特別企画
夏のイギリス南西部への小さな旅
キヤノンEF70-200mm F4L IS II USMを携えて
2018年8月8日 07:00
ボクが初めて依頼仕事以外で海外旅行へ行ったのは1986年、パリとロンドンの2都市だった。以来イギリスへは何度か行ったが玄関口であるヒースロー空港を利用するためロンドンへは入るもののすぐに移動。たいていはスコットランド地方、北アイルランド、あるいは隣国のアイルランドが目的地だった。
しかも冬の時期によく訪れたため、どちらかというと日射しのないどんよりとした風景の中ばかりを旅していた。思えば暖かい季節、特に明るい夏場のイギリスを経験していない気がする。
そこで今回は、夏のロンドン市内を散策してみたり、これまで一度も訪れていなかった南部の古都や西部のコッツウォルズ地方などをメインに、そしてもう1ヶ所、ロンドンから鉄道で1時間あまり南下した海岸沿いにある古くからのリゾート地、ブライトンなどを旅してきた。
この旅で使用した機材のひとつに、新型のEF70-200mm F4L IS II USMがあった。このレンズで撮影したカットをお見せしよう。
ライ〜ヘイスティングズ
ロンドン中心部からイングランド南東部へ車で約2時間。イーストサセックス州の海辺から少し内陸に入った小さな町ライ(Rye)は、石畳の小径や煉瓦造りの中世の街並みが残っていることから、近年は観光地として栄えている。
かつては海に面する港町だったらしいが、長い時間経過とともに地形変化で海岸線が遠のいたらしい。かつて海辺だった名残に、「魚市場」や「岸辺」といった古い地名も残っている。
詳細はすっかり忘れてしまったが、世界史で「ヘイスティングズの戦い(Battle of Hastings)」というのを習った覚えがある。「戦い」を意味する「バトル」という英語の語源は、バトルの丘という地名から来ているらしい。このバトルの丘から海沿いに出た場所に位置しているのがヘイスティングズ(Hastings)。ライから西へ、車で15分の場所にある。
歴史的な趣のある町ライとヘイスティングズ。近接したふたつの小さな町と、断崖絶壁の絶景セブンシスターズ(Seven Sisters)とをあわせて、観光に訪れる人が増えているらしい。
ライ中心部に残る町のシンボルが、1561年に建てられたセントメアリー教会の風見鶏。時計台で有名なのだが、前後のボケを同時に見せるべく、敢えて裏庭からひっそりと狙ってみた。
手前の石畳の小径から遠くの村落までを200mm側で撮影。このくらいの焦点距離だと、街並みをギュッと詰めたような圧縮効果をともなう不思議な遠近感が楽しめる。
改装中の店舗。働く若者に露出を合わせて撮影したが、ショーウインドーに貼られた新聞紙に夏の強い日差しがまぶしく照りつけ、一方室内はかなり暗い。高コントラストなシーンだが、明部と暗部のディティール再現性の良さを感じる。
中世の頃から大きく変わっていないというライの街並み。特徴的な急勾配の屋根を乗せた煉瓦造りの建物と、石畳の路地でできている。この煙突も数百年前につくられたのだろうか。
最短撮影距離が1mとなったことで、これまで以上にクローズアップ撮影が可能となった。望遠ズームレンズであるが準マクロ的な用途も含むので、旅行など機材を減らしたい場面では重宝すること間違いなしだ。
ヘイスティングズのパブや商店が建ち並ぶ通りでは、昼間からお酒を楽しむ人がテーブルでくつろいでいる。リキュールらしきものを飲んでいた老人と目が合ったので、軽く会釈して撮らせてもらった。背景にボケて見えるのは自転車屋さんの店先に並んだクラシカルなデザインの自転車たち。
ヘイスティングズに到着して最初に迎えてくれたのは、各国の国旗のはためく向こう側、海の上空に見える虹だった。ハッキリ見えるようにややアンダー気味にして撮影。
海岸線に切り立った白い断崖が聳えるセブンシスターズ。それを背景に黄色い植物にフォーカスを合わせて撮影。今も浸食が進んでいて、海岸線が毎年数10cmづつ内陸部へとずれているらしい。
コッツウォルズ地方の中では昔はマーケットで栄えたといいわれるストウ・オン・ザ・ウォルドの町。通りにある時計の看板にフォーカス、手前の花のボケ味も自然な感じに描写されている。
バイブリー村の切妻壁の民家。通称のコッツウォルズ地方というのはかなり広いエリアにまたがっているので、建物の構造をはじめ、その町や村の様々なものが変化する。
モダンデザインの父ウイリアム・モリスが「英国で最も美しい村」といったとされるバイブリー村。村の中心に美しい清流が流れている。民家の庭に咲いていた紫の花を中間焦点距離、絞り開放で撮影。
暑い日だったので日射しを避けながら裏通りを歩いていたら、気になる鉄の門扉を発見。逆光好きにとってはクリアな描写と強いコーティングは安心して撮影に臨める。色のりも良いレンズだ。
通りに面した側の農家の窓辺は小さい。庭先で採れたと思われる花々が飾られていたり、それぞれの家での工夫が見られるのも楽しい。もちろん、住民のプライバシーも尊重したい。
ブライトン
イギリスへ初めて来た時、ロンドンの他にもう1ヶ所、内陸にあるブライトンという町に訪れている。それ以来何度か訪れているが、決まって寒い季節ばかりだった。今回、初めて夏に訪れたブライトンでは、これまでと180度違った風景と出会えた。元々好きな場所であったが、今まで知らなかった別の側面を見たことで、ブライトンがさらに魅力的に感じられた。
ブライトンへ来たのは1986年以来3〜4回目だが、いつもは道路まで波しぶきが襲ってくるくらいの極寒の季節ばかりだったので「泳ぎたい」とか「寛ぐ」という印象はなかったがこれが本来の観光客が集まる姿なんだと独り感心してしまった。
桟橋の突端にある6〜7mの堤防の上から次々と海へと飛び込む若者たち。年齢を訊くと中学生くらいだがみんな立派な体格をしている。「オジサンもやりなよ」って勧められたけど、とてもじゃあないけど無理(笑)
飛び込みでは男の子たちに交じって勝ち気な女の子たちも負けていない。むしろ、怖じ気づいている男の子にハッパ掛けているのは女性たちのほうだ。皆それぞれの夏を楽しんでいる。
赤と緑、昼間の外灯の色がカラフルな信号みたいで美しい。信号機の上で交通整理をしているのはカモメのお巡りさん。
ビーチに設置された黄色いコンテナハウス。太陽を避けるように日陰で休む父親らしき男性と、遊び足りないのか日当たりの良い側でたたずむ少年の姿にコントラストを感じられて面白かった。
遅い午後の桟橋。傾いた西陽から創り出される影が人や鳥の動きを造形物とともに壁面へと投影されているのがまるで影絵みたいで面白いのでずっと撮影していた。
1866年完成のウエストピアはオリエンタル様式の建物として優美な姿だったが、嵐と火災によって崩壊してしまった。今でも骨組みだけがかつての桟橋の残骸として保存されている。新しいブライトンピアからエクステンダーを装着して撮影。遠くのモノを捉えるには便利なので旅には重宝するアイテム。エクステンダーを使っての解像力にも不満は感じられない。
ロンドン
日本からイギリス行く場合は、たいていヒースロー空港もしくはガトウィック空港から入る。そのため、必然的にロンドンでの出入りとなることが多い。その割にはこれまであまり撮影したことが無かった。
今回は移動に便利な駅の近くに宿を取ったこともあり、ロンドン市内を鉄道や地下鉄を使って移動しながらスナップ撮影をしてみた。
地下鉄で移動中、路線図にElephant & Castleという駅を見つけたのでココは何かある! と思いワクワクして下車した。が、ショッピングセンターの他には何も無かった(笑)
カメラを向けると笑顔で堪えてくれたお洒落な女の子。
たまには有名な観光地へも行ってみる。ビッグベンは残念ながら改装中ということだったので鼻歌を歌いながらロンドンブリッジを望遠レンズで引き寄せてみる。 ♪ロンドン橋落ちた、落ちた〜♪
夕暮れのロンドン。これからパーティーへでも向かうのだろうか、楽しそうに歩いているグループを手持ちで撮影。
人もまばらになってきた夜のビクトリア駅。ロンドン市内には郊外や遠距離の行き先によって何ヶ所かの鉄道ターミナル駅がある。規模は小さいが日本のJR駅ビルのアトレみたいに雑貨店や飲食店なども備わっているので、夕食はたいていここでお世話になった(笑)
この夏ロンドンも猛暑の日々で市内南の街Brixtonの公園ではスプリンクラーと作業員が水撒きをしていた。玉ボケを撮りたくて飛び散る飛沫に近づいて撮影。結果、ビショビショに(笑)
チューブの愛称で親しまれる世界最古のロンドン地下鉄。新聞を読む男性に合焦させてスローシャッターで撮影したが、手ぶれ補正機構ISのおかげで人物はまったくブレていない。
今回の拠点にしたビクトリア地区の周辺には、昔のロンドンの面影がたくさん残っている。日没直前の西陽を受けたビルの窓からの反射光が煉瓦造りの古い建物を照らしていた。
これでも夜の9時半くらい。暮れゆくロンドンの空を煙突と茜雲だけで表現してみた。美しい風景や人々に出会うと、また違う季節にも来たいと思わせてくれるのが旅の素晴らしいところだ。
使用レンズについて
EF70-200mmF4 L IS USM は小型軽量で使い易い焦点距離の望遠ズームレンズとして2006年の発売から長年愛されてきたが、この度発売以来12年にしてやっとリニューアルされてII型となった。
II型の最大の特徴は、手ブレ補正機構ISの効果が約5段分へとアップしたことだろう。他にはボケ味に影響する絞り羽根が8枚から9枚の円形絞りへと変更。最短撮影距離が20cm短縮され1mになった。これにより、準マクロ的な近接撮影が可能だ。これはI型からの特徴だが、F4固定のこのクラスのレンズでも、純正のエクステンダーが使えることも大きな利点だ。一方、重量やサイズ感の変化はI型とほぼ変わらない。
今回の旅ではカメラボディーにEOS 5D Mark IVとEOS 6D Mark IIの2機種を使用したが、どちらとも相性が良く、バランスも良かった。前からのユーザーもすぐに慣れて違和感なく使えるだろう。
もちろんこれまで同様、防塵防滴構造も備わっている。天候を気にすることなく定番のコンパクト望遠ズームレンズとして、日常使いに持ち歩くにも重宝な1本である。