新製品レビュー

富士フイルム X-E5

先進機能をフラットボディに凝縮 Xシリーズの楽しさを味わえる手軽な1台

富士フイルムから新たに発表されたAPS-Cサイズのミラーレスカメラ「X-E5」。センターファインダースタイルの「X-T5」などとは異なり、レンジファインダースタイルの薄型でコンパクトなデザインを前面に打ち出している点が特徴です。前モデル「X-E4」から細部の作り込みが大きく向上している点も注目に値します。

シリーズの後発モデルとして、そのスペックはXシリーズの中でも最新の性能を誇ります。富士フイルム独自の「フィルムシミュレーション」を最大限に活用できる、実に同社らしいカメラと言えるでしょう。

外観デザイン

「X-E5」の外形寸法は124.9×72.9×39.1mm。質量は約445g(バッテリー、メモリーカード含む)となっています。フラットなデザインを持つミラーレスカメラならではのコンパクトさが際立ちます。

ちなみに、前モデル「X-E4」の外形寸法は121.3×72.9×32.7mmで、質量が約364g(バッテリー、メモリーカード含む)でしたので、機能の追加などである程度は大きく重くなっているのでしょうか。

小型軽量であることが重視される現代のミラーレスカメラ市場において、この変化は注目すべき点です。しかし、実際に手に取ると、わずかに増した重みがむしろ高い剛性や信頼感を醸し出しており、興味深く感じられます。

質感の高さが感じられるのは、トップカバー(富士フイルムは懐かしくもこれを“軍艦部”と呼んでいます)がXシリーズ初のアルミ削り出し部品であること。金属ならではの素材感が最大限に引き出されています。一見すると前モデル「X-E4」と大きな違いはありませんが、手にすればその品質の高さが明確に感じ取れます。

操作性

操作性の特徴として、まずシャッタースピードダイヤルと露出補正ダイヤルを備えている点が挙げられます。ダイヤル操作を主体とする、趣味性の高いセンターファインダースタイルの「X-Tシリーズ」だけでなく、「X-Eシリーズ」である本機にもその思想が受け継がれていることが分かります。

ボタンやダイヤルの配置は前モデル「X-E4」から大きくは変わらず、いわゆるジョイスティックにあたる「フォーカスレバー」も、しっかりと搭載されており好感が持てます。フラットスタイルのデジタルカメラとして、富士フイルムらしい操作系の完成形を継承していると考えてよいでしょう。

また、Xシリーズの他の上位機種との整合性を図るためか、「X-E4」では非搭載だった「リアコマンドダイヤル」が新たに追加されました。これにより、操作性は格段に向上しています。

電子ビューファインダー(EVF)は、0.39型の有機ELを採用し、解像度は約236万ドットです。このスペックは前モデル「X-E4」と同じですが、このタイプのカメラに搭載されるEVFとしては十分な性能を維持しています。そもそも、EVFが内蔵されているか否かの差は、使い勝手において非常に大きいと言えます。

背面の液晶モニターは、3.0型の上下チルト式タッチパネル付きTFTカラー液晶です。静止画、特に横位置での撮影を重視したこの仕様は、写真をメインとするユーザーにとって嬉しいポイントでしょう。この点も前モデル「X-E4」から継承されています。

Bluetoothをはじめとするワイヤレス通信機能を起動するボタンは、本機では底面に配置されています。これは往年のフィルムカメラの巻き上げボタンをイメージしているそうです。

付属するストラップに大きな変更がありました。「GFX100RF」と同じく、丈夫でデザイン性の高いクライミングロープタイプのストラップが付属します。ちょっと奇抜な採用に思えるかもしれませんが、使ってみると実際に使用するとそれなりに良好な使い勝手に感じました。

撮像センサーと画像処理エンジン

搭載する撮像センサーは有効約4020万画素の「X-Trans CMOS 5 HRセンサー」。画像処理エンジンは「X-Processor 5」です。フラッグシップモデルの「X-H2」や「X-T5」と同じ最新の構成です。

APS-Cサイズとしては最高クラスの画素数を誇るため、適切な性能のレンズと組み合わせれば、解像感の高い画像を得ることができます。レンズの解像性能が、画質に直接反映されるといえそうです。

富士フイルム X-E5/XF23mmF2 R WR/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/45秒、F4.0、−1EV)/ISO 125

高感度性能も同じ撮像センサーと画像処理エンジンをもつ「X-H2」や「X-T5」と同等と考えて差し支えありません。常用最低感度がISO 125、常用最高感度がISO 12800であるところも同じです。

常用最高感度ISO 12800で撮影した作例を見ても、SNSなどWebでの使用には十分な画質です。1段低いISO 6400であれば、A4やA3サイズでのプリントにも対応できる印象です。

富士フイルム X-E5/XF16-80mmF4 R OIS WR/39.3mm(59mm相当)/絞り優先AE(1/250秒、F5.6、−0.3EV)/ISO 12800

また、「X-E5」はセンサーシフト式の5軸ボディ内手ブレ補正機能を備えています。補正効果は最大で約7.0段分と強力です。

焦点距離16mm(35mm判換算で24mm相当)で1秒という低速シャッターでも、手ブレを起こすことなくシャープに撮影できました。このコンパクトなボディに、効果の高い手ブレ補正機能が搭載されたことは特筆に値します。

富士フイルム X-E5/XF16-80mmF4 R OIS WR/16mm(24mm相当)/絞り優先AE(1/4秒、F5.0、+1EV)/ISO 125

史上最良の「フィルムシミュレーションダイヤル」

「X-E5」の特徴の1つが、専用の「フィルムシミュレーションダイヤル」の搭載です。金属切削加工で作られた指標プレートを専用の窓から確認できるなど、その作りに大変なこだわりが見えます。親指でスムーズに操作できるなど、使い勝手も良好です。

同種のダイヤルは他のモデルにも存在しますが、最も使いやすく美しいのは、この「X-E5」のダイヤルだと評価できるほどの出来栄えです。

このダイヤルを回すと、ファインダーやモニターに設定したフィルムシミュレーションの種類と効果がリアルタイムで表示されます。さらに「Qボタン」を押せば、そのフィルムシミュレーションの解説も確認できます。

例えば、「ACROS」に設定すれば、「質感豊かでシャープな表現のモノクロ」写真を撮ることが可能です。ちなみに「ACROS」とは、粒状性の高さで評価される富士フイルムのモノクロフィルムの名称です。

富士フイルム X-E5/XF23mmF2 R WR/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/1,500秒、F4.0、−0.7EV)/ISO 12800/フィルムシミュレーション: ACROS

また、「ノスタルジックネガ」の説明は「アンバーに味付けされたハイライトと色乗りの良いシャドウで印刷された写真のような雰囲気を表現」となっています。これは1970年代にアメリカで始まったカラー写真の潮流「ニューカラー」を彷彿とさせる表現です。

富士フイルム X-E5/XF23mmF2 R WR/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/60秒、F2.8、−1.3EV)/ISO 125/フィルムシミュレーション: ノスタルジックネガ

フィルムシミュレーションは、富士フイルムのデジタルカメラを象徴する機能で、「この機能を使いたいから富士フイルムを選ぶ」というユーザーも少なくありません。まだ体験したことのない方は、「X-E5」で試してみてはいかがでしょうか。

動画

「X-E5」は最大で6.2K 30P(4:2:2 10bit)の動画記録に対応しています。一般的な用途においては十分すぎる性能であり、もちろん多用される4K 60PやFHD 60Pといったフォーマットもカバーしています。

今回は、「4K 60p」でサンプルの動画を作成してみましたので参考にしていただければと思います。

作例

「X-E2」以来定評のある被写体認識AFも搭載しており、人物の瞳はもちろん、動物や鳥、乗り物などに対しても正確なピント合わせが可能です。ハトの瞳にピントを合わせる程度は朝飯前と言えましょう。

富士フイルム X-E5/XF16-80mmF4 R OIS WR/80mm(120mm相当)/絞り優先AE(1/80秒、F4.5、−1EV)/ISO 800

今回の撮影では、主にパンケーキタイプの薄型レンズ「XF23mmF2.8 R WR」を組み合わせて使用しました。35mm判換算で35mm相当の焦点距離を持つこのレンズは、コンパクトな本機との相性が抜群。気になった被写体を軽快に撮影できました。

富士フイルム X-E5/XF23mmF2 R WR/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/110秒、F4.0、−0.3EV)/ISO 400

本機の魅力は、「X-T5」と同等のスペックでありながら、レンジファインダースタイルのコンパクトなボディに収まっている点でしょう。フィルムシミュレーションも被写体に応じて直感的に変更しやすく、使っているうちに「X-T5」とは対をなす、魅力的なカメラだと感じました。

富士フイルム X-E5/XF23mmF2 R WR/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/100秒、F2.8、−1EV)/ISO 250

これまであまり使ったことのなかったフィルムシミュレーション「クラシックネガ」で撮影した1枚です。「深い色とメリハリのある諧調で被写体をしっかりとした立体感で表現します」という解説の通り、有名グラフィック誌のような1枚に仕上がりました。このような写真体験ができるのも、本機の魅力です。

富士フイルム X-E5/XF23mmF2 R WR/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/100秒、F4.0、−1EV)/ISO 500/フィルムシミュレーション: クラシックネガ

まとめ

実質的には「X-T5」のフラットボディ版、あるいはレンジファインダースタイル版と言えるかもしれません。撮像センサーも画像処理エンジンも同じであるため、得られる画質は「X-T5」や「X-H2」と同等と考えてよいでしょう。

それだけのハイスペックが「X-E5」には確かにある。しかしながら、フラットタイプならではの気軽さや携帯性があり、それを助長するような「フィルムシミュレーションダイヤル」の存在は、本モデルの存在意義を確立するうえで間違いなく大切なことでしょう。

それだけのハイスペックを秘めながら、フラットなボディがもたらす気軽さや携帯性を併せ持つのが本機の本質といえます。その魅力をさらに高める「フィルムシミュレーションダイヤル」の存在は、本機の価値を確立する上で不可欠な要素です。

最新の動画性能を備えつつも、敢えて静止画撮影に有利な上下チルト式モニターを採用した点に、本機を写真撮影、特にスナップ撮影に最適化したカメラと位置づける富士フイルムの強い意志が表れているのではないでしょうか。比較的手に取りやすい価格設定も、その表れと言えるでしょう。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。