新製品レビュー
FUJIFILM X30(実写編)
話題の“クラシッククローム”で試写
大浦タケシ(2014/9/29 09:00)
先般、掲載した機能編に続き、今回はFIJIFILM X30(以下X30)の実写編をお届けする。
その前にまず機能について簡単におさらいしてみよう。X30は、2/3インチセンサーと固定式のマニュアルズームレンズを搭載するX二桁機の3代目だ。
撮像素子は先代X20と同じ1,200万画素のX-Trans CMOS IIで、ローパスフィルターレス。レンズは35mm判換算で28mmから112mm相当までをカバーし、開放値はF2.0-2.8。フィルムライクで多くの写真愛好家から支持されているXシリーズの絵づくり機能「フィルムシミュレーション」だが、X30では新たにクラシッククロームを追加する。青、赤、緑の発色を抑えるとともに、シャドー部のコントラストを高めたもので、重厚な雰囲気を醸し出すものである。
今回は、解像感、高感度特性などとともにこのクラシッククロームの描写も見ていくことにする。
遠景
総合的な解像感をまず見てみよう。コンパクトデジタルカメラとして考えるなら、不足のない解像感だ。Lサイズあるいは2Lサイズのプリントや、SNS、ブログへのアップなど通常の使用なら気になるところはないといってよい。
ただし、パソコンのモニターで等倍まで拡大し、じっくりチェックすると、ワイド端の画像周辺部における解像感の低下は明確に見極められるレベル。開放値がF2と明るいだけに、ちょっと惜しく感じられる。一方テレ端は、ワイド端にくらべ画面周辺部までよく解像しておりキレのよい描写。線は決して細くはないものの、上々の結果だといえる。
続いてレンズの絞り値による描写の変化だが、こちらもワイド端とテレ端で試写を行っている。
まずはワイド端であるが、画面中央部分に限っていえばもっともシャープネスが高いのは絞りF4.0のとき。絞りF5.6となるとすでに回折現象がはじまっているようで、シャープネスはわずかに低下しはじめる。最大絞りのF11となると作例を見るかぎりピントが合っていないのではないかと思えるほどユルい描写となる。ちなみに本モデルには、回折ボケを補正する点像復元処理機能が搭載されているが、完璧に復元するものではないようである。
画面周辺の描写では、もっとも落ち着きあるのが絞りF5.6で撮影したとき。それよりも開いた絞り値では結像に至らず、絞り込むと回折現象で少しユルめの描写となる。色のにじみに関しては、どの絞り値においても特別気になるものは見極められなかった。同様に周辺減光についても、撮影した画像を見るかぎり絞り値による変化は感じられず、良好に補正されている。
テレ端に関しては、描写のピークはワイド端のときよりもさらに一段絞ったF5.6。クラスとしては上々のキレのよさである。それよりも開いた絞り値では、わずかに描写に締りが無くなり、絞り込むと回折現象で解像感はわずかであるが低下していく。画面中央部と周辺部の描写のひらきはなく、周辺減光の発生もまったく無視してよいレベル。ディストーションについてもよく補正されており、そつのないものといえるだろう。
本題とは逸れてしまうが、本モデルの最高シャッター速度は1/4,000秒とする。ただし、これは最小絞りであるF11の場合である。ワイド端の場合、開放絞りF2.0の最高シャッター速度は1/1,000秒、絞りF2.8では1/1,250秒、絞りF4では1/1,800秒とし、テレ端では開放絞りF2.8で1/1,000秒、絞りF4で1/1,250秒である(いずれも筆者確認による)。
そのため、絞り比較の作例を見てもらえば分かるとおり、絞りを開いたものが露光オーバーになっている。晴天屋外でも被写体や表現によっては絞りを開いて撮影したいことも多い。そのようなときのために、ぜひNDフィルターの搭載を検討してもらいたい。
高感度特性
感度設定はISO100からISO12800まで。ISOオートは3つのパターンが登録でき、その際の最高感度はいずれもISO3200になっている。
・ノイズリダクション:弱
パソコンのモニターで確認した場合、通常の閲覧距離で50%の拡大率ならISO1600あたりから輝度ノイズおよびエッジのにじみなどが見極められるようになる。同じく等倍ならISO800で輝度ノイズの発生と解像感の低下が認識できる。つまり、50%の拡大率ならばISO800までが実用レベル、等倍の場合ではISO400までが実用レベルといってよさそうだ。
さらにパソコンのモニターの拡大率50%および等倍の場合とも、ISO6400となると色相の変化も現れはじめ、エッジのにじみも顕著になる。拡大率25%でもそのことが認識できるほどなので、実用という面からみればまったく適さないといってよい。とはいえ1/2.3インチあるいは1/1.7インチセンサーを積む一般的なコンパクトデジタルカメラにくらべると、高感度特性は大きく勝っている。
フィルムシミュレーション
富士フイルムらしいこだわりのある仕上がり設定がフィルムシミュレーションだ。同社のカラーリバーサルフィルム「PROVIA」をイメージしたスタンダード(デフォルト)、同じく「VELVIA」をイメージするビビッド、「ASTIA」をイメージするソフト、ネガフィルムをイメージするPRO-Neg.Std、同じくPRO-Neg.Hi、モノクロ、モノクロ-Ye、モノクロ-R、モノクロ-G、セピアの合計10個のシミュレーションがこれまでラインナップされているが、X30では新たにクラシッククロームが加わった。青、赤、緑の発色を抑えた深みのある色調は往年の外式リバーサルフィルムを彷彿させるもの。掲載した比較作例で他のシミュレーションと見くらべてみてほしい。
なお、自由作例はすべてクラシッククロームで撮影を行っているので併せて見ていただきたい。
動画
60fpsのフルHD撮影に対応するX30の動画機能。記録音声はステレオとする。フィルムシミュレーションに対応するのもうれしい部分だ。フルHDでのコマ速は50fps、30fps、25fps、24fpsの選択も可能。マニュアル露出による撮影にも対応し、よりユーザーの撮影意図に沿った撮影が楽しめる。掲載した作例はフルHD(60fps)でフィルムシミュレーションはスタンダードとしている。
まとめ
FUJIFILM X30の描写は、まぎれもなく同社Xシリーズの血統を引き継ぐものである。フィルムライクで豊かな階調の描写は、コンパクトデジタルカメラの概念を覆すとともに、同社が長年フィルムで培ってきた絵づくりを堪能できる。ワイド端の描写に厳しいことを述べたが、コンパクトデジタルカメラとして考えるなら、申し分のないものといって差し使えないだろう。
EVFの搭載により撮影もさらに快適になった。このところ他メーカーでもコンパクトデジタルカメラにEVFを搭載する動きが見られるが、やはり写真はファインダーに接眼して撮りたいと思う愛好家には嬉しい進化に思える。カメラのスタンスを考えると、多くは一眼レフやミラーレスのサブ機として購入されるかと思うが、決してその期待を裏切らないカメラである。