新製品レビュー

ニコンD5600

新搭載したSnapBridgeの使い勝手は?

2016年11月に発売されたニコンのD5600は、有効約2,416万画素のDXフォーマット(APS-Cサイズ)CMOSセンサーを搭載するデジタル一眼レフカメラだ。

本機を含むD5000番台シリーズとD3000番台シリーズは普段使いに便利な小型軽量をコンセプトとしているのが大きな特徴。下位機種であるD3400よりはワンランク上の本格的な立ち位置で、なおかつ兄弟機であるD5500に最新機能をプラスして登場したのが、今回紹介するD5600である。

スマホに写真を自動転送

D5600の、D5500と大きく異なる特長が「SnapBridge」を新搭載したことである。SnapBridgeは、カメラとスマートフォン/タブレット端末をリンクさせるアプリの名称なので、正確に言えばD5600はそのSnapBridgeに対応したということになる。

一度設定するだけでカメラとスマートフォンが消費電力の少ないBluetooth Low Energyで常時接続できるため、カメラのシャッターを切るたびに撮った写真をスマートフォンに自動転送してくれる。このため、撮影したお気に入りの写真をSNSやメールを活用して、すぐに家族や友達とシェアして楽しむことができるというわけだ。

D5600とスマートフォン/タブレット端末を接続する方法は極めて簡単。「セットアップメニュー」の「スマートフォンと接続」を選択するだけで、あとは背面モニターに表示される指示に従ってわずかな手順を踏むだけでいい。

もちろん事前に、所有するスマートフォン/タブレットにSnapBridgeアプリをインストールしておく必要があるためそこは注意して欲しい。

「セットアップメニュー」の「スマートフォンと接続」を選択すると以下の画面が表示されるので、「OK」ボタンを押す。

所有するスマートフォンがNFC搭載機種の場合は、カメラ側のNFCマークとスマートフォン側のNFCマークを合わせるだけで自動的に接続が始まり、あっという間に完了してしまう。

NFCマークは本体右手側にある。

NFC非搭載のスマートフォンと接続する場合でも、やはり画面の指示に従って、画面上に表示される該当のカメラ(つまり自分のD5600)を選択するだけでよい。いずれにしても最初の接続操作は非常に簡単で、以降は自動で接続してくれるので操作上迷うようなことはほとんどない。まさに、習うより慣れろ、と言ったところだろう。

Bluetooth接続が一度完了すれば、あとはカメラのシャッターを押すたびに自動でスマートフォンに画像が送信される。送信中であることはSnapBridgeアプリを開けばリアルタイムで状況を把握できるが、スマートフォンの電源を切っていない限り全て自動で送信が行われるため、特に意識をする必要すらない。「気づいたらスマホに撮った画像が送られていた」というレベルの便利さである。

ちなみに、SnapBridgeアプリの初期設定では、はじめから自動転送が選択されているが、接続設定を撮影状況にあわせて変更することももちろん可能である。また、初期設定では送信サイズが2Mとなっているが、カメラで撮影したオリジナルサイズを指定することも可能(ただし、容量が大きく時間もかかるため通常はオススメしない)。

SnapBridgeの自動転送によってスマートフォンに撮影した画像が転送された状態。

SnapBridgeは、撮影画像の自動転送だけでなく「リモート撮影」や「お好み画像転送」も可能である。その場合は、Bluetooth接続でなくWi-Fi接続となるが、必要なモードを選択すると同時に、これまた自動で接続の切り換え操作をしてくれる。本当に便利な機能である。

デザイン

D5600の大きさは、幅約124mm、高さ97mm、奥行き70mmとなっており、これはD5500と同じである。質量はD5500の約420g(本体のみ)に対して、約415g(本体のみ)と少しだけ軽くなっている。

強化プラスチックを用いたモノコック構造を採用したことで、デジタル一眼レフカメラとしては驚異的なスリムさを達成したD5500であったが、D5600においてもその長所が引き継がれている形だ。

どこにでも気軽に持ち歩ける小型軽量ボディながら、撮影中でも確かに感じることのできる強度を併せ持った、優れたデザインだと言えるだろう。ボディが薄い分だけグリップが深くなっており、シッカリとカメラをホールドすることができる点も好ましい。

撮像素子

撮像素子には、ニコンDXフォーマット(APS-Cサイズ)、有効約2,416万画素のCMOSセンサーが、画像処理エンジンにはEXPEED4が採用されている。これらの仕様はD5500と同様であり、特段の進化というわけではないが、高画素な撮像素子と最新の画像処理エンジンの連携によって、細部のディテールまで美しく詳細に再現できるという描写性能はキチンと引き継いでいる。

設定できる画像サイズは、「L」で2,400万画素(6,000×4,000)、「M」で約1,350万画素(4,496×3,000)、「S」で約600万画素(2,992×2,000)の3種類。RAWと組み合わせることも可能。RAWは2,400万画素の1種類のみとなる。

画質モードではJPEGの圧縮率(低圧縮で最も高画質な「FINE」以下、「NORM」、「BASIC」から選択可能)とともに、RAWとの組み合わせも可能である。また、RAW記録の設定は、ニコンのデジタルカメラらしく、12bit記録と14bit記録から選択できる。

設定可能な感度は常用でISO100~ISO25600(拡張感度は無し)と、こちらもD5500と同様である。「撮影メニュー」の「ISO感度設定」では、目的のISO感度を選択できる他、感度自動制御のON/OFF、自動制御時の上限/下限感度も設定可能だ。

ただ、ISO感度を設定するだけなら、ボディ前面上部左側にあるFnボタンを押しながら、コマンドダイヤルを回して選んだ方が早く快適である。

または、ボディ背面のiボタンを押して(あるいは画像モニター右下のiアイコンをタッチして)、「ISO感度」を呼び出す方法も便利である。感度の選択はタッチ操作で可能だ。

AFシステム

AFポイントは39点、画面の広範囲をカバーしているため、複雑に動く被写体でもよく捕捉する。また、中央9点はクロスタイプセンサーを採用しており、より確実に精度の高いピント合わせが可能となっている。

AFシステムでトピックと言えるのが、D5500で好評だったタッチFn機能をD5600も引き続き搭載している点だ。

ファンクション設定なので様々な機能を割り当てることができるのであるが、このうち「フォーカスポイント移動」を選択した場合、ファインダーをのぞいた状態でも画像モニター上で親指をスライドさせるだけで、自在にAFポイントを移動することができる。使ってみると予想以上に便利なので是非試してもらいたい。

像面位相差やデュアルピクセルのAFセンサーを備えていないため、ライブビュー時にはコントラストAFとなるのであるが、信号の処理技術が高いためだろうか、実際に使ってみるとライブビューAFもスムーズで快適に操作することができる。

D5600は、直感的で優れたなタッチ操作や、専用のライブビュースイッチ(ぜひ上位機種にも採用して欲しい)を備えていることが特徴のカメラでもある。それらD5600ならではともいえる機能と併用すれば、十分以上に実用性を感じることができるだろう。

連写機能

連写速度は最高約5コマ/秒となっており、このクラスのデジタル一眼レフカメラとしては標準的と言えるだろう。連続撮影は最大100コマまで可能なので、動く被写体を撮影し続け、その中から最適な1コマを選ぶといった使い方ができる。

高速連写/連続撮影はJPEG撮影時、RAW撮影時とも、同等のスピードと枚数を撮影できるが、RAW記録の設定をデータ量の大きな14bitにした場合は、連写速度が最大4コマ/秒となるので注意したい。

1コマ撮影や連続撮影などの選択を行うレリーズモードはメニューからの設定も可能であるが、ボディ前面左側下方にある専用ボタンを押すことでより簡単に設定することができる。

ファインダー

D5600はデジタル一眼レフカメラなので、当然、光学式のファインダーを搭載している。倍率約0.82倍、視野率約95%と、上位機種に比べるとやや窮屈な見栄具合ではあるものの、ミラーレスカメラに比べると、遅延のない自然な見え具合が確保されていることは依然事実である。

背面モニターによるライブビュー撮影に慣れている人もいるかもしれないが、せっかくの一眼レフカメラなので特に連写撮影などの時には積極的に活用した方がよい。

ファインダー上部にはアイセンサーが備えられているため、ファインダーに目を近づけると画像モニターの表示はOFFになる。ファインダー撮影時のタッチパネルの誤動作を防ぐことができるので便利だ。

液晶モニター

3.2型の画像モニターは約104万ドットのTFT液晶。バリアングルモニターなのでカメラを頭上に構えてのハイアングル撮影や、地面すれすれでカメラを構えるローアングル撮影も容易。様々な角度の写真に挑戦することができ、自由に構図を作ることができる。

また、先にも述べている通り、状況に応じて様々な操作を直感的にこなせる優れたタッチ機能を搭載しているため、バリアングルモニター活用時の操作性は非常に良好なものとなっている。

端子類

ボディ左側面の端子カバー内には、上からアクセサリーターミナル、外部マイク入力端子、USB端子が備えられている。

アクセサリーターミナルはリモートコントローラーやGPSユニットなど別売り外部アクセサリーを接続するための端子である。USB端子はそのままUSBケーブルを接続するための端子であるが、これも別売であるため、PCやプリンターと接続する必要がある場合には、別途用意する必要がある。

記録メディアスロットとバッテリー室

ボディ右側面には下側にSDカードスロット、上側にHDMI端子を備えている。記録メディアは、SDメモリーカード、SDHCメモリーカード、SDXCメモリーカード(SDHCメモリーカード、SDXCメモリーカードはUHS-I規格に対応)に対応。

バッテリー室はボディ底面に独立して装備されている。

電池はリチウムイオン充電池「EN-EL14a」を1個使用。バッテリーチャージャー「MH-24」を使用して充電する。撮影可能コマ数(電池寿命)はCIPA規格準拠で約970コマとなっている。同クラスのデジタルカメラの中では大変優れた低消費電力である。

充電器のアップ

ダイナミックレンジ

有効約2,416万画素のCMOSセンサーを搭載しているため解像感に不満がでることはい。しかし、FXフォーマット(35mm判フルサイズ)に比べるとサイズの小さいDXフォーマットを採用している分、ダイナミックレンジが狭くなり白とびや黒つぶれの発生が懸念される。

実写はシンガポールで日中に行った。日差しが強いため、日向と日陰の輝度差はかなり大きい状態であったが、雲の白からヤシの木の影まで明暗の変化を滑らかに表現して、ディテール豊かな画像に仕上がっている。搭載された撮像素子と画像処理エンジンEXPEED4の性能、またその連携により高度な画像処理の賜物であろう。

ダイナミックレンジに関しては、日常の記念撮影から作品作りまで対応できる、十分な能力をもっていると言える。

AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR / 1/1,000秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm / アクティブD-ライティング:デフォルト

高感度

感度を上げて撮影した場合の画質はどのようなものだろうか。基準感度となるISO100から4段分高いISO1600と、6段分高いISO6400に設定して実写を試みた。

ISO1600で撮影した場合、粒子状の粒々(輝度ノイズ)が多少みられるが、色ノイズの発生はほとんど確認できない。画像を拡大すると、さすがに低感度よりもシャープネスやディテールが失われていることがわかるが、自然風景を詳細かつ繊細に大きなプリントで表現したい、と言った場合でもなければ一般的な撮影において全く問題のない画質を維持している。

AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR / 1/500秒 / F4.8 / +0.7EV / ISO1600 / シャッター優先AE / 105mm

ISO6400で撮影した場合、輝度ノイズはさらに目立つようになり、被写体の質感はISO1600時よりさらに後退。夜空などの暗部ではいくらかの色ノイズも確認することができる。しかし、その場合においても画質の劣化を明らかに確認できるのは画像を確認した場合であり、ひと昔前のISO6400と比べると格段に高い高感度特性が達成されていると言ってよい。

AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR / 1/4秒 / F8 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / 18mm

ISO6400より高感度となるISO12800やISO25600でも画像が著しく破綻するということはなかった。プリントサイズなど使用目的に注意すれば、D5600のISO設定範囲であるISO100~ISO25600は、いずれもが実用的な常用域であり、ISOオートの上限設定も安心して従来より高く設定できる。

高感度特性はそのままダイナミックレンジの性能によるため、この高い高感度耐性は上記のダイナミックレンジの実写結果を再確認するものとなった。

AF性能

動物園を歩き回るチーターを、レリーズモード「高速連続撮影(最高5コマ/秒)」ドライブモード「AF-C」、AFエリアモード「ダイナミックAF(39点)」で連写してみた。走っているわけでないとはいえ想像以上に速く複雑に動く被写体であったが、AFは常に被写体を捕捉し続け、10枚以上撮影した連続カットはほぼ全て的確にピントを決めてくれた。

AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR / 1/500秒 / F5 / +0.3EV / ISO800 / シャッター優先AE / 150mm

D5600で想定される動体撮影の被写体、例えば、運動会で走る子供やステージ上での演技などであれば、全く問題のないAF性能を有していると言える。

作品

超広角ズームレンズDX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G EDを使い、スイレンの上に近代的なビル群が浮いているかのような構図を作ってみた。バリアングル液晶モニターを展開した上でカメラを花に近づけ、タッチシャッターで撮影している。不安定な姿勢での撮影となったが、D5600の小ささと軽さに助けられた。

AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR / 1/500秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 18mm

上の作例と同様、ライブビューを利用してカメラを被写体に近づけて撮影しているが、こちらは望遠ズームレンズAF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VRでの撮影。軽く小さなボディはつくづく便利だと思いう。ホワイトバランスやアクティブD-ライティングは全て初期設定の「オート」であるが、発色やコントラストなどの画作りは満足できるレベルに仕上げてくれている。

AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR / 1/60秒 / F6.3 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 220mm

フラミンゴの群をスペシャルエフェクト「極彩色」で撮ってみた。実際には黒ずんだ水面と冴えない緑であったが、エフェクトの効果によって色とコントラストが強調されフラミンゴの存在感がより鮮明になった。気軽さがウリのD5600だけに、こうしたエフェクト効果も積極的に楽しみたくなる。

AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR / 1/400秒 / F10 / 0EV / ISO400 / 122mm

街を歩いてまわったスナップ撮影のうちの1枚。何ということもない民家の壁であるが、年季の入った微妙な質感をうまく表現してくれている。±0.3EVの露出ブラケットで撮影した3枚のうちから選んでいるが、結局は補正なしの露出が適正であった。自動露出の制御も高精度である。

AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR / 1/320秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 24mm

ローアングルで猫に近づいて撮影。細かな毛やヒゲの1本1本を詳細に写しながら、同時に柔らかな質感まで表現してくれるので嬉しくなる。SnapBridgeでスマートフォンに自動転送していたので、その場でSNSにアップしたかったが、ここに掲載するために堪えた。

AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR / 1/400秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 50mm

まとめ

軽く小さなレンズ交換式デジタルカメラといえばミラーレスカメラというのが昨今の常識になりつつあるが、ニコンでミラーレスカメラとなると1型センサーを搭載するNikon 1シリーズということになり、よりセンサーサイズの大きなDXフォーマットの設定がない。

その点、D5600はデジタル一眼レフカメラながら、軽快な大きさで高画質なカメラが欲しいという要望に上手く応えた製品であると言えるだろう。モノコック構造を採用することでボリュームを抑えることに成功しながら、一眼レフカメラらしいホールディング性能のよさと光学式ファインダーの自然な見え具合を併せ持っている。

タッチ操作を最大限に活用することで、オート撮影だけでなく上級者向けの凝った操作も扱いやすくしている点は非常に秀逸。この大きさで膨大なラインナップのFマウント・ニッコールレンズをアダプターなしで使えるのだから素晴らしい。

前述の通り、兄弟機のD5500との違いはほぼSnapBridgeに対応しているかどうかだけの違いであるが、スマートフォンなどでSNSを利用している人にとってはそれが決定的な差となるだろう。バッテリー消費をあまり気にすることなく、撮影した画像が次々に自動転送されてくる機能は、旅行などで圧倒的な便利さを感じさせてくれる。

SnapBridgeだけに魅力を感じるのであれば、下位機種のD3400をチョイスするという手もあるが、より高度なカメラ機能で撮影する楽しさも同時に欲しいというなら、迷うことなくD5600をオススメしたい。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。