特別企画
ライカ自ら復刻した「ズマロンM 28mm F5.6」実写レポート
1950年代のスタイリングと描写を味わう
2016年11月17日 07:00
ライカカメラ社から登場した「ライカ ズマロンM F5.6/28mm」は、1955年から1963年まで製造されたスクリューマウントの広角レンズ「ズマロンF5.6/2.8cm」の復刻といえるモデル。復刻とはいえ、今の時代で28mm F5.6という開放F値のレンズを新発売するのは驚きだ。「ズマロン」(Summaron)の名前も、1958年に登場したズマロンF2.8/35mm以来になる。
ベースとなるズマロンF5.6/2.8cmは、1935年に登場したヘクトールF6.3/2.8cmの後継モデルだった。ヘクトールのF6.3から20年後に登場したレンズもF5.6というのは、当時における広角レンズの大口径化が難しかったことが伺える。他社はさておき、ライカの28mmレンズがF5.6より明るくなるのは、1965年のエルマリートF2.8/28mmからだ。
しかし現代の感覚で見れば、ヘクトールもズマロンもコンパクトなレンズなので、絞り込んでパンフォーカスにすれば、街で軽快なスナップ写真が楽しめる。特にズマロンは1954年のM形ライカ誕生以降の登場なので、同時代のM型カメラやスクリューマウント(通称バルナック型)ライカに装着するとよく似合った。ただし同じズマロン銘でも、35mmのズマロンF3.5/3.5cmなどと比べると製造本数が少なく、オリジナルは中古市場で高値で取り引きされている。
当時の佇まいを残した外観。細部に現代的改良も
それでは復刻されたズマロンM F5.6/28mmを見てみよう。外観は当時のデザインを見事に蘇らせている。一見するとMマウントアダプターを装着したスクリューマウントレンズのようだが、分割はできずライカMマウントのみに対応。もちろん最新レンズなので、マウント部にはデジタルのM型カメラが装着レンズを認識するための6bitコードがある。
シルバーカラーの鏡筒は、オリジナルは艶のあるポリッシュ調の仕上げだが、復刻版は艶がないサテン調の仕上げ。落ち着いた雰囲気があり、現行ライカMシステムのシルバーボディとのマッチングも良さそうだ。またブラックボディに装着した際は、ブラックとシルバーのコントラストが美しい。文字のフォントは現行のライカMレンズを踏襲しているため、クラシカルな中にも現代的な印象も受ける。なおフィルターは36mmのかぶせ式だったオリジナルに対し、復刻版は34mm径のねじ込みになっている。
レンズ本体の全長はわずか18mm、重さは約165g。コンパクトながら手にすると、真鍮鏡筒とガラスのずっしり感が伝わってくる。フォーカスレバーの形もオリジナルを踏襲し、無限遠のロック機構が復活。オリジナルと同じ操作性が楽しめる。これはオールドライカレンズが好きな人には嬉しい。
最短撮影距離もオリジナルと同じ1mとなっているが、実際はレバーが1mより近距離側に行くため、わずかだが公称値より寄れるようだ。フォーカスレバーの回転角はエルマリートM F2.8/28mm ASPH.などの現行レンズより大きく、無限から最短までぐるりと回す感覚も当時のスクリューマウントレンズを思わせる。
復刻したのはレンズ本体だけでなく、付属のレンズフードも当時の形状とほぼ同じだ。真鍮削り出しで質感が高い。オリジナルは表面が結晶塗装だったが、復刻版は滑らかな表面に仕上がっている。フード横に設けられたネジで固定するのもオリジナルと同じだ。
60年前と同じレンズ構成
レンズ構成もオリジナルと同じ4群6枚。今回はライカM(Typ 240)に装着して撮影した。オリジナルは「絞り開放でシャープだが、周辺光量低下が大きい」と言われていたが、この復刻版も同じ傾向だ。わずかに四隅が甘くなるものの、解像力がとても高い。またコントラストが高く、ヌケの良さを感じる。
周辺光量低下はF11まで絞るとほぼ気にならなくなり、F16からは回折現象による解像力の低下が見られる。とはいえ絞り開放でもなだらかに光量が落ちるので不自然さはない。あえて周辺を落とすのも、このレンズらしい表現といえる。F5.6~F11が実用的なF値だろう。
レンズ構成は60年前と同じでも、コーティングは最新のようで逆光にはさすがに強い。厳しい光線状態でもフレアやゴーストが出にくいのは現代的だ。オールドレンズの味わいと、デジタルに向いた現代的な写りがバランス良くミックスされている印象を受けた。
28mmで絞り開放でも明るさはF5.6。しかも最短撮影距離の公称は1mなので、大きなボケを得るのは苦手だ。しかしコンパクトで軽量な点を活かして、軽快な街のスナップを楽しみたくなる。しかもオリジナルと見まごう復刻版という楽しさもある。オールドレンズファンだが、デジタル時代に対応した写りも求める人には注目の1本だ。
せっかくなら、このレンズ以外にも復刻版を発売して、シリーズ化してほしい。ズマロンF3.5/3.5cmやエルマーF3.5/5cmなど、かつてのスクリューマウントの名レンズが現代に蘇ったらどんな写りが味わえるのか、楽しみにしたくなる。