新製品レビュー

FUJIFILM X30(機能編)

クラシカルデザインの高級コンパクト EVFになってどう変わった?

カメラ関連で今や飛ぶ鳥を落とす勢いのひとつといえば、富士フイルムのXシリーズがあるだろう。2011年3月、レンズ固定式でAPS-Cセンサーを採用したFUJIFILM X100(発売当初はFinePix X100)を皮切りに、同シリーズの高級コンパクトやミラーレスを相次いで市場に投入している。

発売は9月20日。店頭予想価格は税込6万9,660円前後の見込み、ボディカラーはブラックとシルバー

ちなみに、それまで同社の本格的なデジタルカメラといえば、一眼レフのFinePix Sシリーズがあったものの、その勢いは今ひとつ。あくまでも廉価なコンパクトデジタルを主流とするものであった。

しかしながら、昨今のコンパクトデジタルカメラの置かれた状況を考えると、絶妙なタイミングでXシリーズに鞍替えできたと関心させられる。そのXシリーズのなかで“プレミアムコンパクト”の中堅としてライナップされるのが、今回のFUJIFILM X30(以下X30)である。

シンプルになったデザイン

まずはこのカメラの起動方法を確認しよう。新しいX30も、これまでのX二桁シリーズ同様電源のON/OFFはズームリングで行う。OFFからONへ回転させると、沈胴していたレンズが繰り出し同時にカメラが起動する。実は、筆者はこれまでX二桁シリーズを幾度となく触っているが、その度にこの作法を忘れており、あるはずのない電源ボタンをあちこち探すことが多い。

 そのくらいちょっと馴染みのない起動方法ではあるが、慣れてしまえばむしろ直感的であるうえに操作に無駄がないように思える。もちろん、自分のカメラとなったときは、電源の入れ方を忘れるようなこともないだろう。

レンズ収納時
ワイド端時(28mm相当)
テレ端時(112mm相当)。テレ端時のレンズ繰り出し量はさほどでもない。専用フード(FLH-X10)を別売で用意する

ボディ正面は、先代X20とくらべるとシンプルだ。光学ビューファインダー(OVF)が廃止され、電子ビューファインダー(EVF)となったことが理由として大きい。

つくりのよさが伺えるトップカバー。シャッターボタンにはレリーズ用の穴を備える。TTL対応のホットシューも装備されるほか、露出補正はプラスマイナス3段まで可能となった

ちなみに、これまでOVFのあった部分には小さなマイク用の穴が2つ備わるが、これについては無かったほうがよかったかもしれない。ワンポイント(ツーポイント?)というには無粋で、せっかくのモダンなデザインを台無しにしているように感じられるからだ。マイク穴がなければもっと洗練されたルックスになったのではないだろうか。

手動ポップアップ式のフラッシュを内蔵。ISO800の際の撮影可能範囲は、ワイド端で0.3mから7mまで、テレ端で0.5mから5mまでとする

タイムラグの少ないEVF

そのEVFは、0.39型、約236万ドットの有機EL。表示する画像は、コントラストも高く鮮明だ。メガネをしたままアイピースに接眼しても、画面全体が見渡せるのもよい。

EVFには、視度調整機構およびアイセンサーのいずれも搭載されている。ファインダーは眼鏡をしていても見やすい

X20のOVFでも露出やフォーカスエリアなどの表示を可能としていたが、当然のことながらX30では撮影に関する情報は液晶モニターと同じに。フォーカスの状態も正確に把握できるほか、カメラを縦位置とした場合では表示もそれに応じたものになるなど、視認性は飛躍的に高まっている。

実像と表示する画像のタイムラグが極めて少ないのもこのEVFの特徴だ。動きのある被写体でも、光学ファインダーとほぼ同じ感覚で撮影が楽しめ、シャッタータイミングを見逃すようなことも少ない。

加えて、EVFと液晶モニターの切り換えを自動的に行うアイセンサーと視度調整機能も備える。X20までのOVFはあくまでも液晶モニターの補助的な存在であったが、本モデルではむしろ積極的にEVFで撮影を楽しみたくなるほどである。

液晶モニターが大きく進化

レンズ鏡筒の根元には、新たにコントロールリングを備える。あらかじめ登録しておいたISO感度、ホワイトバランス、フィルムシミュレーション、連写などのいずれかの設定がダイレクトに操作可能。回転はクリックのないスムースなもので、日頃フォーカスリングや絞りリングの操作に慣れているユーザーでなくとも、素早い設定が楽しめるはずだ。

新たに備わったコントロールリングには、ISO感度、ホワイトバランス、フィルムシミュレーション、連写などの機能を割り当てることができる
コントロールリングにはいくつかの機能が割り当てられる。スタンダードは絞り優先AE時は絞り値、プログラムAE時はプログラムシフトなど、撮影モードに合わせて最も必要な設定が自動的に割り当てられる

カメラ背面で大きく進化したものといえば液晶モニターだ。それまでの2.8型、約46万ドットから3型、約92万ドットにスペックアップ。より高精細となり視認性は高まっている。加えて上方向に90度、下方向に45度のチルト機構を採用。ハイおよびローアングル撮影時や三脚にカメラをセットした撮影のときなど重宝することだろう。

新たにチルト式となった液晶モニター。上方向に90度、下方向に45度可動する

ボディ厚については、これまでとほとんど変わっていないことも特筆すべきところといえる。

なお、液晶モニターは大型化されたため、それに合わせてボタンレイアウトもこれまでと異なる。先代モデルから乗り換えたユーザーは、使用開始当初、戸惑うこともありそうだ。

インターフェースは上からマイク/リモートレリーズ端子、USB2.0端子、マイクロHDMI端子
バッテリーは大容量のNP-95を採用。撮影可能枚数は470枚(CIPA準拠)とする。仕様メディアはSDXC/SDHC/SD(UHS-I対応)の各メモリーカードだが、そのほかに55MBの内蔵メモリーを搭載している

玄人好みのマニュアルズームを継承

カメラ部については、従来同様ローパスレス構造の2/3型、有効約1,200万画素X-Trans CMOS II と画像処理エンジンEXR Processer IIを採用。一般的なコンパクトデジタルの1/1.7型センサーにくらべれば十分大きい方である。

大きく変わったグリップの形状。X30のデザインテイストを考えると、こちらのほうが似合っているように思える

レンズについても今回は変更ない。35mm判換算で28-112mm相当の画角をカバー。開放F値は明るい部類に入るF2-2.8とする。もちろんズームはマニュアル。こちらのほうがモーター駆動よりも思った画角に素早く設定でき、玄人好みといってよいだろう。

9群11枚のレンズはすべてガラス製としており、3枚の非球面レンズ、2枚のEDレンズと高屈折率レンズの採用に加え、同社オリジナルの高透過率多層膜コートHT-EBCを施す。3段分の補正効果を持つ手ブレ補正機能も備わり、隙のないスペックとしている。描写については、次回「実写編」で紹介する。

明るさを優先したレンズであるため、テレ端の画角には物足りないことも。そのようなときは超解像ズームを活用するとよいだろう
先代同様、つくりのよい金属製のかぶせ式レンズキャップが付属する

コダクロームを思い起こす新フィルムシミュレーション

機能としての注目は2つ。まずフィルムシミュレーションに、新たに「クラシッククローム」が加わった。設定画面に表示されるガイドでは「発色をおさえ暗部のコントラストを高めることで落ち着いた表現に適します」と表示される。

仕上がり設定であるフィルムシミュレーションにはクラシッククロームを追加。青、赤、緑を抑えた色調は往年の外式リバーサルフィルムを彷彿させる
フィルムライクな絵づくりに定評のあるXシリーズでは、フィルムシミュレーションBKTは活用したい機能のひとつ。3つのシミュレーションが選択できる

実際、やや地味な色調でシャドー部の階調が増している。特に本誌でも紹介されているとおり、青、赤、緑を抑えた独特の色調は外式のリバーサルフィルム、コダクロームのそれを思い起こすものだ。これについても次回「実写編」で作例等紹介するつもりなので、楽しみに待っていてほしい。

もうひとつがWi-Fiの搭載だ。XシリーズとしてはすでにXQ1などに搭載され珍しいものではないが、カメラのクラスを考えればスマートフォンとの連携など重宝するユーザーも多いはずだ。特に2/3型センサーと大口径のズームによる描写は、スマートフォンの描写の比ではないので、SNSでは目立つこと請け合い。

連携は無料の専用アプリ「FUJIFILM Camera Remote」を介して行うが、撮影した画像の転送のほかリモート撮影も可能。さらに便利に思えるのがパスワードの入力を不要としており、面倒な作業なしにセットアップできる。

Wi-Fiの搭載により、専用アプリ「FUJIFILM Camera Remote」をインストールしたスマートフォンによる遠隔操作や画像の転送が可能
「FUJIFILM Camera Remote」をインストールしたスマートフォンの接続は簡単。最初に必要なパスワードの入力も不要としている

そのほかプラスマイナス2段から3段となった露出補正やDISP.ボタンの長押しでファンクションボタンの機能の確認と設定ができるようななったことなど細かな部分のブラッシュアップも図られる。

個人的にはメイドインジャパンでなくなったことは些か残念に思えるけれど、X30の完成度は先代よりも飛躍的に向上し、コンパクトデジタルとしての魅力も増している。次回はX30の描写チェックを行う「実写編」をお届けする予定である。

大浦タケシ