特別企画
単焦点レンズ1本で再現する私的ポルトガル紀行
ポルトからナザレ、リスボン、そしてポルトへ
2018年4月9日 19:00
ヨーロッパ大陸の最西端に位置する南北に細長い国、ポルトガル。この国へはじめて訪れたのは、ナザレで暮らす漁師のポートレートを撮るためだった。あれから20数年。その間2度訪れているものの、今回は久しぶりのポルトガル行となる。
旅程はポルトからスタートしてナザレを経由してリスボンへ、そしてまたポルトへ戻るという10日余りの旅。その旅の模様を1本のレンズ(M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO)で綴ってみた。
PORTO(ポルト)
ポルトを訪れたのは2度目だ。最初に訪れた際、この街の歴史的な雰囲気にハマってしまった。
首都リスボンに次ぐポルトガル第2の都市で、人口は160万人。“ポルト歴史地区“ として世界遺産にも登録されている。
市街地は狭く、旧市街はほとんどが歩いてまわれる規模だ。ただし、断崖を切り開いて作られた街のため、アップダウンが多い。街中は坂道や階段が殆どを占めていて、舗道もデコボコの敷石だ。かなりの体力を要する。
今回のポルトガル旅の大半をこの町で過ごした。いくらマイクロフォーサーズシステムが軽量であるとはいえ、日々の階段の上り下りは虚弱体質のボクには辛く、毎日軽い筋肉痛になっていた(笑)
◇
真っ先に訪れたのは大聖堂。しかし裏の広場の塀が修復工事の真っ最中だった。発想を切り替えて、働く人と教会をシルエットで収める。このレンズは逆光を恐れず撮れるのが良い。
大聖堂から市街地へと抜ける途中、司教館の白壁が夕陽で暖色に染まっていた。何やら深刻な感じで話しながら坂道を歩いている男女。いつだって強いのは女性の方だ(笑)
教会の壁画は、アズレージョと呼ばれるタイルで描かれたもの。主に15世紀から18世紀頃までに作られたもので、その内容は歴史的な出来事が多い。街のほとんどが坂道となっているのも、ポルトの特徴でもある。
宿泊したホテルのすぐ近所にあった公衆電話ボックス。携帯電話やスマートフォンが主流になった今、使う人を見かけることはない。代わりに観光客たちが記念撮影をしていた。ガラス戸に写り込んでいるのは、アリアドス通りに面した歴史的建築物群。
F1.2の絞り開放。フォーカスは時計の針に合わせた。円ボケのいくつかが歪んでいるのは、口径食のせいではなくガラスが曲面なため。
日没が近づいてくると、あちこちの窓や外灯が明るく灯る。子どもの頃からその時間帯が大好きだ。
壁面に咲いた黄色い花が、もうすぐやってくる春の訪れを知らせてくれる。暗くなってきた部分でも細かなディティールが克明に再現されている。
港町につきものといえばネコと鳥。それさえ哀愁を感じてしまう。かなりの高台だが、カモメはこの街の何処に行っても見かけるくらい人と街と密接な関係にある。
ドウロ川に架かる橋ドン・ルイスI世橋。望遠鏡の覗き窓にフォーカスを合わせて、開放値F1.2でポルトの街並みを背景にしてみた。自然なボケ味が立体的な遠近感を出している。
上の写真と同じ位置から背景の街並みにピントを合わせた。絞りはF4に変えている。橋を渡った向こう側が、世界遺産に指定されているメインの旧市街地。橋の中央には線路が敷かれ、メトロD路線のライトレール車両が走っている。その両サイドを人が歩いて渡る。
NAZARE (ナザレ)
長距離バスは便数が少ない。早起きして朝一番の便に乗るためバスターミナルへ向かうが、タクシーじゃないと無理な荷物。いつもの癖で大きなアルミトランクケースを持参したことを後悔する。
ポルトから高速バスに乗って3時間半。途中のファティマでトイレ休憩を経て、ナザレへやって来た。
初めて訪れたのは1994年だったか1995年か。当時はモノクロフィルムでしか撮影していなかったので、いまいち色の記憶が薄い。ただ、彩やかな空や海の印象は残っている。
あの頃の一番の目的は、ナザレの民族衣装と帽子をかぶった漁師を撮影することだった。数少ない伝統的な帽子をかぶったお爺さんに出会い、ポートレートを撮影できたので満足して、あとは昼間からワインを飲んでボケーッと過ごしていた。
まだ今のように観光客がたくさん押し寄せてくるなんてことはない、静かな素朴な漁師町だった。
◇
20数年ぶりに訪れたナザレはすっかり変わっていた。四駆が乗り付けているのはポルトガルでは珍しい長距離に渡るビーチだ。背景はオ・シーティオと呼ばれる旧市街がある丘陵地帯。
かつて、海岸通りに面して建っていた小さな商店や民家。今そのほとんどは、ホテルやレストラン、土産物屋などの観光産業に代わっている。漁師町からリゾートへタウンへ。再開発が進む一方だ。
斜めになってしまったのはストリートフォトを気取ったのではなく、ネコに気をとられていてつまずきそうになった瞬間のカットだから(笑)
ポルトガルでは珍しい砂浜のビーチ。漁船ではなくサッカーゴールなのも時代の流れか。季節や天候のせいなのか以前訪れた時はもっと白い砂地だったような気がした。
海岸通りから路地裏へ入ると、昔ながらの建物が今でも少しは残っていた。剥がれ掛かったペンキ塗装が剥き出しの壁や何度も塗り直されてきた木製ドアが良い味を出している。
ジャガイモと人参、キャベツ、ケールのような青野菜が入ったスープ。あっさりした塩味で美味しい。名前は知らないけど、初めてポルトガルに来た20数年前から毎回食べている(笑)
35mm換算で約34mmの17mmは準広角レンズとして用途は多岐にわたる。このような引きがない狭い路地裏などで被写体を画面に収めるのには必須な画角だろう。さらに広い画角の広角レンズがあればもっと入れ込むこともできるが、下から見上げるとき、その分パースペクティブも目立つことだろう。
未だ暗い早朝の海岸線を歩く。頬や耳に吹きつける風が冷たい中、カモメが飛んでいく。
絞り開放F1.2で遠景にピントを合わせる。手前のタイヤ痕のある砂地をボカして、ダイナミックな風景写真もどきにしてみた。ISO感度を64に設定。F1.2の大口径は美しい前ボケ味も生み出す代わり、明るい日中の撮影では感度に悩まされる(笑)
LISBON(リスボン)
2日間だけのナザレを後にしてこれもまた久しぶりとなる首都リスボンへと向かう。
高速バスで2時間半くらい移動ののち、動物園近くのREDE社バスターミナルへ到着。ここからタクシーで宿泊先へ向かったところ誰も居ない。大きな荷物を抱えて動くこともできず途方に暮れて電話をしたら、10分程で鍵を開けに来てくれた。リスボンでの宿泊先は普通のホテルではなく、いわゆるペンション方式だったのだ。
滞在中は玄関と専用浴室の鍵を預り、出入りも自由。建物自体は瀟洒なアパートメントを改造したハウススタジオみたいなところだった。朝食は共同キッチンで勝手に食べる。
日当たりの良く居心地の良い部屋だったが、ゆっくりしているわけにはいかない。巨大な観光地でもあるリスボン。観光客の少ない街の裏側ばかりを彷徨った。
◇
ここリスボンもまた、港に近いエリアは再開発が進んでいる。どんどんと世界中の街並みの違いがなくなっていくのが悲しい。
朝から日が暮れるまで街中をバスやトラム、そして徒歩で歩きまわり、昔の面影ばかりを探していた。
路地裏で見つけた散髪屋さん。ショーウィンドウの髭リーマンを撮影していたら店主が出てきて、「おまえ髪を切っていかないか?」といわれた(ジェスチャーでたぶん)。生憎その必要はないので丁寧にお断りして立ち去った(笑)
日本では見かけない、派手な色彩の住居棟も土地柄だろう。古くて立派な黄色いアパートが青空によく映えている。色のりの良さと高いコントラスト、解像感が気持ちいい。
こちらも明暗差の大きいシーンだが、暗部が潰れることなく再現できている。
日が暮れてると街はまったく別の表情へと変わる。右側手前の建物に対し、奥の大きな建造物は真新しい。古い港町にも再開発の波が押し寄せている。
リスボンでは地下鉄など時間内で自由に乗り降りできる「Viva Viagem」カードを使っていた。ココは有名なケーブルカーに乗るための入口になっていた。
陽が沈み空が濃いブルーへ染まって行く頃、外灯が石畳の街を照らし出す。絞り開放でもフレアが少ない。街の臨場感をしっかりしたコントラストで再現してくれた。
パンタグラフを立てて走る小さな路面電車を見ると、なぜだかホッとしてしまう。子どもの頃に過ごした広島の街に似ているからかも知れない。
部屋に射し込む朝の光。至近距離で撮影すると、絞り開放から約2段絞ったF2.5でも、合焦した付近以外は滑らかにボケていく。
PORTO(ポルト再び)
リスボンからも長距離バスに乗って再びポルトへと戻ってきた。わざわざ同じ街を2回訪れたのは、帰国便のためである。現在、日本とポルトガル間には直行便がない。往路・復路とも他の都市経由でたまたま便利なだったのが、ポルトの空港だったというわけだ。
3度目のポルト訪問にしてやっと訪れた場所もあるし、何度か訪れているところもある。ポルトといえばポートワインだが、今回、ワインに関わるエリアにはまったく行かなかった。またいつか機会があれば、という次への課題を残してしまったようだ。
◇
ポルトの国鉄駅ともいえるサン・ベント駅。1900年にフランスのボザール様式を用いて建てられた重厚感に包まれた建築物で、建物内部の大きなステンドグラスが有名だ。壁面は1930年に製作された青いアズレージョで彩られている。旅行雑誌ではかつて世界でもっとも美しい駅の一つにも選ばれたとして有名なほど、外観も内部も素晴らしい。
坂道に面した入口側。天井まで届く天井までのステンドグラスのおかげで、駅構内はその日の天候や時間帯により、さまざまな光景を見ることができるので何度来ても飽きない。
壁面のアズレージョには約2万枚もの青タイルが使われているらしい。描かれている内容はポルトガルという国の歴史を表す絵巻物のようになっている。
夕暮れの駅舎。夜はライトアップされて益々荘厳な雰囲気になる。どうやらこの場所は修道院の跡地だったらしい。
サン・ベント駅前。楽器を演奏しながら踊っている学生の集団を撮らせてもらった。F1.2の絞り開放とはいえここはさすがにISO1600に上げて撮影した。
絞り開放でリベルダーデ広場にある郵便ポストと銅像を撮影。後ろに見える夜のサン・ベント駅舎が良い感じでボケている。何年かぶりに会ったけどこの男は昔のままだった(笑)ポストが赤いのは日本だけじゃないらしい。
ポルト市民の台所的な存在、ボリャオン市場。1914年建設の長い歴史を刻んできた鉄の柱に絞り開放でフォーカス。帰国2日前に「以前立ち寄れなかったから」と来たのだが、今回訪れた数日後に閉鎖され、全面建て直し工事をするとのことだった。
やや絞ったF3.5。自然な前ボケと感じる描写だ。電停(路面電車停留場)があるこの眺めもなんだか昔見たことがあるような。人々が行き来する場所は、その人たちの人生も交差しているみたいに感じられて好きな場所だ。
モヌメント・デ・サンフランシスコ教会から眺めるポルトの夕暮れ。対岸にワイナリーが並ぶ。優秀なレンズだと逆光なんか恐れずに撮影できる。
以前にも撮った覚えがある建物。夕陽を浴びた外壁のタイルとガラス窓が美しく際立っていた。やや広めの画角がちょうど良くはまって、旅の終わりにSaudade(サウダージ)なカットが撮れた。
M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROについて
オリンパスPROレンズのラインナップに加わったF1.2シリーズは、M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROの発売によって標準・中望遠・広角の3本が出揃った。
3本とも大きさや重量がほぼ同じくらい(フィルター径は62mmに統一)なところがうれしい。というのも、一緒に持ち歩いて使用する場合、ホールディングの違いが少なく、フォーカスリングやスイッチ類の操作が同じ方が、レンズ交換をしても戸惑うことなく撮影に集中できるからだ。
防滴・防塵・耐低温設計なので気温が低いヨーロッパの夜や海岸沿いでの撮影も安心だった。また、メーカーが謳い文句にする美しく滲むようなボケはもちろんだが、それでいて解像力も高く、20cmまで寄れる準マクロ的なレンズでもある点も魅力を感じた。