交換レンズ実写ギャラリー
HD PENTAX-DA 70mm F2.4 Limited
絞り開放から線の細い繊細な描写
Reported by 大高隆(2013/12/25 08:10)
DA Limitedシリーズの三番手として2006年の秋に登場したsmc版をベースに、HDコーティングと円形絞りを導入したレンズがこのHD PENTAX DA 70mm F2.4 Limitedだ。70mmという焦点距離は35mm判換算で107mmに相当し、やや長めの中望遠の画角になる。アルミ削り出しの鏡筒やクイックシフトフォーカス、前玉最前面のSPコーティングなどはDA Limitedシリーズ共通の特徴として備え、趣味性と機能性を高次元で兼ね備えている。
最大径63×長さ26mm、重さは131gと発表されているが、付属フードの常用が前提であるため、フード装着時の約45mmという数字が実質的な長さになる。DA Limitedの中ではHD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macroに次いで大きいことになるが、一般的な基準に照らせばとてもコンパクトなレンズだ。フィルターアタッチメントは鏡筒先端に49mmのねじ込み式を備える。最短撮影距離は0.7m。最小絞りはF22だ。
中望遠レンズを評価する時にはボケの美しさが重要なポイントになるが、円形絞りとHDコーティングの導入は、その点でこのレンズにどのようなメリットをもたらしただろうか。
口径食や収差を抑えて描写を整えるために、絞りを開放ではなく“少しだけ”絞りたいときはよくあるが、通常の絞りだと玉ボケが多角形になってしまい、不自然な印象になる事が避けられない。
その点、この70mmはF2.4からF5.6の間で円形絞りの恩恵があり、自然な丸い玉ボケを保ちながら絞り込むことが可能だ。一方、HDコーティングによる透過率の向上は、このレンズに素晴らしい逆光性能と色乗りのよさを与えている。作例中の窓辺のカーテンを撮った写真なども、ありふれたレンズならフレアでコントラストが下がり、シャドウ部のカーテンの質感や色の再現など、到底望むことができない。一見なんてことのない写真だけれども、このレンズの特長がよく現れている。
ボケ味に目を向けると、開放では前ボケが多少ざわつく傾向があるようだ。F4まで絞ればほぼ解消されるが、むやみに絞りを開けて使うとこれに悩まされるかもしれない。もっとも、球面収差を残して柔らかいフレアを醸す設計のガウスタイプのレンズには少なからず同様の傾向があるので、これも欠点ではなく個性として捉えるべきか。
後ボケは撮影距離や絞りに関わらず柔らかく美しいものだが、開放に近い絞りでは口径食の影響を受け、周辺部で少しくずれがある。F3.2まで絞ればかなり改善されるが、私の好みで言えば、F4まで絞りたいと思った。
結像性能について言えば、解像力は開放から非常に高く、線の細い繊細な描写を見せる。ハイライトには球面収差によるにじみが現れ、コントラストの高いエッジに軸上色収差による色づきもはっきり認められるが、ポートレートレンズとして考えるなら、これも柔らかさという“味”として評価すべきだろう。いずれの収差もF4辺りまで絞れば抑えられてシャープさを増し、F5.6まで絞り込めば風景撮影やスナップにも活躍できる。ただし、ほかのHD DA Limitedのような鋭さを期待すると、少々物足りないかもしれない。
35mmカメラの古典的な写真術では、しばしば85mmないしは105mmのレンズを指して“ポートレートレンズ”と呼ぶが、それぞれの基本的な性格は違う。歪みが少ない端正な写真が撮れるのは焦点距離が長い105mmのほうだが、一眼レフ用の105mmは一般にテレタイプのレンズ構成になり、開放F2.8程度のかちっとした描写のものが多い。一方85mmはダブルガウスタイプであることが普通で、開放F2ないしはF1.4の柔らかい描写のものが多い。
ではこのDA 70mmはどうかといえば、画角は換算107mm相当であり、思い切ったアップのポートレートでも目鼻立ちにパースがつき過ぎない。それでいて光学系は5群6枚のダブルガウスで、F2.4と開放F値こそ控えめながら、85mmないしは58mmあたりの大口径レンズに通ずる柔らかい描写を持つ。
つまり長めの焦点距離と柔らかい描写が両立されており、この点はAPS-C用70mmレンズの妙味だろう。絞りによって表情をはっきりと変えるタイプのレンズだが、円形絞りを味方にその特性を使いこなす撮影者にとって、このレンズは素晴らしい相棒となるだろう。
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