特別企画
マクロレンズの代わりになる?NiSiの超高性能クローズアップレンズを試す
2020年9月24日 07:00
フィルターのようにレンズ先端にねじ込むだけで、マクロレンズより手軽に接写が楽しめるアイテムがクローズアップレンズだ。NiSiから発売されている「クローズアップレンズNCキット」に含まれるクローズアップレンズは、一般的なクローズアップレンズのクオリティを超える性能で定評がある。今回はその一端を探るべくテストしてみた。
一般的なクローズアップレンズはいわゆる虫眼鏡のように、1枚の単レンズで構成されていることが多い。NiSiのクローズアップレンズは1群2枚のアポクロマート構成で、高品質な望遠レンズなどに使われる特殊低分散ガラスも使用。色収差を極限まで補正したという。色のにじみが少なく、かつマスターレンズの描写力を損なうことのない高性能を実現しているのだ。つくりもしっかりしており、ずっしりした重みがよくあるクローズアップレンズとは異なる品質を期待させる。
今回は77mm径の「クローズアップレンズNCキット」使用。その特性に即して望遠ズームレンズ「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」を使って撮影してみた。
キット内容はクローズアップレンズ本体、72-77mm、67-77mm各アダプターリング、ポーチ。レンズ本体は厚みがあり、手に持つと見た目よりずっしりしていて、フィルターというよりまさに「アタッチメントレンズ」といった趣だ。
レンズの枠やアダプターリングは、手触りがよく高級感のあるアルマイト仕上げ。ネジ切りもよく、スムースに装着できる。スペックに直接現れないところだが、手抜きのない仕上げがカメラ好きの心をくすぐる。
ポーチもチープさはなく、つくりはしっかりしていて、持ち運ぶこともよく考えられていて好感が持てる。
テスト1:撮影倍率の変化
テスト2:色収差
テスト3:絞りごとの画質差
目的
絞り値により、描写力がどの程度変化するのかをチェック。平面に近い被写体は、解像力を判断するのに向いている。柄の細かい小さな千代紙を組み合わせて被写体に選び、カメラと被写体が平行になるように、水準器をあてて真俯瞰で撮影してみた。
結果
クローズアップレンズの特性上、絞り開放ではピントの芯は出るものの、球面収差により、ややソフトな描写になる傾向がある。
しかし今回のテストは絞り開放から充分にシャープで、解像感も高い良い結果となった。マスターレンズとして使用した「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」の70mm側の画質を良さを大きく損なっていない印象だ。
画面周辺部を部分拡大してみると、開放F4からF5.6、F8、F11と絞り込むごとにシャープさは増していく。F11でも厳しい目で見れば、画面の最周辺部では画像の流れが見受けられるが、立体的な被写体では気にならないはずだ。
マスターレンズの性能と相性ももちろんあるが、絞り込むと画質は良くなる。かといって絞り込みすぎても良いわけではなく、回折現象によりかえってピントが甘くなるため注意が必要だ。
一般的には実用上も考えると、絞り開放から2〜3絞り絞ったところが、鮮鋭な画像が得られる「美味しいポイント」となる。また、柔らかな表現を求めるなら、絞りをあえて開放で使うのも面白い。ピントもかなり浅くなるので、ボケを生かした絵づくりができる。また周辺光量もやや低下するが、これは逆手に取って、主題を強調するのにも使えそうだ(作例ではカメラのヴィネットコントロールはOFFにして撮影)。
おまけ:マクロフォーカシングレールNM-180を使ってみる
NiSiは「クローズアップレンズNCキット」の発売に合わせて、「マクロフォーカシングレールNM-180」という製品を投入している。フォーカシングレールは、載せたカメラをかなり微細に動かすことができるため、マクロ撮影では非常に高精度なピント合わせができる。ただしその機構上、光学ファインダーは覗きにくくなるため、ライブビューでの使用に向いている。
マクロ撮影においてピントを置く位置は、画像のイメージが変わってしまうほど重要なポイントになる。レンズのピントリングは一定にしたまま、フォーカシングレールとクローズアップレンズを併用して、カメラを微動させてピント位置を変えてみた。
三脚の雲台にカメラを固定してフレーミング、あらかたピントを合わせたあとはフォーカシングレールのハンドルを操作する。ハンドルをぐるぐる回しながらライブビューでモニターを見ながらベストなピント位置を探る。ハンドル1回転でカメラの台座は1mm強しか動かないため、たいへん高精度なピント合わせができる。作例ではニコンD850を使用しているが、カメラ取り付け台が小さめなので、どちらかといえばより小型の一眼レフカメラか、ミラーレスカメラの方がバランスがよいだろう。
まとめ
フィルムカメラ全盛期、50mm標準レンズの先端に虫眼鏡を当てて接写した経験のある人も多いかと思われるが、残念ながら画質は大幅に落ちてしまう(今やそれは味とも言えるかもしれないが)。
時は流れてデジタルカメラ時代の今、NiSiのクローズアップレンズは、そのような単なる虫眼鏡ではなく、収差の少ない立派なアタッチメントレンズとして、普通のレンズを「寄れるレンズ」に変身させてくれる素晴らしいアイテムである。手持ちのレンズの先にねじ込むだけで、マクロレンズの代わりとなりうるほどの性能を発揮する。
そしてマスターレンズの最短撮影距離を超えて「もう少し寄りたい!」という願望を叶えてくれる。高画素のデジタルカメラではレンズ描写が仔細に露呈されてしまうが、このクローズアップレンズは、そんな高画素の時代でも充分に楽しめる高い性能を誇っている。
コロナ禍のいま、身近な「モノ」に迫ったテーブルフォトは、室内で楽しめるものだけに、まさに写真の「在宅ワーク」になりうる。クローズアップレンズ1枚で、あなたの写真が変わるきっかけになるかもしれない。
筆者は仕事で商品撮影を多く手がけていることもあり、マクロレンズ各種を多用しているのだが、このクローズアップレンズは実に興味深いアイテム。手持ちのお気に入りの望遠ズームレンズがいとも簡単に寄れるようになり、撮影が実に楽しくなった。
なお作例ではスタジオ用の大型ストロボを使用しているが、普通のクリップオンストロボと同じくらいの光量で撮影しているので、本記事中のライティングも参考にしていただけることと思う。
協力:NiSi Filters Japan