インタビュー

写真を通じて“ゆるくつながる”「フォトポスタープロジェクト」とは?

マウント・批判NGのグループ展 海外を含め過去16都市で開催

cizucuの太田優成CEO(中央)と砂田実菜コミュニティマネージャー(右)。左は韓国から訪れた参加者のヒョンビンさん

2月26日(木)から3月1日(日)にかけて、株式会社cizucuによる「フォトポスタープロジェクト」(以下、PPP)が横浜みなとみらいギャラリーで開催された。写真を愛するクリエイターが集まり、年齢、性別、国籍、写真歴に限らず、誰でも自由に参加できるグループ展だ。「CP+2026」の会期中かつ会場にも近いこともあり、ギャラリーを覗いた方もいるだろう。

株式会社cizucuが立ち上げた写真特化のコミュニティサービス「cizucu」。ユーザー登録をした一般のカメラマンが多種多様な写真を投稿し、作品発表の場としている。投稿の際、ユーザーは被写体のジャンルや撮影技法等をタグ付けすることで検索性を高め、さまざまな人に見られる工夫を凝らす。

その「cizucu」のアプリを利用して、自身の作品を世界の好きな場所で展示するギャラリーがPPPだ。開催場所と時間がcizucuから提示され、ユーザーは任意のギャラリーにエントリーする。一定金額を支払うことで、写真のプリントから展示までをスタッフに一任でき、ギャラリー当日に在廊することでプリント作品を持ち帰ることができる。プリント作品はすべて縦位置のポスター写真だ。

PPPは通常1日のみの開催となる。出展者は原則的に当日在廊し、ギャラリートークで自身の作品について簡単な解説を行う。写真歴に関係なく応募が可能で、ネガティブな発言やマウント行為はNG。初心者もハイアマチュアも関係なく、誰もが気軽に参加できる垣根の低さを重視している。

参加するためのハードルが驚くほど低く、昨日カメラを始めた初心者も気軽に参加できる写真展。そこにはどんな思いや狙いがあったのか? 主催者の太田優成CEOと砂田実菜コミュニティマネージャーに話を聞いた。

気軽に写真を展示できる場として

——PPPの概要と、始められた経緯を教えてください。

砂田実菜さん(以下、砂田): 私たち株式会社cizucuは、2022年11月に京都で創業しました。もともとはコミュニティ型のストックフォト「cizucu」の開発と運営を行っていたのですが、写真を投稿してくれるユーザーの声を聞くと「グループ展に参加するのは勇気がいるし、個展なんてもっとハードルが高い。でも実は自分の写真を見てもらいたい」と思っている方がかなりいるのではないか、誰でも簡単に参加できる写真展の需要があるのではないかと感じました。そこでPPPを立ち上げて写真を募集し、2024年の12月28日に初回の写真展を開催しました。1年強が経ち、今ではアジアを中心に海外でも開催するほど広がっています。

写真展は原則1日のみの開催で、開催地は全国各地のギャラリー。弊社スタッフや現地のボランティアの方々に手伝っていただき、会場の手配から写真の印刷・展示まですべて私たちが行います。参加者の方には展示日に現地に来てもらうようお願いしています。そこで参加者全員がマイクを手に取って、この写真をどんな思いで撮影したか、撮影した時の状況はどうだったかなど、写真に対する思いを語ってもらいます。

写真展に参加するには、アプリから写真を投稿していただいて、その写真を展示する日時と場所を選ぶだけです。この気軽さがユーザーに受け入れられたのだと思います。

加えて、私たちの思いもあります。SNSや生成AIがすっかり浸透し、何もかもがものすごいスピードで進化しているこの時代に、私たち人間に残るものは何なんだろうと自問自答しました。私たちの答えは、作品に対する思いやバックグラウンド、撮影した時の思い出やこだわりでした。そうした感情的な部分は私たち人間にしか話せませんし、表現できません。人間的なストーリーや感情を安心して共有できる場を作りたいと思って始まったのが、このPPPです。

太田優成さん(以下、太田): はじめはちょっとしたオフ会のつもりでした。小規模で始めたので予算もなく、展示直前は徹夜で準備したり(笑)。でも実際に開催すると思ったよりも反響があったので、本格的に展開していこうと考えて今に至ります。

横浜みなとみらいギャラリーでの展示の様子(以下同)

——実際に開催してみて、参加者数は想定通りでしたか?

砂田: 想定以上でしょうか。はじめのころはcizucu登録者の中でも一部の方だけが参加してくれていましたが、最近は少しずつ認知度が上がってきて、初参加の方も増えています。もちろん、リピーターの方もたくさんいらっしゃいます。また、参加者の方が知り合いを誘ってくれることもあります。そうした状況が重なって、今では写真を募集するとすぐに満杯になってしまう地域も増えています。

今では日本各地のほか、2025年からは海外でも開催しており、同じように参加者が増えています。特に海外は、日本以上に写真展を開催することに高いハードルがあるように感じます。写真展を開催するまでの手続きの問題なのか、現地の文化や空気感なのかはわかりませんが、「こういう場が欲しかった」という熱気は、海外の参加者からより強く感じますね。次はインドでの開催になりますが、どんな会になるのか今から楽しみです。

「写真」への思いは誰もが同じ

——このプロジェクトを始めてみて、予想外だったことはありますか?

砂田: 2つあります。1つ目は、地域によって人柄と写真のジャンルに色が出てくることです。例えば、札幌は自然や動物の写真が多い印象です。東京だとビルや建物、ストリートスナップなど、幅広いジャンルの写真が集まります。こうした違いを体感できたのも、実際に会場まで足を運んだからこそでしょう。

もう1つは、日本だけではなく海外でも同じような空気感でギャラリーを開催できたことです。下手だと思われたらどうしようという不安や、それを乗り越えてポジティブな感想をもらえた時の温かい空気感は、日本も海外もそう変わりませんでした。これは驚きでしたね。

太田: 「写真が共通言語になる」ということでしょうか。これまでに韓国、台湾、タイでギャラリーを開催して、それぞれの国で被写体や色使い、モデルのポージングに特徴が出たりしますが、作品をじっくり見てその感想を送り合うという行為は変わりません。台湾の方が台湾でのギャラリーに出展して、その次に日本でも出展して、日本人と仲良くなっているのを見かけました。写真を通した交流が国境を超えている! と感じたときは感動しました。実際に、韓国の展示に参加して、今日も参加してくれている方がいます。

ヒョンビン: 初めまして。私はカメラを持っていないのですが、PPPはスマートフォンで撮影した写真でも参加できると聞いて、韓国での展示に参加したのがきっかけです。単に自分の作品を発表するだけでなく、それを基に他の参加者とも交流できると聞いて、ぜひ参加したいと思いました。

私自身も他の人たちの作品を見て、いろいろな思いや感想を直接伝えたり質問したりして、たくさんコミュニケーションを取ることができました。この経験を日本でもできたら素敵だなと考えて、今回の特別回にも参加することにしました。

自分の作品が外国で展示されているのは、なんだか不思議な気分です。当たり前ですが、私の作品を見る人の多くは日本人で、日本人の価値観に沿って写真を評価していただいています。不安もありますが、日本の方と自分の写真について話ができることをとても楽しく感じています。写真を通して、自分と日本人の違いも、反対に共通するところも感じます。

リアルで写真を見る・見せる意味

今回取材したPPPは、「CP+2026」に合わせて横浜のみなとみらいギャラリーで開催された特別版。展示作品も、普段は15~20枚程度だが、本展では150枚以上の作品が飾られた(展示多数の都合もあり、通常回で行われているギャラリートークもなし)。今回あるいは普段の展示では、どのような人が参加しているのだろうか?

——PPPに参加される方はどんな人が多いですか?

砂田: 本当に多種多様です。年齢も職業もバラバラ、デジカメすら持っていない初心者からカメラ歴30年以上のハイアマチュアまで、いろんな人が参加しています。「この展示で初めて自分の写真をプリントした」という人も多くいます。

——まったくの初心者が出展するだけならまだしも、ギャラリートークで人前で話すのはなかなか大変なのではと想像します。

砂田: ところが、みなさん意外といっては失礼ですが、しっかりお話しされます。多くの方は、話しているうちに作品への思いがあふれてきて、撮影前後のエピソードが出てきたりします。トークでうまく話せなくても、自由時間になってから参加者同士で交流が生まれることもあります。PPPは、写真の良し悪しを決める場でも、カメラの知識やテクニックを競う場でもありません。その価値観を共有するためにギャラリーのルールとして、トークの前後には必ず拍手を送る、写真や話の否定をしたりマウントを取ったりするのはNGとしています。そうした空気感を作ることができて、とても和やかな空気が流れています。

私はこの時間が大好きです。人の顔を見て、その人の口から写真の説明や思いを聞くということが、今の時代だからこそ価値があると思いますし、本人から聞くからこそ伝わるものが必ずあると思っています。

それと、各地で行う展示会には弊社のスタッフも必ず参加するようにしています。かくいう私も、先日はじめてデジタルカメラを買って参加しました。みなさんには「どんな作品でも大丈夫です」と励ましていますが、いざ自分が参加するとなるとやっぱり「下手だと思われるんじゃないか、うまい人に見られたら笑われるんじゃないか」と不安でいっぱいでした。でも実際は、「ナチュラルな雰囲気がいいね」「砂田さんらしさが出てますね」と、たくさん褒めてもらえたんです。その経験を経てますますPPPが大好きになりました。

——とても良いエピソードですね。参加者同士がコミュニティを作ったりするなど、プロジェクト外での交流も生まれるのでは?

私が把握しきれないくらいたくさんのコミュニティが生まれています。PPPで交流した人同士が後日フォトウォークに一緒に参加したとか、仲良くなった人同士が数人で一冊のフォトブックを作ったという話も聞きました。別のグループ展に参加したら、たまたまPPPの参加者もいて、それをきっかけにもっと仲良くなったということもあるようです。PPPの魅力は、そうした血の通ったコミュニケーションが生まれて、つながりを継続できることだと思います。

——作品出展者に「愛のメッセージ」というものがあると伺いました。

砂田: 「愛のメッセージ」は、写真を展示した方へ写真のポジティブな感想をメールで送る機能のことです。会場では直接話せなかったり、時間がなくて話し足りなかったりした人が、「愛のメッセージ」を使って思いを伝える、という狙いです。

写真をポスターとして残すことと同じように、写真を見た人からの感想を文字に残しておくことも大事なことだと思ったんです。写真があるその場で会話をして気持ちを受け取ることも大事な時間ですが、その気持ちを文字に残して見返すことも必要だと思ったんです。実際に「愛のメッセージ」が届くのは、写真展開催日から10日後。当日の記憶が薄れて忘れかけたころに、自分を褒めてくれる嬉しいメッセージが届くんです。フィルムカメラで写真を撮って、数日後に現像した日を思い出すような、そんな感覚を味わってもらえたらと思ってこのシステムを始めました。

——文通にも似ていますね。ここまでのお話を聞いていると、「形に残すこと」をとても大事にしているプロジェクトなのだと感じます。

砂田: いま写真を見るのは主にSNSですよね。でも、タイムラインに表示された写真を見られている秒数は、1枚あたり1.7秒だと言われています。それだけ短い時間しか見ていない写真を、次の日には忘れてしまっているのではないでしょうか。

その点、PPPでは写真がポスターという形になって、多くの人が足を止めてじっくりと鑑賞します。ひとつの作品をしっかり見て、撮影者の意図や思いを聞いて、もう一度見直したときにまた違うことが見えたりして。何もかもが一瞬で過ぎ去る刹那的な時代だからこそ、そうした「見る」ことの大事さ、形に残すことの美しさを伝えたいと思っています。

——現状の課題や今後の展望があれば、お話しできる範囲で教えてください。

太田: 初めは軽い気持ちで始めたプロジェクトでしたが、年間を通じて開催できたことは大きな収穫でした。今年はおそらくヨーロッパやアメリカにも進出して、世界中旅をするような感覚で写真展示を続けていきたいと思っています。そして最終的には、世界中で「PPPに行けば誰かに会える」という、写真家同士の交流の拠点になるような、そんな温かい場所になれれば良いなと思っています。

取材を終えて

SNSや動画配信サービスが普及したことで、あらゆる可処分時間に「タイパ(タイムパフォーマンス)」が求められるようになった現代。加えて生成AIの発達により、もはやスマートフォンのカメラすらなくとも写真風のビジュアルを作れるようになった。そんな中で、写真を印刷して残すという行為は、時代に逆行しているともいえる。

しかし砂田さんが話すように、作品に込めた感情や被写体に向けた気持ちを表現することはAIにはまだできないと、少なくとも筆者は感じている。

効率を重視する現代社会だからこそ、効率を度外視する楽しみを見出す余裕を持ちたい。そんなことを考える取材になった。

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。