切り貼りデジカメ実験室

不思議な写真が撮れる「水面フレックスカメラ」を作る

風景をミラーで反射し水面に映す 連載史上最大のカメラに

前回の「ミラー割れ一眼」では、一般的に使われる“ミラーレス一眼”という用語を問題にしたが、この言葉に対する違和感を持つ人は少なからずいるようで、ネットでもたびたび議論されている。

しかしあらためて考えてみると、ミラーを装備したカメラである「一眼レフ」の歴史は実は「写真」の歴史よりも古いのである。いや、そもそも「カメラ」の歴史は写真よりも古いのだが、ヨーロッパでは写真が発明される以前から、カメラは多くの画家たちに使われてきたのだ。

それが「カメラ・オブスクラ」(暗い部屋の意味)という描画道具で、遮光された箱にレンズとするクリーンを備え、レンズからスクリーンに投影された像を「なぞり描き」することで、より正確なデッサンを可能とした。この画家用カメラ・オブスクラには、一般的にミラーが装備されていた。レンズを通した光をミラーで90度上方に反射させ、スクリーンを水平に置くと、楽な姿勢でなぞり描きができるのだ。

これはまさに「一眼レフ」であり、そのようにカメラとミラーの関係は写真よりも長い歴史があり、だからこそ「ミラーを廃したレンズ交換式デジカメ」を指す名称に「ミラー」の言葉が残され“ミラーレス一眼”となったのだ。と考えると納得できるものがあるが、まぁこの説の論証は難しいだろう。しかし人びとの無意識に蓄積された歴史が、モノの名前に反映することはよくあることなのである。

そんなことを考えながら今回も「ミラー」からアイデアを発展させてみたのだが、前回は「ミラー割れ一眼」ということで割れたミラーに被写体を映しそれを撮影したのだが、その延長で「○○のミラーに映して撮る」という方向で考えてみた。

そこで思い浮かんだのが「水面」という言葉だが、ゆらゆらと揺れる水面のような鏡に、風景などを反射させて撮れば面白いだろう、と言うアイデアである。これを実際的に考えると、まず水槽に水を張り、その底面に鏡を置けば「水面のように揺れる鏡」ができ上がる。

しかしそのようにできた「水面鏡」は、水平に寝かしたままその反射像を撮るしかなく、特殊なアングルに限られてしまう。そこでさらに考えたのが、底面が透明の水槽に水を張り、その下に鏡を斜め45度に置く、という方法だ。これを真上から撮れば、水槽に揺らめく水面を通して、鏡で反射させた前方の風景を撮ることができるはずだ。

と、言葉で説明してもよくわからないと思うので、さっそく工作を進めてみることにしよう。

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カメラとレンズの工夫

「水面を通して、ミラーの反射象を撮る」と言うアイデアのもと、100円ショップで以下の材料を買ってきた。まず「水槽」そのものは売ってなかったので、代わりに透明トレー(文具整理用)を買ってきた(右)。ミラーは300円のいちばん大きなサイズをセレクト(左)。カメラはOLYMPUS PEN-FにM.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8を装着したものを用意した。

次に、水槽とミラーとカメラをセットする「ボディ」が必要になるが、ドラッグストアでご覧の空き段ボール箱をもらってきた。

箱を縦に置き、中にミラーを入れてみると、何と言う偶然か、特に改造の必要も無く、鏡を斜め45度の角度にセットできることが判明した。

次に箱の前方に鏡が覗くための窓を、上方にカメラのレンズを通す穴を開ける。

まずはこの状態で、カメラのレンズを上部の穴から覗かせて、試し撮りをしてみる。

試し撮りすると、鏡がほぼ正方形に写ることがわかった。鏡そのものは縦長だが、斜めにセットしたお陰で上下方向が縮んでいるのだ。これはズームの画角28mm相当で撮影したものだが、50mm相当のレンズを装着し、アスペクト比を1:1に設定すれば、ほぼケラレなく撮影することができる。また被写体は上下逆像に写っているが、カメラの向きを水平に180度回転させて取り付ければ、天地正像の画像が撮れる。

次に水を入れる水槽(トレイ)に工作を施す、100円ショップで買ったトレイは水槽としては浅く水がこぼれやすい。そこで内側に黒ラシャ紙を貼ったガムテープを周囲に貼り「かさ上げ」をした。

さて、ここで一気に「水面フレックス」システムが完成してしまったのだが、考えながら工作をしているため、途中経過を撮影するアタマの余裕がなく申し訳ない。まず段ボールのボディーは鏡の幅に合わせてスリムにカットした。側面の蓋にはひもを付けて開閉式になっている。これを開けて中に「水槽」をセットする構造になっている。

側面を開けたところだが、内部は内面反射を押さえるため黒ペンキで塗装している。下の段にミラーがセットされ、上の段に水槽をセットするための「仕切り」が設けられている。

さて撮影するには、まず水槽に水を1cmくらいの水位まで注ぐ。

水を注いだ水槽は、内部にこのようにセットする。

上部の穴にZUKO DIGITAL 25mm F1.8を装着したOLYMPUS PEN-Fをセットする。テスト撮影で示したとおり、ミラーの反射像は天地逆に写るので、カメラの方向も「天地逆」。PEN-Fはバリアングルモニターを装備しているので、これを回転させて構図を決める。またPEN-Fにリモートケーブルを接続し、レリーズ部分を「水面フレックス」ボディの右手に当たる部分にテープで留める。

このようにカメラを構えて撮るのだが、我ながらものすごくアヤシイというか、カメラがデカすぎる(笑)。本当はもっと小型化するつもりが、機構的にどうしても大きくなってしまった。

その理由はまず「水の揺らぎ」を画像に反映させるには、ある程度の大きさの水槽が必要になるのだ。それに一眼レフのような「レンズ後部に設置するミラー」と異なり、今回の撮影システムのような「レンズ前方に置くミラー」はかなり大きなサイズでないと画面がケラレてしまう。そこで、いっそのことと「連載史上最大のカメラ」として制作を進めたのである。

実写作品とカメラの使用感

今回の制作もアイデアだけが先行し、実際に苦労に見合った面白い写真が撮れるのかも不明で、不安を抱えながら作業を進めることになった。しかし「水面フレックス」が完成し、セットしたカメラのモニターを覗くと、確かにゆらゆらと怪しく揺れる映像が見えて、これは面白い写真が撮れそうだ。

そこでともかく都内の繁華街に出掛けて撮影してみたのだが、まずこの「水面フレックス」は巨大すぎる上に持ちにくく、段ボール製で軽量化したはずが、実際以上に重く感じられてしまう。それに揺らすと中の水がこぼれてしまうので、被写体を探して移動するだけで大変なカメラになってしまった。

しかし苦労の甲斐あって、今回もこれまで見たこともないような独特の写真が撮れて、満足している。水面の揺れ具合によって、撮れる画像の性質が驚くほど変化し、コントロールして狙って撮るのは難しく、ほとんど偶然に頼りながら撮影し、面白いと思われるカットをセレクトした。

カメラの設定は、アスペクト比1:1、露出Pモード、WBオート、フォーカスはマニュアルの無限遠固定で撮影したものと、AFで撮ったものが混在している。

また動画も撮影してみたが、これも写真とはまた印象の異なる表現になったので、ぜひ作品をご覧いただきたい。



動画は小田急江ノ島線の窓からカメラを構えて撮影したものを掲載する。PEN-Fの動画モードはアスペクト比が16:9になって画角が広がり、画面の左右がけられてしまう。そこでiMovieでアスペクト比4:3に変換し、見やすい動画に仕上げた。フォーカスはマニュアルで無限遠に固定して撮影している。この動画の揺れ具合も、CGでは表せないような複雑さがあって、なかなか面白い。

まとめ

今回の表現は「歪んだ写真」ということで、以前の連載の「ひも宇宙」に通じるものがある。しかし両者は歪みの原理が異なっており、「水面フレックス」では水面の揺れが激しくなるほど写真としての抽象度が増し、またAFで水面にピントが合ったカットは何とも例えようのない独自の世界が生じている。

この歪み方は、むしろロシア生まれのフランス画家シャイム・スーティン(1893~1943年)に似ているかも知れない。このように絵画のような写真が「写真」と言えるのか? と言う疑問を持つ方はおられるだろうと思う。

実は、東京都写真美術館で2017年1月29日まで開催中の「TOPコレクション 東京・TOKYO」に、私の作品「組み立てフォトモ」も展示されているのだが、そのオープニングパーティーで友人の写真家に「糸崎さんは写真家じゃなくて美術家ですよね」と言われちょっと驚いた。

確かに、私の作品「フォトモ」は写真としては相当ヘンだし、今回に限らずこの連載でもヘンな写真をいろいろと試してきている。しかし私の認識としては、そもそも「写真」は絵画や彫刻などと並んで「美術」の一カテゴリーなのである。

その理由は冒頭に述べたように、歴史的に見ればカメラはもともと画家が使う道具で、それを写真家が引き継いで使うようになったのであり、だから写真は絵画の延長にあり、同じ美術のカテゴリーに含まれるのだ。

もちろん、常識で考えれば「写真」と「美術」は別物で、件の友人以外にも「私は写真家で美術家ではない」と自称する写真家の方も実際に少なくない。だからこれはこれで、“ミラーレス一眼”と同じように、また1つやっかいな問題ではあるのだ。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki