【伊達淳一のデジタルでいこう!】特別編:天体望遠鏡と赤道儀で捉えた金環日食





5月21日、日食撮影の顛末記

 2012年5月21日早朝、セットした目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。そう。今日は世紀の天体ショー、金環日食が日本各地で見られる日。自覚はないが、やはり少なからず興奮していたのだろう。午前5時過ぎには目が覚めてしまった。まるで、遠足の日の子どもみたいだ。

 玄関を開けて外に出てみると、東の空にわずかに雲がかかっているものの、上空は青空が広がっている。午前5時半には薄雲越しに太陽が顔を覗かせた。前日の予報では、東京の天気は曇りベースだったが、これなら日食もちゃんと見られそうだ。さっそく玄関前(東京都調布市)の階段の踊り場に撮影機材をセットし始める。日食の前日、前々日にもリハーサル撮影を行なって、撮影の問題点を見直してきたつもりだが、なにしろ人生初の金環日食なので、とにかく始まってみなければわからないことだらけだ。

 今回、日食を撮影する機材は、もちろんトミーテックの「BORG」だ。せっかくの天体望遠鏡なので、野鳥撮影だけに使うのはもったいない(笑)。

今回の日食の撮影風景。なんとも怪しげなセットだ(笑)。ここまで機材に凝らなくても日食は撮影できるが、特に日食撮影用に用意したのはND100000くらい(本番では使う機会はなかったが……)。後は野鳥撮影やパノラマ撮影、星や月の撮影用に少しずつ買い足していった機材の組み合わせ。まあ、いかに効率よく楽して好結果が得られるかをあれこれ試行錯誤するのが楽しかったりして。撮影機材の詳細については後半を参照されたいOM-D E-M5やPENは、電子先幕シャッターではなく、シャッター後幕をいったん閉じてからシャッターが切れるので、その分、メカシャッターによる振動でブレやすい。それを低減するのが、低振動モードで、シャッターボタンを押すと、まずシャッター後幕が閉じ、指定時間が経過するとシャッターが切れる

 滅多に見られない天体ショーということもあり、「ミニボーグ71FL」&「OLYMPUS OM-D E-M5」で静止画、「ミニボーグ45EDII」&「Nikon 1 V1」でハイビジョンムービーを撮影することにした。

OLYMPUS OM-D E-M5Nikon 1 V1

 OM-D E-M5を選んだのはバリアングル&タッチモニターで太陽がまぶしくないし、低振動モードでブレを抑えられるから。Nikon 1 V1を選んだのは、センサーサイズが小さく、焦点距離が短いレンズでも超望遠で撮影でき、なおかつ、長時間のムービー撮影にも耐えられそうという理由からだ。

低振動モードで設定できる遅延時間は1/8~30秒。ある程度、振動が収まる時間を考え、今回は4秒後にシャッターが切れるよう設定。ドライブモードで◆が付いているモードが低振動モードだ電子接点を持たないレンズでも、焦点距離を手動入力することでボディ内手ブレ補正が効くのがオリンパスOM-DやPENシリーズの特徴。野鳥撮影には重宝する機能だが、今回は三脚撮影なので、誤動作を防ぐため、手ぶれ補正は[Off]に設定して撮影した

 加えて、秘密兵器として、昨年の皆既月食をきっかけに購入したTOAST TECHNOLOGYのモバイル赤道儀「TOAST Pro」も導入。星の動きを自動追尾できるので、いちいちフレーミングし直す必要がなく、楽ちんに撮影ができるアイテムだ。赤道儀で正しく星を追尾させるには、“極軸合わせ”という作業が不可欠だが、北極星が見えない状況で正確に極軸を合わせるのは困難だ。もっとも長時間露出で星を流さず追尾させるのとは違って、日食の撮影では、すぐに太陽が画面内にはみ出してしまうのが防げればいいので、だいたい北の方向を向けてセットするだけでも、十数分くらいは画面から太陽が外れてしまうことはなくなり、かなり撮影が楽になる。

 ただし、モバイル赤道儀はそれほど重い機材を載せるように作られてなく、せいぜい広角から標準レンズで星野写真や星景写真を撮影するのが基本的な使い方だ。にも関わらず、今回の撮影では、このモバイル赤道儀になんとミニボーグを2台載せて、静止画と動画の同時撮影に挑んでみた。また、離れた場所からでも手を触れず、しかも安定してレリーズできるよう、無線式のワイヤレスリモコンもOM-D E-M5に装着している。なお、撮影機材についての詳細な説明は後述する。

 撮影機材もセットし終わってホッと一息。スマートフォンでFacebookやTwitterに状況を投稿しつつ、日食が始まるのを待っていたのだが、午前6時の手前で南から押し寄せてきた雲で東の空が覆い尽くされてしまった(唖然)。そして、東京での日食が始まる午前6時19分になっても、東の空は太陽がまったく見えない。モバイル赤道儀で追尾しているので、わずかでも太陽が顔を覗かせれば、ライブビューで見えるはずなのにまったくダメ。ワンセグでテレビ中継を見ると、すでにかけ始めた太陽の映像が流れている一方、あいにくの雨や曇りで見えない地域からの悲痛な中継も入る。もしかしたら東京も後者じゃないか……と一抹の不安がよぎる。

 そして、午前6時30分、厚い雲が途切れ、薄雲越しに太陽が見えた! ライブビューを見ると、確かに太陽の右上が欠けている!! あわててシャッターを切るものの、絞りを絞っていなかったのでシャッタースピードを1/4,000秒にしても露出オーバーに。あわてて絞りを絞って撮影し直すが、雲の流れが速く、数秒単位で明るさが変化するので、マニュアル露出では対応しきれない。おまけに、OM-D E-M5はメカシャッターブレを抑えるため、シャッターボタンを押してから4秒後にシャッターが切れるよう「低振動モード」に設定しているので、シャッタースピードを設定してからシャッターが切れるまでのタイムラグで、明るさが変わってしまい、なかなか適正露出で写せない。そこで、絞り優先オートに切り換え、露出補正で対応することにした。

E-M5 / ミニボーグ71FL / 約4.1MB / 4,608×3,456 / 1/8秒 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約5MB / 4,608×3,456 / 1/25秒 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm
E-M5 / ミニボーグ71FL / 約5.6MB / 4,608×3,456 / 1/125秒 / -1.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約5.4MB / 4,608×3,456 / 1/80秒 / -1.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm

 また、前日、前々日のリハーサル撮影で、オートホワイトバランスで撮影すると、太陽の色味がほとんどなくなってしまい、まるで白黒写真のようになってしまうことに気づいた。ホワイトバランスを[太陽光]ポジションにすると、わずかに暖色系になるものの、どうにも中途半端な色味だ。そこで、少々、作為的になるものの、ホワイトバランスを[日陰]ポジションに設定し、なおかつ、ピクチャーモードを[ビビッド]に変更して彩度を強調。これで、イメージに近いオレンジ色の太陽に仕上がるようになる。OM-D E-M5だけでなく、ムービーを撮影するNikon 1 V1でも同様の設定を行なっている。


E-M5の設定画面。ホワイトバランスは[日陰]ポジション、ピクチャーモードは[Vivid]に設定し、太陽の赤みを演出しているNikon 1 V1のホワイトバランス設定画面。OM-D E-M5と同様、[晴天日陰]ポジションを選択し、さらにアンバー方向に微調整を行なっている
Nikon 1 V1のピクチャーコントロール設定画面。[ビビッド]を選択し、コントラストを-1に、明るさを+1にして、ハイキー仕上げに調整、彩度を+2して、鮮やかさを保つようにカスタマイズしたE-M5はISO200に固定して撮影しているが、Nikon 1 V1はISO100~800までのオート設定を選択。静止画撮影に専念し、ムービーは撮りっぱなしにしていることが多いため、光量がコロコロ変わってもISO感度で対応できるようにこの設定を選択した

 その後、再び厚い雲に太陽が文字どおり雲隠れしつつも、時折、薄雲越しに顔を覗かせるという状況が繰り返されたのだが、雲による減光効果は想像以上に大きく、明るいときはND400+ND16でも絞りを絞らないとシャッタースピード上限にぶち当たってしまうのに対し、ちょっと厚めの雲がかかると途端にND400では絞りを全開してもブレが懸念されるシャッタースピードまで落ちてしまう。おかげで、ND400にND8やND16を追加したり外したり、絞りを調節したりとなんとも忙しい撮影になってしまった。ムービー撮影で時々画面が揺れるのは、そうした操作を行なうため、どちらかの鏡筒に手が触れている影響だ。

 そんなこんなで金環食が始まる午前7時32分を迎えた。金環食のすべてをムービーで撮影すべく、Nikon 1 V1はずっと長回し。静止画を撮影するE-M5では、金環日食の直前・直後に見られる「ベイリービーズ」と呼ばれる現象を捉えることに集中。ベイリービーズは太陽の輪郭と月の輪郭が重なることで、月の表面の凸凹によって、光がビーズのように途切れ途切れに見える現象だ。

E-M5 / ミニボーグ71FL / 約3.6MB / 4,608×3,456 / 1/125秒 / -2EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約4.4MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / -2EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm
E-M5 / ミニボーグ71FL / 約4.2MB / 4,608×3,456 / 1/800秒 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm
E-M5 / ミニボーグ71FL / 約3MB / 4,608×3,456 / 1/3,200秒 / -2EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約3.4MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / -2EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm

 ただ、E-M5は、低振動モードにしている関係で、リモコンのボタンを押してから4秒後でないとシャッターが切れないので、そのタイムラグを考慮する必要があるし、連写するとブレやすいので基本的には一発勝負。撮影した写真を確認してみると、なんとかそれっぽい瞬間が捉えられていて一安心。後は金環食が最大となる状態を撮影したら、もう一度、食が終わる瞬間のベイリービーズを狙う。幸運にも、金環食の最中は、薄雲越しで輪郭が多少滲んだように見えるものの、金環食が最大となるあたりから雲が薄くなってクッキリと見えるようになり、急遽、絞りを絞り込むことに。その影響で、ムービーで撮影した太陽の一部にセンサーダストと思われる淡い影が映り込んでしまったが、狙いどおりに太陽のまぶしさが感じられる映像になったと自己満足。

 日食グラス越しに見た金環食は、雲に◎が浮かんでいるみたいでなんとも非現実的だったが、皆既日食とは違って本来はそこそこまぶしいわけで、裸眼で見ることはできないが、それに近いイメージに仕上げてみたつもりだ。

E-M5 / ミニボーグ71FL / 約4.7MB / 4,608×3,456 / 1/125秒 / -2EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約4.4MB / 4,608×3,456 / 1/1,000秒 / -1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm
E-M5 / ミニボーグ71FL / 約2.5MB / 4,608×3,456 / 1/3,200秒 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約4.7MB / 4,608×3,456 / 1/320秒 / -1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm
E-M5 / ミニボーグ71FL / 約2.8MB / 4,608×3,456 / 1/2,500秒 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mmE-M5 / ミニボーグ71FL / 約3.3MB / 4,608×3,456 / 1/1,600秒 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:日陰 / 560mm

 日食が終わった後で気づいたのだが、Nikon 1なら動画撮影中でも、アスペクト比は16:9ながらフル解像度の静止画を、しかも、電子シャッターで無振動で撮影できる。う~ん、最初から気づいていたら、ベリービーズの瞬間をもっとたくさん狙えたのに、バカだね~。もっともNikon 1は赤外方式のリモコンしか使えないし、ベリービーズのわずかな瞬間に、メインのOM-D E-M5とNikon 1の両方を操作するのはちょっと無理。Nikon 1(せめてV1)にも「D7000」と同様のリモートケーブルが装着できるデジタル端子が備わっていれば、もう1セット無線リモコンがあるので、これなら両方のリモコンを同時に操作できるのになぁ、と、改めて思った次第。

 このほかにも、Nikon 1は、AEロックをトグル動作にできなかったり、FT1(Fマウント用マウントアダプター)使用時にシャッタースピードの下限が1/1.3秒に制限されるなど、仕様をちょっと変えてくれれば、大幅に使い勝手が向上するのになぁ、という細かいリクエストがたくさんある。本来のポテンシャルは高いのに、つまらない仕様や制約によって、本当にその能力が潜在したままなのが惜しい。そんなこだわりユーザー向けのカメラじゃないんですけど……なんて、片意地を張っていないでファームアップでできることはどんどん実現していってほしいと思う。あ、話が脱線してしまった(汗)。

 Nikon 1 V1で撮影したフルハイビジョンムービーはGrass Valleyの「EDIUS 6」で編集した。TOAST Proの極軸合わせが完全ではなく、時間とともに太陽が画面左にわずかに移動していくため、ムービーの一部分を切り出して、太陽が位置を一定に保つように加工している。なお、ショートムービーでは、切り出した映像を拡大補間せず周囲を黒枠で、ロングバージョンでは画面いっぱいになるように映像を拡大補間しているという違いがある。

 

 

 

 

 映像の途中で画面が大きくブレているのは、露出調節のためにOM-D E-M5に装着しているミニボーグ71FLの絞りを操作したり、減光フィルターをつけたり外したりしているためだ。後から考えてみれば、Nikon 1 V1一台で撮影に専念し、フルハイビジョンムービーと高解像度静止画の両方を撮影するというのも賢明な選択だったかもしれない。デジタルカメラが進化していけば、ムービーと静止画を別々のカメラで撮り分ける必要もなくなるに違いない。

 ちなみに、BGMはロイヤリティーフリーの音源を使用。あらかじめ撮影した環境音を被せることで臨場感を出すと同時に、音楽だけ抜かれて再利用されてしまう可能性を防止している。

 閑話休題。金環食が終わると、日食を見ていた近所の子どもたちも次第に減り、いったん家に戻ってから学校に向かい始めた。皆既月食もそうだが、クライマックスを越えるとどうしても精神的にだれてくる。とはいえ、とりあえず映画もエンディングロールが終了して照明が明るくなるまでは席を立たない主義なので、状況カットを撮影しつつも、とにかく食の最後まではつきあうことにする。金環食が終わってから雲の量が増えてきたものの、金環食中は雲で太陽が隠されることなく、見続けられたのはラッキー。金環帯中心線に近い地域のなかでは、まずまずの天気だったと思う。

 むしろ雲1つない快晴だったら、まるで線画に着色したような単調な幾何学模様の映像しか撮れなかっただろうし、スカイツリーなど地上物とのコラボも困難を極めたはず。そう考えると、雲の流れが映像にアクセントを与えてくれ、変化のある映像が撮れたと思う。

 日食用に用意した高価なND100000やND20000の出番がリハーサル撮影以外まったくなかったのは皮肉だけど、6月6日には金星が太陽面を通過するというイベントもあり、天文現象的にはこちらのほうが珍しいらしい。ちなみに、次に金環日食が日本で見られるのは2030年6月1日に北海道で、2035年には茨城と富山を結ぶ一帯で皆既日食が見られるという。東京に限定すると、次に金環日食が見られるのは300年後の2312年4月8日。貴重な瞬間に立ち会えた幸運に感謝だ。




今回用意した機材を解説

 日食撮影で、まず最低限把握しておかなければいけないのは、金環日食が起きる時間帯の太陽の方向と角度だ。食の始まりと食の終わりまで太陽がずっと見通せる撮影位置を探す必要がある。日食の前々日に、日食と同じ時間帯の太陽の位置を確認したところ、幸い自宅の玄関前の階段の踊り場なら東から東南東の空が見通せ、樹木もジャマにならずに撮影できることがわかった。

 東京スカイツリーと日食のコラボ写真も考えなかったわけではないが、今回はモバイル赤道儀を使って、ムービーと静止画の両方を撮影しようと思っていたので、おそらく大混雑になる人気スポットで、大がかりな機材を設置して安定した撮影を行なうのは困難と判断。しかも、皆既日食ではなく金環日食なので、食の最大時でもそれなりの明るさがあるはず。となると、太陽基準の露出では、地上物なんて真っ暗になってしまい、多重露出で合成しないとおそらく両立しないはず……。なにしろ、金環日食なんて人生初なので、実際どうなのか、やってみなけりゃわからないのだ。そんなわけで、もっとも無難な自宅の玄関前で撮影することにした。

 次に、日食を撮影する機材選びだ。太陽を画面いっぱいに写すには、35mm判換算2,000mm相当の超望遠レンズが必要だ。もっとも黒点撮影ではないので、そこまでド・アップにこだわる必要はなく、35mm換算1,000mm前後の画角が得られれば十分だ。APS-Cサイズのデジタル一眼レフなら、焦点距離500mmのレンズに1.4倍のテレコンバーターを装着すればこの画角になるので、BORGなら77EDIIに1.4倍テレコンバーターを組み合わせればOKだ。

【参考:デジタルテレコンによる太陽の大きさ比較】

 リハーサルでは、OM-D E-M5の「デジタルテレコン」機能もテストした。デジタルテレコンとは、要はデジタルズームで、画面中央を2倍に拡大補間するので、クロップ撮影に比べ、ファイルサイズは大きく、ピクセル等倍ではやや解像感も低下するが、太陽面の撮影では意外と劣化を感じない。

OM-D E-M5のデジタルテレコン設定メニュー
デジタルテレコン[Off]。OM-D E-M5 / ミニボーグ71FL / 約1.5MB / 4,608×3,456 / 1/400秒 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 560mmデジタルテレコン[on]。OM-D E-M5 / ミニボーグ71FL / 約2.4MB / 4,608×3,456 / 1/1,000秒 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 560mm

 ミニボーグ71FLに1.4倍テレコンバーターを装着してデジタルテレコンを併用すると、太陽や月をほぼ画面いっぱいに捉えられる。ただし、それだげギリギリのフレーミングを要求されるので、太陽が画面中央から多少外れても大丈夫なように、今回はデジタルテレコンは使わずに撮影することにした。

 昨年の皆既月食をきっかけにモバイル赤道儀「TOAST Pro」を購入したので、今回の金環日食もモバイル赤道儀とBORGを使って追尾撮影を行なう予定だったのだが、日食が近づくにつれ、静止画だけでなく、フルハイビジョンムービーでも残しておきたくなった。しかし、TOAST Proは1台だけだ。そこで、無謀にもTOAST ProにBORGを2台マウントして、前述したように静止画とムービーの両方で金環日食を追尾撮影しようと目論んだのだ。

日食撮影システム三態。今回の機材を組み合わせて、日食撮影に使用した状態がこれ。我ながらなんとも奇っ怪なシステムだが、意外と重量は軽く、簡単にばらせるので、三脚を軽量なカーボンに置き換え、雲台もアルカスイスのモノボール雲台「Z-1」にすれば、徒歩でも楽々移動が可能。単にアルカ互換のプレートやクランプにこだわって楽しんでいるだけかも(笑)。ある意味、BORGと同様、自分なりに自由にカスタマイズできるオンリーワンを追求できる楽しさがある

 そのためには、可能な限り、TOAST Proに載せる機材の軽量化を図る必要がある。センサーサイズが小さいミラーレスカメラなら、もっと焦点距離の短いレンズで超望遠の画角が得られるので、機材の軽量化には有利だ。というわけで、OM-D E-M5とミニボーグ71FLで静止画を、Nikon 1 V1とミニボーグ45EDIIでムービーを撮影することに決定した。

 さらに、TOAST Proにカメラやレンズを載せる際に、重量バランスをうまく調整できるように、TOAST Pro標準のカメラステージを取り去ってアルカ互換のパノラマクランプに換装、ReallyRightStuffの「Pano-Gimbal Vertical Arm」や「192mm Multi-purpose rail」、「Photoclam Pro Gold II Easy PQR」(雲台部分はSunwayfotoのノブ式クランプ「DDC-42」に換装)などを組み合わせ、ミニボーグ71FLと45EDIIをジンバルで支えられるように工夫してみた。また、TOAST Proは、6~12Vの外部バッテリーが使用でき、電圧が高い方がトルクが増すということで、搭載機材が重めの今回の撮影では、付属の電池ボックス(1.5Vアルカリ電池×4本)ではなく、ミニゴリラ(minigorilla)というモバイルポケットバッテリーを使用。10.5Vと標準よりもやや高めの電圧で駆動させている。

 それと、太陽の撮影に欠かせないのが減光フィルターだ。一般的にNDフィルターで一番露出倍数が高いのはND400だが、日食撮影用としてND100000という超高濃度のNDフィルターが数社から発売された。ボクも昨年11月にはマルミの「DHG-ND100000」を購入して日食撮影に備えていたものの、残念ながら今回の撮影ではまったく出番なし。薄雲越しの日食撮影ではND400+ND8もしくはND16の2枚重ねが最適だった。直前の天気予報で曇りベースということは承知していたので、ND100000だけでなく、ND400やND16を用意しておいて正解だった。

 以上、今回の日食をどんな機材で撮影したかの紹介は終わり。別にここまで機材に凝る必要はないし、この機材の組み合わせが正解というわけでもないが、ボクはレンズと同様、三脚や雲台などの足回りも重要だと考えていて、できるだけ軽量で、しかも剛性の高いシステムを常に模索中だ。

 本当は三脚撮影は嫌いだ、と言っても、信じてもらえないと思うが、三脚撮影が嫌いなだけにより快適な三脚や雲台、クイックプレートシステムを追い求めてやまないのだ。そういう意味では、日食撮影も星の撮影も野鳥撮影もパノラマ撮影もみんな根は同じ。すっかりBORGやアルカ沼にどっぷりハマってしまっている。ま、写真好きというよりも、メカ好きなだけなんだけどね。

・今回使用した機材の詳細

ミニボーグ71FLをベースにしたセット

 今回のメイン機材がこれ。ミニボーグ71FL(6071)の標準セットに加え、ミニボーグ71FL(6071)に1.4倍テレコンバーターDG(7214)を装着。これで、400mm F5.6×1.4=560mm F8のフローライト超望遠レンズとなり、E-M5と組み合わせると、換算1,120mm相当の超望遠撮影が行なえる。野鳥撮影用に外装をカッティングシートで覆い、鏡筒内部も植毛紙を貼って内面反射対策を行っているほか、光量調節に絞りM75(7075)、延長筒のひとつを三脚台座付きのDZ-2(7517)とM57回転装置DX(7352)に換装するなど、自分なりのカスタマイズを加えている。

 ちなみに、71FLのフードには72mm径のフィルターが装着できるが、フードを外すと77mm径のフィルターも装着可能だ。BORG純正の72mm径 D5フィルターよりも77mm径のマルミのDHG ND-100000のほうが安かったことと、すでに77mm径のND400やND8を所持していたので、今回の撮影ではフードを外して、77mmのフィルターを装着して撮影している。

 滅多に見られない希少な天体ショーだけに、どうせなら動画も撮影しておこう、ということで、チョイスしたのがミニボーグ45EDII(6045)だ。

ミニボーグ45EDIIをベースにしたセット

 325mm F7.2と望遠レンズとしては微妙なスペックだが、対物レンズは実測で約113gと驚くほど軽いのが特徴だ。モバイル赤道儀のTOAST Proに2台載せする負荷を考えると、機材はできるだけ軽くする必要がある。というわけで、ミニボーグ45EDII鏡筒にM57ヘリコイドLII(7860)+DZ-2(7517)+M57回転装置DX(7352)+レデューサー0.85×DG(7885)に適切な延長筒とカメラマウントを挟んだものに、ケンコーの1.4×テレプラスプロ300とニコンFT1を装着して、Nikon 1 V1に接続。これで325mm×0.85×1.4×2.7=1,044mm相当の画角になる計算だ。

 本来はレデューサーは不要だし、テレコンバーターもBORGパーツを使うべきなのだろうが、機材の軽量化と、普段、45EDIIをレデューサー仕様で使っているので、その構成をまんま流用しただけ。テスト撮影で絞りの重要性を思い知らされたので、71FLに装着している絞りM57を45EDIIに、77EDIIに装着している絞りM75を71FLにとパーツを付け替えて対応した。

 今回の金環日食の撮影機材でもうひとつ重要な役割を果たしたのが、モバイル赤道儀TOAST Pro。星の動きを自動的に追尾させるための機材だが、モバイル赤道儀は広角~標準レンズの画角で星野、星景写真を撮影するのを基本としているので、あまり重い機材を載せて動かすようにはできていない。ただ、TOAST Proはモバイル赤道儀のなかでも作りがしっかりとしていて、重量バランスをうまく考えて機材を載せれば、BORGなど超望遠撮影でも数分程度ならちゃんと星が流れずガイドできる性能を備えている。

モバイル赤道儀TOAST Pro

 ただ、小型軽量の45EDIIと71FLとはいえBORGを2台載せするのは、ボクも初めての経験。そこで、TOAST Pro標準のカメラステージ「Dovetail Stage」を外し、代わりにアルカ互換のパノラマプレートを空転止めを施して装着。これにより、TOAST Proにかかる重量負荷を少しでも軽減させることができ、各機材に最適な重量バランスを取ることができるようになった(こうした改造を行なうとメーカー保証はなくなってしまうので自己責任で。アルカ互換の「クイックレバーリリースクランプユニット」が純正オプションとして近日発売の予定だが、今回の日食には間に合わなかったので、強引に改造しちゃいました)。

今回使用した三脚と雲台

 三脚は、大学生時代に4×5カメラを載せるために買ったジッツオのアルミ三脚「G500」(Made in France!!)とレベリングベース「GS5320V75」の組み合わせ。雲台は、マンフロットのジュニアギア雲台「#410」を2軸化改造&三脚ネジや純正クランプレバー等を取り払い、Hejnar Photoのアダプターを装着して、アルカ互換のノブ式クランプに換装し、着脱を容易にすると同時に剛性を高めている(今回のように2台載せするには#410では正直力不足、できれば#405があればいいんだけれども、重くて高いからね……)。

 そして太陽撮影に欠かせないのがNDフィルター。ミラーレスカメラだと常に撮像センサーに光が直接当たり続けるので、あまり強い光を長時間当て続けると色分解フィルターに影響したり、最悪、センサーを焦がしてしまう恐れも考えられる。特に、今回はモバイル赤道儀TOAST Proで追尾撮影を行なうので、センサーの同じ場所に光が当たり続けることになり、なおさら慎重に減光対策を行なう必要がある。

各種のNDフィルターを用意した

 というわけで、晴れたとき用に77mm径のND100000(上段左)と52mm径のND20000(中段左)、薄曇ったとき用に77/52mm径のND400(上段中央と中段右)と52mm径のND8(手前)、77mm径のND16(上段右)を準備。ミニボーグ71FL、45EDIIのそれぞれにも絞りユニットを増設し、雲が流れて明るさがコロコロ変わっても柔軟に対応できるようにした。

 OM-D E-M5にには、ケンコートキナーが扱っている「SMDV RFN-2400ワイヤレスシャッターレリーズ キット」を装着した。

SMDV RFN-2400を装着したE-M5

 2.4GHzの電波を利用した無線式のリモコンなので、赤外線リモコンのようにリモコンをカメラの方向に向けなくても良く、カメラに触れずに安定してシャッターが切れるのが特徴だ。また、OM-D E-M5は、バリアングルモニターなので、ピント合わせの際も太陽が眩しくなく、しかも、タッチパネル操作でライブビュー拡大表示操作ができるのが便利だ。

TOAST Proの外部電源として用意した9,000mAhの容量を持つポケットバッテリー「ミニゴリラ」。ボタンを押すごとに出力電圧を8.4/9.5/10.5/12/19Vと変えることができるスタイリッシュなバッテリーだ






伊達淳一
1962年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。超望遠や超広角など、超が付くレンズが好き(笑)。最近はアルカスタイル互換で足回りを固めることに専念し、ついにはタップであちこちにネジ穴を掘り始めている。

2012/5/23 15:30