交換レンズレビュー
ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
ボケも解像も文句なし オールマイティーに高画質を享受できる大口径広角レンズ
2025年6月29日 12:00
ニコンのNIKKOR Z F1.2シリーズとして3本目にあたる、「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」。既に50mmと85mmでF1.2が発売されていますが、新たに広角域の35mmが登場しました。
NIKKOR Zの35mm単焦点レンズとしては、これまで開放F値F1.8とF1.4の製品がありました。ここにより明るいF1.2が加わったことで、ユーザーの選択肢が広がりました。
ボケを強調した作品にはうってつけのレンズといえるので、スナップだけでなくポートレートやテーブルフォトなど活用範囲は広そうなレンズです。
外観・操作性
焦点距離35mmの単焦点レンズというとコンパクトなイメージがあるかもしれませんが、このレンズはF1.2の大口径ゆえに大きく、重さも約1,060gとそれなりにあります。その見た目に最初はぎょっとするかもしれません。
とはいえF1.2でしか得られない表現もあることですし、気軽に持ち歩くというよりは作品作りのために、しっかりと撮影に取り組む気にさせてくれるレンズといえるでしょう。それにZ8との重量バランスはそれほど悪くなく、手持ちで撮るのも苦にはなりませんでした。
ピントリングは幅が広く、程よい重みがあります。AF性能が高かったこともあり多用することはありませんでしたが、操作感を試すためにMFでも撮影してみました。リングの動きはスムーズで、ピントを合わせやすかったです。
AFは静かでスムーズです。F1.2でクローズアップ撮影をすると被写界深度が非常に浅くなりますが、それでもAFが迷うことなくすっと合ってくれるので、ストレスなく撮影が進みました。
特に近接撮影では最短撮影距離30cmと被写体にかなり寄れるため、F1.2での被写界深度は極めて浅くなります。その極薄の被写界深度でも、バッチリAFでピント合わせられるのは安心感がありました。
画質
Sレンズということで、遠・中・近距離のいずれにおいてもさすがの解像力。価格や重量に見合う、納得の画質といえます。
F1.2でしか得られない大きく柔らかなボケも美しく、シャープさとボケという、レンズに求められる両極の要素が高いレベルで詰め込まれている印象を受けました。シャープなピント面からボケへの移行が滑らかなので立体感があり、肉眼では得られない独特の世界を見せてくれます。
ナノクリスタルコートやアルネオコートといったコーティングが効いているのか、逆光でもフレアを感じさせないクリアな描写。色彩の美しさやコントラストも保たれています。ただし強い光源が入るときなどは、画面内にゴーストや光条が現れることも。といっても派手ではなく、作画に生かせる程度のものといえます。
作例
窓の外側からレースのカーテンを撮影しました。模様のポイントとなる部分にピントを合わせていますが、網目が細やかに描写され、なだらかにぼけていく様子がわかります。絞り開放から甘さのない、キレのある画質です。
順光でF8に絞っての撮影。中央部分の桜の描写もさることながら、画面隅である右下の幹の凹凸もシャープで、遠くの鉄塔も線がはっきりと見えています。コントラストの高さと抜けの良さも感じられます。
中距離の描写です。手前のユキヤナギにピントを合わせましたが、想像以上にシャープで驚きました。ひとつひとつが細かい花ですが、拡大すると、それぞれがそこにあるかのようにリアルに解像されています。
夕暮れ時で強い逆光の状況でしたが、太陽そのものは屋根で隠すように撮りました。太陽を入れたカットだと、若干ゴーストが現れています。しかしこれはこれで印象的な作画につかえそう。絞り込むことで光条を強く出しています。
太陽をわずかに隠すだけで、逆光の輝いた雰囲気を出しながらも綺麗な色彩を表現できました。
焦点距離35mmというとあまりぼかせないイメージがありますが、F1.2ならここまで大きなボケになりました。望遠レンズのような、被写体の輪郭がわからないほどの滑らかな前ボケが主役の花を包み込んでいます。それでいて背景の広さやボケ具合は望遠とは違う、独特な世界を作り出せます。
席に座った状態で程よいワーキングディスタンスが取れるため、35mmはテーブルフォトでは定番の画角です。これは、ピントが合うぎりぎりの距離、つまり最短撮影距離付近で撮影しました。絞り開放より少し絞ったF1.8ですが、ピント面はしっかりシャープでありながら、被写界深度が極めて浅いことがわかります。
まとめ
シャープな描写も美しいボケも、その素晴らしさが際立ちます。それでいてある程度のクローズアップも可能で、逆光にも強いというオールマイティーさも持ち合わせています。
レンズ自体はずっしりとしていますが、その重さの分、画質に絶対的な信頼を置けるので、「あとは自分が良い写真を撮るだけだ」という気持ちで撮影に臨めるのではないでしょうか。