真美術館収蔵作家、 日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

危険と隣り合わせの山岳写真

−−普段どんな装備で撮影に赴かれますか?

登山装備に撮影機材を加えています。そのうち撮影機材はケースバイケースですが、おおよそカメラボディ2〜3台、レンズ4〜6本、フィルター4枚程度、三脚といったところです。

体力を温存しておきたいので、機材はなるべく減らしたいですね。無駄な装備は持たないようにしています。

−−平地の撮影よりも環境が過酷ですよね。ヒヤリとすることはありますか?

結構あります。足場が安定しない場所でファインダーをのぞいているときにぐらっときたり、行動中もカメラをぶら下げて動いているので、周りの岩や木にぶつけそうになることが良くあります。特に下りで転んでしまうと、カメラが自分の身体の胸に当たり危険です。カメラが凶器になる瞬間といえます。

撮影中、風が吹いて三脚ごとカメラが崖に落ちたこともあります。ストーンバッグをつけていたにも関わらずです。それだけ風が強かったのですが、そんなことが日常茶飯事的に起きるのが山での撮影ですね。

−−事故を防ぐため、どんな対策を取っていますか?

ゆっくり歩くなど、できるだけ時間にゆとりをもった行動をとるように心がけています。その際、トレッキングポール(ストック)やスポーツタイツを活用し、アミノ酸などのサプリメントを採るなど、とにかく安全登山を実践しています。先に挙げた無駄な機材を持たないのも対策のひとつですね。

夕日射す蓼科山と樹氷群 撮影:菊池哲男 撮影地:北八ヶ岳北横岳

重要な役割を果たすレンズ保護フィルター

−−レンズにはレンズ保護フィルターを装着していますか?

できるだけ使うようにしています。デジタル中心のシステムになってからは、高価なレンズを使うようになりました。レンズに傷がつくと修理に出さなくてはならないのですが、高価なレンズだと1回の修理費もそれなりに高くなります。そんなわけで、レンズ保護フィルターで自衛するようになりました。レンズの前玉が大きくなってきており、よりぶつけ易くなっているせいもあります。

修理費もそうですが、途中で機材にアクシデントがあり、苦労して登ったのに撮れないのは、写真家にとってショックなことです。平地と違い、山ではその場で代わりの対応ができません。別の機材を買いに行けないし、サービスマンも来てくれない。登山中にレンズを守るためにも、レンズ保護フィルターは重要だと考えています。

−−現在お使いのレンズ保護フィルターを教えてください。

マルミ光機のEXUSレンズ保護フィルターです。

−−レンズ保護フィルターが画質に影響すると感じたことはありますか?

基本的に影響を感じたことはありません。レンズに対して並行に配置されていますから、入ってくる光に作用することはないでしょう。

内部で反射した光が迷光となり、フレアの要因になる可能性はあるかもしれません。新製品のSOLIDは反射率が0.2%なので、その点にも期待しています。逆光などで、ゴーストが出るような条件では外すこともあります。

−−レンズ保護フィルターの撥水・防汚・帯電防止性能は重要だとお考えですか?

小雨くらいでは撮影するし、森などではあえて雨の時も撮影します。そのため、撥水性能はかなり重要だと感じています。帯電防止もホコリをつきにくくするため、頼りになります。

月光浴の北横岳より浅間山遠望 撮影:菊池哲男 撮影地:北八ヶ岳北横岳
北横岳撮影に同行した写真クラブのメンバー 撮影:菊池哲男 撮影地:北八ヶ岳北横岳

−−レンズ保護フィルターによる安心感が、撮影時の心理に何か関係するとお考えですか?

撮影中は連続して写すので、ついレンズキャップを外したままのことが多いです。そういう場合でもレンズ保護フィルターが前玉を守ってくれていると思うと、かなり安心感があります。

それに、レンズキャップを付けたり外したりしているうちに、レンズキャップを地面に落としてしまう恐れが出てきます。山だとこれが困りもので、転がってどこかにいく可能性があるのです。

レンズ保護フィルターがあることで可能になるテクニックもあります。例えばレンズに霜がつくような寒さの時。レンズ保護フィルターに霜がついていたとしても、外してすぐに撮影できます。長時間露光をしている間に拭き取り、元に戻します。レンズ保護フィルターなしだと霜を取る作業の分、撮影が遅れます。湿原で発生する曇りも同じですね。

−−新製品SOLIDの耐久テスト動画をご覧になったどう思われました?

レンズ保護フィルターを割ってその破片でレンズの前玉を傷つけたことがありますので、レンズ保護フィルターがさらに強くなるのはありがたいです。何かあっても、レンズ本体に危害が行かないようにしたいですから。

菊池哲男さんの最新刊「アルプス星夜」

珍しい「山の夜景」をまとめた写真集。北アルプスの夜景を菊池哲男さんが15年にわたって撮影した作品で構成されています。デジタルカメラの進化により実現した「星空の山岳写真」をお楽しみください。

制作協力:マルミ光機株式会社

デジカメ Watch編集部