切り貼りデジカメ実験室

OLYMPUS AIRで作る「虫捕り網カメラ」

チョウを“捕る”ように写真を“撮る”

チョウの飛翔写真に特化したカメラを考える

私は子供のころ虫を採るのに熱中したが、大人になってからは虫をカメラで撮るようになった。虫を捕るのも、虫を撮るのも、どちらも「とる」という音が当てられているが、行為としてはどちらも似ている。

そこで私はふと、虫取り網とカメラを融合した「虫捕り網カメラ」というコンセプトを思い付いた。

私は虫の写真を撮るのは好きだが、実はチョウなどの飛翔写真を撮るのが今ひとつ苦手なのである。チョウの飛翔写真は、恐らく世界的にも昆虫写真家の海野和男先生が最初に始められた撮影法で、超広角レンズのピントを最短撮影距離に固定し、飛んでいるチョウを追いかけながら、ノーファインダーで撮影する手法である。

海野さんはフィルムカメラの時代からこの飛翔写真を撮られて昆虫写真界の第一人者になったが、デジタルの時代になって撮影が格段に簡単になり、プロはもちろんアマチュアに多くの追随者が出て、チョウの飛翔写真は随分と一般化した。

しかしいくらカメラがデジタルになっても、飛んでいるチョウを追いかけながら撮影するのは、やはり難しく、私はどうも苦手意識があったのだ。

ところが私はあるときふと、その原因の1つにカメラの形状があるのではないか? と思い至ったのである。

つまり飛んでいるチョウを捉えるための虫捕り網は長い柄をしているのである。金魚すくい用のように柄が短い網では、虫を撮るのには不便だ。ところが昆虫撮影用のカメラは、形状的にはふつうのカメラと同一であるから、これは柄が全くない網と同じなのである。

これでは虫を撮るのに不便なのは当たり前で、虫撮り用カメラには、虫捕り網と同じく長い柄がついているべきだと言うことに、気付いたのである。

実は私は30年近く前に「志賀昆虫普及社」で買った虫捕り網を、未だに持っていたのである。そこでこの先端に、網のかわりにカメラを装着することにしたのだが、機種は小型軽量でスマートフォンによる無線操作が可能な「OLYMPUS AIR A01」が最適だろうと、考えたのである。

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カメラとレンズの工夫

私が持っていた虫捕り網の柄(前)。網を取り付ける先端が細く、手持ち部分が細くなっている。しかしカメラ用一脚(後)は先端が太く、根元が細くなって持ちづらく「虫捕り網カメラ」に転用するには適さない。

今回使用するOLYMPUS AIR。レンズは「フィッシュアイボディーキャップレンズBCL-0980(9mm F8.0 Fisheye)」を装着。薄型で超軽量の魚眼レンズ(ライカ判換算18mm相当)で、絞りF8固定で被写界深度が深く、ピント調整も無限遠から20cmまで可能。しかし画角が広いレンズだけに、昆虫撮影用にはもうちょっと接近したい。

そこでまず、ちょっとだけレンズの改造を行う。レンズマウント部のネジ(赤矢印)を3本とも少しだけ緩める。

マウントのネジを緩めたレンズをカメラに装着すると、鏡筒がマウントより1mmほどせり出す。これによりレンズ前約10cmまでの被写体にピントが合うようになった。

さて、虫捕り網の柄の先端には、網を取り付けるためのネジが切ってある。ここをOLYMPUS AIRの三脚ねじ穴に取り付けたいのだが、残念ながら太さが合わない。そこで私は閃いたのだが、三脚ねじ穴には、一般的な細ネジと、大型カメラ用の太ネジがある。そして私は細ネジと太ネジの変換アダプターを持っていたのだが……しかし残念ながらこれも規格が違っていた。

そこで東急ハンズに行って、虫捕り網の柄に合うナット(インチネジ)とワッシャーと、穴の開いた「コ」の字型の金具を買ってきた。

金具とナットと三脚止めネジを組みあわせると、虫捕り網の柄にOLYMPUS AIRを取り付けることが可能となった。

次に、OLYMPUS AIRを操作するiPhoneを柄に装着する。いろいろな方法を考えたが、一番シンプルな方法として、100円ショップで購入したiPhoneケースと、柄の両方に、同じく100円ショップで買ったマジックテープ(面ファスナー)を貼り付けた。

マジックテープによってiPhoneはかなりしっかりと柄に装着でき、取り外しも簡単にできる。これで今回の改造はひとまず終了だ。

完成した「虫捕り網カメラ」を私が構えているところ(撮影:宮田英明氏)。今回は飛んでいるチョウをこのカメラで撮るために、地元在住の友人たちに長野の高原を案内していただいたのである。

実写作品

実際に「虫捕り網カメラ」を使ってみると、竿の先にカメラが付いているという形状は、確かに飛んでいるチョウを捕るには合理的な形態をしているようだ。

しかし、チョウを追いかけながら撮影しようとすると、iPhoneのタッチセンサーでシャッターを押す方式は非常にやりにくく、せっかくのシャッターチャンスを何度も逃すことになってしまった。やはりこの場合、シャッター操作は物理的な有線方式が適している。

またチョウの飛翔写真にはストロボ(日中シンクロ)を使うのが定番だが、OLYMPUS AIRにはホットシューはもちろんシンクロ接点も装備されていない。

そこで今回はブレを押さえるためにISO感度を高めにして撮ったが、さすがにマイクロフォーサーズのカメラだけあって、ノイズはほとんど気にならない。

しかし、ノーファインダーで飛んでいるチョウを撮ると露出が安定せず、この意味でもストロボ撮影が有効であることがあらためて確認できた。ともあれ「実験」としては成功で、この方式の研究もさらに進めていきたいと思う。

 ◇           ◇

飛んでいるベニヒカゲを見事キャッチ! とは言え空を背景にしたためちょっと露出不足になってしまった。チョウの飛翔写真を撮る場合はストロボを使いたいのだが、OLYMPUS AIRは残念ながらシンクロ接点を備えていない。

1/5,000秒 / F8 / ISO800 / 絞り優先AE / 9mm

地面から飛び立つベニヒカゲ。このチョウは花の蜜を吸うほか、ミネラル文を含んだ水分を吸うため地面に集まっていることもあるのだ。

1/1,000秒 / F8 / ISO800 / 絞り優先AE / 9mm

ベニヒカゲは長野県の条例により天然記念物に指定されている高山チョウで、東京などの街中ではもちろん見ることはできない。私はこのような珍しい虫をあまり撮らないのだが、この日は特別に友人に案内してもらったのである。

1/1,000秒 / F8 / ISO800 / 絞り優先AE / 9mm

これは長野から帰って近所の藤沢市内で撮影したモンシロチョウ。残念ながら小さめに写っているが、シャッターボタンが押しにくいカメラなので仕方がない。もっとチョウを追いかけようと思ったのだが、夏の暑さが厳しすぎてこれ以上は体力が持たない。

1/6,400秒 / F8 / ISO1600 / 絞り優先AE / 9mm

交尾するヒメウラナミジャノメ。暑さのせいか、刺激を与えても飛び立たなかったため、そのまま止まっているところを撮影した。実は真夏の平野部は暑すぎてチョウの活動も鈍り、飛翔写真の季節とは言えないのである。

1/200秒 / F8 / ISO400 / 絞り優先AE / 9mm

真夏らしく、ケヤキの木に止まるアブラゼミを撮影してみた。飛翔写真ではないが、網でセミを捕まえる昆虫少年のような自撮りになった(笑)。

藤沢市内の雑木林にて、クヌギの樹液にカナブンが沢山集まっていたので、これも自分の姿を入れつつ撮影してみた。

1/100秒 / F8 / ISO800 / 絞り優先AE / 9mm

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki