新製品レビュー
SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art
周辺光量や歪曲収差が大幅低減 解像力もアップ
2017年2月10日 12:00
広角ズームレンズといえば、多くの人が16-35mmクラスを思い浮かべるのではないだろうか。この焦点域でもかなり広い風景を写し取ることが可能だが、シグマから発売された「SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art」はそれを遙かに上回る、視覚を超えた画角が得られる。
シグマは以前からこの焦点距離のズームレンズを発売している。初代は2003年に発売された12-24mm F4.5-5.6 EX DG Aspherical HSM、2代目は2011年に登場した12-24mm F4.5-5.6 II EX DG HSM、そして今回3代目のレンズとしてArtライン仕様の12-24mm F4 DG HSMが登場したのである。
発売日 | 2016年10月28日 |
実勢価格 | 17万9,000円前後 |
マウント | EF、F、SA |
最短撮影距離 | 0.24m(24mm時) |
フィルター | 装着不可 |
外形寸法 | 102×131.5mm(SA) |
重量 | 約1,150g(SA) |
初代、2代目のレンズと最も違うところは、開放F値が可変式からF4通しの固定式になったことだ。また、マウント部にはゴムのシーリングが施され、歴代のレンズにはなかった簡易防塵防滴構造となった点にも注目したい。
本体には色収差を低減させる特殊低分散ガラスをはじめ、レンズ前面に80mmという超大型のグラスモールド非球面レンズが採用され、各種収差やディストーションの発生などを抑制している。なお、このレンズに手ブレ補正機能は搭載されていない。
比較的手頃な価格で入手できた前モデルに対し、12-24mm F4 DG HSMの実勢価格は約18万円前後となり、スペックアップしたことで価格もアップしている。
デザインと操作性
ずんぐりとした個性的な外観を持つ12-24mm F4 DG HSM。その重力は約1,150gと、大口径望遠レンズに匹敵するような重さだ。見た目通りにレンズの前部が重いが、35mmフルサイズカメラに装着した時のバランスは意外と悪くない。
ただ、かなりの重量になるので長時間にわたる手持ち撮影では腕に負担がかかり、三脚を使った場合でもパイプ径の細い小型三脚に取り付けた時は、不安定な立て方をするとカメラごと前方へ倒れてしまう危険性がある。また、レンズを下に向けて写す時も注意したい。
外観は同社の他のArtラインレンズと同じく、高級感のある仕上げになっている。特にこのレンズの象徴ともいえる大きな前玉は、緩やかで美しいカーブを描いていて思わず見惚れてしまう。鏡筒部には撮影距離を表示する小窓とAF/MFの切り替えスイッチがついているだけなので、シンプルで洗練された印象を受ける。
ズームリングおよびピントリングはともに適度なトルク感があって、厳密なフレーミングやピント合わせがしやすい。AF速度も速く正確で、大手カメラメーカー純正のレンズと同じような感覚で撮影できる。
前述したように前玉が“出目金レンズ”と呼ばれる飛び出した形状になっているため、フィルターは装着できない。また、固定式の浅めのフードはあまり実用的ではないかもしれないが、前モデルでは太陽の光が少しでもレンズに当たると必ずと言っていいほどハッキリとしたゴーストが発生していたのに対し、12-24mm F4 DG HSMはこの点が大きく改善され、逆光時でもゴーストが発生しにくくなった。
そもそも、広い画角を写す超広角レンズではハレ切りをすること自体が難しいので、この進歩は非常にありがたい。また、前玉に施された撥水・防汚コートのおかげで、雨粒や水滴などが付いてもブロアーで簡単に吹き飛ばすことができる。
※2017年2月16日:記事初出時に掲載した作例は、カメラの「周辺光量補正」をONにして撮影していたため本来の描写とは異なっておりました。周辺光量補正が無効となるよう、全ての作例写真をRAWからストレート現像したJPEGに差し替えました。
周辺光量
日没後の空を絞り値を変えて撮影した。
同じ場面を2代目のレンズ、12-24mm F4.5-5.6 II DG HSMを使って写す。周辺光量落ちが激しく、タル型の歪曲収差がかなり目立つ。これらの画像と比べると12-24mm F4 DG HSMの描写性能の向上具合がよくわかる。
作品
巨木を見上げて写す。このような撮り方ができるのも超広角レンズならではだ。画面中央部の解像感は申し分ないが、周辺部では僅かに低下する。それと同時に若干の色滲みも発生している。
絞りを開放にして13mmで撮影。12mmスタートの超広角ズームレンズであることを考えれば、なかなかのボケ味だ。背景の丸ボケはさすがに楕円形となって写るが、滑らかな曲線で描写されている。
自然風景で歪曲収差が気になる場面といえば、海などを写した時だ。横位置で水平線を画面上部に配した作例のような構図にすると、レンズによっては収差が大きく目立つ。本レンズはワイド側でタル型、テレ側では糸巻き型の収差が発生するが、どちらもその程度はごく僅かでよく補正されている。
周辺光量は十分に確保されている。日中の風景であれば開放絞りのF4で撮影しても、周辺光量落ちはほとんど気にならない。
スイセンの花に迫って最短撮影距離で捉える。最短撮影距離は24cmだが(24mm時)、これはレンズのすぐ前に被写体があるような感覚だ。背景のボケ味も滑らかで美しい。
画面に直接太陽を入れた撮影では僅かにゴーストが発生するものの、その程度はごく僅かでほとんど気にならない。ゴーストの発生がかなり抑えられているのも、前モデルと比べて大きく変わった点である。
まとめ
12-24mm F4 DG HSMはF4通しのレンズに生まれ変わったことで、特にマニュアルモードで撮影する時の絞り値を変える煩わしさが無くなり、操作性が向上した。
さらに絞り開放時の画質の向上に伴って、ボケ味を活かした表現が楽しめるのも魅力のひとつになっている。前モデルと比べると価格は大きくアップしたが、それに見合った性能を持つレンズだといえるだろう。
一般的に16mm以下の超広角域の画角を持つレンズは撮影シーンを選ぶため、標準ズームレンズなどと比べるとその出番は少ないという人も多いだろう。しかし、そんな場面で12-24mm F4 DG HSMを使って撮影すると、他のレンズでは表現できないパンチ力のある描写が得られる。
一方、本レンズと同じような画角を持つレンズとして、キヤノンにEF11-24mm F4L USMがある。価格が40万円ほどのEF11-24mm F4L USMに対し、12-24mm F4 DG HSMは18万円前後と比較的入手しやすい。超広角レンズは焦点距離が1mm変わると画角が大きく変化するものの、この1mmの違いを取るか、価格を優先するかは自身の撮影スタイルと照らし合わせて考えたい。