【新製品レビュー】カシオEXILIM EX-Z3000
「EXILIM EX-Z3000」は、カシオのコンパクトデジタルにおける3つのセグメント(HIGH SPEED EXILIM / EXILIM / EXIILIM G)のうち、レギュラーラインともいえる「EXILIM」シリーズのトップエンドに位置付けされるカメラである。不足のないスペックにスタイリッシュなボディシェイプ、最上位モデルに相応しい仕上がりを誇る。
本テキスト執筆時における販売価格は、大型量販店で2万9,800円前後である。
■3型オーバーのタッチ式液晶モニターを搭載
EXILIM EX-Z3000(以下EX-Z3000)の操作系は、液晶モニターへのタッチ操作を主体とする。カメラに備わるボタン、レバーの類いは、カメラの上部の電源ON/OFF、シャッター、再生の各ボタンに、シャッターボタンと同軸となるズームレバーしかない。しかも、電源ON/OFFと再生ボタンは、ボディ表面といわゆる“ツライチ”であるため、カメラ上部から背面にかけて見ためにも非常にシンプルでスマート。必要最小限のボタン類があるのみなので、カメラに関してさほど知識を持ち合わせていない人でも取っ付きやすく感じることだろう。
カメラ上部から背面にかけてのボタン、レバー類は最小限といえる。シャッター、電源ON/OFF、再生の各ボタンとシャッターボタンと同軸となるズームレバーがあるのみだ。液晶モニターのサイズは3.2型 |
タッチ操作はレスポンスがよく、サクサクと動く。ボタンのタッチするポイントも広いので、指で押しても隣のボタンを押してしまうことも皆無である。さらに、メニュー等の文字類が大きく、視認性もたいへんよい。筆者のような老眼持ちでも、眼鏡なしに操作できて使い勝手がよく感じられる。再生画像の送りや拡大縮小コントロールもタッチ操作となる。送りはタッチした指を左右にドラッグし、拡大縮小はタブレットなどと同じ要領で親指と人差し指の間隔を広げたり閉じたりして行なう。こちらも慣れるとたいへん使いやすく感じる。
タッチ操作の要ともなる液晶モニターのサイズは3.2型(約46万ドット)。カメラ背面部のほとんどを占める。スペックとしては、ソニーサイバーショットDSC-TX100Vの3.5型(約123万ドット有機EL)には及ばないものの、3型越えの液晶モニターとして画像の表示サイズなど視認性がよい。また、視野角が広いうえに、明るい屋外でも比較的見やすい。コンパクトデジタルの場合、撮影時のみならずビュアーとして使われることも多いが、そのようなときの使い勝手も上々である。
■他メーカーにない面白さのHDRアート
EX-Z3000のもうひとつの特長が、HIGH SPEED EX-ZR100やEX-ZR100と同様「HDR」および「HDRアート」を搭載していることだ。HDRはデジタル一眼レフカメラをはじめ他社のカメラにもいくつか搭載されているためさほど珍しい機能ではなくなっているが、HDRアートはカシオ独自の機能である。HDRで撮影した画像をもとに彩度、コントラスト等の調整を行ない、イラストの手法のひとつであるスーパーリアリズムのような描写が得られる。2月に開催された「CP+2011」の同社ブースでも、HDRアートを大々的に展開していたことは記憶に新しいところである。
HDR、HDRアートともシャッターボタンを押すと、連続して2回撮影を行い、それらの画像を合成しひとつの画像とする。撮影後、合成処理にわずかな時間を必要とはするものの、手持ちでの撮影が可能で手軽にハイダイナミックレンジ撮影が楽しめる。
HDRの仕上がりは、ハイダイナミックレンジとしては強くも弱くもない中庸的なレベル。個人的な主観では、人間の目で見た印象よりやや強めに仕上がるように思える。原色が飽和しやすくなるが、他のカメラのHDRでも似たようなものなのでウィークポイントとはならないだろう。明暗比の高い被写体だけでなく、記念写真のような撮影にも積極的に使ってみたくなる。なお、HDR撮影では、ワイド端画角が狭くなるが、これは手持ちで撮影した際の2枚の画像のズレに対応するためである。
HDRアートは、とにかく撮っていて結果を見るのが楽しい。肉眼で見たときと、再現した画像の違いが大きいほど、この機能が面白く感じられる。すでにレタッチの領域を超えているとは思うが、今さらながら新しい写真の楽しみ方のように思える。EX-Z3000では処理の度合いに応じて、3段階に選べるのも便利。白っぽい被写体よりは、暗部の多い被写体で効果は高い。HDRと同様ワイド端画角が狭くなるものの、他にはない描写はこのカメラならではといえる。
撮影モード設定画面には、オート/プレミアムオート/ベストショット/HDR/HDRオート/スライドパノラマを搭載 | メニュー設定画面。文字が大きく、タッチする部分も大きいので、誤って隣の設定をタッチしてしまうことはほとんどない |
画像編集機能は、この画面の4つ。フィルター機能などはないため、ユーザーによっては、物足りなさを感じるかも知れない |
露出補正は「EVシフト」と記される。インジケーターの間隔が大きく、指で設定しやすい |
シャッターボタン半押しの状態。画面はフォーカスエリアとストロボの状態を示すアイコンのみとなる | シャッターボタンの半押しを行っていない撮影時の画面。表示される情報は少なくすっきりしている。動画ボタンはモニター内に表示される |
シャッターボタンの半押しを行っていない撮影時のもうひとつの表示。撮影情報等が画面中央に表示されるが、シャッターボタンの半押しで消える |
■まとまりのよい手堅いスペック
搭載するレンズは、25-200mm相当(35mm判換算)の光学8倍ズーム。極端なディストーションや周辺減光は見当たらず、解像感などもコンパクトデジタルに搭載されるレンズとしては上々の描写である。
さらに本モデルでは、デジタルズーム領域での描写の劣化を、超解像技術を応用した「超解像ズーム」機能で抑えているのも特徴だ。カタログなどでは「プレミアムズーム」と称し、最大倍率は約1.3倍(260mm相当)。その機能のONとOFFで撮りくらべてみた結果、ONの画像はエッジがクッキリとしていて解像感がアップしていることが分かる。通常、デジタルズームは光学ズームと異なり、その機構上倍率がアップするほど画質の劣化が顕著となる。レンズ本来の描写ではなくなってくるので、デジタルカメラのレビュー記事などでは、デジタルズームが語られないことも多い。しかし、この超解像ズームでは、より望遠効果が欲しいときなど積極的に使ってみたくなる画質レベルといってよい。ちなみに約4倍の通常のデジタルズーム機能も搭載している。
左からレンズ収納時、広角端時、望遠端時。望遠端では思った以上にレンズが繰りだす。手ブレ補正機能はレンズシフト方式ではなく、センサーシフト方式を採用 |
搭載するレンズは、35mm判換算で25-200mm相当。非球面レンズを含む8群10枚で構成する。最短撮影距離はレンズ先端から約2cm |
撮影モードは通常の「オート」のほか「プレミアムオート」を搭載する。カタログ等を見ると、被写体や撮影状況から露出や階調表現、カラーバランスなどなどを最適化するとともに、画像をピクセル単位で解析し異なる補正を行なうという。たしかに、「オート」で撮影したものと比較すると、こちらのほうがより納得できる仕上がりになりやすく、露出の決定が難しいような被写体でも、「オート」より安心感は高い。カメラ任せでの撮影が楽しめるといってよい。
イメージセンサーには、1/2.3型有効1,610万画素CCDを採用。描写は、原色系の彩度が高くクッキリとしたもの。カシオの他のカメラもそうだが、“デジタルっぽい”とでも例えられそうなものである。デジタル一眼レフのナチュラルな仕上がりに目が慣れていると、どこかウソっぽい感じの仕上がりに思えないこともないが、描写的には破綻したようなところはなく、むしろ個人的には同社のよき個性のように感じる。
ノイズに関しては、パソコンの画面上で50%拡大にして見たところ、ISO800までは気にならないレベルである。ただし、ISO800からはノイズリダクションが強くなるためか解像感の低下が見受けられるようになる。A4以上のサイズで画質を優先させたプリントを考えるなら、ISO400までが実用レベルといってよいだろう。
手ブレ補正機能はセンサーシフト方式を採用。強力な効きで、望遠撮影では心強い。超解像技術との合わせ技で、手持ちでも解像感の高い描写が容易に得られる。AFは素早く、シャッターボタンの半押し開始から、ピントが合いシャッターが全押しできるようになるまでさほどの時間を要しない。常時被写体にピントを合わせ続ける「コンティニュアスAF」も備えているので、この機能を使えばピント合わせはよりレスポンスよく行なえる。
EX-Z3000は、突出したところはないものの、使いやすいタッチパネルや、撮影が楽しいHDR/HDRアート機能、プレミアムオートやプレミアムズームの搭載など総合力の高さで上質のコンパクトモデルに仕上がっている。さらにボディカラーは、今回のレビューで使用したシルバーのほか、ピンク、レッド、ブラウンがライナップされているのも魅力だ。カシオにはかつて一世を風靡したコンパクトデジタルの「QV-10」がある。液晶モニターを搭載するなど当時としては最新の機能を多数搭載していた。EX-Z3000はその直系として同社の名に恥じないカメラである。
インターフェースはUSB/AV端子のみとシンプル。端子の下にはストラップ用のアイレットを備える | 比較的バッテリーの持ちはよいほう。写真では見えないが、カードスロットはSDXC/SDHC/SDに対応するほか、Eye-Fiカードも使用が可能だ |
バッテリーの充電は、ACアダプターもしくはUSBパスパワーを使用。バッテリーをカメラから抜くことなく充電ができる |
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・画角
広角端 / EX-Z3000 / 約4.7MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / F3.3 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート / 4.4mm | 望遠端 / EX-Z3000 / 約4.5MB / 4,608×3,456 / 1/160秒 / F5.9 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 35.2mm |
・歪曲収差
広角端 / EX-Z3000 / 約3.7MB / 4,608×3,456 / 1/50秒 / F3.3 / 0.0EV / ISO80 / WB:オート / 4.4mm | 望遠端/ EX-Z3000 / 約3.8MB / 4,608×3,456 / 1/15秒 / F5.9 / 0.0EV / ISO80 / WB:オート / 35.2mm |
・感度
・超解像撮影
超解像撮影:ON / EX-Z3000 / 約2.6MB / 4,608×3,456 / 1/400秒 / F8.3 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート / 4.7mm | 超解像撮影:OFF / EX-Z3000 / 約2.7MB / 4,608×3,456 / 1/400秒 / F8.3 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート / 4.7mm |
超解像ズーム:ON / EX-Z3000 / 約3.0MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / F5.9 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 35.2mm | 超解像ズーム:OFF / EX-Z3000 / 約2.9MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / F5.9 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 35.2mm |
・オート/プレミアムオート/HDR/HDRアート
・スライドパノラマ
EX-Z3000 / 約1.1MB / 5,120×720 / 1/2,000秒 / F8 / -0.7EV / ISO800 / WB:オート / 4.4mm |
・作例
2011/6/21 00:00