PENTAX Qでマウントアダプターを試す(ムービーカメラレンズ編)

Reported by 中村文夫

 PENTAX Qの撮像素子は1/2.3型と小さく、アダプターを介して35mmカメラ用レンズを組み合わせると画角が極端に狭くなる。要するに望遠撮影が主体になり、バードウォッチングなど用途は限られがちだ。やはりスナップを楽しむには広角レンズが欲しい。こんな望みを叶えてくれるのが ムービーカメラ用レンズを使うCマウント、またはDマウントアダプターだ。

 Cマウントアダプターは、すでにマイクロフォーサーズやソニーNEX用の製品が存在するが、マウント形状の問題から取り付けられなかったり、イメージサークルの関係でケラレが生じるなど、意外と制約が多い。だがPENTAX Qのフランジバックは9.2mmと短く、撮像素子も1/2.3型(5.9×4.4mm)と小さいので、ほとんどのCマウントが使用可能だ。

 またPENTAX Qが登場するまで、Dマウントレンズが使えるデジカメは、この世に存在しなかった。Cマウントに比べると使用上の制約は多いが、DマウントレンズはCマウントレンズより焦点距離が短く、個性的な製品も多い。ペンタックス純正のトイレンズシリーズのさらに上をゆく、自分だけの表現に最適なレンズと言えるだろう。

Cマウントレンズ(左)とDマウントレンズCマウントレンズ(左)とDマウントレンズ
Cマウントアダプター(左)とDマウントアダプター(右)。35mm一眼レフ用アダプターと同様、ボディ側の電気接点を保護するガードを装備している

「35mm一眼レフレンズ編」はこちら


Cマウントとは

 Cマウントは、16mmフィルムを使うシネカメラ用レンズに採用されたねじ込み式マウント。口径は25.4mmでフランジバックは17.5mm。フランジバックが短いことから、これまで35mm一眼レフタイプのボディでは使用できなかった。だがマイクロフォーサーズやソニーNEXの登場で活躍の場が生まれ、一躍、脚光を浴びる。

 CSマウントはCマウントから派生したマウントである。Cマウントのフランジバックを5mm短縮した産業カメラ用で、ねじ込み部の規格はCマウントと同じ。そのためCマウントアダプターに取り付けられるが、どこにもピントが合わない。レンズを選ぶときは注意が必要だ。


Dマウントとは

 Dマウントは、家庭用ムービーカメラとして50年代に大ブームを起こした8mmシネカメラ用の規格。口径は約15.9mmでフランジバックは約13mm。Cマウントを一回り小さくしたようなねじ込み式マウントだ。現時点でマウントアダプターを介してDマウントレンズが使用可能なデジタルカメラはPENTAX Qだけ。10月20日発売のNikon 1シリーズは、フランジバックが約17mmと長いので、Dマウントレンズ用アダプターが登場する可能性は非常に低い。

 C、Dマウントとも、スイスのケルン、フランスのアンジェニュー、日本製ではズノー、ニコンなど、国内外の名だたる光学メーカーが製品を手がけている。ミラーレス機が登場するまで、これらのレンズの需要は低く、中古市場に、それほど商品は出回らなかった。だがマイクロフォーサーズやNEXの登場により、最近では中古カメラ専門店でも良く見かけるようになった。

 全盛期を過ぎたとは言え16mmムービーカメラは未だ現役。そのためCマウント中古レンズの市場価値はかろうじて保たれている。またCマウントは現在でも産業用デバイスとしての需要があり、ペンタックス、フジノン、タムロンをはじめ多くの光学メーカーが製造中。販売ルートは限られるが、新品も入手できる。これに対し8mmムービーは、ほとんど過去の遺物。Dマウントレンズの多くはカメラボディと共に既に処分され、中古市場の流通する量は意外と少ない。


イメージサークルについて

 16mmムービー用Cマウントレンズは、16mmフィルムの画面サイズ(10.26×7.49mm)に合わせた設計だ。PENTAX Qのセンサーサイズ(5.9×4.4mm)を十分にカバーするので基本的にケラレは生じない。ただし後に登場した産業用Cマウントレンズには、1/4(3.6×2.7mm)1/3(4.8×3.6mm)、1/2(6.4×4.8mm)、1(12.7×9.525mm)型CCD用があり、1/3型以下のレンズを使用するとケラレが生じる可能性ある。

 8mmムービー(レギュラー)の画面サイズは4.4×3.31ミリ。PENTAX Qの撮像素子サイズより一回り小さい。そのためDマウントレンズでは画面の四隅にケラレが生じたり、周辺部の画質が著しく低下することがある。特に5〜6mmクラスの広角レンズはケラレが目立つ。これに対し13mmクラス以上のレンズにはイメージサークルに余裕があるものが多く、意外とケラレは生じない。

 C、Dマウントレンズのように焦点距離の短いレンズは、ほんの少しヘリコイドが前後しただけでピントが大きくずれる。そのためアダプターが、無限遠に大きく余裕を取った設計だと、最短撮影距離がレンズの距離表示より長くなったり、場合によっては、まったくピントが合わなかったりする。この点レイクォールの製品は、さまざまなレンズを検証してアダプターの厚みを決めているので安心だ。さらにレンズの個体差に対応するため、Dマウントアダプターにはフランジバック調整用のシム(スペーサー)が付属。日本のメーカーらしい細やかな心遣いだ。


実写サンプル:Cマウントレンズ

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・ペンタックス/コズミカ6mm F1.2

 ペンタックスブランドに統一される以前、ペンタックスが製造した工業カメラ用Cマウントレンズは、コズミカブランドで販売されていた。なお現行品の情報は、このページから得ることができる。

ペンタックス/コズミカ6mm F1.2

 1/2型CCD用の設計なのでPENTAX Qのイメージサークルをカバー。VGA(640×480ピクセル)用設計のため、解像度はそれほど高くない。だが35mm換算で焦点距離33mmに相当する画角に加え、1.2という開放F値には大きな魅力を感じる人も多いのでは? 絞り開放時はかなりフワっとした描写でボケ味も独特。絞っても画質は、それほど上がらない。


PENTAX Q / ペンタックス/コズミカ6mm F1.2 / 約3.3MB / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F1.2 / 0.0EV / ISO125 / WB:日陰 / カスタムイメージ:鮮やかPENTAX Q / ペンタックス/コズミカ6mm F1.2 / 約2.2MB / 4,000×3,000 / 1/640秒 / F8 / 0.0EV / ISO125 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

・ケルンスイター25mm F1.4 RX

 35mm一眼レフカメラのアルパ用レンズで有名なスイスのケルンが製造した16mmシネカメラ用レンズ。コントラストは高めだが、絞り開放時の描写は柔らか。ボケ味も個性的だ。

ケルンスイター25mm F1.4 RX

PENTAX Q / ケルンスイター25mm F1.4 RX / 約3.0MB / 4,000×3,000 / 1/400秒 / F1.2 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / カスタムイメージ:雅PENTAX Q / ケルンスイター25mm F1.4 RX / 約2.3MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F8 / 0.0EV / ISO250 / WB:オート / カスタムイメージ:銀残し

・アンジェニュー75mm F2.5

 ムービーカメラ用レンズメーカーとして有名なフランスのPアンジェニューが製造した16mmシネカメラ用望遠レンズ。解像度は高いが開放だとフレアが目立つ。

アンジェニュー75mm F2.5

PENTAX Q / アンジェニュー75mm F2.5 / 約2.1MB / 3,000×4,000 / 1/500秒 / F4 / +0.3EV / ISO125 / WB:オート / カスタムイメージ:リバーサルフィルムPENTAX Q / アンジェニュー75mm F2.5 / 約5.2MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F2.5 / +0.3EV / ISO320 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

・コズミカピンホールレンズ9mm F3.4

 対物レンズの口径は約3mm。壁に開けた小さな穴から室内を監視するために開発された防犯カメラ用特殊レンズだ。光学系が特殊なため像は倒立。ヘリコイド非内蔵で接写リングを併用すると高倍率の接写ができる。


PENTAX Q / コズミカピンホールレンズ9mm F3.4 / 約2.0MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F16 / +0.3EV / ISO400 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか(5mm厚の接写リング使用)


実写サンプル:Dマウント

・ケルンパイザー5.5mm F1.9

 8mmシネカメラ用広角レンズ。イメージサークルが小さいので、画面周辺部の像が大きく流れ、四隅のケラレも目立つ。トイカメラ的な表現にぴったりの製品と言えるだろう。8mmシネカメラ用広角レンズの多くは、パンフォーカス撮影が前提なので、ピント合わせ用ヘリコイドを省いた製品が多い。

 このようなレンズは、マウント取り付け部のネジを緩めてピントを合わせるしかない。ただネジを緩め過ぎるとレンズが落下したり、光軸が傾くので注意が必要。


PENTAX Q / ケルンパイザー5.5mm F1.9 / 約4.1MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F4 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やかPENTAX Q / ケルンパイザー5.5mm F1.9 / 約2.5MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F2.5 / -0.3EV / ISO160 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

・ズノー6.5mm F1.4

 ズノーはライカスクリューマウント用大口径レンズで有名なメーカー。主にヤシカに8mmカメラ用レンズを提供していた。ライカスクリューマウントレンズは、その希少性から数十万円するが、8mm用Dマウントレンズなら1/10以下で手に入る。

 このレンズはピント合わせ用ヘリコイド付き。絞り開放時の描写はまるでソフトフォーカスレンズのようで、ボケ味も独特。逆光時にはゴーストが盛大に出る、いわゆるクセ玉だが、傑作が撮れたときの喜びはひとしおだ。4:3のフォーマットだと四隅がけられるが、16:9や正方形を選ぶとケラレが目立たなくなる。


PENTAX Q / ズノー6.5mm F1.4 / 約1.8MB / 3,000×4,000 / 1/1,000秒 / F4 / 0.0EV / ISO125 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラルPENTAX Q / ズノー6.5mm F1.4 / 約2.3MB / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F2.5 / -0.3EV / ISO125 / PENTAXWB: / PENTAXWB:unknown / カスタムイメージ:鮮やか
PENTAX Q / ズノー6.5mm F1.4 / 約2.4MB / 2,992×2,992 / 1/6,400秒 / F4 / -0.3EV / ISO250 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラルPENTAX Q / / 約1.6MB / 4,000×2,248 / 1/2,000秒 / F2.5 / +0.3EV / ISO125 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

・ズノー13mm F1.9

 6.5mmほど個性は強くないが、ボケ味は独特。コンパクトな鏡胴がPENTAX Qによく似合う。


PENTAX Q / ズノー13mm F1.9 / 約3.8MB / 3,000×4,000 / 1/100秒 / F2.5 / 0.0EV / ISO320 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

・コダックシネエクタノン13mm F2.7

 廉価版の8mmカメラに付属していた標準レンズなのでピントは固定式。焦点距離が長い割りに周辺部の流れが目立ち、コントラストもそれほど高くない。


PENTAX Q / コダックシネエクタノン13mm F2.7 / 約2.1MB / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F2.5 / 0.0EV / ISO125 / WB:オート / カスタムイメージ:雅




中村文夫
(なかむら ふみお)1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。

2011/10/20 00:00