デジカメ動画Watch
ニコン ZR
RED譲りの画づくりを軽快な小型ボディで
2025年10月26日 12:00
ニコンから同社初となるシネマカメラ「ZR」が登場した。昨今は動画機能を強化したカメラがクリエイターに人気ということで、各社から様々なモデルが登場しつつある。
今回はニコンが満を持してリリースする本機の動画機能を試してみた。「静止画編」は後日掲載する予定だ。
発売は10月24日(金)。実勢価格はボディ単体が29万9,200円前後、24-70レンズキットが37万4,000円前後となっている。
コンパクトなボディに大きなモニター
シネマカメラといってもボックス型のプロ向けスタイルではなく、「ファインダーが無いミラーレスカメラ」という形状だ。シネマカメラとしては小型で、狭い場所やワンオペでも使いやすい形状と思う。
グリップ部分は他のZシリーズのように突出したグリップでは無いが、滑りにくく指掛かりは良い。この辺りもスッキリとしたボディのシルエットに繋がっているのだろう。本体が薄いこともあってホールド感も悪くない。
上面左に電源ボタンがある。長押しではなく、短く押すと電源が入るのでとっさの撮影にも対応できそうだ。右側にはシャッターボタンとズームレーバー。そしてファンクションボタンが3つあり、割り当ては変更可能だ。
写真と動画を切り換えるスイッチも備えており、撮影設定やパラメーターもそれぞれに記憶される仕組みだ。コマンドダイヤルは前後の2ダイヤル方式。
背面はマルチセレクター、メニューアクセスボタン、再生ボタンがある。メニューアクセスボタンは単押しでiメニューが、長押しでメニューが出る仕様となっている。
本機の特長の1つが液晶モニターで、ミラーレスカメラとしては大きめとなる4型を採用している。撮影中はもとよりプレイバックの確認もしやすかった。明るさは15段階に調整できるが、最高の「Hi2」にしたところ日中の屋外でも見やすかった。もちろんタッチ対応だ。
シネマカメラとして珍しいのは、ファンレスということだろうか。同社によるとマグネシウム合金ボディーによる放熱で長時間記録が可能という。「自動電源OFF温度」の設定もあり「高」に設定することもできる。ただし本体の仕様として、一度の最長録画時間が125分までという制限がある。
REDと同じカラーサイエンスを実現
本機の最大の売りは、REDのシネマカメラと同じカラーサイエンスでRAW動画を記録できることだろう。REDといえば広く映像業界で使われているカメラだが、ニコンが2024年にREDを子会社化したことで実現した。
すでにREDはニコンZマウントのシネマカメラをリリースしているが、こうしたシネマカメラとZRを混在させて使っても同様のルックに仕上げられることもメリットとなっている。
動画のフォーマットとしては、6K60pといった余裕のある解像度で撮影可能だ。RAWはREDのカラーサイエンスを使った「R3D NE」、「N-RAW」、「Apple ProRes RAW HQ」に対応しており、RAWだけで3種類と充実している。RAW以外では「ProRes 422 HQ」、「H.265」、「H.264」(フルHDまで)とプロも含めて映像制作に必要な形式は揃っている。
下の動画はR3D NEの4K30pで撮影し、DaVinci Resolveでグレーディングしたもの。簡単なグレーディングでもシネマライクな絵を作ることができた。映像の最後の方の空も白飛びせずに雲のディテールが十分残っていた。
なお、今回の作例はすべてキットレンズの「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」で撮影している。
REDのカラーサイエンスの良さは、ニコンによると特にスキントーンがきれいなことだという。実際、モデルの肌がきれいに描写されておりクオリティの高い映像が作れそうだった。また作例でわかるとおり瞳AFも問題無く動作しており、物体から人物へのフォーカスの移動も滑らかだった。
ちなみにREDは、ZRに対応したLUTを「IPP2 Output Presets」として公開している。そのうち「RWG_Log3G10 to REC709_BT1886 with MEDIUM_CONTRAST and R_2_Medium size_33 v1.13」というLUTがZR本体のプレビューLUTとしてあらかじめインストールされている。加えて「RED Creative LUT Kit」というLUTも用意されている(REDのアカウント登録が必要)。
下は、その「RWG_Log3G10 to REC709_BT1886 with MEDIUM_CONTRAST and R_2_Medium size_33 v1.13」のLUTのみを適用した映像だ。グレーディングの開始地点としてこのLUTを使うこともできる。
また、記事執筆時点では未公開だったため試していないが、Nikon Imaging Cloud経由でダウンロード可能なRED監修の「イメージングレシピ」が9種類用意される。イメージングレシピはカメラに転送して撮影時に適用できる。
簡単に映画風に撮れる「シネマティック動画」モード
撮って出しで映画のような雰囲気になるという「シネマティック動画」モードが新搭載となった。ユーザーセッティングモードに登録されており、呼び出して使う。
フォーマットはフルHD 24pに設定され、シネマティックな雰囲気になるというピクチャーコントロール「CineBias_RED」で撮影される。ピクチャーコントロールの「オート」よりもローコントラストかつ彩度を抑えたルックで、雰囲気のある映像になっていた。
スローモーション
手軽にスローモーションが撮れる「スローモーション動画」モードもユーザーセッティングモードに登録されている。こちらは自動的にフルHD 30pの4倍スローに設定される。
4倍ということで、かなり本格的なスローモーションになる。動きのある被写体に効果的だ。
手ブレ補正
今回使用したレンズはVR非対応なので、ボディ内のイメージセンサーシフト方式5軸補正で補正されている。手ブレ補正のモードは、しない/ノーマル/スポーツがあり、ほかに電子手ブレ補正を入れることもできる。
下の動画では、手ブレ補正をしない/ノーマル/電子手ブレ補正ONの3種類で比較した。
あえて歩きながらの撮影を試したので、ノーマルでもブレは残っているが、電子手ブレ補正を入れるとかなり滑らかになった。電子方式は画角が少し狭くなる。
なお、VRレンズを使うと双方の手ブレ補正が連動する「シンクロVR」で補正効果がさらに高まるとのことだ。
新登場の外部マイク
本機は32bitフロート録音ができる点も見逃せない。広いレンジを記録できるので音割れの心配が無い。加えて、内蔵マイクは指向性の切り替えも可能となっている。
また、オプションとして外部マイク「ME-D10」が同時に用意される(実勢価格3万7,400円)。通信接点を使ったもので、カメラ本体から電源も供給されるためホットシューに付けるだけで簡単に使える。
ME-D10も指向性を変えられるほか、声を明瞭に録る「FOCUS」モードと楽器演奏などに向く「PURE」モードがある。FOCUSだとローカットフィルターがかかる。
下の動画では内蔵マイクの「ステレオ」と「前方(鋭)」、ME-D10の「ALL」と「FRONT」(いずれもFOCUSモード)を試した。特に最後にあるME-D10のFRONTは声が明瞭に録音できているのが分かる。
まとめ
やはり、画質面のパフォーマンスの高さが印象に残った1台だった。解像力の高さはもとより、グレーディングでかなり調整しても破綻しにくいリッチなデータをキャプチャできるマシンということだ。対応するLUTやイメージングレシピを使えば、画づくりの自由度もかなり高いと思った。
動画と写真はモードを切り換えれば双方対応できるので、たとえば旅先でVlog的に動画を撮りながら見栄えのする写真を同時に撮ることもできる。特に編集で自分なりのルックを実現したいという人には向いているカメラになるだろう。
他方で、プロレベルの動画制作者からも大いに注目を浴びるカメラになるだろう。実質20万円台後半のプライスでフルサイズセンサーや最新のAF機能を備えているのだから競争力はありそうだ。
その視点から見ると、ZRをよりプロ向けにした”動画特化型”のモデルが今後登場すれば、映像業界的には面白くなりそうだ。
価格帯やコンパクトなサイズ感はそのままに、昨今のトレンドであるオープンゲート録画を始め、USB外部ストレージへの記録、LUTの焼き付け、フォルスカラー表示などへの対応を期待したいところである。また、125分の制限も無くすことができれば置きカメラ的にも使いやすくなるだろう。
と、パフォーマンスの高さから少々妄想も膨らんでしまったが、シネマカメラ第1号機としては価格も含めて完成度は高く、かなり売れるのではないかと感じている。ここから上位モデルや下位モデルなどどのように発展するのか、「Z CINEMA」ラインの今後が大変楽しみになってくる。
モデル:透子



















