ミニレポート
新しくなったズミクロン35mmをチェック
(ライカM)
Reported by藤井智弘(2016/5/9 08:00)
2016年1月、ライカカメラ社からライカMレンズ3本のリニューアルが発表された。「SUMMICRON-M F2/35mm ASPH.」、「SUMMICRON-M F2/28mm ASPH.」、「ELMARIT-M F2.8/28mm ASPH.」だ。どれも名前は変わっていないが、旧モデルと比べて描写性能が向上しているとのこと。さらにレンズフードは、これまですべてプラスチック製のスプリング固定式だったが、新モデルはすべて金属のねじ込み式に変わっている。
レンズ構成は、すべて旧モデルから変わっていない。唯一、SUMMICRON-M F2/35mm ASPH.は見てわかる変更点が多く、絞り羽根の枚数が9枚から11枚に増えていたり、旧モデルでは真鍮製だったシルバーカラーの鏡筒も、ブラックカラーの鏡筒と同様にアルミのアルマイト仕上げになり軽量化されている。その新型SUMMICORN-M F2/35mm ASPH.が、縁があって私のところにやってきた。
SUMMICRON 35mmはライカの35mmレンズの中で最も歴史が長く、SUMMICRON 50mmと共にライカMシステムの定番レンズとして多くの写真家に愛用されてきた。F1.4の明るさを持つSUMMILUX 35mmは非球面レンズを採用するまで絞り開放において柔らかな写りで、好みの分かれるレンズだった。だがSUMMICRON 35mmは絞りを開けても絞っても安定した描写を持つのが特徴。特に報道やスナップ派に高い人気を得ていた。
初代が登場したのは1958年。いわゆる「8枚玉」と呼ばれる6群8枚構成のモデルで人気が高く、現在も中古市場では高値で取り引きされている。2代目は1969年に登場した4群6枚構成の通称「6枚玉」だ。当初は絞り値をレバーで設定していたが、使いづらいという声から一般的なリング式にモデルチェンジされている。レンズフードは先端がすぼまったライカらしい形を持つ12504や、50mmレンズと共通の12585を使用する。
3代目の登場は1980年。レンズ構成は5群7枚の「7枚玉」。ここからレンズフードがプラスチックの角型になる。そして1997年に登場した4代目が、非球面レンズを採用したSUMMICRON-M F2/35mm ASPH.。2006年にデジタルのライカM8が登場したことで、マウント部分に6bitコードが追加されたが、それ以外はこれまで20年近く変わらないでいた。
新しくなった外観、絞り羽根の違いをチェック
新型SUMMICRON-M F2/35mm ASPH.は、レンズケースを開けるとすでにフードとフードキャップが装着された状態で入っている。レンズを取り出して、ケース底のクッションをひとつ外すとレンズキャップが、さらにもうひとつクッションを外すと保護リングが現れる。
最近のM用の広角レンズは、多くがねじ込み式の角型メタルフードを採用している。この新型ASPH.も、それに沿った形だ。7枚玉や旧ASPH.のプラスチックフードに見慣れた目には新鮮に感じる。
レンズ構成は旧ASPH.と同じ5群7枚。絞り羽根の枚数が増えて、写りはどう変わったのだろうか、最も気になるところだ。実は担当編集S氏が旧ASPH.を所有しているので、借りて新ASPH.と比べてみた。
編集S氏の旧ASPH.はシルバー。真鍮製の鏡筒は手にするとずっしり重い。アルミ鏡筒のブラックが255gなのに対し、シルバーは340gもある。そして新ASPH.はシルバーもアルミ製になり、重さも257gで共通だ(フード除く)。フォーカスレバーや絞りリングの位置は新旧同じなので、重さやフード以外の使用感は変わらない。
絞り開放から最小絞りまで、1段ずつ変えながら撮り比べてみた。解像力をはじめとする描写の傾向は、旧モデルも新モデルもほとんど同じ。画面周辺部の写りもほぼ同じ。しかし、やはりボケは異なり、旧ASPH.がF2.8~F8では丸いボケにならず、角があるボケだ。新ASPH.は真円にはならないものの、かなり丸に近い。やはり新型の方が自然なボケ味だ。
ボケの違いをチェック
ピントは最短70cmに固定。絞り開放では、旧ASPH.も新ASPH.も見分けがつかないほど似た写りだ。F2.8から背景のボケの形に差が出てくる。特にF4からF8までは、新ASPH.の方がボケが丸に近い。旧ASPH.のボケは硬い印象で、新ASPH.は柔らかさを感じるボケだ。F11以降はボケが小さくなるため、ほぼ同じ印象になる。かつてはボケ味を意識するのは日本人だけといわれていて、「ボケ」は「bokeh」として世界共通語だ。しかし新ASPH.の写りを見ると、現在はドイツ人もボケ味を意識しているように感じる。
新型は旧ASPH.の基本性能を踏襲しながら、ブラックとシルバーの仕様共通化と、レンズフードの変更、そして絞り羽根の変更によるボケ味の向上が図られたレンズ、といえるだろう。
ソリッドになったレンズフード
描写以外の注目点が新しいレンズフードだ。独ライカカメラAGのレンズ担当者によると、スプリング式のプラスチック製フードから、ねじ込み式のメタルフードへの変更が、今回のモデルチェンジの大きな狙いだったようである。ある販売店で聞いた話しによると、旧ASPH.のスプリング式角形フードはストラップなどを引っかけて外れてしまいやすいという声もあり、紛失したユーザーは同じスプリング式でも丸型メタル製の12504を買い直す人が多かったとのこと。そこで取り付けをねじ込み式に変更して外れにくくすると共に、他の広角系レンズと素材やデザインを共通化したようだ。
作品集
神社の入り口に設置された屋台。屋台の赤や黄色、オレンジと、空の青が目に入ってレンズを向けた。F1.4のSUMMILUXよりコンパクトなF2のSUMMICRONは、軽快なスナップが楽しめる。
赤いトタンの壁に電柱の影が映る。35mmの画角は、光景を見たときの印象をそのまま写すのに向いている。SUMMICRON-M F2/35mm ASPH.は、基本レンズ構成が20年近く続いているとは思えないほどシャープな描写をする。
ライカのレンズは逆光でもフレアやゴーストが出にくい。これも木製の壁に光が反射しているが、クリアでコントラストが高い描写だ。また絞りをF4にして背景をボカしている。ボケ味は自然だ。
最短70cmまで寄った。植物が素直にボケているため、違和感のない写真に仕上がった。
ピントを合わせた葉の質感の高さと、背景のボケ味に注目。ボケがほぼ丸になっているのは、絞り羽根が増えた新型の証だ。
夕暮れに階段を降りる二人の影。とっさにカメラを構えたが、SUMMICON-M F2/35mm ASPH.の機動力の高さでしっかり撮ることができた。
SUMMILUXのF1.4にはかなわないものの、F2でも暗い場所には強く、ボケも楽しめる。SUMMICRONは明るさと大きさ、重さのバランスに優れたレンズだ。
木目を見ると、解像力の高さがわかる。歴代SUMMICRON 35mmは、絞りを開けても絞っても安定した写りで高い人気を誇ってきた。新SUMMICRON-M F2/35mmの写りも、SUMMICRON 35mmの伝統を受け継ぎ、しかもボケ味が向上している。