新製品レビュー

キヤノン EOS R5 Mark II

新エンジンシステムで処理速度が大幅に向上 カメラ内アップスケーリングやノイズ低減も

EOS R5の登場から4年、いよいよ後継機「EOS R5 Mark II」が8月30日(金)に登場する。イメージセンサーは裏面照射積層センサーへと進化し、エンジンはEOS史上最もパワフルなAccelerated Captureシステムを搭載。現代のカメラで最も重要なコアテクノロジーが刷新された「5」シリーズの最新作だ。

発売に先立って実機を使用する機会を得たので、筆者が常用する先代「EOS R5」との比較も交えながら静止画機能を中心にEOS R5 Mark IIの魅力についてレビューしていきたい。

EOS R5 Mark IIの位置づけ

キヤノンのデジタルカメラでプロやハイアマチュアから絶大な支持を受けるのが「5」シリーズだ。筆者もデジタル一眼レフカメラ時代のEOS 5D Mark IIから歴代の「5」シリーズを愛用している。

EOS R5 Mark IIは、EOS Rシリーズとして初の「5」となったEOS R5(2020年7月発売)の後継機である。新開発の約4,500万画素フルサイズ裏面照射積層センサーを搭載し、連写はAF/AE追従で最高約30コマ/秒を実現。AFシステムは最新の被写体認識やトラッキング機能を有するほか、視線入力AFやプリ連続撮影など先進機能を多数搭載する。

動画では8K60p、4K60pのRAW内部収録をはじめシネマEOS並の機能を備えるだけでなく、アクティブ冷却機能によって長時間収録も可能となるなど、非常に充実した機能を有している。

高画素でありながら、静物から動体、静止画から動画まで幅広い撮影ジャンルをカバーし、プロ機にふさわしい操作性と信頼性を兼ね備えるオールダウンダーと言える。

他社のライバル機に相当するのはニコン Z8やソニー α1だろう。後発機であることもあり、これら2機種に比べて多くの項目が同等以上のスペックに仕上がっている。

外観

外観はEOS伝統の流線型デザインを踏襲しており、一見するとEOS R5とあまり変わらない気もするが、細部をみると様々な変更点に気付く。

ボディサイズは先代のEOS R5と比較すると、横幅は全く同じで、EVFに視線入力が搭載された関係で高さが+3.7mm、アクティブ冷却機構が搭載された関係で奥行きが+5.5mm増加している。ただし重量はほぼ据え置きの656g(本体のみ)でわずか6gの増加に留まっている。グリップ形状や重量がほぼ同じなこともあり、カメラを構えた感覚はEOS R5とほとんど変わらない。

EOS R5 Mark II(左)はEVF部が盛り上がった形状。グリップ部の赤外リモコン受光部はなくなっている。ボタンやリモコン端子の場所はそのままだ

EOS R5からの最も大きな変更点は、電源スイッチが左側から右側のサブ電子ダイヤル2に統合されたことだ。右手だけで撮影に関する操作をほぼすべてできるようになっている。従来電源スイッチがあった左肩には静止画/動画切り換えスイッチが配置された。マルチコントローラーの形状もEOS R6 Mark IIと同じ丸みを帯びた形状に変わっている。

ホットシューはマルチアクセサリーシューとなり、ロック付きの新型シューカバーが付属する。これまでより外れにくくなった反面、着脱はスムーズとは言えず取り扱いには慣れが必要だ。

現在、多くのカメラで採用される右側の電源スイッチに対応。LOCKボタンは廃止され、ON/OFFの間にLOCKが新設されている

細かな変更点だが、背面のボタン形状もわずかに変化している。ボタンやダイヤルの配置はEOS R5と同じだが、INFOボタン、クイック設定ボタン(Qボタン)などが丸みを帯びた形状(EOS R5は平面ボタン)となり、ブラインド操作時でも指掛かりが良くなっている。

さらに再生ボタンと消去ボタンの表面形状もわずかに異なっており、押し間違いを防ぐ工夫がされている。カタログに記載されないような小さな変更点ではあるが、しっかりとこだわって作り込んだカメラであることを感じさせるポイントだ。

その他、タリーランプの搭載や、赤外リモコン受光部の廃止などいくつかの外観上の変更点がある。

左がEOS R5 Mark II。背面のボタン配置はEOS R5と全く同じだ。視線入力搭載によりファインダーの存在感が増している
上面操作系の比較。EOS R5ユーザーはスイッチの位置に戸惑うかもしれないが、数日使えば慣れるだろう。シャッターフィーリングは従来と同じに感じた
良く見るとボタンの表面形状がEOS R5から変わっている

背面モニターは先代と同じく、バリアングルモニターが搭載されている。モニター画素数も据え置きだ。

チルトにも対応したマルチアングルモニターとなることも期待したが、EOS R1を含め最近のEOSはすべてバリアングルモニターに統一されている

EOS R5 Mark IIの三脚ネジと底面のロックピンの位置関係はこれまでのEOS R5/R6シリーズと同じになっている。EOS R5 Mark IIと同時に登場する新型バッテリーグリップBG-R20は、EOS R5/R6シリーズすべてと互換性があるほか、従来のBG-R10も一部機能制限があるもののEOS R5 Mark IIでも利用できるとされている。

筆者がEOS R5用に作ったバリアングルモニターが干渉しないEndurance L型プレートも問題なくEOS R5 Mark IIに取り付けることができた。EOS R5/R6シリーズ用の底面取り付けアイテムの多くは、EOS R5 Mark IIでも引き続き使える可能性が高いだろう。

左がEOS R5 Mark II。モニター裏に排熱用の通気口が見える。こちらが吸気側だ

側面端子部はフルサイズのHDMI(タイプA)搭載がトピックだ。従来のマイクロHDMI(タイプD)は小さくて接続時に不安があったが、これなら安心してHDMI機器と接続できる。変換用のケーブルを持ち歩く手間もなくなった。他はEOS R5と同じUSB Type-C(USB 3.2 Gen 2)、ヘッドホン端子、マイク端子(共にΦ3.5mmステレオミニジャック)、シンクロ端子を備える。リモコン端子(N3タイプ)は従来と同じく前面側に配置されている。

USB端子右側には冷却用通気口がみられる。こちらは排気側だ

イメージセンサー、エンジン

続いて、実際に撮影した作例を交えながらEOS R5 Mark IIの新機能やスペックを紹介していきたい。特に断りがない限り、すべてカメラ内で生成したJPEG、電子シャッター、WBオートで撮影したものだ。

EOS R5 Mark IIに搭載されるイメージセンサーは、新開発の約4,500万画素フルサイズ裏面照射積層センサーだ。画素数はEOS R5から据え置きだが、表面照射型から裏面照射積層型へと進化している。引き続き全画素で位相差検出が可能なデュアルピクセル構造だが、従来通り縦線検出のみでクロス測距には対応していない(同日発表のEOS R1はクロス測距に対応)。

4,500万画素あればこのような込み入った木々のひとつひとつもしっかり描写できる。青方面に転びやすいシーンだがWBオート性能が向上したせいか、違和感のない色味だ。ただし、撮影時のEVF内表示はかなり青方面にシフトしていた

特に注目すべきは積層センサーになったことだ。これによりセンサーの読み出し速度が向上し、電子シャッター利用時や動画撮影時のローリングシャッター歪みが大幅に改善されている。ローリングシャッター歪みについては後で詳しく紹介するが、動体を含めてほとんどのシーンで電子シャッターを使った撮影が可能になったと考えて良い。シャッター寿命を気にすることなく撮影できるようになった。

離陸直後のプロペラ機を電子シャッターで撮影。積層センサーのおかげでプロペラの歪みは全く気にならない(撮影後にシャドウのみ補正)

集光効率の高い裏面照射型となったことで高感度性能のアップも期待したが、EOS R5との大きな差は感じらず、超高感度域ではやや悪化していると感じた(後述)。高感度性能に関しては積層化によるノイズ増加を裏面照射化で相殺しきれなかった印象だ。ただし、後述するカメラ内ニューラルネットワークノイズ低減機能を使うことで、最終データのノイズ量はEOS R5から大幅に低減される。

誤ってISO 20000、F29というメチャクチャな設定で撮ってしまった写真だが、黙っていればバレないくらいの基礎能力がある。デジタルレンズオプティマイザも自動でかかるため小絞りボケも低減できる

短期間だったので詳細な画質比較はできなかったが、今回撮影したデータを見る限りダイナミックレンジなども含め、通常感度域での画質はEOS R5とほぼ同等ではないかと感じられる。画質を犠牲にすることなく利便性の高い積層型センサーを実現したと考えるのが良いだろう。

エンジンシステムは従来のDIGIC X単独から、DIGIC Xと新開発のDIGIC Acceleratorを組み合わせたデュアルチップ構成の「Accelerated Captureシステム」に進化している。

DIGIC Acceleratorはセンサーから読み出したデータの解析に特化したチップであり、進化が著しいディープラーニング機能を使ったAF等の処理はDIGIC Acceleratorに任せつつ、画像処理は従来のDIGIC Xで処理することで計算能力の向上や電力効率の最適化を図ったものだと思われる。

4,500万画素のデータを秒間30コマで撮影する能力やブラックアウトフリー撮影、動画性能の大幅な向上はAccelerated Captureシステムが寄与している。

ファインダーがブラックアウトフリーになったことで、素早く動く被写体も追いかけやすく、構図も作りやすい

オートフォーカス

4年前に発売されたEOS R5には、EOS R3やEOS R6 Mark II世代に搭載されているトラッキングAFが搭載されず、被写体検出対象も限定的だったため、最新のカメラと比べるとやや時代遅れのAFとなっていた。EOS R5 Mark IIは同時に発表されたEOS R1と同じ新AFシステム「デュアルピクセル Intelligent AF」を搭載したことで一気に業界最高レベルのAFシステムに刷新されている。特にEOS R5以降のEOSを使っていないユーザーはAFの進化に驚くだろう。

被写体検出対象は人物、乗り物(モータースポーツ/鉄道/飛行機)、動物(犬/猫/鳥/馬)となり、EOS R5からは乗り物と動物(馬)が新たに追加された。被写体の状態に応じて胴体/頭部/瞳といったスポット検出も可能だ。

いくつかの被写体で試したがEOS R5はもちろん、新世代機EOS R6 Mark II同等以上のつかみと追従性能を体感できた。物陰から急に飛び出してきた被写体も瞬時に補足し、手前に障害物があっても粘り強く被写体を追従してくれる。今回作例は用意できなかったが、人物(ポートレート)は完全にカメラ任せのAFでも撮影できるだろう。

動物優先+サーボAFで撮影。飛び去るサギの後ろ姿もキッチリ認識してトラッキングしてくれた。このあと右側の木に重なってしまう(撮影後にトリミング)
上の写真から3コマ目の写真だ。2コマ目から枝に重なってしまい、このカットは完全に身体が隠れているが手前の枝にピントが移らない。このあと5カット撮影し、すべて枝が重なっていたがしっかりサギを掴み続けていた。低速連続撮影(5コマ/秒)で撮影(撮影後にトリミング)
旅客機ならもう何も考えずにカメラにピントを任せてOKだ。このサイズ感なら自動でコックピット付近を補足してトラッキングしてくれる。電車も運転席付近を認識してトラッキング可能だ
馬ではないが、エゾシカも動物優先で問題なく認識してくれた。多少精度の差はあるがほとんどの動物は動物優先で捕捉可能だ

新搭載のアクション優先や登録人物優先といった先進機能も面白い。アクション優先は今回試すチャンスが無かったが、今回のアップデートでは目玉機能の1つだ。サッカー/バスケットボール/バレーボールのシュートやレシーブなど特定の動作をカメラが認識し、自動で注目すべき選手にピントを合わせてくれる。使えるシーンは限られるがスポーツ撮影をしている人はぜひ試してみよう。

登録人物優先機能は、あらかじめ優先度の高い人物の顔をカメラに登録しておくことで、集団の中からお目当ての人物のみにピントを合わせる機能だ。カメラ内には10人まで優先度を付けて登録が可能で、カード内保存と合わせて100人分の顔を登録できる。子供の顔を登録して試してみたが、我が家の2兄弟の場合は正面からならほぼ100%の精度で正しく検出が可能だった。カメラのAF機能もここまで来たかという進化だ。

本格的なスポーツ撮影はもちろん、子供の運動会や発表会などでも威力を発揮する機能だろう。

撮影済みのデータから登録するほか、その場で撮影して登録も可能。過去に撮影した写真をモニターに表示したものを撮影してもキチンと認識してくれる。登録は10秒程度で終わり、非常に簡単だ

今回試用していて気になったのが、細い被写体にピントを合わせた際、稀に後ピンになってしまう現象に見舞われたことだ。例えば以下の写真のようなシーンで、左から2本目の植物の頂点付近にAFポイントを合わせたところ、わずかに後ピンになってしまった。ピピッと合焦音が出ているにもかかわらず、背景の壁にピントが抜けるわけでもなく中途半端な位置で後ピンになっている。

EOS R5 Mark IIのAFは縦線のみのシングルライン検出となるため、横縞の検出は不得意なのだ。今回は縦構図なので縦縞のコントラストが付いている被写体のAF精度はどうしても落ちてしまう。同じく縦線検出のEOS R5でも同じ被写体を撮ってみたが同じ結果となった。アルゴリズムの改善で精度の向上を期待していたが、ライン検出の弱点は解決には至っていないようだ。

全域クロス測距可能なEOS R1ではこのような現象は起きないはずだ。このようなシーンはEOS R5 Mark IIを始め多くのライン検出像面位相差AFカメラの弱点である。

ここまで合わないことは稀ではあるが、細長い被写体や縞模様の被写体を撮る場合はこのことを頭の片隅に置いて撮影したい。

画面左から2本目の1番高い植物の先端付近にスポットAFで撮影。壁に抜けるわけでもなく、左から5本目付近にピントが合っているように見える。サーボ、ワンショットなどいくつか設定を変えて試したが、AFではどうしてもピントが合わず微妙に後ピンとなった。なお、横構図で撮影するとあっさりとピントが合った

高感度性能

EOS R5 Mark IIの常用最高ISO感度はEOS R5と同じISO 51200だ。EOS R5と比べてみたがISO 3200まではノイズ感は同じ印象だ。ISO 6400以上の高感度域ではEOS R5の方がディティールの残り具合が若干良く、感度が高くなるほどEOS R5 Mark IIのノイズ量は増える印象だ。ISO 25600以上では明らかな差がある。

超高感度域を多用するユーザーは、後述するニューラルネットワークノイズ軽減機能やLightroomなどのサードパーティー製AIノイズ除去アプリなどをうまく使うことも考えたい。

この画角で中央部を拡大したものを比較する。これはISO 1600で撮影。ノイズ軽減パラメータはデフォルトの標準だ
EOS R5MarkII(左)/EOS R5(右)
ISO 1600
ISO 1600
ISO 3200
ISO 3200
ISO 6400
ISO 6400
ISO 12800
ISO 12800
ISO 25600
ISO 25600
ISO 51200
ISO 51200

シャッター、ローリングシャッター歪み

新搭載の裏面照射積層センサーはEOS R5よりも読み出し速度が向上し、電子シャッター利用時のローリングシャッター歪みを大きく低減しているが、メカシャッターも引き続き搭載している。

メカシャッターでは最高12コマ/秒の連写が利用でき、シャッター速度は最高1/8000秒。ストロボ同調速度はフルメカシャッターで1/200秒、電子先幕シャッターで1/250秒だ。すべてEOS R5と同等のスペックだ。

大きく進化したのは電子シャッターで、最高30コマ/秒の連写が可能となり、最高シャッター速度は1/32,000秒。ストロボ利用も可能で、同調速度は1/160秒だ。

今回新たに、「高速連写+」や「高速連写」に任意のコマ速を指定することもできるようになった。速すぎるコマ速はデータが増えすぎて困るというユーザーにはありがたい機能だろう。撮影中、任意のボタンを押している間だけ高速連写+に移行するカスタマイズも行える。

この中から好きなコマ速を設定できる。電子シャッター時のみ有効だ

ここまで電子シャッター機能が充実してくると、電子シャッターを常用したくなる。そこで気になるのがローリングシャッター歪みの大きさだ。実際に高速で走る電車の通過シーンを真横から撮影してみた。

EOS R5との差は歴然で、ドアの歪みはかなり小さくなっている。カメラにとっては非常に厳しいシーンのため歪みがゼロとはいえないが、この程度であればほとんどのシーンで電子シャッター運用をしても問題なさそうだ。私がこれまで使ってきたカメラで言うと、ソニーα9とだいたい同じくらいの読み出し速度だと思われる。

EOS R5 Mark IIの電子シャッター(30コマ/秒)で撮影
EOS R5の電子シャッター(20コマ/秒)で撮影

ファインダー

ファインダーはEOS R5と同じく約576万ドット、0.76倍のOLED電子ビューファインダーを採用している。アイポイントは24mmで+1mmの増加だ。採用するパネルはEOS R5比で2倍の輝度表示が可能。明るさや色味の微調整もできる。EVFの精細度にEOS R5との違いは感じなかったが、視線入力搭載でアイカップが大型化したこともあり、眼鏡をしていても見やすいEVFになっていると感じた。

表示SimulationではEOS R5で非対応だった「露出+絞り」にも対応。絞り込みボタンを押さずともF値に応じた被写界深度を表示させて撮影できるのも便利だ。

視線入力AFはファインダーを覗いた眼球の動きを検出して実際に見ているものにピントを合わせる機能だ。マルチコントローラーでAFポイントを動かすよりも圧倒的に速く検出ポイントの移動が行える。EOS R3では眼鏡を掛けていると使いにくいなど評価の分かれた機能だったが、眼球の検出範囲が広くなったほか、検出レートも2倍となり、眼鏡着用の筆者でもスムーズにターゲットポイントを動かす事ができた。

ただし、よほど安定してカメラを構えられる人でない限り、毎回使用前のキャリブレーション(数十秒で終わる)は必須で、マルチコントローラー使用時のような厳密なターゲット移動は難しい。被写体検出機能と組み合わせ、ざっくりと被写体近くにターゲットをセットし、あとはカメラに掴んでもらうという合わせ技を使うのが良さそうだ。スポーツ撮影など忙しい撮影では積極的に活用してみたいと感じた。この機能はなかなか文章で説明するのは難しいので、体験会など実機で試してみて欲しい。

このような小さな被写体で視線入力AFを使うのは厳しいと感じだ。どの実にピントを合わせるかを決めるのはマルチコントローラーでないと難しい
キャリブレーションは頻繁に行うことになると思うのでマイメニューに登録しておくといい

手ブレ補正

EOS Rシリーズの大きな魅力の1つが、手ブレ補正の効きが強力という点だ。EOS R5でもレンズとボディとの協調補正で最大8段の効果を持っていたが、EOS R5 Mark IIはさらに向上し最大8.5段の補正効果となっている。アルゴリズムが改善されたほか、CMOSセンサーのRoll方向への可動範囲がEOS R3比で2倍となっている。長秒撮影によるブレだけでなく、ある程度高速側の微ブレに対する精度も向上しているようだ。

手持ちの長秒撮影も試してみたが、注意深く構えて撮影すれば数秒単位の手持ちスローシャッター撮影も十分可能だ。

夜の街をF11まで絞り込んでスナップした。手持ち0.8秒。三脚がないと難しかったシーンも手持ちで気軽に撮影できる
芝の刈りカスが流れていたキレイとは言えない水路もスローシャッターなら面白い表情になる。手持ち3.2秒で撮影した。長秒時の周辺部は多少乱れやすくなるが、広角側3秒前後なら手持ち撮影可能圏内だ

カメラ内アップスケーリング、ニューラルネットワークノイズ低減

これまでパソコン(DPP)での有償利用のみだったディープラーニング画像処理技術がいよいよカメラ内で利用できるようになったことにも注目だ。EOS R5 Mark IIで使えるのはアップスケーリングとニューラルネットワークノイズ低減の2種類。カメラ内で利用する場合は無料で使える。

カメラ内アップスケーリングは縦横のピクセル数を2倍にし、約1億7,900万画素の画像を生成できる機能だ。ディープラーニング技術(AI)を使用しているため、単純に2倍に拡大するよりも圧倒的に解像感を維持したまま引き延ばしが可能だ。

良く見られるマルチショット系アップスケーリングとは異なり、1枚の画像(JPEG/HEIF)から生成できるため、動体への利用や後から伸ばしたい時にも有効だ。RAWから直接アップスケールはできないため、あらかじめRAW+JPEGで撮影しておくとスムーズに利用できる。リアルタイム処理には対応しておらず、撮影後に写真を選んで適用する。複数枚を一気に処理することも可能だが、1枚あたり5~10秒ほど時間がかかるためかなり重めの処理だ。

冒頭で紹介した写真をアップスケールして約1億7,900万画素(16,384×10,928)にした。データサイズは元のJPEGの約3倍になる。等倍でじっくり観察すると少し違和感はあるものの、ディティールの大部分を残しながら大伸ばしに成功している

ニューラルネットワークノイズ低減は、撮影後のRAW(CRAW)画像からノイズを大幅に低減した画像(JPEG)を得ることができる。その効果は標準のノイズ低減に比べて非常に大きい。元の解像感に忠実にノイズのみを除去するチューニングで強い輪郭強調などはされないマイルドな仕上がりだ。

この機能も撮影後にカメラ内で行う。ノイズ低減後のJPEGはそのままカメラ内アップスケーリングを行えることにも注目したい。利用する場合は再生メニューのカメラ内RAW現像の項目から行う。こちらも1枚あたり5~10秒ほど処理に時間がかかる。

ニューラルネットワークノイズ低減・有(左)/無(右)
ISO 1600
ISO 1600
ISO 3200
ISO 3200
ISO 6400
ISO 6400
ISO 12800
ISO 12800
ISO 25600
ISO 25600
ISO 51200
ISO 51200

プリ連続撮影

野鳥など野生動物を撮影する人に非常に嬉しいアップデートとなるのがプリ連続撮影だ。シャッター押下から最大15コマ分時間を巻き戻して記録できる機能だ。EOSにはこれまでプリ撮影機能として「RAWバースト撮影」が搭載(EOS R5には非搭載)されていたが、この機能は撮影後に動画ファイルのような1つの巨大なデータが生成され、撮影後に専用ツールで1枚ずつ書き出す必要がある使い勝手の悪いものだった。

EOS R5 Mark IIに搭載されたプリ連続撮影は1枚ずつ通常のRAW画像が記録できるようになった。さらに、プリ連続撮影は電子シャッターが必須となるため、従来はローリングシャッター歪みも気になったが、積層センサーになった本機なら歪みが気にならないのもポイント。真のプリ撮影機能が搭載されたと言える。

プリ連続撮影を有効化するとシャッター半押し状態でバックグラウンド撮影が開始され、押し込んだ時点から最大15コマ分のデータを遡ってメモリーカードに記録できる。毎秒30コマの場合は0.5秒、10コマの場合は1.5秒分の時間を巻き戻して記録できるのだ。

試しに慣れない昆虫を撮影してみたが、いとも簡単に飛び立つ瞬間や羽を広げた瞬間を撮影することができた。タイミングの読めない被写体の撮影方法を一変させる強力な機能だ。

ただし、プリ連続撮影中はカメラ内部では常に連写を継続していることになるため、バッテリーの消費が激しく、場合によっては発熱の警告がでる恐れがある点には注意したい。また、本機能は後述する新型バッテリーLP-E6Pでしか機能しないことも覚えておこう。

地面で休んでいたトンボが飛び立つ瞬間を狙ってみた。私の腕では通常撮影で撮るのが難しいシーンだが、プリ連続撮影なら一発で撮影できた(撮影後にトリミング)

新型バッテリー、USB給電

電源周りの進化で重要なのは、標準のバッテリーが新しいLP-E6Pとなったことだ(本体に1本付属)。本バッテリーは従来のLP-E6NHと同じ電圧、容量でありながら、より大電流を引き出せるようなアップデートが施されている。8K60p RAW撮影やプリ連続撮影といった、カメラにとって負荷の高い機能を使用している時にも安定して電力供給できるようになっている。

サイズや容量は全く同じだ。ロゴが白文字となり従来バッテリーからは一目で違いが分かる

従来のLP-E6N、LP-E6NHも引き続き使えるが、8K撮影やRAW撮影、50fpsを超える動画撮影(すべての解像度)、HDMIからのRAW出力など動画関連のいくつかの機能が使えなくなるほか、静止画関連ではプリ連続撮影が使用不可になる。

特に動画60p撮影やプリ連続撮影は一般ユーザーでも使う場面が多いと思われるので、EOS R5 Mark IIの能力を活かしたい場合はLP-E6Pの予備バッテリーも用意しておきたい。

初期型のLP-E6は使用不可となったほか、市販の互換バッテリーの多くも使用不可となる可能性が高い。手元にあるLP-E6NやLP-E6NH互換を謳う互換バッテリーのいくつかを試したところ、電源投入直後にエラー80を返されて撮影不能だった。

手元にあった互換バッテリーはすべてエラーとなり使用不可能だった。LP-E6NHなども電源投入時に機能制限に関する確認画面が出る。カメラの性能をキッチリ引き出すためにもLP-E6Pを使いたい

公称の撮影可能枚数は[なめらかさ優先]設定時でファインダー250枚、モニター540枚(EOS R5はそれぞれ220枚、320枚)と電池持ちも良くなっている。ただし、今回実機を使った体感でいえば、プリ連続撮影や30コマ/秒の連写を多用していたこともあり、EOS R5から特段バッテリー持ちが良くなったという実感はなかった(悪くなった印象もない)。撮影スタイルや使う機能によって感じ方は大きく変わりそうだ。

EOS R5 Mark IIでは従来通りUSB充電/給電にも対応している。これまでのLP-E6系を採用したEOS RシリーズはUSB給電にUSB PD 30W (9V/3A)のやや高めのスペックが必要で、小型のモバイルバッテリーでは使えるものが限られていたが、今回試したところUSB PD 20W(9V/2.22A)のモバイルバッテリーでも給電可能だった。

新型バッテリー採用でUSB給電スペックも引き上げられるのではと思っていたが、逆に緩和されており嬉しい変更点だ。電源OFF時に充電する場合はこれまで通り5Vで充電されており、USB Type-Cのほか、USB Type-A端子からの充電も可能だった。

給電中は9V 0.5~1A程度の電力が供給される。ここで使用しているのはUSB PD 20Wまでの出力に対応したモバイルバッテリーだ

USB給電を使う場合は本体にバッテリーが装着されていることが必須で、機能制限が出るLP-E6NHなどを挿入している場合は、USB給電時にも引き続き制限がかかる点に注意したい。

対応メディアと連続撮影可能枚数

EOS R5 Mark IIのメモリーカードスロットは引き続きCFexpressとSDのデュアル構成だ。対応するCFexpressのバージョンは2.0、SDカードはUHS-IIに対応する。

メモリーカードスロットの構成はEOS R5と全く同じだ

公式サイトの仕様表にはメカシャッター12コマ/秒の連続撮影可能枚数しか記載されていなかったので、電子シャッター30コマ/秒での連続撮影枚数も調べてみた。

標準記録カードになっていると思われるProGrade Digital COBALT 325GBで調べたところ、30コマ/秒設定時ではバッファフルまで約3.4秒、92枚の撮影が可能、バッファ開放時間は約9.2秒だった。RAW+JPEGの1カットで約58.3MBとなったので秒間約1,750MBの莫大なデータが発生している計算だ。CRAW+JPEG(約31.5MB)では5.4秒、150枚、CRAW(21.9MB)のみでは5.8秒163枚だった。また、ProGrade Digital GOLD 512GB(CFexpress4.0対応版)でもほぼ同じ結果となった。

電子先幕シャッター12コマ/秒ではRAW+JPEGでも10秒以上、CRAW+JPEGなら20秒以上の連写が可能なため実用上の問題はほぼ生じないが、30コマ/秒の連写をする場合はCFexpress利用時でもバッファフルに気をつけて撮影する必要がある。

記録方式撮影コマ数連写持続時間(秒)撮影枚数バッファ開放時間(秒)
RAW+JPEG30コマ/秒3.4929.2
12コマ/秒12.71456.6
CRAW+JPEG30コマ/秒5.415014.6
12コマ/秒22.926711.6
CRAW30コマ/秒5.816311.0
12コマ/秒30秒以上359*5.7*

*30秒で止めたときの撮影枚数と開放時間
※測定条件)ProGrade Digital COBALT 325GB、RF24-105mm F4 L IS USM、F4、1/500、ISO800、ストップウォッチを使った手動測定、2回の平均値

またこの結果からも高速連写を使う場合はCFexpressが必須と言えるだろう。SDカードではすぐにバッファフルになるだけでなく、開放まで長い時間待たされることになる。

そのため、CFexpressとSDカードに同一書き込み(バックアップ記録)する場合には速度の遅いSDカードがボトルネックとなってしまい、EOS R5 Mark IIの高速性能が活かせなくなってしまう問題が生じる。ここは個人的にはEOS R5 Mark IIの数少ない残念なポイントの1つだ。ただし、再生メニューの「画像コピー」によってカメラ内でCFexpressからSDカードへ画像を同期させることは可能だ。撮影時はCFexpressで記録しておき、現場の空き時間にSDカードへコピーするといった工夫をすれば高速性能とデータの安全性をある程度両立できる。

撮影後にカード間の画像コピーが行える。差分コピーも可能だ。重複はファイル名で検知しているため1万枚以上撮る場合は注意したい。なお本機能はEOS R5にも搭載されている

価格

キヤノンオンラインショップでの価格は執筆時点で65万4,500円(10%OFFクーポンあり)、一般小売店では58万9,050円となっている。米国での価格は税抜で4,299ドルであり、1ドル125円程度の計算となる。60万円近い価格に驚いた人も多いと思うが、この円安下で日本向けにかなり優遇された値付けになっていることにも注目しておきたい。

まとめ

かなり長くなってしまったが、個人的に気になっていたEOS R5 Mark IIの静止画機能を中心に進化ポイントをまとめてみた。短期間の試用のためすべての機能を確認できたわけではないが、これまでの使いやすかった部分はそのままに、最新の機能を盛り込みながら隙の無いアップデートを達成している正常進化モデルと言えるだろう。

「世界初」「世界最高」を謳うような派手なアップデートはないが、このカメラさえあればどんな被写体でも撮ることができると思わせてくれる、「5」シリーズならではのバランスの取れた仕上がりになっている。

EOS R5からの乗り換えはもちろん、EOS R3やEOS R6 MarkIIのユーザーも新しい撮影体験を感じられるカメラだと思う。間違いなく、これから数年のあいだ最前線で活躍してくれるカメラになるだろう。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主宰。ライフワークは写真をより楽しむための情報を発信すること。2021年より北海道に移住して活動中。