新製品レビュー
PENTAX K-3 Mark III Monochrome
モノクロ専用のデジタル一眼レフカメラ 従来機のモノクロモードと比較
2023年5月12日 08:00
ペンタックスは、今も一眼レフカメラにこだわり、近年はユーザーとの距離が近い「工房的ものづくり」を掲げている。まさにそれを体現するモデル「K-3 Mark III Monochrome」が4月21日に発売された。2021年11月に開催したファンイベントで、ユーザーに対してさまざまな派生モデルを提案。多数決で2位だったのがモノクロ専用機だった。実は僕もモノクロ専用機に投票したひとり。かつてモノクロフィルムで作品を撮り続け、暗室作業に勤しんだ身としてはもっとも興味がある企画だった。
モノクロ専用のデジタルカメラといえば、現行機種では「ライカMモノクローム」と「ライカQ2モノクローム」がある。しかしどちらも簡単に手が出る価格ではない。ペンタックスであれば、それこそ僕にも手が出る価格になるだろうという期待感もあった。ちなみに直販での価格は33万3,000円。ベースモデルより割高だが、良心的で常識的な設定だと思う。
機種名からわかる通り、本機のベースモデルは2020年4月に発売された「K-3 Mark III」。レンズマウントはKマウント(KAF2)を採用し、センサーシフト式の手ブレ補正機構「SR II」やセンサークリーニング機構「DR II」を搭載する。ベースモデルの大きな魅力だった、倍率1.05倍という視野の広いペンタプリズムファインダーもそのまま。その像はもちろんカラーで見えるわけだが、ライブビューを使えばモノクロの仕上がりを確認しながら撮影することもできる。
外観・操作性
他にもベースモデルでは金色の「SR」バッジがシルバーだったり、背面モニターに表示されるメニュー画面の色が、出荷時はモノトーンに設定されている。さらに通常の縮緬塗装をマット塗装に変えた「Matte Black Edition」を直販限定で販売しているが、こちらは供給が追いつかず、発売日時点で受注を停止している。
ともあれ、このように随所でモノクロ専用機であることを意識させるが、基本操作はベースモデルと変わらない。なので基本的なスペックの説明や解説は割愛するが、すでにベースモデルを所有している人なら違和感なく使えると思う。ちなみにベースモデルからAF測距や露出制御の暗所側が拡がっていたり、新たに電子シャッターが選択可能になったり、最大連続撮影コマ数が増える(JPEG Lで37コマ→55コマ)など、モノクロとは関係なくスペックアップしている部分もある。
本機はマニュアルフォーカス時代のKマウントレンズもそのまま装着し、特別な操作なしで使うことができる。またM42マウントもアダプターこそ必要なものの、フランジバッグが同じなので装着時の違和感がない。それらオールドレンズをたしなむためのボディーとしても、本機は理想的だと思う。
画質
撮像素子はベースモデルと同じ約2,573万画素のCMOSセンサーを搭載するが、ローパスフィルターとともにカラーフィルターも排している。通常のセンサーはR(赤)、B(青)、2つのG(緑)という4画素で1つの色を再現しているが、本機のセンサーは全画素で解像情報を得るため、同じ画素数でもカラーと比べて倍の解像情報がある。
実際ベースモデルの設定をモノクロにして本機と比較すると、解像感も階調の豊かさも、本機のほうが明らかに上だった。理屈としては違うのだが、解像情報を色素で再現するカラーフィルムと、銀粒子で再現するモノクロフィルムではシャープネスに大きな差があった。もちろん後者のほうがキリッとした像を得られるのだが、それに近いものを感じた。
カスタムイメージ
ペンタックスの一眼レフといえば多彩なカスタムイメージがウリだが、本機ではスタンダード、ハード、ソフトの3つのみ。スタンダードはすべてのパラメーターが中央値に設定されているが、ハードやソフトはその指標が目指す仕上がりの方向へ振られている。それぞれで細かくパラメーターを調整することができるので、実質的には3つの設定があるというより、パラメーターのプリセットが3段階用意されているというべきかもしれない。つまりスタンダードでコントラストを高める方向に調整していけば、仕上がりはハードに近付いていく。逆もまた可能だ。
パラメーターには「調色」という項目があり、モノトーンに青み(冷黒調)や赤み(温黒調)を加えることもできる。一段階でもかなり効果が強く、個人的にはもう少しステップが細かければ使いやすいと感じた。
一方、本機にはデジタルカメラのモノクロ設定で定番の「フィルター効果」といったものが存在しない。モノクロフィルムではレンズの前にイエロー、オレンジ、レッドといった黄〜赤系のフィルターを装着する人が多かった。これにより人肌や木々が明るくなる反面、青空は濃く再現される。デジタルカメラでは色情報をモノトーンへ変換する際、フィルター効果を擬似的に再現することが可能だった。
しかし本機はセンサー自体が色を感じない、いわばモノクロフィルムと同じ仕組みをもつ。したがってフィルター効果を求めるのなら、実際にフィルターを装着する必要がある。ファインダー像が黄色やオレンジに染まるが、慣れればとくに不自由はないと思うし、色に惑わされずに構図を作ることができる。
肝心の画質だが、解像力や階調性の高さは先に触れた通り。ただし初期設定の撮ってだしはやや眠たい印象を受ける。また露出がややオーバー気味になりやすい。そのため黒の締まりは期待したほどではないように思えたが、マイナス補正やカスタムイメージで追い込むとリッチなモノクロ画像に仕上がる。
またRAWデータをAdobe Lightroom Classicで現像してみると、階調の豊かさは想像以上であることを実感できた。撮ってだしのJPEGもAdobe Photoshopで軽く調整してみたが、ハイライトやシャドーはもちろん、中間調の情報もリッチ。JPEGでも十分作品に仕上げることができると思う。実際にどう使うかはユーザーの自由だが、カスタムイメージやRAW現像、レタッチである程度自分のトーンに追い込むことで真価を発揮するカメラではないだろうか。
ちなみにカラーフィルターを排している影響で、感度の下限がISO200とベースモデルより1段高く、また初期設定のままダイナミックレンジ補正のハイライト補正がオンになっていると、ISOオートではISO400に設定されることが多くなる。ただし高感度でもノイズの乗り方がきれいで、モノクロフィルムの粒子のようにザラッとした中間調を作っていく。これが写真に力強さを生む。ISO200〜400では滑らか過ぎて物足りないという場合は、感度をISO1600〜3200、あるいはそれ以上に上げてみるといい。
デジタルフィルター
筆者はベースモデルであまり使用しない機能だが、本機では重宝するかもしれないと感じたのはデジタルフィルターだ。モノクロには適応しない項目が削除されているが、トイカメラやレトロ、粒状感モノクロームなど7項目が用意されている。ライブビューを使えば効果を見ながら撮影できるし、RAWやJPEGに後から適用することもできる。
まとめ
限定モデルではないものの、製造が困難なことから、発表時から供給不足の恐れがアナウンスされていた。実際に予想を上回る予約があるといい、しばし待たされる購入希望者も多そうだ。だがモノトーンの美しさを楽しむというキャラクターを考えると、ハードの面ではこれ以上のスペックアップは必要性がなく(カスタムイメージなどはファームアップで向上・拡張する可能性はあるが)、すぐに陳腐化するようなモデルではない。迷って予約しそびれたという人も、機会があればその真価を確かめてほしい。