切り貼りデジカメ実験室

ミラーレス一眼ならぬ「ミラー割れ一眼」を作る

OLYMPUS AIRと割れ鏡を一体化 予想できない写りを楽しむ

“ミラーレス一眼”という言葉は世間にすっかり定着しているが、実はちょっと困った言葉で、私も最近はあきらめて仕方なく使うようになったが、よくよく考えると言葉の定義上ちょっとヘンなのである。

そこで、これに変わる用語としてCIPA(カメラ映像機器工業会)から「ノンレフレックス」という呼称が提示されたが、ハーフミラーによる測距システム「トランスルーセント・ミラー・テクノロジー」を装備したソニーα99 IIなどの機種はどうなのか? などと厳密に考えようとすると頭が痛くなってしまう。

そもそもデジタルカメラというものは、フィルムカメラの伝統を引き継ぐ面と、デジタル機器として常に進化し続ける面がある。そして、その両面に齟齬を生じて、概念の組み立てというか、カテゴリー分けが非常に難しい。

だから“ミラーレス一眼”という言葉の何がヘンなのかを説明するのもなかなか大変で、いろいろ考えているうちに「いっそミラーなんてかち割ってしまえ!」と思ったところでふと「ミラー割れ一眼」のアイデアが出てきた。

と言うのは半分冗談だが、ミラーというものは割れたら使えなくなるわけで、路上のゴミ捨て場にもごくたまに割れた鏡台などが捨ててある。私はそうしたものについ近付きたくなってしまう性分なのだが、実際に「割れ鏡」に映る路上の風景というのは、奇妙に分割されてなかなか面白い。

ところが、そうしたものを写真に撮とろうとすると、思ったような面白い写真にならない。捨て置かれた割れ鏡はその場に固定されているため、視点も限られてしまうのである。

そこでふと閃いたのだが、「割れ鏡」を自分で用意して、これをデジカメに装着すれば、自由な場所で自由な角度によって、「割れ鏡」に写る像を撮影できるはずである。

しかし、このアイデア自体は特に独創性があるとは思えず、誰かが既に試しているかも知れない。そう思ってネット検索してみると、スタジオに設置した割れ鏡に、自らが撮影した夕焼けの写真を投影し、それを撮影するアメリカのフォトグラファーがいるのはわかった。

しかし割れ鏡をカメラに取り付け、その反射像をダイレクトに写した例は私の調べた範囲では見当たらなかった。つまり先例がなく、実際にどんな写真が撮れるか見当も付かないまま、手探りで製作を進めなくてはならない。果たしてどんな「ミラー割れ一眼」ができるのか――以下ご覧いただきたい。

本記事はメーカーの想定する使い方とは異なります。糸崎公朗およびデジカメ Watch編集部がメーカーに断りなく企画した内容ですので、類似の行為を行う方は自己責任でお願いします。

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カメラとレンズの工夫

ミラーを割るためにはまずミラーが必要、ということで100円ショップでミラーを買ってきた。カメラは小型軽量のOLYMPUS AIR A01をセレクトし、雲台、三脚止めネジ、三脚延長ポールも用意した。

さて、早速ミラーの真ん中あたりを金づちで叩いて割ってみた。なかなかうまい具合にミラーが割れたが、細かな破片が飛び散ったりして、このままでは収拾が付かない。ちょっと別の手を考えないと……。

そこでもう1つミラーを買ってきて、まずシンナーを使って台座からミラーだけを取り外す。が、台座のプラスティックがもろくて割れてしまった。しかし肝心のミラーそのものは割れてないので、めげずに作業を進める。

そして、ミラー裏の全面にガムテープを貼る。こうすればミラーを割っても破片が飛び散ることはないはずだ。

今度はミラーを古雑誌に挟んで、上から金づちで叩いた。おかげで破片が飛び散らず、割れたミラーを繋がった状態で取り出すことができた。

割れた鏡の支持体として、同じミラーをまた100円ショップで買ってきた。ミラー表面にスポンジ両面テープを5カ所貼り付ける。

ミラーに割れ鏡を接着し、さらに台座の向かって右下にドリルで穴を開ける。

ミラーの台座に開けた穴に三脚止めネジをねじ込み、三脚延長ポールと雲台を取り付け、iPhoneを装着したAIR A01を取り付ける。これでひとまず「ミラー割れ一眼」の完成だ。

別角度から見た「ミラー割れ一眼」。割れ鏡の反射像を、AIR A01で撮影するシステムだ。ミラーや雲台の角度は微調整できるようになっている。

さて、さっそく試写してみたのだが、いちおう「割れた鏡を写したような写真」にはなったものの、どうも今ひとつ面白くない。原因を考えると、割れ鏡を支持体に「平面的」に貼り付けたため、割れ鏡ならではの「ズレ」の効果が弱いのである。

そこでいったん割れ鏡を剥がして、支持体となるミラーに「ひっつき虫」(写真やポスターなどを壁に貼るための粘着材)を貼り付けた。この場合、真ん中だけ多量のひっつき虫を、四隅は少量のひっつき虫を貼り付けるのがポイントである。

そして割れ鏡を貼り付けると、今度は中央が盛り上がり立体的になった。これによって鏡の破片はそれぞれ微妙に角度が異なるようになった。

割れ鏡をセットし直して、あらためて完成した世界初!?の「ミラー割れ一眼」が完成した。果たしてどんな写真が撮れるのか?

実写作品とカメラの使用感

完成した「ミラー割れ一眼」をさっそく近所の藤沢市内の路上で撮影してみたが、試作から改良して、割れ鏡を立体的に貼り付けた効果が出ている。

おかげで思ってもみなかったような不思議な写真が撮れた。日常的に見慣れた風景が分割され、さらに部分的に同じイメージがいくつも重なって、奇妙な世界が描き出されている。

鏡の割れ目がピンボケになっているので、言われなければどのように撮ったのかわからないかも知れない。ミラーで反射させているため、風景の文字が左右反転して写っているのも、不思議な感じだ。

効果としてはフォトコラージュに似ているかも知れないが、画面内にどのように「風景の破片」が構成されるのか、撮影前に予想できない点がかえって劇的な効果を生んでいる。

考えてみれば、ネットやデジタル技術が高度に発達した現代においては、あらゆる事物が断片化され、それまでの時代にあったさまざまな「統合性」が失われている。だからこそ「ミラーレス一眼」という用語もまかり通ってしまうのだろうし、そのような現代の状況をこの「ミラー割れ一眼」は象徴的に写し出すといえるかも知れない。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki