SIGMA EF-Mレンズ連続レビュー
「EOS Kiss M × SIGMA」で撮る “大口径中望遠” ペット・子どもスナップ
SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporaryが描くお出かけメモリー
2020年1月27日 12:00
シグマから昨年秋に発売された3本のレンズは、いずれもキヤノンEF-Mマウントを採用しています。
・SIGMA 16mm F1.4 DC DN|Contemporary
・SIGMA 30mm F1.4 DC DN|Contemporary
・SIGMA 56mm F1.4 DC DN|Contemporary
意外なことに、シグマがEF-Mマウントのレンズを発売するのはこれが初めて。いずれも軽量でコンパクトなため、EOS Kiss MなどEOS Mシリーズのカメラボディにマッチしそうなレンズといえます。
そんな3本の魅力を引き出すため、デジカメ Watchではそれぞれのレンズについて、女性写真家にレビューをお願いしました。
第3回目の今回は、大口径の単焦点望遠レンズ「SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary」(以下SIGMA 56mm F1.4 DC DN)を吉住志穂さんに手渡して撮ってもらいました。テーマは“ペット”と“子ども”です。(編集部)
吉住志穂
1979年東京生まれ。高校入学後から本格的に撮影を始める。2001年日本写真芸術専門学校を卒業後、写真家の竹内敏信氏に師事。自然の「こころ」をテーマに、主に花のクローズアップを撮影している。2016年には和紙にプリントし、掛軸に仕立てた展示「花時間」を開催し、好評を博す。また各地での講演会や写真誌での執筆を行う。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。
このレンズの特徴は?
SIGMA 56mm F1.4 DC DNは、昨年秋に発売されたEF-Mマウントの同シリーズ中で最も焦点距離が長く、EOS Kiss Mに装着すると35mm判換算で約90mm相当の中望遠レンズとなります。
中望遠レンズの特徴は、いわゆる標準レンズ(焦点距離50mm)よりも大きくぼかすことができ、それでいて超望遠レンズ(例えば200mmなど)とは違い、被写体と程よい距離を保てること。そのため、ポートレート撮影用のレンズとして人気が高いのです。
さらにこのレンズは、開放F値がF1.4と明るいのが魅力です。ボケの大きさは焦点距離、F値(絞り値)、被写体までの距離、そして、被写体と背景との距離で変わりますが、F1.4はこのクラスとして最も明るいため、大きなボケが期待できます。加えてシャッター速度を速くしたり、ISO感度を低く抑えられるのもメリットになります。
大きさ・重さはいかがですか?
大口径の単焦点レンズというと、「大きくて重い」というイメージがあります。しかしこのレンズは、とても軽くてコンパクト。EOS Kiss Mとのバランスも良く、本体も決して安っぽくありません。
また子どもと猫、どちらも基本はローポジションでの撮影になります。こんなときは、EOS Kiss Mの可動式液晶モニターを見ながら撮影できるのが便利。レンズやカメラが軽量なので、ずっと手に持っていても腕が疲れませんでした。
このレンズでどんな作品が撮れましたか?
“ボケが大きい” “暗所に強い”というメリットを活かすべく、今回は猫カフェとイルミネーションスポットに娘を連れて撮影に向かいました。ペット撮影と子ども撮影をこのレンズのボケと画角を活かすとどう撮れるか……といったところにチャレンジしています。
背景のボケを活かすため、露出モードは絞り優先オートを選択。背景をぼかしたいのと、感度を抑えたかったので、ほとんどのシーンで絞り開放のF1.4からF2.8付近で撮ってみました。
最初にシャッターを切って見た感想は「とろけるようなボケ」。ズームレンズのボケとは違う、ふわっとして、滑らかなボケです。
背景にある赤いソファが大きくボケたことで、主役だけが浮かび上がっています。一方ピントが合ったところはシャープで、ガラス玉のような瞳の透明感が再現されています。
背景の壁紙との距離は数10cm。背景との距離が近く、柄が目立つので、普通ならば敬遠するようなシーンです。このレンズで撮ると背景がどうぼけるのか、挑戦してみました。
結果、程よくボケたことで、メインの被写体を引き立てるポップで華やかな背景になりました。
このレンズの最短撮影距離は50cm。数字だけ見るとあまり近づけない印象ですが、画角が狭いため、被写体を大きく写すことが可能です。
そこでピントが合うギリギリまで迫り、かわいい前足をクローズアップで撮影しました。
娘が猫を撫でているところを狙いました。背景の窓がきれいにぼけている一方で、娘の腕もぼけて自然な立体感が出ています。画面全体がシャープだと平面的に見えがちですが、前後にボケを作ることで奥行きを感じさせることができます。わずかな距離の差でもボケが作れるのは、F1.4の明るさを持つこのレンズの特徴です。
子どもにピントを合わせて、猫を軽くぼかしました。ピント面はシャープで、猫の瞳や毛並み、子どもの髪の毛、服やソファの布目など、それぞれ細かく描写されています。
中望遠レンズがポートレートに向いているのは、背景がボケやすく、また背景の写る範囲が狭いので、画面をすっきりさせやすいところ。そして、人物との距離が程よく保てるのが理由でしょう。
この写真はテーブルの向かい側から離れて撮影していますが、人物への圧迫感なく、自然な距離感で撮影しています。服とソファがよく似た色合いなので平面的になりがちですが、背景にわずかなボケがあるので、立体感が出ています。
お土産屋さんのショーウィンドウにあった正月の飾りです。ガラス越しですが、焦点距離が長めなので被写体に迫れました。ボケを作りたいテーブルフォトにも使えますね。エビのつぶらな瞳にピントを合わせました。
明るいレンズでイルミネーションのような点光源をぼかすと、いわゆる丸ボケがつくれます。手前の丸ボケもイルミネーション。レンズの前に白いイルミネーションが来るよう構図を作ってみました。
被写体から離れれば、背景を大きく取り入れつつ全身を写し撮ることも可能です。絞り開放のF1.4で撮影したので、背景がほのかにボケて人物が浮き立ちました。周囲の雰囲気を感じさせつつも、主役を引き立てるような背景になっています。
まとめ
背景のボケ具合については普段から意識していますが、今回改めて、ボケの美しさは重要だなと感じました。なんとも形容しがたい、撮影していて気持ちが高まるようなボケ。90mm相当という画角もあり、背景をぼかしながら、ペットや人物を撮るのに都合の良いレンズです。逆光でいやなフレアやゴーストが目立たないのもポイントでしょう。
そしてこれだけ大きなボケを作れるのに、カメラ、レンズとも驚くほど軽量。フルサイズセンサー搭載カメラにF1.4の中望遠レンズを装着することを考えると、こうはいきません。フットワークもよくなるので、1日持ち歩いても苦になりませんでした。
交換レンズをいろいろ持ち歩くのもいいですが、「今日はこのレンズ1本で勝負!」と焦点距離を決めて、それに沿った被写体を探し歩くのも面白いですよ。私も改めて単焦点レンズ、それもボケの美しいレンズの楽しさを認識しました。ポートレートはもちろん、スナップ、テーブルフォトなど、幅広く活躍できそうなので、標準ズームレンズにプラスする1本として選んでみてはどうでしょうか。
制作協力:株式会社シグマ
機材撮影:武石修