SIGMA EF-Mレンズ連続レビュー

「EOS Kiss M × SIGMA」で撮る“広角単焦点”鎌倉スナップ

SIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporaryが描く冬のおとずれ

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporary / 25.6mm相当 / マニュアル露出(1/800秒・F1.4) / ISO 200

シグマからこの秋発売された3本のレンズは、いずれもキヤノンEF-Mマウントを採用しています。

SIGMA 16mm F1.4 DC DN
SIGMA 30mm F1.4 DC DN|Contemporary
SIGMA 56mm F1.4 DC DN|Contemporary

左からSIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporary、SIGMA 30mm F1.4 DC DN、SIGMA 56mm F1.4 DC DN。

意外なことに、シグマがEF-Mマウントのレンズを発売するのはこれが初めて。いずれも軽量でコンパクトなため、EOS Kiss MなどEOS Mシリーズのカメラボディにマッチしそう。

そんな3本のレンズの魅力を引き出すため、デジカメ Watchではそれぞれのレンズについて、女性写真家にレビューをお願いしました。

第1回目は鈴木さや香さんに、広角単焦点レンズ「SIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporary」をとりあげてもらいました。35mm判換算で焦点距離25.6mm相当となるこのレンズ、鈴木さんはどのような印象を持ったのでしょうか。(編集部)

鈴木さや香

日常でつい空白になってしまう部分に、やわらかく焦点をあてた写真作品を撮る写真家。フォトエッセイは「かまくらかたおもい」が鎌倉観光協会HPにて連載中。各メーカーや自治体、大手写真館などで講演やワークショップなどを多数行う。


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SIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporary
EOS Kiss Mに装着したところ。

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このレンズの特徴は?

キヤノンの純正EF-Mレンズにはない焦点距離16mm(35mm判換算で25.6mm相当)のF1.4のレンズには、風景や情景をスナップするのにちょうどよい画角が備わっています。さらに最短撮影距離が25cmと短いので、「もう少し引いて目の前の光景を入れられたら」「もうすこし寄りたいのだけど」といった、撮影していて感じる“あと少し”をカバーしてくれます。

さらにF値の明るい大口径レンズなので、ボケ方がやわらかくとても綺麗です。普段ズームレンズを使用されている方は、単焦点レンズのボケを見てしまうと一味ちがう喜びを感じられるのではないでしょうか?

サイズについては、「EOS Kiss M」につけるにはちょっと大きいのかな? と感じていましたが、撮影しているうちに全く気にならなくなりました。サードパーティー製ではあるものの、EOS Kiss Mボディにつけたときに違和感のないマットな表面仕上げにも好感が持てます。

さて、単焦点レンズの一番の楽しみ方は、自分と被写体との距離感が如実に出るところにあると思います。撮れる範囲が限られるので、好きなものには近寄り、傍観したいものは遠目で撮る。そして、無理に近づくのではなく、無理なものはあきらめるという楽しみ方が、写真を見返したときにもはっきり現れます。いっぱい頭をつかって発想するので、写真の上達に無くてはならないのが、単焦点レンズです。

広角で近寄って得られた勢いある画角。けれどもF1.4のボケの柔らかい美しさが兼ね備えられています。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN

大きさ・重さはいかがですか?

写真の上達には続けることが一番です。自分に合った機材選びをするときに、自分の体に負担が少ない軽量なものを選ぶことは、実はとっても重要です。出かける時にカメラ以外の荷物もある場合、持っていけるものを選択しなくてはなりません。そんなとき、大きなレンズだったらちょっと億劫になってしまうこともあります。

SIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporaryの重量は約405g。EOS KissS Mのボディは約387g。合わせても800g足らず。缶ジュース2本とすこし、という感じです。これなら、いろんなところに持っていけそうですね。

きれいな光とおいしいケーキ。こんな時に寄れるレンズを持っていなかった!とならないよう、レンズ選びは気軽なサイズを。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN

キヤノン純正レンズと違うところは?

このレンズは最近のシグマレンズと同じように、キヤノン製カメラボディのカメラ内収差補正に対応しています。そのため、ゆがみや収差はすくなく感じます。

また、絞り開放で撮影すると、空抜けの細かな部分などにやや色モアレやパープルフリンジが現れますが、これもキヤノン純正のRAW現像ソフト、「Digital Photo Professional(DPP)」を使うことで修正できます。

AFを動かすステッピングモーターは、スムーズなオートフォーカスが求められる動画撮影を踏まえて搭載されたものです。動画でなく静止画でも、オートフォーカスは静かで素早い印象です。

線が細く出そうなこんなシチュエーションにも収差を感じない描画力。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN

このレンズでどんな作品を撮りましたか?

さて、今回、キヤノンのEF-Mマウント用のレンズにはない焦点距離16mm(25.6mm相当)F1.4のレンズで鎌倉や江ノ島を歩きながら、1本のレンズでどのくらい自分が満足できるかを試してみました。すでに7本のEF-Mレンズを使用している私が、このレンズのどこに物足りなさを感じるか、どこが満たされるか。

実はとてもいい世界が見えました。ゆっくりとした時間のなかで、真っ白い波や、秋を感じる草花と向き合いながら自分を満たす楽しい時間の写真を見ていただきたいです。

早朝。肌寒い海辺で、朝陽をつよい逆光で撮りながら、海のグラデーションを写す。逆光にまけず、波への焦点を見つける。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
砂や貝が光を受けて反射してまあるい玉ボケを作る。このレンズのいいところの一つに、絞り開放でも玉ボケがまあるいところがある(他のレンズはたいてい楕円形で、ある程度絞り込まないと円形にならない)。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
抜け感のよい場所で、美しい砂の前ボケ。爽やかで、勢いのある新鮮な風を広角でとらえる。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
海で拾ったシーグラスや瓶を、波のキラキラといっしょに。ぐっと寄れて、その世界に浸ってしまう。光の乱反射も美しく、にじみ無く。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
海辺のサーフィンショップはまだ空いていない。映り込みが含まれていてもAFは迷わずに捉える。カメラとのAFの相性はとてもよい。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
おなじく海辺のサーフィンショップ。ガラス越しの湿度計にも最短撮影距離25センチで寄ることができる。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
浜辺に咲いている小さな秋の花を、ピントはシャープに、背景は明るい開放絞りを活かして柔らかくぼかす。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
道端に生きているかわいい雑草も、煽って太陽にレンズを向ければ生き生きした表情が見れる。接写ができるレンズならではの軽快スナップ。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
廉売所の暗い光を、柔らかい描写で明るく可愛らしくとらえる。旬の蕪たち。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
重さをあまり感じない常備感。撮りたい一瞬はいつ訪れるかわからないので、いつでも準備万端にできる気軽さがうれしい。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
夕陽の斜光を逆光でとらえる。なんて美しい世界。ギリギリまでハレーションも起きない。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
光をとらえるとき、世界が見えにくくなる。けれどもレンズはしっかりとあるべき場所にAFを合わせる。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN
クリスタルの飾りからこぼれ、散らばる虹の光。こんな急な光のいたずらに単焦点なら自分の心のままに迷いなく画角が決まる。

EOS Kiss M / SIGMA 16mm F1.4 DC DN

まとめ:被写体にしっかり向き合いたくなるレンズ

EOS Mシリーズのユーザーのみなさんは、「シグマ」というブランド名を聞いてあまりピンとこないかもしれせん。

けれども今回のSIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporaryは、どこかかゆいところに手が届く感じがしました。軽快でカメラとの相性も抜群です。使っていて違和感などを特に感じないスマートなデザインと、きれいな描画力です。

今まで広角レンズは苦手であまり使わなかったという方、F値の明るいレンズが高価で手が出なかったという方、(私のように)シグマがノーマークだった方は、ぜひ一度つかってみてほしいなと思います。

レンズフードをつけると大きく感じますが、実際このレンズ1本でお散歩できるので、他のレンズを持ち歩かないですみます。

実は掲載したすべての作例でレンズフードをつけていません。レンズフードがあると、光の最高なところを逃してしまう気がするからです。

でも、それでも、見ていただいたとおりです。さあ、これからもっと寒くなり光の粒子が輝く冬の空気がはじまります。それが終わればふわっとやさしい桜の季節を、ぜひこの1本でたのしんでみてください^^

比較的、わたしは傍観したり距離をおいたりしてスナップする方でした。けれども、広角で被写体に近寄れてやわらかい雰囲気のこのレンズは、今までよりもなんだか積極的にさせてくれるレンズだなと感じました。もっと仲良くしようと思います。

制作協力:株式会社シグマ
機材撮影:武石修

鈴木さや香

1982年生まれ。東京都出身。東京造形大学環境造形学部卒業。映像演出家、写真家に師事し独立。広告写真を撮る一方で、自分の作品を発表。写真雑誌、ムック本や解説など多数。フォトエッセイ多数、鎌倉観光協会Webサイトに「かまくらかたおもい」連載中。また写真封筒など、写真を暮らしに溶け込ませる独自の活動を行うため、一般社団法人 写真と暮らし研究所を立ち上げる。