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PENTAX K-3【第3回】

絞り込みによる回折の影響を確認してみた

 第2回では、高画素化を進めた事で懸念される高感度性能の低下について検証するための比較を行なったが、問題はほかにもある。それは「回折」だ。回折というのは光が波の性質を持つために、障害物を通過する際、その背後に回り込む現象で、撮影レンズを絞り込んだ時に解像力が低下する「小絞りボケ」現象の原因になる。

 K-3の画素ピッチはおよそ3.9μmと言われており、4.8μmのK-5系センサーよりも20%程詰まっている。この値から計算すると、K-3に搭載されたCMOSセンサーの性能を活かし切るために必要なレンズの解像力は、K-5系の108本/mmに対し、K-3では132本/mm以上が求められる。

 レンズにはいわゆる収差の問題とは別に、回折に由来した解像力の限界があり、一般にレイリー限界と呼ばれる公式がこの問題を考える時に適用される。レイリーの公式によれば、無収差レンズ(理想の仮想レンズ)の解像力は下表のようになる。

絞り値解像力の限界
F1.41,057本/mm
F2.0745本/mm
F2.8528本/mm
F4.0373本/mm
F5.6268本/mm
F8.0188本/mm
F11136本/mm
F1694本/mm
F2268本/mm

 この計算に従うと、132本/mm以上の解像力という条件を満たすためには、F11を越えて絞ってはいけないことになる。さらに実在のレンズでは収差の影響で計算より解像力が低いのが普通で、実技上はせいぜいF8までしか絞れないと言われることが多い。果たして実際にはどうなのだろう。

 そこで今回は、絞り込みがK-3の解像力にどのような影響を与えるかをテストしてみよう。高感度テストと同様にK-5 IIsとの比較を行なえば、APS-Cのベストバランスと定評のある1,600万画素クラスとの違いはわかるはずだ。

 レンズは、高感度テストの時と同じくDA 17-70mm F4 AL [IF] SDMを常用ズームレンズの代表として選び、それに加え、DA 35mm F2.8 Macro Limitedを高解像力の単焦点レンズを代表するものとして選んだ。

 K-3とK-5 IIsにそれぞれのレンズを取り付け、高感度テストと同じ被写体条件で、開放からF22まで1段ステップで撮影し、カメラ吐き出しのJPEGファイル同士を比較した。撮影感度はISO100で、レンズの収差補正機能はオフで行なった。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

DA 17-70mm F4 AL [IF] SDMによるテスト

以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。(左がK-3、右がK-5 IIs)サムネイルをクリックするとオリジナル画像を表示します。
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

 上に示した通り、K-5 IIsとDA 17-70mmとの組み合せでは、F16以上で甘くなる以外は開放からほとんど変わらず、一見、安定した性能が出ているように見える。一方K-3との組み合せでは、中間のF5.6からF11辺りはK-5 IIsと同様に好ましい印象だが、開放F4での収差による甘さや、F16以上での回折による解像力の低下が目立つ。

 しかし、回折の問題で取りざたされる肝心のF8からF11辺りを見ると、たしかにF11でK-5 IIsよりもはっきりと回折の影響は見えるが、明らかに劣るという程ではない。

 一般にズームレンズの場合、解像力が抜群に高いということもなく、開放F値が変動するタイプの場合F4.5ないしは5.6辺りが多い。ここでF8に絞るなと言われても無理な話で、実際にはF8を越えてF11辺りまでは許容範囲とせざるを得ない。

 ◇           ◇

 次に、高解像力のDA 35mm F2.8 Macroの例を見てみよう。

DA 35mm F2.8 Macro Limitedによるテスト

以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。(左がK-3、右がK-5 IIs)サムネイルをクリックするとオリジナル画像を表示します。
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

 DA 35mm F2.8 MacroでのテストではK-3/K-5 IIsのいずれもハイレベルでよい描写に見える。しかし仔細に見ると、K-5 IIsの方には画素数なりの解像度の低さ以外に、ほんの少しゴロッとした印象がある。具体的には微細なディテールでの線の太さや、ボケの硬さなどにそれが感じられる。一方、K-3の絵はとても素直だ。

 K-3の結果から描写の変化を見ると、開放F2.8では少し柔らかさがあるがF4でシャープネスが上がり、そこから少しずつ解像力は落ちて鋭さが抑えられ、F16で少しモヤッとしてF22では小絞りボケが顕著になる。この結果は回折による解像力変化をまさしく教科書的に捉えており、K-3がレンズの描写を余すところなく記録する性能を持っていることを証明しているはずだ。

「APS-C 2,400万画素のカメラはF8までしか絞れない」という通説を聞くと、まるでF8を越えて絞ると使い物にならないかのようなイメージさえ受けるが、実際にはこの通り、1,600万画素のカメラに較べ、絞り込んだときの描写力が著しく落ちるようなことはない。

 第1回のレポートでも触れたが、K-5 IIsはローパスフィルターを取り払ったことによるモアレの頻発を防ぐために、映像エンジンにモアレ低減処理を組込んでいる。一方、K-3はモアレ対策をローパスセレクターという形で実装しているので、モアレ低減処理をいれる必要がない。結果として撮像素子が捉えた映像をより自然な処理でデジタル写真に置き換えることができる。

 高画素化が限界に突き当たりつつある事をふまえ、今後の画質競争は高画素化とは別の方向性を模索するようになるだろう。最近話題になることが多い点像回復技術などはその典型だ。K-3にはそのように直接的に画質向上を謳う技術は採用されていないが、思うに、ローパスセレクターの存在を前提に画像処理からモアレ除去を排除したことも、高画素化と違うベクトルの画質向上技術の1つなのではないだろうか。

 ◇           ◇

 レイリー限界を根拠として、APS-Cサイズのまま2,400万画素まで高画素化することは無意味と言われて来た。たしかに現時点ではK-3に見合った解像力を持つレンズは多くないが、カメラの性能が活かし切れないにしても、レンズの性能が充分に引き出されるのならそれでいいではないかと私自身は思う。ユーザーにとって大事なのは、そのカメラでどのような写真が撮れるかという点であって、カメラの性能を十二分に引出して吟味することを目的に写真を撮っているわけではないのだから。

 K-3で撮影していると撮って出しのJPEGファイルでもほとんどデジタル臭さを感じることはなく、まるでフィルムで撮っているような美しい仕上がりを得ることができる。考えてみれば、フィルムの時代には誰も「レンズの解像力がそこまで及ばないから、微粒子フィルムを使うことなど無意味だ」とは言わなかったはずだ。私は以前、K-5 IIsのことを「レンズの味がよくわかる」というニュアンスで高評価したことがあるが、K-3はその路線をさらに進化させた、ペンタックスらしい絵作りを見せてくれるカメラだと感じている。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://dannnao.net/