特別企画
想像以上の手仕事ぶり。マルミのフィルターができるまで
強度7倍「EXUSレンズプロテクトSOLID」のスゴさとは
2017年11月2日 12:15
マルミ光機の長野工場は、長野県上伊那郡箕輪町に所在。50名が働き、月に10万枚のフィルターを生産している。この地域は"諏訪・辰野エリア"として光学・精密機器メーカーが集まる工業地域で、精密機器産業に大事な水質の良さとともに、関係会社と密に連絡を取れる利点がある。
同社製品はレンズフィルターで唯一の「国内一貫生産」をアピールしているが、これも上記の理由で製品の作り込みや仕様の打ち合わせがしやすく、品質管理などの大事なポイントも共有しやすい点が大切にされていることの現れだ。
"7倍割れにくい"マルミ最強の保護フィルター
今回のテーマは、2017年登場の最新商品「EXUSレンズプロテクトSOLID」だ。どのような想いが込められているのか、商品企画の経緯など気になるところをマルミ光機の担当者に聞いてきた。
マルミは「デジタル一眼フィルター」(現在のDHGシリーズ)という切り口でレンズフィルターを開発した先駆けであり、発売する商品は必ずどこかに"世界一"のポイントを盛り込んでいるこだわりようだという。
同社のいう"デジタル対応"とは、コーティングや外周の墨塗りを含む反射率の低減に加え、より手に馴染むローレットなど、2002年7月に企画がまとまってから約1年の開発期間をかけて「これ以上はできない」というレベルまで作り込んだ。
その当時は400万画素クラスのコンパクトデジタルカメラが広まる一方、デジタル一眼レフカメラはまだまだ高価で、一般市場に根付くかどうかを読み切れない時期だったと唐澤氏は振り返る。しかしこれが、マルミにとってデジタル時代への完璧な転換点になったという。
現在のマルミ最上級フィルターは、DHGシリーズを超えるハイグレード版として2013年に登場した「EXUS」(エグザス)シリーズだ。レンズ保護とPLの2製品に続き、2017年には割れにくい保護フィルター「EXUSレンスプロテクトSOLID」が加わり3製品となった。パッケージに大きくデザインされた「7」は、"7倍の強度"を大きくアピールしている。
"割れにくい保護フィルター"と言われても、割ってしまった経験がある人ばかりではないだろうし、その度合いがピンと来ないかもしれない。カメラ用のフィルターに強度基準はないが、マルミではメガネ用レンズの強度基準である「16gの鉄球を127cmから落とす」というISO規格(ISO12311、ISO12312-1)を指標にした。SOLIDはその基準に対して7倍の重さの鉄球を落としても大丈夫、ということで"7倍の強度"なのだそうだ。
ここで、CP+2017の会場で撮影したデモ映像を再度掲載する。1.2kgのハンマーがSOLIDフィルターのガラス面を直撃している。
この前年、CP+2016のマルミブースでは、実際に鉄球を使ってフィルターの割れにくさをデモンストレーションしていた。とても衝撃的で来場者の注目を集めたが、おかげで同社は比較のために200枚もの一般的なフィルターを割ることになった。いっぽう、のちにSOLIDとなる割れにくいフィルターは、鉄球の落下を300回受けても割れなかったそうだ。
普段の撮影では鉄球こそ飛んでこないにしても、最近の大きく重さのある交換レンズを付けたカメラが、何かの拍子に勢いよく地面や岩場にゴツンと当たってしまえば、その衝撃は相当なものだろう。高性能ゆえに高価なSOLIDの価値をコストを掛けてでも実感してもらおうという意気込みが伺えるデモだった。近年増加傾向にある口径の大きな交換レンズでは、強度の高い保護フィルターがより効果的だという。
写真愛好家ならではのアイデアが満載
EXUSレンズプロテクトSOLIDは強度を高めつつ、撥水・防汚・帯電防止のコーティングも既存のEXUSシリーズから継承している。撥水・防汚コートを考えたキッカケについて唐澤氏は、「雨でも撮りたいからです」とシンプルな回答。
帯電防止コートも「偏光フィルターは付着したホコリが目立つ」という実体験から製品化された。スマートフォンからヒントを得た金属膜を使った帯電防止コートは、あまり厚くなると効果は高まる代わりに光の透過率が下がってしまうというトレードオフがあり、研究開発に3年を要した。
唐澤氏は日本山岳写真協会をはじめ複数の写真団体に所属し、年に1冊の写真集を自ら製作するほどの写真愛好家。取材当日も、出社前に自家用車で撮影に出かけ、前日の夜は遅くまで星を撮影していたのだという。EXUSのフィルターネジにテフロン加工を施したのも、「冬の上高地で撮影していたらネジが外れなくなった」という氏の経験からだ。こうした"自分が欲しかった製品"というのは、ヒットの法則の一つとも言えるような気がする。
フィルター工場の中を見せてもらった
工場内のガラス加工を行う部屋では、C-PLフィルターのガラスが加工されていた。水面など被写体の反射を取って色彩を強調するために用いられるフィルターで、仕組みとしてはPL効果を生む偏光板(直線偏光)と、それを円偏光に変換するための位相差板が重なっており、前枠の回転で効果を調節する。
現在PLフィルターとC-PLフィルターはほぼ同義だが、商品名としては分けられていることもあって「写真の先生にPLフィルターを買ってくるように言われたが、お店にはC-PLフィルターしかない」という質問がマルミにも寄せられることが多いそうだ。この場合、C-PLフィルターを買って問題ない。
豆知識として補足すると、もともと偏光板のみで直線偏光していたPLフィルターが、のちに普及してきたAF一眼レフではAFセンサーの誤作動などの不都合を生じたため、それに対応する形で位相差板を組み合わせたのが円偏光フィルター。それが現在では一般化しているというわけだ。
外径や表面が整えられたフィルターガラスは、トレーが上下する洗浄槽に入れられたあと、枠への組み込みへと進む。洗浄槽の様子は、カメラの交換レンズを作っている工場のそれと似ていた。
フィルターの枠には、メーカーロゴや製品名がシルクスクリーン印刷されている。1枚ずつ人の手で印字され、擦れても文字が消えないように処理されているとは驚きだった。
TIPS:やっぱり光学ガラスがベストなの?
シンプルに考えて、フィルターに用いられるガラスも、カメラのレンズに使われるグレードの光学ガラスが最高というイメージを持つのではないだろうか。マルミはハイグレードなEXUSやSOLIDにも光学ガラスを使っていないという点が気になったが、透過率測定の機材とデータを見せてもらって認識が改まった。
光学ガラス(BK7)もEXUSに使われているガラス(B270)も、マルミでコーティングした後はほとんど透過率に差が出ていなかった。厳密に見ると光学ガラスのほうが脈理(内部の不均質)が少ないなどの強みはあるが、コストまで考えるとB270がとてもよい選択なのだという。
例えば「ぜひ光学ガラスで作ってほしい」というオーダーを受けた時でも、こうしてテストデータとコストを示しながら説明すると「やはりB270で」と発注主が考え直すケースは少なくないそうだ。
SOLIDは強化処理ができるようにショットのセンセーションという硝材を使っているが、こちらも透過率は高く、反射率はEXUSレンズプロテクトが0.3%以下、SOLIDが0.2%(それぞれ片面)としている。高強度を実現するために既存のEXUSから妥協したポイントは一つもないとのことで、そのぶん他より高価なのは否定できないけれど、確かに妥協は感じられない。
TIPS:保護フィルターにも寿命はあるの?
PLフィルターが消耗品なのは認知されてきたが、では保護フィルター(レンズプロテクト)はどうだろうか。保護フィルターはPLに比べて光学性能の劣化こそないものの、こちらも過酷なメンテナンスをしていると撥水・防汚コートの効果が落ちてくるため、小傷が付きやすくなるという。コーティングを傷めないことが大切だ。
例えば外で撮影していてちょっとした汚れや水滴が付着した場合、衣服の裾などでサッと拭き取ってしまうのは、筆者を含め、心当たりのある方が多いだろう。もちろん現場では細かいことを言っていられないシーンもあるが、もしゴミや砂粒などが付着している状態で拭くと、コーティングに傷が入ってしまう可能性がある。
とにかく、使った後など汚れを見つけた段階で早めに掃除するのが長持ちのコツだそうだ。放置すると汚れは落ちにくくなり、強く拭くことになり、これもコーティングを傷める原因となる。