切り貼りデジカメ実験室

レンズキャップに変形する「折りたたみ角形フード」

SIGMA sd Quattro Hをよりかっこ良く! 100円ショップのコンテナを活用

今回もまた100円ショップネタなのだが、「折りたたみ式ミニコンテナ」と言うものを発見した。折りたたみ式コンテナは、収納用品としてホームセンターなどで見たことはあるが、100円ショップで売られていたのはそのミニチュア版で、なかなか可愛らしい。

そこでパッと閃いたのが、これは折りたたみ式レンズフードに改造できる! と言うことである。

実は、かつてエルンスト・ライツ社から折りたたみ式の角形レンズフードが発売されていた。1930年代から50年代のバルナックライカの時代に、ズミタールやズミクロンなど50mm標準レンズ用として、たたむとレンズキャップになる金属製の角形フードが何種類か発売されていたのだ。

それはまさに、この折りたたみ式ミニコンテナに構造が似ているのだが、これを逆算して考えると、ミニコンテナからレンズフードが作れるはずである。

ライカの折りたたみフードは一部のマニア以外には忘れられた存在だが、この温故知新のアイデアを最新式レンズのために応用してみることにしたのである。

しかしこのミニコンテナはミニと言ってもレンズフードとしては大きく、それなりに大きなレンズでないとフィットしない。

そこで、最近発売された大きなレンズとして思い浮かんだのがSIGMA 24-35mm F2 DG HSM|Artなのである。これは大口径F2というライカ判の広角ズームレンズとしては怪物的スペックで、単焦点レンズ並みの描写力を誇る。

確認するとこのレンズのフィルター径は82mmで、ミニコンテナ底面のサイズとほぼピッタリで、レンズフードとして改造しても上手くフィットしそうな雰囲気である。

そしてレンズを装着するカメラだが、同じくSIGMAのsd Quattro Hをセレクトしてみた。sd Quattro Hは同社で初のAPS-HサイズのFoveonセンサー「Quattro」を採用したレンズ交換式デジカメで、私はこの機会にsd Quattro HとSIGMA 24-35mm F2 DG HSM|Artの組み合わせによる描写力がどんなものか、試したくなったのである。

という提案を編集部にしたところ「シグマがもっとカッコよくなる感じですか?」と言われ「その通りです!」と答えて企画がOKになり、シグマさんからレンズとカメラをお借りすることになったのである。

本記事はメーカーの想定する使い方とは異なります。糸崎公朗およびデジカメ Watch編集部がメーカーに断りなく企画した内容ですので、類似の行為を行う方は自己責任でお願いします。

この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメ Watch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。

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カメラとレンズの工夫

まずは24-35mm F2を装着したsd Quattro Hを見ていただこう。詳細はデジカメWatchの各リンクをご覧いただきたいが、ミラーレスカメラとしては異常に大型で、また異様に個性的なデザインだが、その出で立ちは伊達ではなく、圧倒的な解像力を誇る独自のFoveon X3 Quattroセンサーを搭載している。

レンズには花形フードが付属していて、レンズそのもののコーティング技術と相まって、普通の逆光対策としては十分のはずだ。しかしレンズキャップが普通の取り外し式なのは不便で、独自性がなく面白味に欠ける。ちなみにsd Quattro Hはシグマとしては初のAPS-Hサイズセンサーを搭載し、24-35mmレンズを装着した場合は、ライカ判換算31-45mm相当の画角になる。

さて私はある日、100円ショップで「折りたたみ式ミニコンテナ」なるものが売られているのを発見した。プラスチック製の小物入れで、サイズは幅15cm、奥行き10cm、高さ5.5cmである。

この折りたたみ式ミニコンテナは、ご覧の通り折りたたむことができる。そこで閃いたのが、この折りたたみ式ミニコンテナを改造して、レンズキャップに変形する折りたたみ式レンズフードが作れないだろうか? というアイデアである。それをSIGMA 24-35mm F2 DG HSM|Artに装着すれば、さらに独自性を増したカッコイイ撮影システムができ上がるに違いない。

まずは折りたたみ式ミニコンテナを、バラバラに分解してみる。各パーツはスナップフィット式のヒンジでつながっており、コツを掴めば簡単に分解組み立てができる。

まずはミニコンテナの底面パーツに、レンズを覗かせるための穴を開ける(ディバイダーとカッターナイフを使用)。次に私は各パーツをつや消しブラックのペンキで塗装しようと思ったのだが、確認するとミニコンテナは「ポリプロピレン製」で、この素材は何で塗装しても剥がれてしまうのである。

そこで作戦を変更して、ミニコンテナの内側に黒ラシャ紙を貼って、反射防止策とすることにした。ミニコンテナの各パーツ形状に合わせて、黒ラシャ紙をカットした。

組み立てたミニコンテナの内側に、両面テープを使って黒ラシャ紙を張り込むと、ひとまずフード部分ができ上がる。しかしこのままではレンズに装着することができない。

そこでフードをレンズに装着するためのパーツを製作する。24-35mm F2付属レンズフード(右)のバヨネットの形状や寸法を計測し、ABS板に同様の形の穴を開けたパーツを製作する。

さらにABS板を切り抜いて、ご覧のようなパーツを製作する。

上記のパーツをABS用接着剤で組み立てると、ご覧のようなパーツができ上がる。

上記のパーツを、ミニコンテナ底面パーツにネジ止めすると、折りたたみ式角形フードが完成する。24-35mm F2には、レンズ先端のバヨネットを利用して取り付けるようになっている。

自作した角形レンズフードを24-35mm F2に装着してみる。レンズ先端のバヨネットにカチッとしたクリックでしっかり装着できるが、カメラとしてはさらに異様さを増した迫力あるスタイルになった。

さてレンズフードからレンズキャップへとトランスフォーム! してみるが、まずは左右のパーツを内側に折りたたむ。

さらに上下のパーツを折りたたむと……

レンズキャップに変形する。左右の張り出しがちょっと気になるが、厚みがないのでバッグなどへの収納性は無問題だ。何よりレンズキャップ紛失の心配が無くなった点は、合理的だと言える。

実写作品とカメラの使用感

自作の折りたたみ式フードは、付属の花形フードよりも大型だ。しかし24-35mm F2が逆光には強いレンズなので、その遮光効果の差はわずかである。

それよりも、レンズキャップが不要の折りたたみ式フードというコンセプト自体は、実際に使ってなかなか便利だと感じた。しかしあくまで手作り品のため、フードを手で開け閉めするのにちょっと手間が掛かるし、サイズも大きすぎてコンパクトとは言えない。

だからメーカーさんが同様のコンセプトで、ワンタッチで開閉できるコンパクトな折りたたみ式フードを発売すれば、結構ヒットするではないかと思うのだ。何より「変形メカ」というのは男の子的には楽しいのである。

カメラとしてのsd Quattro Hの使用感は、非常に素晴らしいものがある。ミラーレスカメラとしては全くコンパクト性を重視していない大柄なボディだが、他社製品とは元からコンセプトが全く違うカメラなのである。そのコンセプトの違いを主張するかのように、カメラとして異様な形状であるのもまた素晴らしい。

しかし単に奇をてらったのではなく、デザインとして非常にハイセンスで、ボディの作りも高級感がある。使い勝手もよく考えられていて、グリップは握りやすく、中央から突き出たファインダーも覗きやすい位置にレイアウトされ、背面の2つ並んだ液晶モニターも品位のあるグラフィックデザインで、使っていて気持ちが良い。

欠点としては、電源ONから撮影できるまでにちょっと間がある、AFの動作が遅め、RAWだと書き込みに時間が掛かる、ボディに手ブレ補正を内蔵していない、高感度に弱くISO100で撮るのが基本……など色々あって、現在のデジカメとしては遅れていると言わざるを得ない。

しかし、そもそもシグマのデジカメは他社とは異なるスペシャルなコンセプトのカメラなので、上記のような欠点は個人的には全く気にならない。むしろ撮る側にもしっかりとした撮影技術が要求され、その「選ばれた人のためのカメラ」という感覚が、非常な満足を与えるのである。またこのような欠点も、同社のデジタル一眼レフカメラSD1 Merrillよりはかなり改良されていて、ストレスはかなり減っている。

画質についてだが、JPEGはザラザラとした粒状感があって「あれっ?」と思ってしまうが、RAWで撮って専用ソフトで現像すれば、驚くほどシャープで繊細な画像を得ることができる。これはシグマならではのFoveon X3センサーの特徴であり、他社が多く採用しているベイヤー配列センサーとは一線を画している。

24-35mm F2の描写も素晴らしく、ズームレンズでありながら画面周辺に至るまで破綻がなくシャープだ。ズーム範囲は24-35mm(sd Quattro Hでは31-45mm相当)と狭いがF2という口径はライカ判フルサイズ用ズームレンズとしては随一で、こうした冒険心もシグマらしくて好感が持てる。

ところが! 実は私は痛恨のミスをしてしまったのだが、途中から画像サイズ設定を最高画質のT=トップからM=ミドルに切り替えたまま撮影していたのだ。sd Quattro Hは記録フォーマットをRAW(X3F)+JPEGに設定し、画像サイズをMに設定すると、JPEGと一緒にRAWファイルまでもがM(3,096×2,064)で記録されてしまうのだが、しばらくこれに気付かなかったのである。

しかし初めのうちはちゃんと高画質のT(6,200×4,152)で撮影していたので、今回はその画像のみをセレクトして掲載する。ただ焦点距離が35mmに偏ったり、逆光で撮った画像もなく、作例としていささか中途半端な点はご容赦いただきたい。画像はいずれもRAW(X3F)からSIGMA Photo Pro 6を使って現像し、調整なしでJPEG最高画質に変換している。

1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 35mm
1/500秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / プログラムAE / 35mm
1/250秒 / F8 / +0.3EV / ISO100 / プログラムAE / 35mm
1/500秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / プログラムAE / 35mm
1/160秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 35mm
1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 28mm

SIGMA sd Quattro Hから写真とは何かを考える

前回の連載では「かまぼこ形レンズ」の効果を使って写真像を抽象化するという、言わば前衛的手法を紹介した。

一方でsd Quattro Hは、非常に前衛的なカメラだといえるが、撮れた写真は目の醒めるような高画質ではあるものの、あくまで写真としてノーマルで「前衛」だとは言えない。

これは一体どう言うことなのか? を考えてみたのだが、まず近代に登場した「カメラ」というもの自体が、そもそも前衛的な存在なのである。

つまりカメラは最初期のダゲレオタイプから、湿板、乾板などを経て、さらにフィルムからデジタルへと常に時代の最先端として進化し続けている。

現代においても独自に画質を追求するシグマの以外の各メーカーも、画素数や高感度特性、高速AFや手ブレ補正機能などの技術を競って向上させながら、次々に新製品を発売し、その意味でどのカメラも「前衛的」だと言えるのだ。しかし、どのカメラも撮れるのはごくノーマルな写真であり、この点で「前衛」ではないのである。

実は、昔から各メーカーのカメラやレンズや感光材料は、共通してある「理想」を追求しながら進化し続けている。それはより細密でなめらかに、また正確なパースペクティブでリアルな描写、と言うことだが、この理想は実は16世紀のルネッサンス期にレオナルド・ダ・ヴィンチらによって確立された、ヨーロッパ写実絵画の理想を引き継いでいるのである。

そもそも西洋の写実絵画では、ダ・ヴィンチの時代から描画道具としてのカメラ(カメラ・オブスクラ=暗箱)が使われ、レンズ(もしくはピンホール)からスクリーンに投影される像を画家が手でなぞっていたのを、近代的な技術力によって自動化したのが「写真」なのである。

18世紀末のこの写真の発明によって、これまで写実絵画を描いた画家たちが立場を失ってしまい、そうして登場したのが「前衛芸術」なのだ。

一方で写真やカメラの技術は、先に述べたように常に時代の「前衛」として進化し続け、それでありながら撮影される写真そのものはルネッサンス以来の「伝統」を頑なに守りながら、その理想を無限に追求し続けているのである。

カメラ技術が「前衛」と「伝統」の二面性を持っていることは、初期の写真を見るとよくわかる。ちょうど今(2017年5月7日まで)東京都写真美術館で「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編」と題して江戸末期から明治初期にかけての写真が多数展示されているが、非常にシャープで現代のデジタル写真にも決して引けをとらないものもあって、驚いてしまう。

もちろん現代は当時よりも格段に写真が簡単に撮れるよう進化しているが、写真そのものがリアルで高解像度なのは基本的には変わらず、それが「伝統」というものなのだ。そう考えるとこのSIGMA sd Quattro Hは、ルネサンス以来の伝統を忠実に引き継ぎながら、その前衛性によって理想に一歩抜きん出て近付いたカメラだと言えるのだ。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki