特別企画

6月21日の天体ショー「部分日食」を撮影してみよう

日食撮影で便利なアプリや撮影方法を解説

2020年6月21日の夕方、日本の広い範囲で部分日食を見ることができる。そこで今回は天体撮影初心者でも日食を撮影するための方法について紹介する。

日食とは月が太陽の前を横切ることで太陽の一部が隠れる現象で、日本では1~2年に1回程度見ることができる比較的レアな天体イベントだ。今回見られる日食は太陽の一部が隠れる部分日食となるが、北海道から沖縄まで日本全国で見ることができ食分(太陽が隠れる度合い)も比較的大きい。望遠レンズと観察用のアイテムを持っていれば手軽に撮影がたのしめるので、ぜひ撮影に挑戦してみてほしい。

準備しておくもの

日食を撮影するためには必ず用意しなければいけないものが2つある。それは望遠レンズと高濃度NDフィルターだ。使用するカメラはライブビューが使えればなんでもOKだ。

筆者の撮影機材。最近は一般の人でも手に入れやすい超望遠レンズが増えている。テレコンバーターを使えば天体望遠鏡並みの撮影が可能だ

まず望遠レンズについてだが太陽が欠けていく様子をしっかり写すためにはトリミング前提で考えても35mm判換算で300mm相当以上の画角が得られる望遠レンズを用意したい。具体的には35mm判フルサイズセンサー搭載カメラであれば300mm、APS-Cセンサー搭載カメラなら焦点距離表示が200mmのレンズ、マイクロフォーサーズ機は、焦点距離表示が150mm以上の望遠レンズが望ましい。APS-Cもマイクロフォーサーズも、どちらも“35mm判換算で300mm相当の画角となるレンズ”があるといい、と覚えておいてもらえればいいだろう。

以下の写真は35mm判フルサイズ機で、約300mm前後の焦点距離設定で撮影した場合に画面に収まる太陽のサイズだ。

太陽がまだら模様に見えるのは薄雲がかかっている時に撮影したため

この写真をトリミングすると以下のようになる。しっかりと太陽の黒点も映っていることが見て取れるはずだ。最近のカメラは高画素であるため、SNSに投稿するような使い方であれば、上の写真くらいのサイズ感で写っていれば後でトリミングしても十分な画質を得ることができるはずだ。

α7R IIIのセンサー有効画素数は約4,200万画素だ。ここまでトリミングしても長辺1,500ピクセル以上を確保できている

もちろんこれ以上望遠にすれば、焦点距離が長くなるほど太陽の姿を大きく写すことができる。自然とトリミング量も減ってくる、というわけだ。可能なら35mm判換算で600mm相当以上の望遠レンズを用意できると心強い。焦点距離150-600mmのズームレンズや100-400mmのレンズなどが、レンズメーカーからもラインアップしている。

さらに焦点距離を伸ばしたい場合は、テレコンバーターの使用も有効だ。筆者の場合、ソニーのFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSにx1.4テレコンバーターを装着した組み合わせが手持ちのレンズで画角がもっとも狭くなる(焦点距離が長くなる)装備だ。このとき、焦点距離は840mm相当になる。

さらにα7R IVの1.5倍クロップモードで撮影すれば、1,260mm相当の画角で撮影できるようになる。この場合、太陽のサイズ感は以下の通りだ。このくらいのサイズになると、かなり迫力のある太陽が撮れるはずだ。

α7R IVなら1.5倍クロップしても約2,600万画素相当のデータとなる

マストアイテムのひとつ「NDフィルター」

もう一つ日食撮影に欠かせない撮影アイテムが、高濃度のNDフィルターだ。

太陽は非常に明るいため、NDフィルター無しで撮影した場合、カメラ側でどれだけ露出(絞り値)を絞っても確実に白飛びしてしまう。それどころか、強い光によりイメージセンサーが焼けてしまいカメラを破損させてしまうこともある。光学ファインダーで撮影する場合は目を痛めてしまうこともあるため、NDフィルター無しで直接太陽を撮影することは絶対に避けなければいけない。

太陽の強力な光を十分に減光するためには一般的なND8やND16のフィルターでは太刀打ちできない。最低でもND3200(1/3200に減光)、できればND10000程度の強力なNDフィルターを準備しておきたい。

ND8000の組み合わせ。ND1000は日中スローシャッターできるので普段の撮影でも重宝する

ND10000レベルの強力なNDフィルターは単体でも販売されているが、使用用途はほとんど太陽の撮影しかないため、一般の人が数年に1度の撮影のために購入するには不経済だ。そこでおすすめなのがND400やND1000というやや強力なNDフィルターとND8、ND16といった通常のNDフィルターとの重ね掛けだ。

ND400をベースにND16を重ねてND6400(400×16)、ND1000とND8を重ねてND8000(1000×8)相当として使用するのが良いだろう。ND400やND1000は日中のスローシャッター表現に重宝するため1枚持っておくと表現の幅がグッと広がるため、おすすめだ。

その他、太陽光減光専用のシート(バーダー社AstroSolar セーフティーフィルム)というものも売られており、DIYでレンズに装着して撮影することも可能だ。

円形のNDフィルターは既に持っているが、望遠レンズのフィルター径に合わないと言う場合は、ステップアップリングやステップダウンリングというアダプターを活用しよう。これを使えば日食撮影のためだけに高価なフィルターを買い増ししなくても良くなる。

ステップアップリングはレンズのフィルター径よりも大きな円形フィルターを装着するときに使うアダプターで、レンズフードが装着できなくなるが画質への影響は無いと考えてよい。

一方、ステップダウンリングはレンズのフィルター径よりも小さな円形フィルターを装着するためのアダプターであり、これを装着すると画面の四隅が黒くケラレてしまう可能性が出てくるが、日食撮影のように画面の中心に太陽を捕らえることを考えれば四隅のケラレは割り切って考えてもOKだ。

例えば、150-600mmクラスのレンズだと、フィルター径は95mmとなっている製品が多い。そのため、このフィルター径にあわせた高濃度NDフィルターの入手は極めて困難だ。この場合は入手が容易な82mmのフィルターで代用するというのもひとつの手だ。

私が調べた限り、95→82mmのステップダウンリングを見つけることはできなかったのだが、82→95mmのステップアップリングはネット通販でも入手できた(KANI社の角形フィルターホルダー用ステップアップリング)。これを逆付けして黒のパーマセルテープやマスキングテープでレンズに直接付ける事で十分撮影は可能になる(正規の使用方法ではないため自己責任にて試して欲しい)。

フィルター径95mmのFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSに82→95mmのステップアップリングをマスキングテープで逆付けした。今回の作例はみなこれで撮影している

望遠レンズ、NDフィルターさえ用意できれば他に特別な機材は必要無い。高速シャッターで撮影するため手持ち撮影も十分可能だが、長丁場の撮影となるため三脚はできればあった方が良いだろう。

撮影計画を立てよう

2020年6月21日の部分日食は、国立天文台の情報によると、全国的に16時ごろから西の空ではじまり、約1時間で食の最大を迎え、さらに1時間かけて18時ごろに食の終わりを迎えるといったスケジュールだ。

食の最大(最も太陽が欠ける時刻)は、札幌17時01分、東京17時10分、福岡17時10分、那覇17時16分となる予定だ。太陽の欠け具合は南西に行くほど大きくなり、東京では太陽の面積の最大36%、沖縄では79%が欠けることになる。

なお、各地のより詳しい日食の状況は国立天文台の日食各地予報で確認することもできる。

スマホアプリによる確認も便利

日食の起こる時間帯に、太陽がどの位置にくるのかを事前にシミュレーションするにはスマートフォンのアプリを活用するのもおすすめだ。太陽の位置を予測してくれるアプリはいくつかあるが、撮影を趣味にしている人なら「Sun Surveyor(サン・サーベイヤー)」がおすすめだ。

このアプリは無料のLITE版でも任意の場所の太陽の方角や緯度を示してくれるほか、有料のPro版ならスマホのカメラと連動したAR機能やGoogleマップ、Googleストリートビューと連携して、より詳しい位置表示ができるほか、月の位置や満ち欠けの情報も得ることができる。

iOSとAndroidの両方に対応しており、それぞれ価格は1,220円、880円(執筆時)と有料だが、ロケハンに非常に役立つアプリなので持っていて損はない。

無料版でも左のような太陽の軌跡は場所と時間を指定して確認出来る(青い月の軌道は表示されないはず)、Pro版だとGoogleストリートビューで家にいながらロケハンすることができる

撮影地の選択は太陽がきちんと見える場所であればどこでもOKだ。緯度が低くなる時間帯のため場所によっては太陽が木や建物により遮られてしまうことがある。ひらけた公園のほか家のベランダなど少し高い位置から撮影出来る場所を考えておこう。

撮影設定

部分日食を撮影する場合、カメラの設定はある程度決まった値を入力すればOKだ。日中、通常の太陽を撮影するためにはND10000装着時でISO 100、F16、1/4,000秒程度を設定の目安にするといい。ND3200ならISO 100、F22、1/6,400秒くらいを考えておこう。決まった値であるのでマニュアルモードで撮影するのがおすすめだ。

感度はISO 100で固定、F値はNDフィルターの濃度に応じてF11〜F22程度とし、細かな露出調整はシャッタースピードで行うのがおすすめだ。

以下の写真はND8000相当でISO 100、F16、1/4,000秒で撮影した時の例だ。この時は太陽に少し薄雲がかかっていたため、実際よりも若干暗くなっているかもしれない。

よく見ると右下に太陽の黒点も映っている

日食の場合、太陽が欠けると輝度が下がってくるため、時間と共にシャッタースピードを伸ばしていく。とはいえ、東京の食の最大では面積比で36%が欠けるだけなので1/3~2/3段程度調整するだけでOKだ。暗くなる方向へ変化し、白飛びの心配もないため、ずっと一定の露出で撮影しておき、あとで露出調整するといった作戦でも問題ないだろう。

また、6月21日の日食は緯度が低くなる時間帯となるため、大気の影響を受けてこれよりも暗く見える可能性も考えられる。基準の露出をベースに現地で撮影結果を確認しながら微調整するのがおすすめだ。

ピント調整のコツ

ピント合わせはAFでもOKだ。上手く合焦しない場合は、ライブビューを見ながらMFで決定しよう。ピント位置が決まったらMFに設定し、ズレないようにピントリングをマスキングテープなどで固定してしまうのが良い。

季節柄、撮影出来たとしても途中で雲がかかってしまうことも十分考えられる。このときAFが迷い、ピントがズレてしまうため、ピントは撮影中ずっと固定しておくことが望ましい。

ホワイトバランスはオートに設定していると5,000K程度に設定されて、青白く写ってしまう。少しオレンジがかった色にしたいなら、マニュアルホワイトバランスで9,000K程度に設定しておくのがおすすめだ。

参考までにホワイトバランスを5,000K、9,000K、12,000Kにしたときの色を載せておく。高濃度のNDフィルターは色が転びやすいのであくまで参考程度にしてもらえれば幸いだ。

5,000K
9,000K
12,000K

露出ブラケットも活用しよう

慣れない撮影で貴重なチャンスを棒に振らないように、記録をRAW+JPEGにして保険をかけておくのもいいだろう。さらに露出ブラケットを±1EVにして、露出をずらした3枚のカットを撮影する設定にしておくのがおすすめだ。RAWなら後で露出やホワイトバランスの変更もしやすくなる。

なお撮影する時は一眼レフカメラでもライブビューで撮影しよう。ND3200やND10000という値はレンズを絞り、超高速シャッターにしてやっと適正な露出となる値であり、肉眼で見るには明るすぎるためだ。おなじようにNDフィルター越しに太陽を直接肉眼でみるのも厳禁だ。肉眼で太陽を直接見るにはND10万クラスの減光が必要になる。どうしても肉眼でも太陽を見たい場合は、別途日食グラスを用意しておこう。レンズ用NDフィルターよりもずっと安価に手に入る。

まとめ

以上、部分日食の撮り方について準備から当日の流れまでをまとめた。今回見られるのは部分日食であるものの、特に西日本では食分(太陽が隠れる直径部分の度合い)が0.5を超え、見応えある光景が見られるはずだ。

心配なのがお天気だが、本稿執筆時点(6月21日)の天気予報は東京では雨のち曇り。ちょっと怪しい雰囲気ではあるが、薄曇り程度なら観察可能なのでまだ可能性は残っている。食分の大きな西日本では晴れ予報も多く期待大だ。ぜひしっかりと準備して貴重な天体ショー撮影にチャレンジしてみて欲しい。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。