PENTAX 100YEARS

人はなぜ光学ファインダーや一眼レフに惹かれるのか

写真家・吉村和敏さんにインタビュー

吉村和敏さん。PENTAX K-1 Mark IIを手に。

私たちにとって馴染みの深いカメラブランド「PENTAX(ペンタックス)」。そのPENTAXを世に送り出した企業、旭光学工業合資会社の創業から、今年は100年目にあたります。それにちなみ今回から、PENTAXブランドの魅力やPENTAX製品で写真を撮る意義を探る特別企画を開始します。

初回となる本記事は、K-1 Mark IIをはじめとしたPENTAX製品を愛用する写真家・吉村和敏さんへのインタビューとしました。吉村さんがPENTAXに惹かれる理由や、一眼レフカメラが持つ魅力について掘り下げていきます。(聞き手・文:豊田慶記)

吉村和敏

1967年、長野県松本市で生まれ。高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビューする。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高い。

写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『Moments on Earth』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』『CEMENT』(ノストロ・ボスコ)、『RIVER』(信濃毎日新聞社)、『錦鯉』(丸善出版)などがある。

撮影:吉村和敏(「スペインの最も美しい村」より)
PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR / 35mm / プログラム(1/500秒・F8.0・+0.3EV) / ISO 250
撮影:吉村和敏(「スペインの最も美しい村」より)
PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR / 55mm / プログラム(1/200秒・F5.0・±0.0EV) / ISO 250
撮影:吉村和敏(「スペインの最も美しい村」より)
PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WR / 17mm / プログラム(1/1,000秒・F9.0・-0.3EV) / ISO 250
撮影:吉村和敏(「スペインの最も美しい村」より)
PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR / 55mm / プログラム(1/8秒・F10・+0.7EV) / ISO 320

写真・カメラとの出会い〜プロになるまで

——写真を初めたきっかけを教えていただけますか?

きっかけは中学3年の夏休みのことです。家にあったコンパクトカメラをいじっていたらなんだか面白くなり始めて。それで「撮ってみたいな」と思うようになりました。そこから写真やカメラに目覚めて、いろいろ調べてみて「一眼レフ」という存在を知り「一眼レフカメラが欲しい」と思うようになりました。「いかにもカメラだ」というゴツゴツ感のあるデザイン含めて一眼レフカメラに憧れがありました。

K-1 Mark IIのファインダー構造。レンズを通った光がレフレックスミラーで反射し、ペンタプリズムに導かれ、ファインダー接眼部に至る。いわゆる一眼レフ構造を採用したレンズ交換式デジタルカメラだ。

——最初のカメラは一眼レフだったのでしょうか?

はい。両親にお願いして買ってもらったオリンパスのOM10でした。入門機でお手頃でしたので、当時写真をやっていた学生の多くが持っていたと思います。高校に入学して3年間は写真クラブに入って活動していました。

——初めて一眼レフカメラに触れた時のことを覚えていらっしゃいますか?

初めて一眼レフのファインダーをのぞいた時、ものすごく感動したことをよく覚えています。カメラを買ってもらうまでにカタログを穴が空くほど読み返してますから、喜びも大きかった。それで実際にカメラを手に入れて初めてファインダーをのぞくと、ファインダーの左側にシャッター速度が見える。

——当時一般的だったスプリットイメージのファインダースクリーンも、一眼レフならではの体験でしたよね。

そうそうそう! ファインダーをのぞいていて、ピントが合っていく様子に感動しましたし、ファインダーに写る光景を見ていると、映画館で映画を観ているような気持ちになりました。

——とても共感できます。ぼやけていた画面が徐々に明瞭になっていく様子は「写真を撮っている」という気持ちにさせてくれる瞬間ですね。初めて手に入れたカメラにはどんなレンズを組み合わせていたのでしょうか?

50mmのF1.8ですね。最初はそれしかレンズを持っていませんでした。

高校生になって当時のカメラ雑誌のフォトコンテストにどんどん応募してみると次第に賞金が入るようになりました。高校時代はお弁当屋さんでアルバイトもしていましたので、フォトコンの賞金やアルバイトで得たお金を貯めてレンズを買い揃えていきました。

——当時、賞金で稼いだりするうちにプロのカメラマンや写真家になりたいと意識することはありましたか?

プロになることは意識していませんでした。純粋に写真が好きな少年だったというか。学校の図書館に行くと風景写真の写真集がたくさん置いてあったんですが、それを見て「キレイだな、こういう写真を撮ってみたいな」という憧れはありましたが、だからといって”プロカメラマン”という世界がどういう世界なのか想像もできませんでした。なので、プロになりたいという意識を抱けませんでした。

——プロになる前はなにをされていたのでしょう。

高校を卒業して印刷会社に就職しまして、辞めるまでの2年間は普通のサラリーマンをやっていました。それから会社を辞めて、まるまる1年間カナダに行きました。

——2年勤めた会社を辞めた理由というのは、それは何かきっかけがあったのでしょうか?

会社で働いてお給料をいただくサラリーマンではなく、自分で仕事を生み出す職業に就きたいと思ったのがきっかけです。そうなるためにはどうすれば? と考えた先に「どこかへ行って写真を撮りたい」と思ったんです。その場所がカナダでした。

——写真を撮る対象としてカナダを選んだ理由は何かあるのでしょうか?

単純に国内はピンと来なかったんです。当時はちょうどバブルでしたので、お金も結構貯まっていたので、どうしても海外に行きたくなった。

——良い時代だったのですね。

ええ(笑)。僕が20歳の時ですが、とても良い時代でした。2年働いてまるまる1年間どこかに行けるだけの貯金がすぐに貯まりました。カナダを訪れて、そこでプリンスエドワード島と出逢って、そのまま冬まで住んで写真を撮り続けました。1年後帰国してから雑誌社などに撮影した写真を売り込んで廻りました。

プリンスエドワード島と言えば赤毛のアンなどで知られていますが、日本国内でプリンスエドワード島の写真が出回っていたワケではありませんでした。だから赤毛のアンの出版物や旅行会社のパンフレットなどで需要がとてもありました。

そんなことをしている内に世界中を旅して旅行写真や風景写真を撮って仕事を貰って……ということを繰り返して、27歳くらいから写真だけで食べていけるようになりました。

なぜPENTAX K-1なのか

——現在はデジタルカメラで撮影を進められていると思いますが、現在の機材はどんなカメラになりますか?

テーマに合わせて色々なカメラを使っています。例えば8×10(エイトバイテン)のモノクロで長野を撮ったりもしていますし、デジタルカメラでは「世界の最も美しい村」というテーマでフランス・イタリア・ベルギーと回っていて、現在スペインの村々を5年間追い続けているところです。「スペインの最も美しい村」の写真が今年いよいよ本になりますが、こちらはその多くがPENTAX K-1 Mark IIで撮影したものになります。

PENTAX K-1 Mark II。装着レンズはHD PENTAX-D FA28-105mmF3.5-5.6ED。

——K-1シリーズを選んだ理由はあるのでしょうか?

理由は幾つかあります。画作りの良さとファインダーののぞき味が良いこと。防塵防滴性がしっかりしていて丈夫であることなどが気に入ったので使っています。基本的には「機材ありき」ではなく「写真ありき」で機材を選んでいますので、K-1というカメラが持つ特長と画作りが写真集のテーマとイメージに合致した、ということになります。

一方でメカニカルなカメラが好きなので、ボタンやタッチパネルで操作するよりも自分でアナログ的にダイヤルを操作して撮影するという感覚が欲しいという気持ちがあります。その点で、PENTAXのカメラはマニュアルでの操作感が良いですし、純粋にK-1のアナログな操作性が気に入っています。

——たしかに、PENTAXのカメラと言えば防塵防滴仕様としっかりした光学ファインダーにダイヤルの操作系という組み合わせで、マニュアル操作を大切にした設計ですし、K-1は特にマニュアルでの操作がしやすいと感じますね。

PENTAXはファインダーの四隅がちゃんと角になっていることも気持ち良いと思います。あとは小さすぎず大きすぎずの丁度いいサイズ感とカメラらしいデザインも気に入っています。また、大事なことですが丸1日の撮影でも予備のバッテリーが1つあれば安心という、電池の持ちの良さも重要です。

一眼レフカメラであることを主張するペンタ部のデザイン。

——たしかにファインダーののぞき心地の良さとカメラ然としたカタチが格好良いですし、カメラの特長をハッキリとアピールできているデザインですね。それにしてもK-1シリーズのバッテリーがそんなに持つとは知りませんでした。私は普段ミラーレス機をメインとしていますので、一眼レフのバッテリーの持ちの良さには羨ましく感じることが良くあります。ところで、画作りが良いとのことですが、どんなところに気に入っているのですか?

画素数が3,600万画素もあるということと、とても自然で階調性と再現性の良い画像が得られるところが魅力ですね。カスタムイメージの「鮮やか」を基本に微調整して使っています。レタッチはほとんどしません。それくらいに僕のイメージに合った良い画像が得られます。

——自身の感覚に合う画作りの画像が得られるというのはカメラ選びでもとても大切なことですよね。

そのとおりですね。実は不満もありまして、フルサイズ用のレンズラインナップが少し寂しいという点は若干物足りないという気持ちがあります。とはいえ基本的にF2.8ズームの2本しか使わないので問題ないといえば問題ありません。

——単焦点レンズは使わないのですか?

単焦点レンズももちろん持ってはいますが、僕はあまり使いません。今使っているのはズームレンズだけですね。レンズは開放F値の明るい「HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR」と「HD PENTAX-D FA★70-200mmF2.8ED DC AW」がメインで、基本的にこの2本で撮影しています。24mmから200mmまでの画角が2本で済みますし、歩き回って撮影するので機動力確保のために機材は軽くコンパクトにまとめたいという気持ちもあります。

最近は「HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR」の代わりに少し開放F値が暗いですけれどコンパクトで写りの良い「HD PENTAX-D FA28-105mmF3.5-5.6ED」を良く使っています。これも軽くてよく写るので気に入っています。

想像しながら撮るから、想像以上の作品にもなる

——撮影スタイルについてお聞かせください。撮影ではファインダーをのぞいて撮る派ですか? それとも背面モニターでライブビュー画面を見ながら撮る派でしょうか?

100%と言っていいほどファインダー派です。もうこれに慣れちゃっているのでいまさら変えられないというのもありますけれど。

——学生時代から一眼レフで育ったから、ということでしょうか。

「どうしてもファインダーが欲しい」という身体になってしまっているからです。だからGRのようなファインダーの無いカメラはちょっと苦手です。良いとか悪いじゃなくてファインダーが欲しい。ファインダーは絶対に欲しいのです。ファインダーをのぞいて撮る、という行為がもう撮影のルーティンとして身体に染み付いているんですね。

K-1 Mark IIのファインダー接眼部。

——一眼レフの光学ファインダー(以下、OVF)とミラーレスの電子ファインダー(以下、EVF)ではどちらが好み、というのはありますか?

基本的にMFでピントを合わせますのでOVFが好きです。

——MFで主に撮影されている、と。であれば微妙なピント合わせの匙加減が掴みやすいOVFはピッタリですね。

「慣れ」が大きいのでしょうけれど「だいたいこの辺にピントを合わせてこの絞りでOK」という感覚を掴みやすいのはOVFならではのものだと思っています。

——OVFと言えば、デジタルで写真を初めた人は、EVFやライブビュー(以下、LV)の様に拡大してピントを確かめたり、ファインダー上で仕上がりイメージの確認が出来ないOVFを苦手に感じる人も居るようです。

フィルムで育ったので、撮影時は仕上がりイメージがすぐに想像できますし分かります。でもそうか、ライブビューで育った人たちはOVFで現実を見ながら結果を想像する感覚がよく分からないのか、その視点はありませんでした。ファインダーをのぞいて結果が想像できて当たり前という感覚だったので、とても新鮮に感じます。

——仕上がりイメージが表示されるEVFは、露出の確認やホワイトバランスをカスタムした場合などでより効率的な撮影が楽しめる、という意味でメリットがあるという考え方もあるかと思います。その視点に立ってみるとOVFは、バッテリー消費は少ないですが露出やホワイトバランスで失敗する可能性があるという非効率な面があることも否定できません。ですが、そうした撮影の失敗が新たな発見に繋がった、というような経験はありますか?

撮影の失敗が上手く転ぶ、ということについてはよくあります。太陽を画面内に大胆に写し込んだ構図にして光学ファインダー上ではフレアが確認出来なかったから「よし」と思って撮ったら撮影画像にはフレアが盛大に出てしまっていた。だけど、思いがけずダイナミックなイメージが得られて、結果的にカレンダー用の写真に採用されたことがあります。

露出に失敗してしまったけれど逆に雰囲気が良く、想像以上に面白い写真になったとか、そういった興味深い「転び」というのはあるものです。こういった「失敗が転じる」という体験はおそらくOVFで撮影してこそ、ということなのだと思います。

ファインダーをのぞく行為が絵心を刺激する

——「非効率である」というのは時に常識の殻を打ち破ってくれる可能性がある、ということですね。それは先程話題に挙がりました「マニュアルで操作して撮る」ということにも繋がっているのかもしれませんね。

ところで、100%ファインダーで撮影するということですが、K-1シリーズには可動域の広い背面モニターが付いていますが、ローアングルやハイアングルの撮影でもファインダーをのぞいて撮るのでしょうか?

あまりローアングルで撮影しないので、やはり、というか絶対にファインダーをのぞいて撮ります。三脚を使用しての撮影でも必ずファインダーをのぞきながらファインダーありきで撮影します。なので背面モニターは固定式でも良いくらい(笑)

もちろん星景撮影などを楽しまれている人にとっては可動式の背面モニターとLVは必要な機構だと思います。でも、僕は普段眼にしている視線の高さで「美しい」と感じたものを切り取るのが撮影スタイルですので。少ししゃがむ程度のローアングルはありますけれど。

——普段の目線・アイレベルで吉村さんが感動した風景を写し撮る、それが吉村さん独自の作品性を生んでいるということなのですね。個人的な興味に基づく質問ですが、ファインダーはどちらの眼でのぞきますか? またのぞいていない方の眼は閉じるタイプですか? ちなみに私は右目でファインダーをのぞきますが、左目も開いて周囲の様子を探りつつ撮影しています。

どっちだろう……意識していませんでした。左目でのぞきますね。右目も開いていますね。でも意識はファインダーだけに集中しています。

——ファインダースクリーンにグリッド線などの表示などをしていますか?

ファインダー越しに見えている風景に集中したいので、罫線などは一切表示させていません。「何もない」というのが良いです。

——水平垂直を合わせたい時や構図の微調整など、僕はもはや罫線なしでは生きていけない身体になってしまいました。

K-1シリーズには自動水平補正があるので手持ちでも安心ですし、構図の調整につきましても「絵心がある」と言えば分かりやすいでしょうか。どのように切り取ると安定感のある構図になるのか? というのが感覚で分かるので、構図の微調整なども完全に感覚でやっています。その代わり、パターンはたくさん撮ります。色々なアングルと露出で相当な枚数を撮ります。

——ファインダーをのぞくと周囲が黒くマスクされて額縁のような効果を発揮して絵画世界のように見えることがありますが、これは吉村さんの「絵心」を刺激されますか?

僕は絵画も大好きなので、先程「絵心」という言葉を用いましたが絵画のような美しい風景を捉えるぞ、という気持ちになるという意味ではファインダーをのぞくと絵心を刺激されます。

30年以上ファインダーをのぞいて撮影していますので、ファインダーの周囲がマスクされた世界を見ると「出来るだけ失敗せずに写真を撮りたい」「できるだけ良い写真を撮りたい」という冷静な気持ちになれます。

K-1 Mark IIのファインダー内。(編集部撮影)

——良い写真が撮れそうだ、という予感や撮れたぞという感覚が撮影中に訪れることはありますか?

良い写真が撮れる時は(被写体や光景を見て)撮る前に分かります。だからいっぱい撮る。とにかくその瞬間を捉えるために撮りまくる、という感じです。素敵な風景に出会えると素敵な風景に出会うと捉えたい瞬間を長時間待つこともあります。光や風、水面が鏡のようになるのを待ったり天候を待ったり。なので撮らない時はとことん撮りません。

アナログ的な操作に宿る喜び

——さきほどK-1シリーズを選んだ理由についてうかがいましたが、機構としての一眼レフに感じる魅力についても教えて下さい。例えばクイックリターンミラーの動作感が撮影にリズムを与えてくれるというような一眼レフ特有の「メカ」がもたらす独特の魅力などは感じますか?

K-1 Mark IIのミラーボックスから見えるレフレックスミラー。

イメージセンサーにホコリが付くのを防いでくれる、という意味でミラーがあることに魅力を感じます。物理的に障壁になってくれているのでレンズを外した時にも安心感がある。ミラーレスはイメージセンサーがむき出しなので、少し神経質になります。

——その気持ちは分かります。ミラーが身を挺して守ってくれていると感じることがあります。

中判ミラーレスデジタルでは余計にそう感じてしまいますし、経験上ミラーがあることでホコリ対策になっているというのは感じます。ミラーが動作するときに巻き起こる気流でホコリが落ちるというのもあるかと思います。そう言えば、ペンタックスの柔らかくて優しいシャッター音は大好きでシャッターを切りたくなります。

——K-1 Mark IIのシャッター音は静かですし心地良い音質ですね。のぞき心地が良いファインダーや握りやすい大柄のグリップなど、ペンタックスのカメラは手に触れる部分をどう作り込めば心地良いと感じるか? ということを理解していると感じます。

PENTAXの作り込みは僕も上手いと思います。基本的に操作はマニュアル派なのでPENTAXのアナログな操作感が好きです。車もATじゃなくMTの6速を選んで乗っているくらいなので。

——僕も車や機械が好きなので「操作はマニュアル」という気持ちが分かります。アナログな操作系は「操作しているぞ」という感覚がありますし、ピントや露出を実際に操作して撮影するという「所作」が必要なのが気持ちを落ち着けたりするのに役立っていると感じることがあります。

所作ね、よく分かります。その意味でもPENTAXの一眼レフは自分にピッタリはまると感じています。デジタル操作じゃないことに喜びを感じる、というのは大げさですが。

マニュアル操作の重要性を強調するダイヤルやボタン類。

——開発のベクトルが「写真が大好きな人」に向かっているという感じはPENTAXを見ていると感じます。そこがピッタリはまっているのでは?

PENTAXとのお付き合いは25年以上になりますが、カメラや写真を好きな人を大切にするというPENTAXの姿勢を僕は心地よく思っていますし応援しています。製品開発にはいろいろな理由や都合があると思いますが、流行にとらわれず信念を持って一眼レフを作っている。ミラーレスには効率化と自動化という点でリードする部分がありますので目的に応じて私は機材を選びます。でもじっくりと腰を据えて時間を掛けて撮ることについても大切だし、忘れたくないと感じています。効率化はもちろん大切ではあるけれど、時には非効率であってもクオリティをとことん上げて納得するまでやることも大事なことなので。

——PENTAXや一眼レフに期待することはありますか?

先程も言いましたが操作はマニュアル派なのでもっとマニュアル感を出したカメラを作って欲しいという希望があります。それこそPENTAX LXくらい自動化の機能がついてなくていい。そういうシンプルで何もオートで出来ないカメラがあっても面白いと思います。

——もちろんメカの作り込みはしっかりと?

もちろんです(笑)。グリップやファインダー、シャッターの感触や操作感など実際に触れるところの作り込みはとことん拘って、それ以外はシンプルにマニュアルで。

——マニュアル育ちなので私も欲しいです(笑)。高度な自動化で簡単キレイも良いですけれど、違ったベクトルの製品も欲しいですよね。それにマニュアルの良いところは、1つ1つの操作が経験値として蓄積されていくところだと思います。

そのとおりで、どうやって操作し撮影して写真のクオリティを上げていくか? ということについては実際に操作して撮影した方がより濃い経験値になって自身の技術として身になっていくのだと思います。だからマニュアルをどう残していくのか? 一眼レフをどう残していくのか? についても考えて欲しいですし、ペンタックスはそれができるブランドだと期待しています。

提供:リコーイメージング株式会社
人物撮影:豊田慶記
機材撮影:武石修

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。