交換レンズ実写ギャラリー
HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro
卓越した描写力を持つ標準マクロ
Reported by 大高隆(2013/11/20 08:00)
このレンズのオリジナルであるsmc版の発売は2008年3月。先発の40mm、21mm、70mmの3本を順に発売し、広角から望遠までを一通りカバーするDA Limitedのラインナップを構築したあと、第4弾として追加された標準マクロレンズだった。今回のリニューアルでは、光学系や鏡筒設計などの基本構成をsmc版から継承しながら、新たにHDコーティングと円形絞りの導入が行なわれた。
サイズは最大径63mm×全長46.5mmで、重量は214g。DA Limitedの中では最も大きく、手に持った感触もずっしりしているが、F2.8の標準マクロレンズとしては非常にコンパクトで、持ち歩きも苦にはならない。
しつらえのよい金属鏡筒から生まれるフォーカシングのタッチはシルキースムースという表現がぴったりで、MFですっすっとピントを追いかけるのが楽しい。感覚に訴えかけるこのあたりの要素はインナーフォーカスのマクロレンズには求めがたい魅力だ。一方、接写時に必要な鏡筒の繰出し量が大きいため駆動時間も長く、AFの作動音が少し気になることもある。クイックシフトフォーカスのおかげでAF時の操作性も優秀だが、このレンズの場合はMFを積極的に利用するほうが撮影を楽しむことができると私は感じた。
鏡筒先端には伸縮式フードが組込まれる。内面が静電植毛により反射防止処理されたこのフードはレンズ全長の3割ほどの深さがあり、組込み式といってもお飾りではなく、十分な効果を持っている。フィルターアタッチメントは鏡筒先端に49mmのフィルターネジを備え、絞りは9枚羽の円形絞りを採用する。F2.8~5.6の間で円形絞りの効果を発揮し、最小絞りはF22である。前玉の最前面にはSPコーティングも施される。
光学系は8群9枚で、設計上の特徴としてFREEシステムを取り入れている。FREEシステムとはFixed Rear Element Extension(後群固定・全体繰り出し)を示すPENTAX独自の略語で、フォーカシングのためにレンズ群を繰り出す際、最後尾の一群を残し、それ以外の全体を繰り出す。一般にいうフローティングフォーカス機構の一種と理解すればいいだろう。繰り出しによる像面湾曲と球面収差の増大を抑え、無限遠から最短距離の接写まで安定した性能を発揮すると言われている。
解像力は開放絞りから非常に高く、すばらしく線の細い、繊細な表現をする。「F5.6からF8辺りがもっともシャープで、さらに絞ると回折の影響により次第に解像力が低下する」という一般的原則はもちろん当てはまるが、元々の解像力・コントラストが共に優れているので、F16まで絞っても視覚的なシャープネスは充分に保たれており、被写界深度を稼ぐために絞り込むことが多いマクロ撮影には心強い。ボケ味も接写の距離では柔らかく立体感のある美しいボケを示し、口径食による周辺の玉ボケの崩れもそれほど気にならず、優秀な部類だ。
最大撮影倍率は、撮影距離0.139mで等倍撮影が可能だ。ただし、その際のワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)は3cmと非常に短く、フードがあたってしまうほど被写体に接近する必要があり、等倍撮影を目的としてこのレンズを選ぶことはあまり現実的な選択ではない。
むしろ、思うままに被写体に迫ることができる“高性能標準レンズ”、と捉えたほうがよいかもしれない。非公式ながら、当初の開発目標は標準マクロレンズとしてではなく、高品位な標準レンズというものだったとも伝えられている。
あえて難点を指摘すれば、作例中の石像の写真に示したように、中距離にある被写体を開放絞りで撮影すると、前ボケ後ボケともにわずかな二線ボケの傾向が認められた。しかし、この傾向はF4まで絞ればほぼ解消されるので、通常撮影の時にはある程度絞った方がむしろボケがキレイ、という程度に考えておけば充分だろう。
近景からマクロ域における性能には文句のつけどころがなく、おそらく、市場にある標準マクロレンズの中でも卓越した描写力を持つ1本なのではないだろうか。
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