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“プリントして終わり”ではもったいない! 写真家に聞く手作り「フォトブック」の面白さ
お手軽から超個性的なタイプまで…プリンターで作る自分だけの写真クラフト
2023年1月23日 07:00
「フォトブック」というと「ネットで注文」というイメージでしたが、ほんの数分で手作りできるのです。あまりの手軽さに驚きました。
「フォトブック」作りを指南してくれるのは、手作りフォトブックの販売もしている写真家の川本まいさんです。「フォトブック」に込める思いや「フォトブック」が出来上がるまでのストーリーを存分に語っていただきました。小物や雑貨が好きな方なら、「フォトブック」の面白さにハマるはずです。
制作の過程を収録した動画もアップされていますが、カメラが回っていない場でのお話など、動画と異なる視点でまとめてみました。比較しながらご覧になると、「フォトブック」への造詣が深まると思います。
1991年兵庫県生まれ。甲南大学理工学部在学中から写真館に勤めたのち、波止場の写真学校 講師、メリケンギャラリーの紙のソムリエとして在籍後、退職。現在はフォトグラファー、アートディレクターとしてフリーランスで活動中。C.A.P(芸術と計画会議・神戸)ではスタジオアーティストとして在籍。淡路島と神戸を行き来しながら自然の中での気づきを写真に絵を描くフォト・ドローイングで作品制作を行なっている。
自分で作るから自由な形にできる
川本まい(以下、川本): 五年前から、月に一度、夏も冬も関係なく森で寝泊まりしてるんです。テントを使わずに。焚火の横で。朝起きると、生物としてなんかこう、“生きている”っていうたくましさみたいなものを感じます。
危ないからと制限をしている自分がいて、自由じゃないと思っていた自分が、自然の中で解放された。川本さんは朗らかに語ります。
“森の話”を続けながらも、てきぱきとプリント作業をはじめます。本日制作する「フォトブック」に使う写真が、次々とエプソン「EW-M873T」から出力されていきます。
川本: 家のプリンターで作れるっていうのがすごくよくて。自分の好きな紙が選べるし、本の形も自由に考えられるので、「フォトブック」作りは本当に面白い。
自作の「フォトブック」を数十冊ほど販売しているとも教えてくれました。
数十冊分のプリントを自ら作り、表紙に使う紙を選び、思い描く形に装丁する。印刷屋さんではできない“形”にするには、やはりプリンターを使って自分で作るしかないのだと力説します。
「写真をプリントして終わり」ではなく、プリントから新たな造形物を作る。プリントクラフトとでも呼べばよいのでしょうか? 手作り「フォトブック」には、写真プリントの世界とは異なる面白さがありそうです。
問題は、「フォトブック」にするような作品がないひとも多いということ。
「フォトブック」といえば、いわば「写真集」です。誰もがきれいな写真、かっこいい写真、すごい写真を撮れるわけではありません。本にする素材がないひとも多いのです。
しかしながら、「それでも大丈夫。楽しめます」と川本さんはいいます。その理由は、最初の「フォトブック」を作りながら語ってくれました。
作品がなくても「フォトブック」作りを楽しんで!
川本さんが提唱する「フォトブック」は、写真集としての役目もさることながら、「フォトブック」を作る過程を楽しんだり、工夫を凝らした「フォトブック」そのものを作品にしてもらいたいという思いが込められています。
川本: これから3タイプの「フォトブック」を作りますが、和綴じのタイプは写真を集めた作品集という要素だけでなく、本の形、その形でさえも作品になるようにと思って作っています。
最初に作り方を紹介するタイプが、束ねたプリントの一辺を接着剤で固める、いわゆる「無線綴じ」と呼ばれるタイプの本です。簡単に作れるので、ぜひ試してもらいたいとおススメしている「フォトブック」でもあります。
川本: 作品を撮って「フォトブック」を作ろうとするとハードルが高い。作品はないです、というひとも意外と多い気がします。でも、実は日々、なにかに気付いている。それを集めて、自分の興味があるものとか、普段撮っている写真とか、そういうものから「フォトブック」を作ってもいいと思ってます。
川本さんはいいます。写真や作品集を作るとき、「好きなものを思い返す」ことを提案しているけれど、それができない方も多いのだと。そんなとき、きっかけとなるのが日々の暮らしで感じていること。SNSはその集大成でもあるのだそうです。
川本: たとえば、自身のSNSに投稿している言葉だったり、写真だったり、絵だったりというものを拾い上げていく。それをすることで、自分が好きなものが見えてくると思います。
その行為を、川本さんは「自分会議」と呼んでいました。「フォトブック」を作るということは「自分会議」を開く時間であり、自分の好きなものを見つめ直す時間でもある。だから、「フォトブック」の素材は写真である必要はないのだと。
川本: 「フォトブック」に入れるのは写真だけじゃなくて、自分で書いた言葉を入れたりとか、絵を入れたりしてもいいんじゃないかってことです。そんな言葉を拾い集めてから、それに合う写真を撮ってもいいし。反対に、好きな写真があって、それに合う言葉を見つけてもいいですよね。それらを集めて作品化できる手法が、「フォトブック」です。
手軽でも本格的な無線綴じの「フォトブック」
川本さんが「ベーシックタイプ」と呼ぶ無線綴じのフォトブックは、木工用接着剤があれば簡単に作れます。そのため、日々の素材を集めた気軽な「フォトブック」作りに向いているそう。
まずは、制作に使う道具から紹介します。絶対に必要なものが「木工用接着剤」と「目玉クリップ」の2つ。それ以外はなくても大丈夫ですが、あると作業がラクになって、「フォトブック」作りが楽しめる道具たちです。
⑤の「円切りカッター」(サークルカッター)は、表紙になる紙を丸く切り抜くために使っていました。普通のカッターで好きな形状に切り抜いたり、表紙になるプリントを作るなりすれば必要ありません。
④はクリップで束ねたプリントを固定するさいに、跡がつかないように保護する薄い板です。川本さんは木片を使っていましたが、プラスチックやボール紙などでも代用できそうです。
⑤の「マスキングテープ」は、接着剤を塗るさいにプリントを汚さないにするためのものです。粘着力を弱めたセロテープなどでもOKです。
準備ができたら、プリントを束ねて背になる部分に接着剤を塗り、乾くのを待つだけ。実際の作業時間は5分もかかりませんでした。
出来上がった「フォトブック」はプリントの背を接着剤で固めただけなのですが、想像以上に丈夫です。ページをペラペラとめくっても剥がれる様子はなく、とても手作りとは思えません。
川本さんは、ベーシックタイプの「フォトブック」を別の目的でも活用しています。それが、誰かに写真をあげるための「フォトブック」です。
この「フォトブック」はプリントの背を貼り合わせているだけなので、剥がす気になればきれいに分離できます。1枚のプリントにすることができるのです。
たとえば、ポストカードタイプのプリント用紙にプリントしておけば、「フォトブック」としても楽しめるし、剥がして「ポストカード」として誰かにあげることもできるわけです。
作品を見せるための「フォトブック」
ベーシックタイプの「フォトブック」は私的で素朴な「フォトブック」です。好きな写真や絵、言葉を集めて、束ねて、本にして、コレクションする。写真集として楽しむだけでなく、表紙にこだわって棚に飾ってみたり。そんな活用が似合っています。
次に紹介してもらう「フォトブック」は、より格調の高い、誰かに作品を見せるための「フォトブック」といえます。
「本格的な製本をする」と川本さんは作業をはじめましたが、実は、「かんたん手づくりブック」というキットがあり、それを使うとあっという間に本格的な写真集が作れるとのこと。
完成した「フォトブック」を見せてもらいましたが、しっかりとした表紙の本で、とても手作りとは思えない重厚感です。手にする質感はまさに、本屋さんで売っているハードカバーの写真集。
「かんたん手づくりブック」は、エプソンダイレクトショップで販売している製本キットです。キットには、「ハードカバー表紙」「中とじカバー」「天地止めクリップ」「表紙用ラベルシール」が入っていて、プリントを束ねてハードカバーの表紙にスライドするように挟めば出来上がり、という手軽さです。
本格製本する「フォトブック」に使う写真は思い入れのある作品とのことで、そのバックグラウンドを話してくれました。作品は森の中で撮影した写真に絵を描き加えたものです。その「森」というのが、冒頭で紹介してくれた毎月寝泊まりをしている森です。
「森の写真+絵」のビジュアルにひとことを添えて、写真と言葉がセットになった作品集でもあります。
この「フォトブック」は、プリントの設定にもこだわっていました。
しっかりとしたハードカバーの表紙のため、「のど」(プリントを閉じる部分)を少し広く設定していました。そうすることで、開いたときに左右の余白が均等に見えるようになります。
また、「小口」(本を開く部分)と「天」の広さを揃えることで、きれいに見えるようになるのだそう。
使用するプリント用紙は「Velvet Fine Art Paper」。写真に絵を描くという手法の作品のため、写真も絵のように見えてほしいという意図から、水彩画用紙のような質感をもつ「Velvet Fine Art Paper」を選択しています。
「フォトブック」のページ構成は、表紙をめくるとタイトルと作家の名前、ページをめくると世界観を広げるための文章、そして、作品が続いています。その順序を慎重に確認し、「かんたん手づくりブック」の説明書どおりに組み立てていけば、ハードカバーの本格的な「フォトブック」の完成です。
「かんたん手づくりブック」の表紙は付属のシールで写真が貼り付けられるのですが、川本さんは少しこだわって、透明なシールに写真をプリントしたものを使用していました。
ハッキリと写真が見えるのではなく、うっすらと表紙に浮かぶ絵柄で格調高い雰囲気を狙った作りです。
和綴じは難しいけれど難しくない
最後に紹介してくれた「フォトブック」が、和綴じと呼ばれるタイプの本です。和綴じとは、古来より作られてきた日本の製本技術で、重ねた紙の一辺に穴をあけて糸で綴じる方式のことです。今回紹介する3タイプの中でも、技術を必要とする作りといえます。
作ることが難しい反面、和綴じのデザインは個性的でもあるので、フォトブック自体を飾っても画になるし、表紙の素材や紐の色などを変えるなどして、「和綴じフォトブックシリーズ」としてコレクションすると楽しいかもしれません。
和綴じもそうですが、「フォトブック」を作るための製本の技術はたくさんあります。本格的に学ぶと難しいかもしれませんが、川本さん曰く、簡単なやり方にアレンジしてもかまわないとのこと。
川本: 本を作るノウハウは自己流です。下調べをして自分が作りたいものにいちばんよさそうなやり方をピックアップしています。ただ、それをそのまま真似るというよりも、より簡単にアレンジして。たとえば和綴じなどは、「もっと簡単な綴じ方でもよくない?」みたいな感じで、自分勝手に編み出して作っています。
最後に作る和綴じの本は、かなり個性的なデザインです。普通の本はすべてのページが同じ寸法ですが、川本さんの和綴じの「フォトブック」はページごとに幅が異なっていて、立体的に見えるデザインでした。
「フォトブック」のタイトルは、「海がはじける」。海に関するテーマの作品で、「写真+文章」のページで構成されています。
川本: 海をテーマの「フォトブック」はどんな形にしようかなと考え、「波の形」をイメージしてこのような形にしました。段々状のデザインで波を感じてもらいながら、中の写真や文章も波のような流れのものとして感じてもらいたい。そう願い、この作品を作っています。
和綴じの「フォトブック」は、「穴をあける」という作業と、「糸で綴じる」という作業があり、そのための道具が必要になります。道具を揃えるという点ではハードルは高いかもしれませんが、モノを作る面白さや醍醐味という点では、ほかの2点の「フォトブック」よりも大きいのかな、と川本さんの作業を拝見して感じました。
和綴じ用のプリントは前述のとおり、ページごとに幅の異なるデザインです。これはプリンターで出力したのち、カッターで目当てのサイズに切り抜いていました。そして、プリントを束ねてハンマー+千枚通しで穴をあけ、糸を通して綴じていきます。
やることはシンプルですが、多くの方が「縫い方」に戸惑いや難しさを感じるかもしれません。でも、ここで苦手意識をもってしまうと先に進めません。縫い方自体は単純なので覚えると簡単なのですが、川本さんはこだわらなくてもよいといいます。
川本: 正式な和綴じにこだわらず、穴をあけてとにかくそこに糸を通す。波縫いでもかまいません。最後まで糸を通して結んで終わらせると、本として綴じることができます。和綴じはハードルが高いなと思うひともいるかもしれませんが、糸で縫って留めるだけと考えれば簡単です。
川本: 和綴じはアレンジのしやすい「フォトブック」です。糸の色を変えたり、ラメの入った糸や紐を使ったり、穴をジグザグにあけてみたり。難しそうに見えても縫い方を知っていれば簡単です。穴の数は自由だし、間隔も自由。今回作った作品は本来の和綴じよりも穴の感覚を少し狭くして、スッキリと見せることで“和”に寄り過ぎないようにしました。
和綴じは難しくないという川本さんの言葉どおり、切ったり穴をあけたり縫ったりという工作の過程は多いのですが、やっていることは単純です。なにより、手作りしているという実感が味わえそうです。
表紙の素材にこだわるのも楽しさのひとつで、「フォトブック」自体の作品性を高めるため表紙になる紙を探してみたり、紙の代わりに布や革を使ってみたり、それぞれに工夫を凝らして「フォトブック」作りを楽しんでもらいたいと語っていました。
川本さんがぜひ作ってもらいたいとおススメしていたのが、最初に紹介したベーシックタイプの「フォトブック」です。気軽に作れて、自分の好きなもの、嫌いなものを見つめ直すきっかけになる本だといいます。
SNSをやっているのなら、そこに投稿している写真や文章を「フォトブック」に落とし込んでみる。そうすることで気軽に見返せるようになり、それが作品制作につながることもあるのだと。
川本: 「フォトブック」は自分の歴史みたいなものをまとめる形になるので、ひとに見せるようなものでなくてもいいと思うんです。自分の手に残しておくような「フォトブック」になってもいいなと思うので、ぜひベーシックタイプの「フォトブック」を作ってみてください。
取材後記
写真をプリントして終わりという方は多いと思います。きれいなプリントが作れると満足度は高いかもしれませんが、プリントの世界には「その先」があります。今回紹介した「フォトブック」もそのひとつです。
「本」はそれ自体が作品でもあります。単にプリントを束ねるだけでなく、プリントする用紙や表紙の素材、綴じ方、装飾などにこだわることで、新たな作品として成立します。
写真だけでなく絵や文章を含めてもいいし、表紙などはプリンターでは印刷できない蛍光色のインクで手塗りしても面白いかもしれません。ほかにも、手塗りで小口を染めたり、箔押ししてみたり。
プリンターで作る「フォトブック」は大きさが自由なのですから、手のひらサイズの本だって作れます。
川本さんのお話をお聞きして、「プリントして終わり」はもったいないことかもしれないと感じました。プリンターを所有しているのなら、ぜひ「フォトブック」作りにチャレンジしてみてください。そして、「フォトブック」を作るために写真を撮りに行きましょう。
状況写真:武石修
制作協力:エプソン販売株式会社