交換レンズレビュー
EF11-24mm F4 L USM
周辺まで高い解像力の新世代ズーム
Reported by 伊達淳一(2015/4/1 09:00)
キヤノンEF11-22mm F4L USMは、世界最広角(魚眼レンズを除く)のフルサイズ対応超広角ズームだ。ワイド端11mmという焦点距離は、APS-Cフォーマットでも超広角の画角が得られるだけに、フルサイズフォーマットで使用したときの画角の広さはちょっと想像できないかもしれないが、焦点距離16mmで縦位置撮影した写真を2枚横に繋ぎ合わせたものよりも、このズームのワイド端11mmで撮影したほうが広い範囲を写せるという。
つまり、これまではスティッチ処理しないと再現できない広い範囲を、このズームを使えばワンショットで撮影できるのだ。
ただし、外観写真を見てわかるように、前玉が大きく突出していて、保護フィルターやPLフィルターの類いは一切装着できない“出目金レンズ”だ。重量は約1,180gで、超広角ズームとしてはかなりヘビー級のレンズで、EF16-35mm F2.8L II USMの約2倍に相当。外形寸法も108mm×132mmと径も太めだが、径が太いのはフード周りの前玉部分のみで、フォーカスリングやズームリングはギュッと径が絞られているので、数値よりは小さく感じられるデザインだ。
メーカー希望小売価格は税別で45万円。開放F4という明るさを考えると、いくら世界最広角のレンズといえ、割高感は拭えないところだが、一番前の第1レンズには、外径87mmという世界最大の研削非球面レンズを採用、それ以外にも3枚のガラスモールド非球面レンズを使って、像面湾曲や非点収差、コマ収差など諸収差を徹底的に補正、スーパーUDレンズ、UDレンズも使って倍率色収差を抑え込んでいる。
さらに、入射角の大きな光に対しても有効なSWC(Subwavelength Structure Coating)を2面(第1レンズと第2レンズのそれぞれ後側)、垂直に入る光に効果を発揮するASC(Air Sphere Coating)を1面(第4レンズの前側)に施し、ゴーストやフレアの低減を図るなど、まさに、キヤノンの最新光学技術を結集して作られたレンズだ。
また、大きな前玉を保持するレンズ鏡筒もかなり肉厚で、外部衝撃に対する耐久や、経年劣化に伴い、ガタつきが増大しないように配慮した機構設計も採り入れられている。
周辺も高い解像力
こうした謳い文句が、カタログを飾るための単なるスペックの羅列でないことは、実写結果を見れば明らかだ。焦点距離11mmという画角の広さも凄いが、それ以上に凄いのは周辺でも像の乱れが少なく、高コントラストを保っていることだ。
一般的な超広角ズームだと、画面中央と周辺ではそれぞれ解像のピークが得られるピント位置が多少異なる製品も多く、画面中央でピントを合わせると周辺がごく軽微なピンぼけとなり、その影響で像が流れたような描写になってしまうことがある。
そのため、収差の影響で画質が劣化しやすい周辺の解像重視でピントを合わせ、もともと解像性能が高い画面中央は被写界深度でカバーする、というのが、ボク流の撮影スタイルなのだが、このレンズに限っては、画面中央でピントを合わせても周辺までビシッとピントが決まる。
しかも、非点収差やコマ収差の影響による周辺像の乱れも極めて少ないので、ピント位置の前後が流れたりブレたような描写になりにくい。そのため、絞り開放から安心して使用することができる。
また、これだけ超広角なので“コサイン四乗則”に伴う周辺光量低下は避けられないものの、四隅でストンと光量が落ちるのではなく、中央から周辺になだらかに光量が落ちていくので、絞り開放でも周辺光量低下はそれほど不自然に感じない。1段絞ればかなり周辺光量低下は少なくなり、2段絞ればほぼ解消する。
超広角ズームレンズとしては歪曲収差もかなり抑えられていて、ごく近距離の撮影でなければ、まず歪みが感じられないレベル。倍率色収差もあることはあるが、この画角の超広角レンズとしては十分少ないと思う。これらは、「レンズ光学補正」を適用しない状態での話で、いずれレンズ補正データが提供されれば、周辺光量低下や倍率色収差がカメラ内で補正できるようになり、JPEG撮って出しの画質はもっとスッキリとするはずだ。
ゴーストは少なめ
これだけ画角が広く、さまざまな光が入射する出目金レンズなので、逆光に対する強さが気になるところだが、太陽など強い光源を画面内に入れると、いくらSWCやASCといった最新のコーティングが施されているとはいえ、ゴーストやフレアは出るときは出る。
ただ、画面がフワッと白くなるようなフレアは皆無で、極めて小さく薄いゴーストやフレアが出る程度で、逆光でもコントラストの低下は少なく、シャドーがビシッと締まる。いわゆるヌケの良い描写だ。
むしろ、ゴーストやフレアに注意したいのは、画角外に強い光源があるケースで、ちょうどフードの隙間から前玉の突出した部分に強い光が斜めに当たるような場合に、尾を引いたようなフレアが生じやすい。特に、夜景撮影では、さまざまな方向に街灯があり、その影響で小さなゴーストやフレアが出てしまう。
撮影した写真に尾を引いたようなゴーストがある場合は、画角外の光が原因であることが多いので、黒い紙などを使ってできるだけレンズに直射する光を遮って撮影してみよう。
また、レンズの表面にゴミや埃が付着していると、その反射がゴーストとなって現れてしまうので、撮影前にはレンズクロスやブロアーなどで軽くレンズ表面の埃を払うことがポイント。レンズの最前面と最後面には、汚れを拭き取りやすくするフッ素コーティングが施されているので、ブロアーで落ちない指紋やゴミなどは乾いたレンズクロスで軽く拭くだけで落とすことができる。
画角と歪曲収差のチェック
ズームリングの表記を目安に代表的な焦点距離域の画角を比較してみた。EF11-24mm F4L USMが登場するまでの世界最広角はSIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II DG HSMの12mmだった。
こうして11mmと12mmの画角を比べてみると(あくまでEF11-24mm F4L USMの11mmと12mmだが)、画角に差があることはあるものの、どちらも持て余すほど超ワイドな画角だ。設計者にとって「広角の1mmは、血の1mm」と言われるが、正直、画角の広さだけなら、45万円もするEF11-24mm F4L USMよりも、実売7万円弱で買えるSIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II DG HSMでも十分魅力的だ。
ただ、EF11-24mm F4L USMの凄さは、レンズ補正に頼らずとも、画面周辺まで極めて安定した解像が得られ、高コントラストでヌケの良い開放画質と、歪曲収差の少なさだ。ここまで歪みが少なく、開放画質が優秀な超広角ズームは、これまで見たことがない。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:EOS 5D Mark III / F4 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 電子先幕シャッターによるライブビュー撮影 / 三脚使用
焦点距離と絞りによる画質チェック
超広角ズームで気になるのが周辺画質。また、像面湾曲のあるレンズは、画面中央でピントを合わせると画面周辺部は軽微なピンぼけ状態となり、それに非点収差やコマ収差による画質劣化が加わり、像が流れたりブレたような写りになることがある。
しかし、EF11-24mm F4L USMは、絞り開放でも周辺までシャープな描写が得られ、細い枯れ枝までクッキリと解像している。絞り値による違いは周辺光量くらいだ。倍率色収差はわずかに残っているが、実用上ほとんど問題にならないレベルまで抑え込まれている。
いずれレンズ補正データが提供されれば、撮影時に周辺光量や倍率色収差を補正できるので、さらにスッキリした描写が得られるはずだ。
※共通設定:EOS 5D Mark III / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 電子先幕シャッターによるライブビュー撮影 / 三脚使用
ゴーストチェック
太陽を直接画面内に入れた場合のゴーストは、光源が1つということもあり、ゴーストが出たとしてもそれほど気にならないが、問題は夜景。
ベースが黒っぽいシーンなので、わずかなゴーストやフレアも目立ちやすいし、画角内だけでなく、画角外からもさまざまな光が入射するため、思わぬ場所にゴーストが生じたりする。
特に、画角外からレンズ前玉をかするように強い光が直射する場合に、尾を引いたようなゴーストが生じることがある。画角外なので、黒い紙などでうまくレンズに直射する光を遮ることで、ゴーストを抑えることが可能だ。
下の作例の右上の橋に注目。尾を引いたオレンジ色のゴーストやフレアが生じているが、これはカメラの右上(画角外)にあるナトリウム灯がレンズ先端に直射した影響。
しかしレンズに当たる光を遮りながら撮影すれば、下の作例のようにオレンジ色のゴーストやフレアを抑えることができる。ただ、油断すると光を遮る紙などが映り込んでしまうので注意しよう。
まとめ
今回、短期間ではあるが、世界最広角の11mmという世界を満喫することができたが、画角の広さはもちろん、パースペクティブが強烈なので、ほんのわずかなカメラアングルの違いで、撮れる写真がガラッと変化する。この強烈なパースペクティブを活かして、ダイナミックな構図で撮影できれば、なんの変哲もない日常がフォトジェニックなシーンに一変する。
また、これまでは超広角ズームを使っても縦位置でしか収められなかったシーンを、横位置でも撮影できるというのはなかなか新鮮。45万円という価格は決して安くはないが、このレンズ出なければ撮れない世界、表現できない世界があることを考えれば、借金してでも手に入れたいレンズだ。