特別企画

写真バックアップにNAS時代が到来?

写真家が使ってみた「Synology DS416」

PCに詳しいコンシューマーの間では今、NASによるバックアップが流行しているそうだ。一方、写真愛好家のバックアップといえば、外付HDDの利用が一般的だろう。以前より高性能になったとはいえ、NASを写真のバックアップに使う意義はどのへんにあるのだろうか?

Synology DS416を例に、ライターの榊信康さんにNASによる写真バックアップの利点を解説してもらった。同時に、写真家の上田晃司さんにつかってもらい、その感想を述べてもらった。(編集部)

NAS初心者の写真家・上田晃司さん。DS416を使った感想はいかに?

増大するデータをバックアップ

写真に取り組む姿勢は人それぞれ。日々撮影に勤しんでいる方もいれば、カメラに触れるのは月に数回程度という方もいるだろう。だが、程度の差こそあれ、データの保存場所に苦慮したことはあるはずだ。

基本的に撮影データは増えていく一方なうえに、作品としては失敗したデータでも、撮影時の思い出や被写体への想い入れなど様々な補正がかかり、消すに消せないデータも数多存在する。よしんば削除を断行したとしても、結局のところは容量不足になるまでの時間をわずかに先延ばしにしたに過ぎない。

増え続けるデータへの現実的な対応として広く用いられているのは、ある程度データが溜まったらHDDなり、光メディアなりに退避し、目録をつけてアーカイブにするといったところだろうか。作業の手間と保存場所が必要になるが、PCの記録領域に余裕がないと運用自体に難が出るので、やむを得ない処置といえる。

ただ、昨今はデジタルカメラの画素数がグングンと上昇し、フォトデータのサイズも大きくなっている。ストレージデバイスのビットコスト低減と大容量化も並行しているため、金銭面での負担はさほどではないものの、空けておくべき容量、退避するための容量の確保は以前にも増して大変になった。

何しろデジタルカメラによっては、1ファイルあたりのデータサイズが50MB前後になるのだから、内蔵ドライブの容量を多少増やしたくらいではすぐにデータが溢れてしまう。小まめにデータを退避すれば容量の確保自体は可能だが、あまりに作業が頻繁だとウンザリする。

何よりデータの保存場所が細分化し過ぎると、いざ目的のデータを探そうとなった際にかかる手間が大きい。利便性を重視するならば、イタチごっこになることをある程度は許容し、大容量の保存場所を確保するのがベターだろう。

一口に大容量の保存場所といっても最近では色々な方法がある。ポピュラーなところでは、クラウドストレージやNASなどだが、ここではSynology社の「DiskStation DS416」を例にしつつ、NASを紹介していくことにする。

改めてNASとは一体?

DiskStation DS416

まずはざっとNASについて説明していこう。

NASとは「Network Attached Storage」の略称であり、「ネットワークに繋いだ保存庫」のことだ。PCに外付けのHDDを繋いだことのある人は多いだろうが、これはDAS(Direct Attached Storage)と呼ばれる接続形態だ。

これに対してNASは、PCではなくネットワークに接続する格好になる。ネットワーク上の1端末として動作するためのOSやCPU、メモリなども搭載しており、ネットワークに接続された端末からデータが閲覧・保存できるようになる。

PCだけでなく、スマートフォンやタブレットが普及した現在では、これらのデバイスの所有数が増えるほど、DASよりもNASの方が運用における利便性は向上するだろう。また、設定によってはLANだけなく、インターネット経由でデータをやり取りすることも可能だ。

また、NASは大抵の場合、RAIDという冗長性を持たせる(多重化する)仕組みを採用しており、HDDが故障した場合でもデータが復旧できる可能性は高くなる。また、複数のHDDを搭載していても1つのドライブとして扱うことができる点もRAIDの大きなメリットだ。十数TBものデータを1ドライブで扱えるため一覧性がよく、データの管理や閲覧が非常にやりやすくなる。

DS416では4台までのHDDを搭載可能。
必ずしも一度に4台搭載する必要はなく、後からHDDを追加することもできる。

無論、メリットだけでなく、複数のHDDが必要(導入コストが高くなる)になり、使用できる容量は搭載したHDDの容量の総和よりも減る(復旧用のデータが必要となるため)というデメリットも存在する。この辺りは利便性・信頼性とコストの兼ね合いになるだろうが、最近のHDDは非常に容量が大きくなったため、故障時には凄まじい量のデータを損失することになる。長い月日をかけて蓄積したデータが一気に霧散する憂き目を避けるためにも、データ保護には多少のコストを割くのが賢明に思う。

Synology DS416を使ってみる

DS416は4つのドライブベイを搭載している。1ドライブあたりの最大容量は8TBなので、都合32TBの容量を搭載できるわけだ。RAIDの特性上、32TBすべてを記録容量として使用できるわけではないが(RAID0ならば可能だが、わざわざDS416で用いるのは勿体ない)、それでも24TB(SHR、RAID5利用時)は確保できる。これだけあれば当面は容量不足に悩むことは無いだろう。

ホットスワップにも対応しているので、HDDに障害が発生した際にも、NASの機能を止めることなくHDDの交換が行なえる。

これがHDD用のトレイ。
このHDDに取り付けてみる。
両者を組み合わせたところ。

RAID導入における最大のハードルになっているのは、コストよりもむしろ仕組みの難解さかもしれない。効率の良いRAIDを構築するためには、それなりにRAIDの知識が必要になるからだ。

この点においてDS416は、SHR(Synology Hybrid RAID)と呼ばれる仕組みを用意しており、取りあえずHDDを装填して、SHRを選択しておけば、自動的に台数や容量を検知し、最適な構成のRAIDを構築してくれる。こと構築については、RAIDの知識・経験を持たない初心者でも問題なくできるだろう。

どれくらいの容量のHDDを何台使用すれば目的の容量になるのかは、SynologyのWebサイトに用意されたRAID計算機を使用すれば大体のあたりをつけることができる。

大容量のデータを扱うとなると、転送速度は使い勝手を左右する。先にも記したように、NASはOS、CPU、メモリなどを搭載しており、これらの性能と通信環境、使用人数によってレスポンスは大きく変わってくるが、DS416は企業ユースも想定した中堅機だけあって、スペックもしっかりしている。

具体的には、1.4GHzのデュアルコアCPUを採用するとともに、メモリも1GBを搭載しており、最大転送速度は読み取り220MB/s、書き込み140MB/sとなかなかに高速だ。

また、CPUには暗号化エンジンも組み込まれており、暗号化したデータの転送でも、公称で読み取り146MB/秒、書き込み65MB/秒の速度を確保している。

前面の電源ボタン周り。USB3.0コネクタがある。
背面インターフェイス。有線LAN、USB3.0、電源入力などを装備。

データはネットワーク経由のみならず、本体のUBS3.0ポートによって直接転送することもできる。このため、撮影後に一度PCにデータを移してからDS416へと移し替えるといった煩雑な手順を踏まずに済む。もちろん、一時的なデータのやり取りだけではなく、常時USBデバイスを接続しておき、共有フォルダとして用いることも可能だ。

最も有用な使い道としては、USBドライブを繋いでおき、定期的にDS416のバックアップを作成することだろう。RAIDはHDD単位の故障であれば、HDD単体で運用している場合よりもデータ復旧の可能性は高いが、複数のHDDが一度に壊れる可能性は否定できないし、NASそのものが壊れることもある。バックアップは多重化してこそ意味があり、NASだけに頼りきるのは避けた方がよいからだ。

写真家・上田晃司さんの感想は?

私は仕事柄、多くの写真データを扱う。バックアップ用途として最低でも2重、3重のバックアップするように心がけているため、年間で最低でも3TBは消費する。

このとき、各データを古い1TBのHDDに分散して保存しているため、直近の画像・映像ファイルを探す分には問題ないが、2〜3年前の素材などを探すにはドライブの換装などを挟むことから、時間が掛かってしまうのが悩みの種だった。

今回、初めてSynology DS416を使用してみて感じたのは、設定の簡単さ。今まで、ネットワークに繋ぐHDDは設定が難しいものと思い込んでいたので、実際に設定してみて、予想外の簡単さに驚かされた。

せっかくなので、今主流の3TBや4TBのHDDに換装して大容量化し、写真を探す際の負担軽減を図っている。HDDは4つ収納できて、取り付けも驚くほど簡単。フロント部分にあるケースにHDDを挿し込むだけなので工具も不要だ。

大容量のデータを扱いやすくなったことにより、仕事の効率も上がった。直近1〜3年くらいのデータをすばやく、1度に探せるのは本当にありがたい。

設定は意外に簡単

ハードウェアの性能もさることながら、Synology NASはソフトウェアでも定評がある。OSはDSM(Disk Station Manager)を用意しており、Webブラウザから操作が行なえる。DSMは多機能だが、グラフィカルでわかりやすいインターフェースを採用するとともに、非常に充実したヘルプを用意しているため、わりとすんなり馴染むことができる。なお、DSMはSynologyのWebサイトからダウンロードすることもできる。

詳細なヘルプが準備されている。
Synologyのダウンロードページ。DSMなどを入手できる。

DSMの機能で特に面白いのは「QuickConnect」だ。

NASのデータをLAN内からの利用のみでなく、外出先から利用したい人も居るだろう。一般的なNASであればDDNSなどの設定をする必要があるのだが、QuickConnectはSynologyが用意した中継サーバを経由して、外部からSynology NASの操作を行えるようにしてくれる。

利用するためには、事前にSynologyにアカウントを作成して、QuickConnectIDを作成する必要があるが、これさえ済ませてしまえば、以後は外部からでも何の労苦もなく利用できる。スマホ用のアプリも用意されているので、それこそ時・場所を問わずにSynology NAS内のデータを活用可能だ。

QuickConnectの設定画面

また、パッケージと呼ばれるSynology NAS用のアプリケーションが充実していることも特徴の1つだ。インストール、アンインストールはDSM上から簡単におこなえる。ざっと数えたところ、64のパッケージが用意されている。開発用のパッケージもあるので、自前のパッケージを開発・利用することも可能だ。

パッケージセンター

様々なパッケージの中で読者の嗜好に合うのは「PhotoStation」だろう。PhotoStationは、オンラインフォトアルバムを作成するためのツールで、写真の管理(タイムライン、マップ)やアルバムの作成、公開・共有が行なえる。

Pixlr EditorやPixlr Express、AviaryなどWebベースのフォトエディタへのショートカットも用意されており、写真が手軽に編集できる。

PhotoStation
PhotoStationに含まれるエディターを立ち上げたところ

写真家・上田晃司さんの感想は?

Photo Stationは、タグによる管理機能や画像のアップロードなどを簡単に行えるところが魅力だ。挙動も軽く、サクサク動くのでストレスは全く感じられない。

タグ機能では、撮影した場所の「位置タグ」や人を登録する「人タグ」、その他の情報を追加する「一般タグ」を登録できる。時間のある時にタグ付けしておくと、写真を簡単に検索できるようになるのでおすすめしたい。

付加できるタグは3種類。

アクセシビリティに関して、最も便利だと思ったのは、リモートアクセス機能「QuickConnect」だ。

自宅で作業している際、事務所にデータを忘れていることに気付くことがまれにある。これまでは、データを取りに行くだけのことで時間を浪費してしまうこともあった。しかしリモートアクセスが使える環境なら、NASにデータを忘れずに保存してさえいれば、自宅からでもデータを取れるので時間を無駄にせずに済む。

許可したユーザーには、外部からアップロード済みのデータを閲覧させたり、ダウンロードさせたりすることも可能だ。アカウントやパスワードを作成して送るだけなので、管理もしやすく気軽にできるところが便利だと思う。

管理者アカウントの設定画面

また、「DS photoアプリ」を使用するとモバイルデバイスから画像ファイルにアクセスできる。試しに携帯キャリアのLTE環境で使ってみたところ、特にストレスなく画像にアクセルすることができた。

これまでは画像を持ち運ぶ目的で打ち合わせにHDDを持って行くことも多かったが、HDDの持ち運びは嵩張る上に破損のリスクも高い。また、アプリを使えばタブレットやスマートフォンから画像を参照できるため、パソコンも持ち歩く必要がなくなったのは大きなメリットといえるだろう。

DS photoアプリ
NASに保存した写真を外出先で閲覧できる。
各種SNSへの投稿も可能。

クラウドストレージとの連携も

また、パブリッククラウド サービスとの連携機能「Cloud Sync」もなかなかに有用だ。Dropbox、GoogleDrive、OneDriveほか様々なクラウドストレージに対応しており、Synology NASとの間でファイルの同期・共有が可能となる。先に触れたバックアップだが、重要なデータが少量ならば、HDDを接続せずにこのようなクラウドストレージを活用するのも1つの手だろう。もちろん、両者を併用すればより高い安全性が確保できる。

Cloud Sync

NASは決して安価な買い物ではないが、PCやスマホなどのデバイス1台1台に対してデータ保護の対策を取ることを考えれば、まだNASにデータを集約する方が金銭的、時間的なコストは軽く済む。データを一元管理することの利便性も加味すれば、悪い買い物にはならないはずだ。

ここで紹介したDS416は、性能・機能からするとホビー向けというよりは企業かヘビーユーザー向けのクラスだが、NASは長らく運用するデバイスであり、今後は扱うデータのサイズが増大していくことも考えると転送速度、処理速度、容量に余裕があるに越したことはない。

DS416ではオーバースペックという人は、一度SynologyのWebサイトを覗いてみるとよいだろう。より購入しやすい価格のJシリーズなど、豊富なラインアップの中から、自身の目的に合った製品を購入していただきたい。

写真家・上田晃司さんの感想は?

私はあまりネットワークに詳しいわけでもないので、今までは「難しそうだ」というイメージが先行して、NASに手を出すことにはいささかの躊躇があった。しかし、今回DS416を使用してみて、そのイメージは見事に覆ったと言っていい。今まできちんとNASを知ろうとしなかったことを後悔しているほどだ。

しかし使い始めてからは、シンプルなストレージ機能だけでなく、画像の保存や管理といった部分も便利に使っている。HDDの装着や入れ替えも工具なしで行えるので、換装のストレスも少ない。機能面では、iPadやiPhoneからリモートアクセスで画像の閲覧が簡単にできる点は特に便利だと感じた。

複数デバイスからアクセスできることによるストレージの一本化や、各種ユーティリティによる利便性、多重バックアップの安心感は、ほかの何物にも代えがたいものがある。未編集の動画やRAW画像データを扱うことで、ストレージの容量を大量に消費する私のようなユーザーには必須であろう。

瞬間をとらえた写真データは、撮影者固有の、唯一無二の大事な思い出だ。今回の試用では、写真データのストレージにNASを採用することのメリットを大いに実感した。NASで享受できるメリットは、プロの写真家のみならず、写真を愛好するみなさんにとっても有益なものだと感じているので、この機会にぜひ、NASという選択肢があることを憶えておいていただきたい。

協力:Synology Inc.

榊信康

上田晃司

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。現在は、カメラ誌やWebに寄稿している。