おもしろ写真工房

「網フィルター」を作ってみよう!

アナログモザイクの微妙な味わい

 パンティーストッキングなど透ける素材をフィルター代わりに使うとソフトな描写を得ることができる。ではちょっと目の荒い網を使うとどんな描写になるのだろうか?

今回はこんな写真が撮れました。さて「目の荒い網」の正体は?

どうやっていろんな実験を思いつくのか?

 いろいろと実験的な写真を撮っているので、「どうやって思いつくのか?」という質問をよく受ける。だが、そんなに独創的なことを思いついているわけではなく、やってみたいと思った課題に対して、改良を加えたり、いろんなバリエーションを考えているに過ぎない。

 たとえばビー玉を指で摘んで撮影していた時に、「指が邪魔なんだよな」と思って宙玉レンズの手法を思いついた。最初は薄い塩ビシート2枚で挟んでいたのだが、それだと球とシートの接着箇所も写りこんで美しくないので、接着したところがボケて写るような改良を加えた。

こんな風に宙玉レンズでは球をずらして接着している。
こちら側から写すと接着箇所が思いっきり写ってしまうが、裏から撮影すると接着箇所が写らず、宙に浮かんでいるように見えるというしくみ。

 前回はカメラトスの紹介をしたが、カメラトス自体は私のオリジナルアイディアではない。ただ、一眼レフを投げるのは恐いという人のために、パラシュートを使ったり、ボールの中にカメラを仕込んだりという方法を、ああでもないこうでもないと考えたわけだ。そう言えば、あの記事を見てカメラトスを敢行した友人がレンズを壊してしまったそうです。マウントからレンズが外れてしまったそうだ。そんな壊れ方もあるんだねえ。(インリン君、ご報告ありがとう。勉強になりました! 合掌)

 フィルターを使って何か実験しようと思った時も、ただ家の中でウンウン唸って考えているというわけではない。とりあえず、100円ショップやホームセンターを目指すのだ。そしてフィルターになりそうなものを見つけだしてきて、愚直にひとつずつ試してみる。そして今までに見たことのないような描写になれば儲けものということだ。

 フィルター用の素材探しには2つの方向がある。1つはゲル状の透明な物質探しと、もう1つは布やビニールなどの半透明なシートを探すことだ。ゲル状の透明な物質というのはたとえば、髪に塗るディップローションのようなものをガラスやアクリルの透明フィルターに塗りつけるのだ。わざとムラになるように塗りつけるとそこで光が微妙に屈折する。

 ただしディップローションをそのまま使っているとベタベタなので、次に使い始めたのがネイル用のトップコートだ。これは爪に塗ってツヤを出すためのものだけど、すぐに乾くところがいい。やはりわざとムラに塗り、さらにサインペンなどで色をつけて使う。

マルチホルダー76(ケンコー)に75mmテクニカルガラスを取り付けたところ。このガラスに細工をする。
テクニカルガラスにディップローションを塗っているところ。かなり透明度が高くないとうまく透けてくれない。
ディップローションにカラーインクを混ぜて色を加えてみた。
緑のインクを混ぜたディップローションのフィルターで撮影。レンズに息を吹きかけて曇らせる方法もあるが、あれはレンズにとっては良くないそうだ。こういったガラスを使ったほうがいいですね。
―注意―
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透ける素材を試してみる

 「紗(しゃ)がかかったような」という言い方があるが、「紗」というのは、絹糸を使った透ける布地のこと。ソフト効果を出すために絹製の「紗」を使うことはほとんどないと思うが、パンティーストッキングなど使う方法は良く知られている。ただし実際にパンストを使って撮影してみるとかなり薄いものを強めに引っ張って使わないときちんと透けて写らない。つまりソフト効果を狙って素材を探す場合はかなり薄い布地やビニールシートなどを探す必要があるということだ。

パンティーストッキングをかけた状態。わりときれいにソフト効果がかかってますね。
左の写真のパンストなし状態。比較してみると効果がよく分かる。

 何度か実験をしているので、私の研究室にはいろんな素材がある。しかし、そんな中で買いはしたものの放置してあったものを段ボール箱の底から発見してしまった。調理する時に使うストレーナーだ。大きさもちょうどレンズに合いそうだ。これをホームセンターで見つけた時は「よっしゃあ!」と思って連れ帰ってきたのだが、家に戻って落ち着いてみれば、そんなに素晴らしいものではなかったですね。買ったことも忘れてしまっていた。

 しかし、発掘したのを機に、ちょっと実験してみることにした。これをレンズのフィルター枠にテープで留めて撮影したのが以下の写真。この網フィルターのあるなしで比較してみると、わずかにボケてコントラストが低下しているのが分かるが、期待したようなソフト効果は得られていない。つまり失敗でした。でもせっかく作ったのだからと、フォーカスを変えていろんなものを覗いていたら、けっこう面白い。なんだかモザイクをかけたような感じになる。せっかく工作したのだからと、ちょっと外に持ち出してみることにした。

これが問題のストレーナー。これがフィルターとして使えたら面白いじゃないですか。つい買ってしまったわけです。
ストレーナーから柄を外したところ。ほーらレンズに合いそうだぞ。
ストレーナーをレンズに取り付けたところ。なんかレンズ保護フィルターにもなるんじゃない? これなら石礫が飛んできても防御できる。
網は82mm径のフィルター枠にテープで張り付けた。レンズとの接続に使っているK.P.Sのレンズシェイドは現在製造されていない。レンズフードやステップアップリングで代用可。

さらに水を付けてみると

 以下はテスト撮影した時の写真。なんかモザイクのような感じで面白いですね。ちょっとしたピントのずらし方で描写が変わるので、ファインダーを覗いてフォーカシングをする作業が楽しい。基本的には被写体にはピントは合っていない。だからレンズ自体のボケ味というのも重要になる。そのボケ画像と網に当って回折したり反射した光が混ざって、こんなふうに見えるということでしょう。なんか不思議な感じ。

 特にいいと思ったのはトワイライトでの撮影。被写体の中に街の灯りなど光源があると、そのボケと網がミックスされて効果的だと思う。この調理網の網目は四角い升状になっているが、これを平行にするのか、角度を付けるのか、といったことでも印象は変わる。被写体により、角度の調整をしてみいいと思う。

周囲がケラれているのは、フィルターの枠が写りこんでしまったため。ニコンD600+カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/100秒 / F2.8
丸くボケているのは街の灯り。被写体の中に光源があるときれい。D600+カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/80秒 / F2.8
ビルの壁面を撮影。と言われてもよくわからないな(笑)。D600+カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/640秒 / F2.8
ショーウィンドウの中のマネキン。被写体にはコントラストがあったほうがいいようだ。D600+カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/50秒 / F2.8
デパートの屋上の観覧車。なんか懐かしいような写真になった。D600+カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/2500秒 / F2.8
これは網目をナナメにしている。平行にするかナナメにするかで雰囲気も変わるな。D600+カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/200秒 / F2.8

 テスト撮影の後に飲み会の席でこの網フィルターを見せたら、「その網に水を付けてみたらどうだろう?」というアイディアを貰った。黒川洋行さんありがとうございます! いいじゃないですか。でもそのアイディアは水玉写真とか撮ってる自分で出したかったな。

 そして翌日早速テストをしてみたのだが、思ったような効果は得られなかった。というか、水を付けてもどんどん流れてしまうので、撮影にならない(笑)。それに網の目が小さいから、何かが写っていても、いまいちよく分からない。少なくとも屋外での撮影にはちょっと不向き。

 しかし、家に帰ってさらに実験をしてみたら、水の付いた升がひとつひとつレンズになっていることが確認できた。これは面白いかもしれない。すぐに消えてしまう水製レンズは、スローモーションのムービーで撮影するといいかもしれない。そしてミスト発生装置かなんかで水滴を発生させ、レンズ越しの被写体が現れたり消えたりするのを撮るというのを思いついた。どんどんやることが増えてしまうなw

網目に水滴を付けて撮影。人形を撮影したのだが、網目のひとつひとつに人形が写ってるぞ! これは水玉写真の新たなバリエーションだ。
左の写真を拡大したところ。宙玉や水玉のように天地は反転しない。もうちょっと目立たない網にしたほうがいいかな。

工作と実験結果

フィルターをかける実験。これはフィルターなしの元の状態。
網フィルターをかけた状態。少しコントラストが低下しているが、あまりソフト効果があるとは言えない。
網目にピントを合わせるとこんな感じ。網が曲面になっているため、周囲はピントが合っていない。
わざとフォーカスをずらし、ボケと網目がミックスするような感じで撮影。
さらにフォーカスをずらすと網目の雰囲気が変化する。正解はないので、自分の好みでフォーカスを変える。
右は追加で買ってきた茶こし。少し網目が細かいものも試してみる。
茶こしフィルターで撮影。こちらの方が目が細かい分、フィルターの効果は強いようだ。コントラストも低下している。
茶こしの網目にピントを合わせた状態。こうやるとうるさいですね。
網目とボケがミックスするようにフォーカスを調整。これだとちょっと細か過ぎるかな。網目のサイズも重要。
100円ショップで買ったレースのカーテンをお菓子の空き箱に取り付けてフィルターにしてみる。
レースのカーテンだとこんな効果に。柔らかい描写になった。
フォーカスをずらせてみるとこんな感じ。やはり金属とは違った描写になった。
拡大してみたところ。網目の形が四角ではないので、また違った描写に。いろんな目の形で試してみる必要もあるか。

上原ゼンジ

(うえはらぜんじ)実験写真家。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。著作に「Circular Cosmos―まあるい宇宙」(桜花出版)、「写真がもっと楽しくなる デジタル一眼レフ フィルター撮影の教科書」(共著、インプレスジャパン)、「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン)、「写真の色補正・加工に強くなる レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)などがある。
上原ゼンジ写真実験室