新製品レビュー

EOS M5(外観・機能編)

全方位で機能向上!一眼レフのサブ機にも違和感なく

EF-M18-150mm F3.5-6.3 IS STMを装着(以下同)

主要カメラメーカーとしては最後発の2012年9月に参入したキヤノン初のミラーレスカメラEOS M。変化の速いミラーレスカメラ市場において一桁機としては早くも4代目にあたるのが今回紹介するEOS M5だ。

これまで「サブ機」や「入門機」としてのイメージか強かったEOS Mシリーズだが、EOS M5では待望のデュアルピクセルCMOS搭載、DIGIC 7など主要機能が刷新され、外観面でもEVF標準搭載、ボタンやダイヤルの操作性向上、ホールド感が増したグリップなど本気のフルリニューアルが行われた意欲的な機種になる。

そんなEOS M5を「外観・機能」と「実写」の2回に分けて紹介していきたい。今回は外観と機能についてお伝えする。

デザイン

外観上のトピックは内蔵EVF、ホールド感が増したグリップ、ボタンとダイヤル類の増加の3つだ。多くの機能が搭載されたことからサイズは先代のEOS M3と比べると全体的に一回り大きく、重さも約61g増した約427gだ。

かなり大きくなった印象だが、ホールド性がアップしているため重量の増加は気にしなくても良いだろう。またEOS入門機のKiss X8iと比べればサイズ、重さともに大幅に小さい。

価格帯が中級機のもののためメインの部材はプラスチックが多いがガンメタリックな塗装が施され質感は悪くない。これまでのEOS Mと比べると全体的にシャープで精悍さを増したデザインに仕上がっている。

ホールディング性

ボディが一回り大きくなったことにより、グリップもより深く握りやすくなっている。私はやや手が大きいのだが、EOS M3からは握った瞬間にわかるくらい手への収まりが良い。グリップの深さだけでなく背面のサムグリップの位置も良く片手だけでも十分にホールドできる。

EOS MシリーズはマウントアダプターEF-EOS Mを使うことで豊富なEFレンズ群を使えることも魅力だ。これだけしっかりしたグリップなら、EF-Mレンズに比べて重いEFレンズでもバランスを崩さずに使用できるだろう。

ボタン類

ボディ上面のボタン配置や数はEOS M3と比べて大きく変わっており、より操作性が向上している。

上面の右側操作部は従来どおりシャッターボタン、メイン電子ダイヤル、露出補正ダイヤル、マルチファンクションボタンが配置され、さらにダイヤルファンクションボタン、サブ電子ダイヤルが新設されたことがポイントだ。ここだけで撮影に関する殆どの設定を変更できる。従来のモードダイヤルは左側に移った。ダイヤル類はどれもローレット加工が施され指への馴染みも良い。

注目のダイヤルファンクションボタンはサブ電子ダイヤルとセットになっている機構だ。中央のダイヤルファンクションボタン(DIAL FUNC.)にはホワイトバランスやISO感度、ドライブモードなど複数の設定項目をカスタマイズして登録しておき、サブ電子ダイヤルで設定値を変えられる。

ダブルアクションで多くの設定項目を変えられる便利なボタンなので、よく使う機能を事前に登録しておきたい。ただ、位置的に親指からやや遠い位置にあるためスムーズに操作するためにはやや慣れが必要かも知れない。

上面左側にはモードダイヤルと電源スイッチが移動し、一眼レフのEOSと同じような配置となっている。従来左側にあった内蔵ストロボは中央に移動しEVFと一体化している。

背面右側のボタン配置も大きく換わっており、EOS M3ユーザーは少し戸惑うかもしれないがこちらも一眼レフEOSを意識した配置に変わっている。EOSユーザならすんなり受け入れられるはずだ。ボタン、ダイヤルの数は変わっていない。

正面のマウント左側にもボタンが新設されているのもポイントだ。EOSの絞り込みボタンと同じ位置にあり、初期設定ではタッチ&ドラッグAF切り換えボタンとなっているが、カスタマイズで変更が可能。個人的には使用頻度が高く、ここにONE SHOTとSERVOのAF切換を当て使うのがお気に入りだ。

撮像素子

撮像素子にはEOS Mシリーズでは初となる待望のデュアルピクセルCMOSセンサーが搭載された。サイズはAPS-C相当となる。画素数はEOS M3と同じく約2,420万画素だが、画面の上下左右80%という広い領域で高速な位相差AFを使えることがポイントだ(EOS M3までは位相差AFとコントラストAFのハイブリッド)。

画像処理エンジンには最新のDIGIC 7が搭載されている。ミラーレス機は撮像素子で受け取った光の情報からAFや撮像を行うためそれを処理するエンジンによってカメラの性能が大きく左右される。DIGIC 7ではDIGIC 6よりも処理能力が大きく向上し、画質の向上はもちろん、カメラのレスポンスの向上や省電力化による電池持ちの改善にも寄与する。

設定可能サイズはL:約2,400万画素(6,000×4,000)、M:約1,060万画素(3,984×2,656)、S1:約590万画素(2,976×1,984)、S2:約380万画素(2,400×1,600)の4種類で、RAWと組み合わせることも可能。RAWは2,400万画素の1種類のみとなる。

DIGIC 7の搭載で、ノイズリダクション時に扱う情報量がDIGIC 6対比で14倍にもなり、高感度撮影時でもよりノイズを抑えられる。そのため最高ISO感度はEOS M3対比で1段向上しISO25600となった。ISOオート時の上限ISO感度もISO25600まで設定できる。

感度設定のメニュー
ISOオート設定のメニュー

AFシステム

撮像素子がデュアルピクセルCMOSとなったことでAFは高速なデュアルピクセルCMOS AFを使用できるようになった。デュアルピクセルCMOSはすべての画素が撮像と位相差AFの2つの役割を持つキヤノン独自のセンサー。一眼レフの位相差AF可能領域に比べれば圧倒的に広い範囲だ。測距点は最大49点となる。

EOS M5からはスムーズゾーンAFも新たに搭載された。1点AFの測距点9個ぶんの測距エリアを使いながらAFを使用できる。EOSのグループAFや領域拡大AFに似た機能だ。動きが予測しづらく1点AFでは追い切れないような被写体に効果的だ。

AF機能でもう1つ大きな変更点はタッチ&ドラッグAFが新搭載されたことだ。最近のカメラは測距可能エリアも広く、測距点も数十点あることが普通になってきたが、それに伴い測距点を任意のポイントに素早く移動することが難しくなるというデメリットがあった。それを解消するのがタッチ&ドラッグAFだ。

タッチ&ドラッグAFでは、EVF使用時に背面の液晶モニターを親指でドラッグすることで測距点をグリグリと直感的に移動することができる。EOS上級機に搭載されたジョイスティック状のマルチコントローラーに似た感覚で扱えて非常に便利だ。

初期設定ではOFFになっているためぜひONに切り換えて使いたい。背面モニターのタッチ反応エリアも細かく決められる。マルチコントローラー的に使いたければ「相対」「右」の設定がおすすめだ。

タッチ&ドラッグAF設定のメニュー
位置指定方法設定のメニュー
タッチ領域設定のメニュー

連写機能

連写機能もEOS M3から大きく向上している。ワンショットAF時では約9コマ/秒、サーボAF時で約7コマ/秒と通常の撮影ではまったく不自由しない十分な連写可能枚数だ。

連続撮影可能枚数もEOS M3ではRAWでたった5枚だったところが、RAWで約17枚と大幅に向上しており心強い。

EVF

外観で一番大きな変化がEVFを内蔵したことだろう。これにより攻めのファインダースタイルと気軽なライブビュースタイルを好きな時に切り換えて使える。

搭載されるEVFは約236万ドットの有機ELできめ細かく鮮やかな発色だ。アイポイントは一眼レフカメラと同等の22mmありメガネをかけていても画面端まで見渡せる。操作系が充実したこともありファインダーから目を離さずに集中して撮影できる点が嬉しい。

ただ、有機ELと液晶では発色やコントラストが異なることもあり、初めての場合は背面液晶モニターとEVFの見え方が異なって少し困惑することがあるかも知れない。

液晶モニター

背面の液晶モニターはタッチパネル式の約162万ドットでEOS M3の3.0型から3.2型へとやや大型化された。

M3との違いはチルト方向で、EVFが搭載され上面が盛り上がっているため下方向に180度チルトできるようになっている(M3は上180度)。上方向にも85度チルトできるため地面スレスレからのローポジション撮影にも便利だ。

撮影時の画面

端子類

端子はボディの左右に2カ所設置されており、右側にはHDMI-micro(タイプD)の小型HDMI出力端子を備える。

左側にはMicro-USB、マイク入力端子(3.5mmステレオミニ)、レリーズ端子(E3端子)を備えている。レリーズ端子はEOS Mでは初搭載となり三脚撮影が多い人には嬉しいポイントだろう。EOS Kissシリーズなどで使われるRS-60E3に対応する。

記録メディアスロットとバッテリー室

記録メディアはSDカードで、UHS-Iに対応する。使用バッテリーは従来と同じくLP-E17でバッテリー室とカードスロットはセットになっている。

DIGIC 7でプロセッサーの省電力化を実現したことにより撮影可能枚数は約295枚とEOS M3の約250枚より伸びていることにも注目だ。ミラーレス機はどうしてもバッテリー消耗が激しいため電池持ちが改善したことは嬉しい。

充電器

通信機能

通信機能では従来のWi-Fiに加えてBluetooth(Bluetooth Low Energy)にも対応。Wi-Fiに比べて大幅に消費電力が少なくて済むBluetoothに対応したことでスマートフォンとカメラの常時接続が可能になった。

スマートフォンとのBluetooth接続時には専用のアプリCamera Connectを使うことでワイヤレスリモコンとして使える。現場で急にリモコン撮影したいときでも安心だ。

Camera Connectを起動させたところ
リモート撮影時
リモート再生時

Camera Connectを使うことでリモートライブビュー撮影や画像の転送なども行えるが、これらの機能はWi-Fi接続に切り換える必要がある。

まとめ

冒頭でも述べたようにEOS M5は従来のEOS Mシリーズからは全方位で機能向上が見られ、充実の機能を有する本格的な仕上がりとなった。AFや画像処理エンジンが大きく強化されたことで、今まで不得意だった動体撮影にも十分対応可能だ。

価格は大手量販店でボディが税込11万円程度と中級機的な位置づけで、性能から見れば納得感のある値付けかと感じる。本気で撮影するにはEF-Mレンズ群のラインナップが少し弱い(明るいレンズが少ない)気もするが、十分第一線で活躍するポテンシャルを秘めたカメラだろう。一眼レフのサブ機として使用する場合でも違和感なく使えるはずだ。

先日ほぼ同じ性能を持ちながらEVFを持たないEOS M6も発表されたが、主な違いは内蔵EVFの有無、タッチ&ドラッグAFの有無、ボタンの数となる。撮像素子や画像処理エンジンは同等なため得られる絵は同程度であると予想されるが、タッチ&ドラッグAFが省力されたこともあり動体撮影能力や速写性はEOS M5が一歩上をゆく。攻めの撮影をしたい人にはEOS M5がおすすめだ。

次回は、EOS M5を使った実写を通してレビューをお届けします。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催